さてと。いつぞやの防具屋で二つうろこの盾を買い、稽古着上下に軍手に鉄の爪、足はサンダルというラフな格好で歩き回っていたマティカにヘアバンドに皮の靴を買ってやる。
買ってやる、ってムカつくほど偉そうな表現だよな。最初俺はパーティで魔物を倒して得たんだからみんなの金だと思ってたんだが、どうやら契約上、全部俺のものらしい。受け取るどころか猛然と拒否されてしまった。
だから「買ってやる」。マシな言い方をして「買い与える」。……俺としては契約金だけでなく、きっちり四等分して渡したいんだがな。受け取るどころかその契約金すら突っ返されそうになって慌てて断れない装備品を押し付けたってわけだ。契約金は無理やり握らせた。拒否されてたまるか。ちなみにメルティーとガトゥーザは一日百ゴールドらしい。安くねぇ?
宿代はリッカたんとこで泊まれば一人分三ゴールドで済むが、それでも安くねぇ? マティカは七十ゴールドで契約してたらしいから更新して百ゴールド渡した。
俺の精神面的にも、魔物の討伐数的にも一番いい働きしているのはマティカだからな。事ある事にハァハァしないのがこんなに癒しだとは思わなかった。まじで。ガトゥーザ怖すぎ。メルティーも俺の死角で何をしてるのか全く分からねぇ。
そんな嫌な意味で集中をしているガトゥーザをメルティーがこそこそ杖で叩いて魔力を奪ってたのは見てて面白かったけどな!
あ、なんで装備品かって言うとパーティメンバーは俺の指定する装備品を拒否することは出来ない。そんで渡したやつはな、別にプレゼントでいいんだが、渡してもどれだけ使ってもらっても俺のものということには変わりない規定だとか。酒場雇い……ってしがらみ多すぎじゃね?
とりあえず真っ先に癒しオーラを出してニコニコしていたマティカに装備を渡したら、やばい顔して見てきたガトゥーザ。咄嗟に皮の帽子を押し付け、そのガトゥーザをゴミを見るような目で見ていたメルティーにもうろこの盾を渡した。
この二人、ガトゥーザはメルティーを妹扱いしているのに……メルティーはガトゥーザをそこまで兄だとは思ってないんだよな……仲いいんだか悪いんだか。本物の兄妹ではないんだろうが、まぁいいか。信頼関係はちゃんとしている。
「アーミアスさん、ありがとうございます! へへ、強そうに見える?」
「そうですね、前髪をあげたら視界がすっきりしていいと思いますよ」
「やったぁ! 役立てるよう頑張るよ!」
マティカって空から落ちた天使だったんじゃね? 間違いなく俺よりは天使だろ? こんなに純粋に喜んで……武闘家だから装備品をあまり更新できねぇのが辛い。
一方ガトゥーザは恭しく受け取った帽子を嬉しそうにかぶっている。黙っていれば……黙っていれば僧侶らしいのによ。残念、ともとれる。俺が言うなって感じだが。この性格のどこが天使なんだろうな? 生まれを間違えた感じはある。
「明日でしょうか、精一杯頑張りますね」
「ええ」
相方と違っておとなしいメルティーもいい子だよなぁ。信仰っていうのは大切なことだが、行き過ぎるとなんでも毒になるってやつなのかね?
「うふふ……アーミアスさんの障害になるものはぜーんぶ壊してしまえばいいんです」
……聞いてないからな。俺は聞いていない。癖っ毛をぴんぴん跳ねさせてるマティカにヘアバンドを巻き直してやってるからガトゥーザのドン引き顔も見えていないからな。誰だこの二人を歪ませたやつは。親か。
・・・・
「来ませんねー」
月夜の中でも見渡す限りなみなみと水が満たされた湖。そんな美しい景色を一望出来ても今回は仕方ないですね。フィオーネ姫をさらおうとした典型的な悪人を倒すためには来てもらわなくては困ります。
湖の方から吹き付ける風にちゃりちゃりと鳴るアーミアスさんの鎖帷子とばさばさ靡くメルティーのローブの音だけがします。
困ったように見回しているアーミアスさんに話を聞こうにも、さっきから彼は空中を見つめているものだから話しかけられないのが寂しいです。
……きっと天使様には妖精かなにかが見えるんだろうな。見ていても私には何も見えないですが、彼ならば見えるんでしょうか。
暇そうに武闘家の少年がシュタイン湖の縁に腰掛けてばしゃばしゃと足をばたつかせている姿を見、子どもっぽいなと思いつつも私も暇でした。お美しい姿を眺める事は暇どころではないが、それでも戦う心構えをしてきたものだから拍子抜けです。
「ひとつ、話でもしませんか?」
湖の遠くの方を見つめていたメルティーがこちらを向いて明るく言いました。こくりと頷いたアーミアスさんに私には見せないような花の咲いたような笑顔を浮かべます。
メルティーはツンツンしています。私に反抗期なのです。兄なのに! 血は繋がっていなくとも、兄なのに!
「みなさんの昔の話です。私、アーミアスさんの昔の話をとっても聞きたくて。全部話せなかったらまたの機会に話せばいいじゃないですか。私の話は結構ガトゥーザと被ってしまうんですが、お話しますよ」
「……そうですね、親睦を深めるためにもいいかもしれません」
「おー、おねーさんいいこと言うなぁ」
ぴょんと水辺からあがった武闘家少年が同意し、しかし肩をすくめて空を指さしました。いや。空ではないようです。
「でも残念だけど来ちゃったな」
指先に示されていたのは、黒い馬を伴って岩山を降りてくる黒い姿。邪悪とすら感じられるその姿は不気味でしかありません。あぁ、身構えるアーミアスさんと比べてしまうと余計に禍々しい。
黒騎士は馬に乗ったままアーミアスさんと一言二言会話しました。しかし当然姫を差し出すわけもない私たちにアンデッドとしか言いようもない赤い眼光の顔を晒し、その槍を向けてきました。
アーミアスさんは、一緒に戦って分かっていましたが、やはりとても優しいお方。敵からの攻撃をほぼ代わりに受けてしまわれる。止める事はできない。あの目を見て、あの信念のこもった目を見て私は止められやしないのです。ですから、私は僧侶としての職務を全うしなくてはなりません。
この望みもしなかった力を存分に振るって彼のサポートをし、役に立つことをアピールしなくては! アーミアスさんは私たちの希望の天使様……そのお傍に置いてもらうことこそが至高です。
と、意気込み鉄の槍を構えた私にさみだれの一撃が命中し、僧侶の癖にアーミアスさんに回復されるという情けないことにもなったのですが。あぁ、精進しなくては!
ふわりと舞うように剣を振るわれるお姿を目に焼き付け、足を引っ張らないように……! それが私に出来ること、天使様の邪魔には決してなるまい!
・・・・
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幼少期、天使(異変前)時代
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旅の途中(仲間中心)
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