闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

26 / 103
ルディアノ編
24話 廃墟城


・・・・

 

 空気が(よど)んでやがる……瘴気もやばい。……ここマジやばい。

 

 さっきまで俺達はエラフィタ村っていうのどかな場所にいたんだがな。あの黒騎士……名前はレオコーンとかいうらしい……の為にルディアノの手がかりを探そうとしてたってわけだ。

 

 フィオーネ姫の言う通り、おばあちゃんたちの童歌に出てきた黒薔薇の騎士の話とか……まぁそんなことがどうでもよくなっちまうくらいのどかでいいところだと思ってたんだがな。

 

 空気は澄みきって綺麗で人々は穏やかに平和に過ごし、花びらが舞い散る景色は素晴らしい。ウォルロ村ぐらいいいところって感じだ。……守護天使の気配は相変わらずなかったが。おい、こんな素晴らしいところほっぽり出すんじゃねぇよ!天使界に帰ったら上級天使だろうと文句言ってやる! 天使の(ことわり)? 逆らってはいないから大丈夫だ!

 

 だが水をさされたんだ。しかも手伝ってやってるってのによ、張本人の場違い黒騎士野郎に。後で人間たちをびっくりさせないように外でじっくり伝えてやろうとしたらおもっきし村人を脅かしやがってこの……この野郎。若者だけじゃねぇ、たまたま居合わせたおばあちゃんまで怯えてたんだぜ? 許せるか! 後でシメる!

 

 あの後あいつが立ち去ってからも泡食ってた哀れな村人たちをご神木の下まで連れていってやって落ち着かせてやらなきゃあのまましばらく震えていたと思うぜ、かわいそうに。俺たち見てほっとしたようにお礼を言ってたから……まぁ、大丈夫だろう。

 

 こういう時子どもと大人の境目と言い張りたい微妙な年齢の外見はいいよな。そうそうに見くびられるほどではないが、警戒されるほどでもない。それもメルティーがとても僧侶っぽくというか、僧侶っぽく落ち着かせてくれたおかげだろう。本職は俺の後ろにいたが。

 

 なぁにが天使様は誰にでも手を差しのべる、だ。お前も差し伸べろよ。別にこういうことは天使だからやってるんじゃねぇ。その場にいたからやってるんだ。

 

 にしても黒騎士さんよぉ……自覚があるのかわからんが、とっくにてめぇは死んでいて、人間じゃない。態度からさぞイケメン騎士だったんだろうが、形無しだな。さっさと俺みたいに自分の顔の不出来を自覚して相応の態度にでろよ、こんちくしょうめ。顔、怖ぇんだよ。雰囲気もかたぎじゃねぇし、黒い鎧を着込んだやつって怖いからな? 理解しろよ?

 

 だからまたあいつがやらかしても困るってわけで名残惜しくも村を出、北を目指して突き進んだってこと。なんか先走って行っちまったけど。今度は少しは……気持ちがなんとなくわかるから止めはしないが。リッカたんがいると思ったら落ち着いていられねぇよな、確かに。

 

 北へ行けば行くほど毒の臭いとその他の瘴気がきつくなり、人間よりもそういったことに弱い、と思われる俺はゲホゲホしないか心配だ。ま、想像よりは大丈夫そうなんだがな。天使の力を失ったついでにそういうのに過剰反応もなくなったらしい。天使とか清らかじゃないとやばいとか柄じゃねぇから助かったぜ。……だがまぁ、サンディーが少しばかり俺たちを心配してくれるぐらいには酷い場所だ……。

 

 なお、健康優良児まっしぐらだと見て取れるマティカ、鼻も良いのか真っ先にこのひでぇ臭いに気づいていて、激臭地帯に入る前から既に俺達はバンダナとかで口を覆っている。

 

 サンディにもやってやろうとしたらダサいって拒否られ、そのまま俺の懐に光になって収まられたが。そっちの方がいいのか? それなら同じ女の子のメルティーのほうが落ち着かないのか? 妖精だから天使の方がいいのかもな……。

 

 やれやれ、乙女心ってのはわからないな。わからないとリッカたんをおとせないかもしれないから理解したいんだが……リッカたんのもとで馬車馬のように働くから置いてくれっていうヘタレなアピールしか俺には出来ないんだよなぁ。

 

 それじゃあ、ダメだよなぁ……。

 

 魔物も瘴気に耐えれるようにか強くなってきたし……はぁ、買い換えたばっかりのレイピアでも突き通せない、つまり一撃で倒せない魔物。俺が不甲斐ないばっかりに長くくるしめるハメになる。もっと強くなりてぇなぁ。旅芸人じゃ駄目だろうなぁ。

 

「どうか安らかに」

 

 三回も体にレイピアを突き刺してからやっと絶命した羊型の魔物にそっと手を触れて青い光を空へ見送る。そんなことをもう何回も繰り返してきた。

 

 そしてやっと着いたんだぜ。ルディアノの地に。手酷く滅ぼされたのか、野ざらしになって少しずつなっていったのか分からないが……俺が見たこともないほど廃墟となった城に。

 

 黒騎士の嘆きがあまりにも哀れで、俺は思わず神に祈ったぐらいだ。

 

 このレオコーンが、少しでも安らかにこの世を去れるような奇跡がありますように、と。奇跡は奇跡だが……きっと、きっと神なら可能だろう。見てくれているならな。俺は見てくれてるとは思ってないが。

 

 なら、見ていて下さるのは星々の方だろうな。星々の加護があらんことを……。

 

・・・・

 

 崩れかけの城の内部へと足を踏み入れたおれたち。魔物もたくさん増えてるし、おれの活躍の場もたくさんってことだよな!

 

 念願かなって黒騎士を倒したのはいいけど、黒騎士にも事情があったと知って手伝おうとするアーミアスさんかっこいい! おれも黒騎士を倒す! じゃなくて改心させる! って思っとけば良かったのに敵の事情まで考えられなかった。

 

 ぶつぶつそのことについてすごいとか言ってるガトゥーザおにーさんと最初は話してて面白かったけどずーっとその話から動かないから飽きちゃったよ。なんでかっこいいの見たらそのままそればっかりなんだろ。今のアーミアスさんの奮闘ぶりかっこよくね? メルティーおねーさんは頷いてくれたのになー。

 

 ホイミスライムっていう、見た目は可愛いのに魔物の回復係だから邪魔になってしまう奴をごめんって思いながら切り裂き叩きつけつつおれたちは進む。見習いピエロの色違いの奴らも結構いて、なんてゆーか、がいこつ以外はどいつもこいつも結構可愛くて、ちょっと罪悪感。

 

 うー、でもそういうので刃を鈍らせたら死ぬのはこっちだし、そういうのは逆に差別だよな! うん、全部アーミアスさんに仇なすなら倒さないと。

 

 アーミアスさんってよく考えてて、ガトゥーザおにーさんとアーミアスさんのホイミを温存するためにたくさん薬草を持ってきているらしいって、ガトゥーザおにーさんが言ってた。だから怪我したら使うのは薬草なんだ。

 

 もしもこの先に黒騎士よりも強い存在がいたら……エラフィタのおっちゃんが怖がってた「魔女」がいたら……ってこと。くぅう、アーミアスさんってよく考えてるよなぁ! 尊敬する!

 

 しかもしかも、アーミアスさんっておれたちの中で一番装備を固めてて、守備力や体力が一番あるらしい。だからおれたちが怪我しそうになると代わりに……じこぎせーってやつ? 怖いし、見ていて痛くなるから、やめて欲しいんだ。すごいって思うけどやめて欲しいんだ。なぜか、ゾクゾクする。

 

 おれがもっと強くなったらそんなことなくなるかな? 例えば、おれたちに魔物が怪我させられる前に倒すとか、もっと速くなったらできるよね?

 

 よーし、おれ、武闘家としてもっと頑張る! このツメのスキルを磨いて、得意の身のこなしももっと鍛えて強くなって、アーミアスさんが心配しなくてもキズ一つつかないぐらい強くなろうっと!

 

 へへっ、見ててくださいね! この修行着、今度はからかわれてボロボロにするんじゃなくて戦闘でズタズタになるまで頑張るから!

 

・・・・

どの閑話が読みたいですか?

  • 幼少期、天使(異変前)時代
  • 旅の途中(仲間中心)
  • 旅の途中(主リツ)
  • if(「素直になる呪い」系統の与太話)
  • その他(メッセージとか活動報告コメントとかください)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。