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「だから! おれが黒騎士を倒すって言ってるだろ!」
「おいおいマティカ、お前が弱虫なのはみんな知ってることだが、同じくらい泣き虫で有名な癖に僧侶がついてきてくれるのか? 路地裏育ちのくせに」
「関係ないだろ! そ、僧侶がいなくたっておれが一人で倒せばいいことだろ! とっとと稽古着を売ってくれよ!」
「はいはい。天使を信じていることといい、どっかお前残念だよ」
「うるさい!」
あーもームカつく! みんなおれを泣き虫弱虫ってからかうし、だーれもおれのことを認めちゃくれないし、黒騎士だっておれにかかればイチコロなのにだーれもついてきてくれやしない!
見下す奴らを見返したくて修行だって頑張ったし、働いてセントシュタインで一番恰好いい鉄の爪を買ったんだ。あとはこのおろしたての稽古着を着ればおれは無敵! ……ただ武道家だからホイミの一つも使えねーんだよなー。魔法って難しくてよくわからない。
薬草を買い込むっても限界があるし、僧侶がいるパーティに潜り込むか、僧侶を勧誘したいところなんだけど……ルイーダさんがいくらおれのことを認めてくれていてもだーれも雇ってくれもしないし応じてもくれない。
流石に……こうやって啖呵切ったはいいけど一人じゃ無理……。
真新しい生地に腕を通しながらどうしたものかと考えていたら、いつからいたのか目の前を通った、灰色の人に視線が移った。
さらさらって、髪の毛が女みたいに揺れたのに目を奪われる。だけど多分、男だと思った。肌、雪みたいに真っ白だ。まるで日に晒されたことがないみたいだ。弱そうなのに、弱そうだとは思わない。……おれ、変な事考えてるなぁ。
ちょっと年上に見えるし、年下にも見える。年齢まで若いってこと以外よくわからないし、性別も曖昧って感じだ。
「すみません、鎖帷子の試着いいですか?」
「あ、あぁいいぞ」
インナーをそのままに皮の鎧だけを外してきせてもらっている姿をぼんやり眺めていたら、彼? は視線に気づいたのかこっちをチラッと見た。……うわぁ、まつげなっがいな。やっぱり女かもしれない。おれの信じる天使様もきっとこんな感じに中性的なんだろうなぁ。
……目の中に、きらきら、たくさんの星みたいな光が浮かんでる。天使様って、やっぱりこんな感じなのかもなぁ……セントシュタインの守護天使様ってどんな方なんだろう。そんなことを考えさせるぐらい、俺の中の想像の天使様を写し撮ったみたいな容姿だ、この人。当たり前だけど、翼もわっかもないけれど。
今この場で生えてきても違和感がない。
「あの、さっきの話を聞いてしまっていてすみません。俺は旅人なんですが……セントシュタインでは黒騎士って有名なんですか?」
うぉ……声高い。でも男だった。今、はっきり俺って言った。不思議だな……声変わりしてないぞ、この人。なのにちょっとおれより背の高いその人は鎖帷子の具合を確認しているみたいだったが、おれの方をちゃんと気にかけていた。
弱虫、泣き虫、意気地無し。いくらでもからかわれてきたおれ。普通に話しかけられるなんて久しぶりだなぁ。見下されないで、物腰が丁寧な人。この人も噂を聞いて変わってしまうんだろうけど。
どーせ泣き虫は言い訳できませんよーっだ。誰が弱虫だ。誰が意気地無しなんだ。俺の筋肉が見えないの!? 見えない?! ……着痩せしてるんだよ!
「旅人なら知らないよね。セントシュタインの姫様をさらおうとした悪いヤツなんだ。討伐依頼が王様直々に出されててさ」
「……なるほど」
「だからおれが倒したらみんなハッピーってわけなんだ。おにーさんもし興味があって腕が立つなら雇ってくれよぉ」
一応宣伝だけしておいてさっさと彼の視線から逃れた。まっすぐ見た彼の顔がそりゃあもうこれ以上ない! ってやっぱりくらい整っていて直視しているのが申し訳なくなったからだ。髪の毛ぼっさぼさだし、こうなるならちょっとは直してこればよかった。
……あーあ、あの時みたいに奇跡が起きないかな、誰かに雇われて黒騎士に挑みたいんだ! いやいやあの奇跡は天使様のお陰だし。お願いします、守護天使様! おれを助けてくれよ! って、むちゃぶりか。
半ば黒騎士討伐の依頼書を横目に睨み、今日もおれはルイーダさんに名前を登録してもらって、もう疲れたから宿屋で休むことにした。
なんかいつもと違って可愛い女の子が宿をやっていてセントシュタイン始まったな。……なんか寒気したんだけどなんだろう。というか、女の子って言ってもおれより年上のおねーさんって感じだ。さっきの人と同じくらい、かな?
宿屋でだべっていたらたまーにおれの噂をなーんも知らない人が呼び出してくれる。そして……町人にぶち壊されるんだけど。まー、なんとかなるなる、もう少ししたら誰が止めようってもおれ、名乗り出ることにしてるし。
弱虫泣き虫意気地無し。返上できるようになりたいな……。
そんなことを考えながら昼寝してたら、ルイーダさんにおれ、呼ばれたんだ。
目の前にいたのは、あの天使みたいな少年と、からかってくる奴ら。この人もあいつらと同類だったかと、ひどく失望した。
その割には星の瞳が澄み切っていて悲しくなった。
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「よぉ、マティカ。お前もこの人に呼ばれたんだぞ」
「いえ、試しに呼ばせていただいただけなので正式に決めた訳ではありませんよ」
馴れ馴れしいなこの僧侶。つか僧侶?全然僧侶っぽくない。人助けになるかと思って……というよりもリッカたんにかっこいいとこ見せたくて……黒騎士討伐! って洒落こもうとしたはいいが、なーんだかな。
防具屋で出会った武道家少年はなかなか体つきや身のこなしを見る限り強そうだし、なんか気は弱そうだが優しい目をしているし不満はないんだが……いかんせん、僧侶と魔法使いのペアから感じられる不浄の気配にイライラするな。
実力もしょぼい感じだし……お試し、もう切ろう。そうしよう。マティカ少年だけ残してチェンジで。
戦いに関して変な優しさ出したりしないぜ。使えないなら置いてかないと死んじまうだろ。それは嫌だ。明らかにマティカがこいつらみたいな奴らにとやかく言われて来たのがわかっても、だ。一緒に目に物言わせてやろうぜ。俺そういうの大好きなんだ。
余計なお世話ならすまんがな。まー、黒騎士倒すのはやる気満々みたいだし問題はないだろ。ちゃんと金だして雇うんだし。
「まぁ、せいぜい盾にでもなれよ。お前の大好きな天使様な雇い主を守れるなんていいご身分だろ?」
「あ、やっぱりチェンジでお願いします」
「オレたちには魔法があるし、お前のちっぽけな脳みそはそんなことも理解出来ねぇーみたいだしよぉ」
「マティカだけ残してもらえますかね、ルイーダさん」
いやはや耳でも悪いのか。周りも見えていないのか。典型的な小物臭のするやつらはなんか話したまま引きずられていったのだが、まぁどうでもいいや。
つーか天使様とかまーた言われてたけど……。今のはあれだな、聞かなかった。オートバレ機能なんてないからな。
そうそう、俺って天使だからさ、基本的には人間は守ってやるし基本的には好きだぜ?誰かを貶すようなやつは真っ平ごめん。その点ウォルロ村っていいぞ。ニードってだいぶ可愛いやつだからな。あいつ、悪口はいわねぇから。ちょっと仕事への意欲がないだけで。それがニートの所以だが。
今はニート卒業したみたいでなによりだぜ!
「あら。私ったら疲れてたみたいね。いいわよ、じゃあ代わりの僧侶と魔法使いを紹介しましょうか」
「えぇ」
登録の時に断らなかったのが疲れてるってことなのかね。まぁそんな事情はいいや。なんかマティカ少年は固まっているがそれもまぁいいや。戦ってくれるなら俺が守るし。
つーか武道家を盾扱いとか頭おかしいだろ。パラディンとか戦士なら盾扱いどころかそういうスキルを持ってして自ら盾になれるが、武道家ってのは先手取って殴るお仕事だろ。
ちなみに俺がいる限り盾役を譲るつもりは無い。人間はおとなしく守られとけ。俺がぜーんぶ守ってやるから安心して戦ってくれ。戦士もいいが、パラディンになるのもいいよなぁ……。
引きずられている奴らを見送り、今度は目を白黒させて俺を見ていたマティカ。そしてやっと理解してくれたのか、満面の笑みで手を差し出した。分厚いタコだらけの手だった。
期待通り、彼は強いだろうな。
「よろしくお願いします、おにーさん!」
「えぇ、よろしくお願いします。申し遅れましたが、俺はアーミアス。しがない旅芸人です」
「旅芸人?! 旅芸人だって? 絶対嘘だ! でもいいや、一緒に黒騎士倒そう!」
「……旅芸人ですよ」
おいなんで今信じなかったんだ。
「え? おにーさん、天使様、でしょ?」
……キラキラした純粋な目を見ながらとっさに違うなんてウソをついて夢を壊すなんてことはできねぇだろ!
「あらやだ。私のいない間に勝手に名簿登録したのは誰なの? ごめんなさいね、さっきの人たち、断ってばかりだったのよ。お詫びに腕も評判もお墨付きの二人組を紹介するわね」
ちょ、否定する前に話をぶった切るのやめてくれ! きらっきらした目でマティカ少年が……あぁあ……。お、おいリッカたん! 便乗してマティカに何囁いてるんだ? その子天使より純粋に人の話を信じるタイプだからやめ、やめてくれ! お願いします!
「俺はしがない旅芸人です……」
リッカたんには絶対嘘をつけない俺の渾身の声は虚しくかき消されてしまった。
お願いだからウォルロ村での無様な姿を広げるのはもうやめてくれ! リッカたんだから悪いことは言ってないと信じるが、俺の話なんてダサいことしかないんだから、何を話したってダサいだろ!
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かませのかませてなさたるや。
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幼少期、天使(異変前)時代
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旅の途中(仲間中心)
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旅の途中(主リツ)
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if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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