闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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26話 魔女

 天使の力はほとんどなくしちまったと思ってたんだがなぁ。幽霊は見えるわ、妖精は見えるわ、その上邪悪な呪いが効かないのは残ってる、と? ならなんで星のオーラが見えないんだろうな?

 

 星のオーラが見えない、翼がないから空を飛ぶ事はできない、光輪がないから人間に姿を認識してもらえる……。女神からの贈り物に違いねぇ。俺に不利な要素がない! あとは寿命だな、これはどうなってるのか短時間じゃわからない。光輪がないということで人間並になってりゃいいんだが……なぜか?

 

 リッカたんを見送るのは数多の人間の死を見てきた俺にも耐えれそうにねぇからだ。死ぬなら老衰で共に老いたい。リッカたんが選んだ男と添い遂げていてもだ。

 

 それはさておき、イシュダルの呪いが効かないってのはいいことだ。有利になるならそれでいいしな。これで倒れることを気にせず庇えるってもんだ。

 

 だから加勢に来てくれたマティカが怪我しねぇうちにぶっ飛ばして成仏してもらわねぇと。黒騎士もそうだったがこの魔女もとっくに寿命も超えてるだろ?人外だからそんな事はねぇって? それでも……まぁ死んでもらうしかないな。生まれ変わったら今度は何になるかは知らねぇ、でも綺麗な人になって眼福に貢献してもらいたいぜ。

 

 こんなに綺麗な(ひと)なのにな。出来るものなら人に迷惑をかけないで欲しい、俺から勝手に思うのはそれだけだ。余計なお世話だろうが、誰かに迷惑をかける……っていうかそんなレベルじゃねーぞ。人間一人、寿命の理から外しやがった。その上、今も三人と俺の命まで狙っている。

 

 俺だって死にたくねーよ。ガトゥーザとメルティーをダーマに連れていくんだからな、まだまだ死ぬ訳にはいかねーよ。リッカたんが幸せに過ごしているのを百年近く見守りてぇし。それを成し遂げてもいないのに死ねるかっての。

 

 マティカに飛んだバンパイアエッジを叩き落とし、すかさず飛んできたヒャドはガトゥーザに当たるくらいなら俺の腹に受けた方がマシだ。そして体勢を立て直した時、何を思ったのかイシュダルは何故か豊満な胸に手を当て……。

 

 おい、青少年には刺激がきつすぎだろうが! それから自分を安売りするな!

 

 「ぱふぱふ」は純粋少年マティカや敬虔暴走ガトゥーザには駄目だから!ラフェットさんのふにっを真顔でやり過ごした俺でもグラッと来そうなもんだ、ヒャドでも受けて頭を冷やせ!

 

 メルティーも察したのか、たまたまなのか、連続でイシュダルにヒャドが突き刺さる。そこに何もわかっていない顔をした癒しのマティカが癒し要素の欠片もない強烈な攻撃を脳天から振り下ろした。

 

 ……光景が、悲惨だな。瘴気まじりの気が弱まっていく、その存在が薄らいでいく。ナイフを落とし、赤い目の輝きがだんだん淡くなっていく。どうやら倒せた……みたいだが。

 

 胸が痛い。だが生かしておくわけにはいかない。死にゆく姿ですら魔性の美しさを持つ彼女は、俺たちへの恨みを吐きながらレオコーンに手を伸ばす。

 

 やったことは最悪だが、恋い慕う想いに貴賎は存在しない。愛する人と自分の時間を止めて封印まがいのことをするなんて許されることではないが、好きである想いが尊いことには変わりない。この愛する人が愛する人と引き離されたのは……これまた許される行為ではないが、また別の話だろう。

 

 俺たちは部外者。下手な事は言っていいわけがない。だが同時に俺は天使。迷える者に道を示さなければならない。示すことも俺の存在意義だから。

 

 ……天使は弱き人間を守る存在らしい。その健やかな生命を守り、幸せに生きる手助けをする。時に脅威から守り、時に来世への誘いをする。

 

 俺はそれが気に入らない。俺は天使だし、間違いない。人間を導く存在であり、助けること自体には不満はない。だが、魔物であれ、魔族であれ、本当は導かねばならないだろう? 次の生では敵対することもない仲間となるのだから。

 

 俺は至らぬ見習い天使だ、だからせめて終わらせてやり、祈るのみ。それでいいとは……思っていない。ついでに言うならこの考えは吐き気がするほど傲慢だ。願わくばこの魔物の生でも共に歩んでいきたい。救っていきたいんだよ、俺は。

 

 死なせたくない。苦しませたくない。だがそれは、叶わない。

 

「イシュダル、貴女の魂が……」

 

 じくじくと腹が痛む。氷の傷はなかなか痛まないものだがだんだんと痛みが増していく。血がぼたぼたと垂れているのに気づいたガトゥーザが俺を支え、魔力が尽きたのか薬草を使おうとするが制止した。そんな事はあとでもできる。

 

「貴女の魂が、次は愛する者と添い遂げられるよう、祈ります」

「……バカな天使……」

 

 赤い目の魔女は、ふわりと少女のように微笑む。あどけない無邪気な子どものように、優しく。苦しみではなく、ほっとしたように……そう見えたのは俺の都合のいい幻なのだろうか。

 

 そうではないことを俺は祈る。空で見守る星々なら、真実を知っているのか……否かと、思う。

 

 ……ってか、みんなボロボロじゃねーか。薬草? 俺はいいから早く自分に使えよ。あん? 俺が一番重傷? 違いねぇな、だが気にすることは無いぜ。別に怪我を放置するつもりじゃないからな。

 

 ほら、俺にはウォルロ村の人間たちがくれた薬草がたくさんあるし。持たせてる分は気にすんなよ。

 

 ……うずくまったレオコーンを見るにまだ一悶着あるかもしれねぇしな……。

 

・・・・

・・・

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