なんつーか、ほんとなんつーか。警戒に越したことはないが言うほどでもないな。瘴気も慣れれば大したことないしな。埃が舞ってるから風呂には入りたいが。こういう時頭がホコリ色だと目立たなくていいぜ。ガトゥーザは焦げ茶色の頭をしているからフケみたいに……。
大丈夫だ、俺はお前が悪いわけじゃないのを知っている。その頭はホコリのせいだろ? わかってるぜ。わかってるからなんで涙目をやめねぇんだ。あん?俺が身代わりになるのが辛い……? 泣かせるねぇ。いいか、ガトゥーザ。俺の方が体力があり、死ににくい。だから俺が盾になる。話はこれで終わりだ。回復は頼んだぜ。
城の内部は結構崩れていて道が塞がっていたりもするが迷うほどじゃねーし。ってか、もう親玉っぽいやつのところを俺達伺ってるしな。レオコーンが対峙してるんだが、邪魔するわけにも行かねーだろって思ってな。窮地に助けに行っても……因縁の相手っぽいしな。
サンディも神妙な顔だぜ。そんでマティカなんて物凄く真剣な顔。見たことねぇ顔だ。……うーん、というか俺は仲間たちのことをあんまり知らないが。出会ってすぐだぜ?反対にメルティーなんかはもう突撃したそうだ。ガトゥーザが腕掴んで止めてるが、杖でボカスカ叩かれてるな……。仲いいのか悪いのか。
そ、僧侶のMPをやばそうなヤツが控えている時に奪うのはよせ。……ヘタレでも言えばやめてくれるのはなかなか素直だよな……。
「アーミアスさん、あれ普通の魔物じゃないですよっ」
「……えぇ」
切羽詰った顔をしたメルティー。小声で言う姿は……リッカたんのことがなかったら素直に脳内悶絶できる可愛さだ。俺は一途であるべきで、浮気しないし、僧侶であり……つまり力で負ける要素が職業的に皆無のガトゥーザが引きずられているのをそっと見ながら悶えはしない。メルティーって強い子だな……。
「黒騎士さん、やられてしまいますっ」
「まだ、手を出してはいけませんよ……」
黒騎士の信頼ねぇなぁ。ま、俺も負けると思うけどな。近接系の黒騎士と如何にも遠距離攻撃が得意な魔女だし。おー、遠目でもおっぱい大きいな。顔が、眼光が怖すぎてお近づきになりたくないが! 怖くね?! 明らかに頭からバリバリムシャムシャされそうな見た目じゃね?!
天使も魔物も人間も見た目で判断しちゃ駄目だが! 分かってるけど怖えもんは怖え!
「俺もすぐにでも加勢に行きたいですが、駄目ですよ。彼の想いを踏みにじってはなりません」
と、彼の名誉のために言っておこう。さぁて、俺もメルティーと同じように武器を構えておいた方が良さそうだな。あのおっそろしい目からビームが出ていつ黒騎士が黒焦げになるか分かんねぇ。
ていうか、僧侶らしいって売りのメルティー、好戦的じゃね?別に悪いわけじゃねぇが。え、あ、人間の言う僧侶らしく、魔に容赦しませんってか? ……魔物だ天使だ人間だって、そんな違いがそこまで大事かよ?
ま、目の前のあいつはマジやべーってか、容赦したらやられそうだからそれでいいだろ。こんなの……人間に比べればかなり長生きしているがよ……初めて見る。悪意はそこまで強くないのに、感情が凝り固まって、尊く光の感情であるはずの愛すらギトギトに汚れちまってよ。
略奪愛ってあるだろ? あれをもっと酷くして、永い時間呪い続けたって感じだ。あれを改心させるのは無理だな、俺には。師匠なら出来るかもしれねぇけど……。
さてと、レオコーンが呪われちまいそうだ。とっとと深淵にお帰り願おうぜ。てか俺より年上だろうし見た目はまぁ若いけどこいつババァ……いや、何でもねぇ。種族的にはピチピチギャルな年齢なのかもしれんしな。
・・・・
ふわり、柔らかく舞う髪を思わず目で追う。
一瞬、ほんの一瞬。彼だけに思考が塗りつぶされる。庇う体のしなりから、広げられた白い指のほっそりとしたところ、強ばっているように、痛みか苦痛かに耐えるような背を……。
邪悪としか言いようのない光。雷のように勢いよくそれは、アーミアスさんを貫こうとして。でも、彼は受け止めきって。
「随分な、呪いですね……」
両腕を体の前で交差させて耐えながら、心なしか苦しげな声。慌てて駆け寄ろうとするマティカさんを視線だけで背に戻させると、星の瞳はすっかり魔女の方だけを見てしまいます。
嗚呼! せめてあの瞳が私のものにならなくても、あんな魔女なんて見なくて良いのに! 彼が許して下さるならこの世の綺麗なものだけ映していたいというのに! この戦いが終われば不肖ガトゥーザ、アーミアスさんに花束でも贈ろうと思います! 青やら白やら! 天使様ですから清らかそのものな清めの水でしゃんとさせたお花がいいでしょうね!
アーミアスさんはあの力を振り払うと……そのことについては何の心配もしていませんでした、なにしろアーミアスさんは天使、魔性の姑息な呪いなんて効くはずがないからです……剣を引き抜かれました。
あぁ、あの背に純白の翼があるころにこうやって背を見つめていたかった。マティカを、メルティーを、私を、呪いのせいで動けない黒騎士を庇う尊い姿です。えぇ、私が精進すればお庇いになられても怪我を負う前に治せるでしょう、その試練なのです。
「くぅっ……なぜ効かない! ならばこの手で葬ってあげるわ!」
「呪いではなく貴女には、安らかな眠りを送りましょう……」
アーミアスさんは天使様ですが、旅芸人というのは間違いではありません。本人の言う通り旅芸人なのです。その仕草は人を惹きつける気品に溢れ、視線を釘付けにします。スーパースターのような豪奢な雰囲気ではありません。アーミアスさんには、似合いません。
気品溢れる役者のようであり、それでいて演技ではない。そういうお方なのだ、とやっとわかってきましたよ。
ガキィンッ! キィン! 剣が悲鳴をあげました。
妖女イシュタルの短剣とアーミアスさんのレイピアが互いに交差し、激しい金属音が響きます。急いでスカラの詠唱を始めれば、武闘家のマティカが、目標であった黒騎士をやすやすと拘束した敵だからか、緊張した面持ちで背後に飛びかかります。ですが……まぁ、そんな杜撰な気配の消し方ではアーミアスさんが庇ってしまうじゃないですか。
アーミアスさんに、妖女の攻撃が浴びせられる……今、私、冷静にホイミを唱えているのですが、はらわたは煮えくり返っています。えぇ、私が望みどおり魔法使いであるならばメラゾーマでもぶちかましていたでしょう。残念ながら私は僧侶、ザキも唱えられない若輩者。鉄の槍は構えておりますが、とても威力があるとはいえません。
だから、何も出来ないのです。
メルティーが狂気の体現者ごとく魔法を唱えているから、なんとか冷静でいられるのですが。ここは心優しい彼女の情に任せるしかないですね。あぁ、僧侶になるのがもったいないほどの巨大で濃厚な魔力の暴走……。
メルティーがかけがえのない友でなければ、嫉妬に狂っていたかもしれませんし、その身を我がものにできれば夢が叶うと、天使様の御心に反する行いをしてしまっていたかもしれません。
ふふ、私の世界はとても優しい。私は道を踏み外す事はありません。特に天使様に出会えた今、どんなことがあっても人道に外れることなんてするわけないですよ。
「……ガトゥーザにーちゃんもメルティーねーちゃんも目が怖いよ……」
黙ってください、アーミアスさんがあなたを一番気に入っているのはとても悔しいことなのですよ! 一番はリッカさんでも、パーティではあなたが一番! 妬ましい! 羨ましい! いいなぁ!
「ひぇ……」
そう、それでいいんですよマティカさん。アーミアスさんが怪我をそれ以上負うことがないように自慢の腕っ節で魔女なんて倒してしまってくださいよ!
・・・・
どの閑話が読みたいですか?
-
幼少期、天使(異変前)時代
-
旅の途中(仲間中心)
-
旅の途中(主リツ)
-
if(「素直になる呪い」系統の与太話)
-
その他(メッセージとか活動報告コメントとかください)