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「黒騎士、ぶっ倒しに行くぞー!」
まばゆいばかりの笑顔で拳を突き上げているのはマティカ少年。そしてアーミアスさんの隣で行きます? 行きます? とせっかく整えてあげたのに髪を振り乱しそわそわして早く自分の力を認めてもらいたいガトゥーザ。私?
えっと……恐れながらちょっとお外は怖かったりするので後ろからついていっています。
もちろん後ろ姿もすらりとしていてお美しいアーミアス様をしっかり目に収めながら。ガトゥーザが視界に入るのは現実に引き戻されるような感じがするのであまりよろしくありません。
私は魔法使いですが、魔法使いなんてなりたくなかったのです。唱えれば自在に操れる炎や氷の力。私が欲しかったのは人々のためとなる癒しの力なのに、……私は誰かを癒すことすらできないんですよ。守る力であると理解していても疎ましいものです。
別に魔物さんたちのことは怖くないですよ。むしろ今はさっさとぶっ飛ばしてアーミアスさんの糧にしたいです。でも……魔物さんたち、燃やされる時、苦しそうでしょう。きっととても痛いはずです。それに魔法が迫ったら怖いでしょう。
願わくば、早いところもっと強力な魔法を唱えて一撃で葬って差し上げなければならないですよね。そのためには好きでなくても魔法の訓練をしないといけませんね。メラミとか、メラゾーマとか使えたら爽快……じゃなくて苦しみを味あわせることなく死に
「先に少し力を確認してからにしましょう。互いのことを知らずして強敵には勝てませんよ、マティカ」
「あっ、そっか」
「意欲は素晴らしいですから、その勢いで行きましょう」
「はい!」
なんだかアーミアスさんって先生みたいです。先生……というか子供を見る親というか。とってもマティカさんを見る目は優しくて、慈しみまで感じます。アーミアスさんは天使様ですから、私たちなんて子供みたいなものでしょうね。特にマティカさん、私たちの中では一番年下ではないでしょうか。だから一番優しい目をしているのかも。
とっても素敵です。天使様に慈しまれる子供。素敵です。食べちゃいたいぐらい素敵ですね。ガトゥーザが視界に入っていなければもっと素敵です。信仰は相手に迷惑をかけてはいけないものです。僧侶とはいかなる存在であるのかまた説教しなくてはいけないようですね。
そんなこんなでセントシュタインの城下町から出た私たち。外に出た途端に私たちの雰囲気は一変しました。
弟か兄かよくわからない存在の幼なじみ、ガトゥーザは僧侶ですが、よりにもよって魔法使いになりたい変わったやつですから、蔓延る魔物さんたちを燃やし尽くしてやろうとばかりの顔つきになっています。槍を構えているものですから、怖いです。串刺しにするつもりですよ。
マティカさんは腕にもともと装着していた鉄の爪を下ろし、いつでも攻撃できるようにしました。それだけではありません、素朴な、ほっとするような、小さな無邪気な子供のような雰囲気はなりを潜め、目つきを鋭くして辺りを警戒します。襲いかかってくる何かがいれば、飛びかからんという……そういう雰囲気です。しなやかな獣のように油断がありません。
そして、アーミアスさん。彼は帯びていた兵士の剣を引き抜きましたが、構える前に一つ祈りを捧げるがごとく剣に手をかざして目を閉じたのを私は見逃しませんでした。目にするものすべてを大切に思っているかのような優しい目をしたお方ですが、もしかして、魔物さんたちにも慈悲を抱いておられるのでは?
……まさか。
魔物さんに慈悲なんて。魔物さんたちにも悪くない魔物さんはいます。スライムの中には特に悪くないよ!なんて言っているかわいい子と故郷の街のはずれでおしゃべりしに来たことだってあります。でも例外中の例外ですよね。そんな子ならここにはいませんから。
こうやって私たちを見るやいなや襲いかかってくる魔物さんが更生可能な心を持っているかというと……私はない、と思います。私たちに出来るのは相手を
生きとし生けるものはみな、神の子。アーミアスさんも神が創りたもうた存在です。特に手塩にかけて創られたのがはっきりわかる最高傑作でしょう。
ですが、魔物さんは違いますよ。魔物さんは私たちの神が創った存在ではありません。邪神の誘惑であり、悪意でしかありません。私たちに出来るのは弔って差し上げることと、悪意から逃れた子たちとおしゃべりすることだけです。
「さぁ、行きましょう」
決意を宿したアーミアスさんの瞳には今も無数の星が浮かんでいます。きらきらと、太陽の光が深く深く澄み切った瞳に反射してそう見えているのです。
この方についていけば、私も、力を求めるガトゥーザの有り様もきっと、よくなる。
私は、そう確信して……杖を抱え直して頷きました。恐怖はもちろんもうありませんでした。
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流石に四人で戦えば大して苦戦……いやいや、全く苦戦しねぇな。それは想像以上に仲間たちの戦闘能力が高かったってことだろう。
俺が斬りかかろうとした時にはとっくにマティカが飛び出して何匹か魔物をぶっ飛ばしているし、メルティーの呪文が二発ぐらいは放たれているから相当なもんだ。
旅芸人はバランス型だからすばやさに特化した二人には勝てねぇなぁ。なんとも頼もしい限りだぜ。だがもちろん、そうしている間にも誰かが怪我しそうなものなら身を呈して守っている。僧侶のガトゥーザのホイミはよく効くから傷みも持続しないしいい感じだぜ。この中で一番体力があるのは今のところは俺らしいし、適任だしな。
ま、武闘家のマティカの方が体力がついたってその役を変わる気はねぇがな。彼には攻撃を頑張ってもらいたいからな。なんであんなふうに馬鹿にされ、からかわれていたんだ?こんなに強いのに。よくある嫉妬からの……でもなさそうだった。はぁ、人の見る目がない人間たちだ。お馬鹿さんってやつだな。悔い改めてもらわないとな。
一通り連携が取れるかなどを確認し、なんかそこらに散らばっている毒牙の粉を集めてみたりと今日は訓練やらで潰す気だ。さってと、飛んでくるメラを皮の盾で受け切るのは無理そうだ。帰ったら新しいのを買わないとなぁ。
んー、だが気になることがある。ガトゥーザが言ってたようにこの二人、互いの職業が逆だったらと思っているらしい。そのせいなのか、魔法が制御しきれていねぇんだわ。
メルティーはよく暴走させ、ガトゥーザはパワーアップさせる。皮肉なもんだな、逆にそれで強くなってんだからよぉ。才能に溢れた二人はそれでも逆のものを志す。くぅ、神様も試練がキツイねぇ。
俺はよお、天使界に戻れようが舞い戻ってくるし、いつかはダーマにも行くだろう。そしたらもう一度二人には見つめ直してもらわねぇとな。なんだかんだ似合ってるぜ?もったいない、つーかほんと、本当はいいかもよ?そういうのを考えるも人生ってやつだぜ。
にしても……マティカは癒しなだけじゃなく本当に頼れるし強えなぁ。だから反面、ガトゥーザがちょっとの怪我ごとに涙目になっているのがちょっと堪えてきたんだが。なぁなぁ、俺がパラディンになって仁王立ちするようになったとして、こいつどんな顔するんだ?
つーかよ、俺のことをちゃーんと天使だって見抜いたならこれぐらい当たり前のことなんだから受け止めろよな。俺のわがままで人間たちを危険な外に連れ出したんだから守るのは当然! そうだろ?
人間たちの健やかな生活、安寧。それを守るのが天使! それに誇りを持っていきたいじゃねぇか。なぁ、そうだろ?
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幼少期、天使(異変前)時代
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旅の途中(仲間中心)
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