17話 再出発
「っていうかー、あんたのことずっと見てたけどぉ」
つんのめって転びそうだった俺のことを気にせずケバい妖精が俺をビシッと指さした。人間も天使も指さされて気分がいいもんじゃねーぞ。
「ハネなしだけど天使ってバレてんじゃん? 超ウケる。あんたってウォルロ村の守護天使サマってやつなの?」
そこまでバレてる? 今更だが……はぁー……ねぇわー……妖精相手でもだんだん天使の無駄機能に疲れてくるわー……オートバレってプライバシーの欠片もねぇってことだろ? マジねぇわー。せっかく翼も光輪も失えたんだから、たまには人間扱いされて嬉しくなりたい。
精いっぱいの抗議の目をしていると、ピンク色の光を撒き散らしながらサンディはくるっと一回転して見せた。おぉ、これはすごい。翼を持ってた身としては一回転が如何にバランスが大事であるかを理解しているつもりだ。下手くそならそのまま地面にびたーんと落ちてしまう。こいつ、……こんななりしてなかなかやるな。
てか返事の催促かよ。
「……そうです、けど」
「んー、なら間違いなかったワケね。あんたをここに入れたら少しは変わるかと思ったんだケド」
てかそんな適当な理由で俺を無理やり突っ込んだのこよ。それで、うまいこといくか普通? 俺って見習いだからその程度の力しかねぇし、こんな状態だし、無理じゃね? つか地味にここ、揺れてる気が……うぉっ!
ガタタタタタッ!
「?!」
突然、その微かだった揺れは激しくなり、内部が謎にビカビカ光り出す。妖精は奇声をあげて興奮しているみたいだが……これ、俺のパワーがなんとかなってて作用したってことでいいのか? いいんだよな? 光輪も翼もなくても天使のパワーは失われないものなのか……オートバレするぐらいだからなぁ。
だがそれもぷつんと音が聞こえるかのように急になくなり、内部は暗くなるしすっかり元にもどっちまった。なんだよ、足りねぇってか? ダメだしされたようで気分が悪いぜ……天使の力なんて要らないが。むしろ捨て去った方が俺にとっては好都合、だから喜べばいいのか嘆けばいいのかって感じでかなり微妙だ。
それにしてもこの中、見たこともない内装だ。金色に光ってた時見えただけでもかなり変だったが、暗くてもはっきりわかる。この世のものじゃないみたいだ。もちろん天使界には到底ないデザインだしな。
……神の国から迎えに来る乗り物の中身なんだから、これが神の趣味ってわけか? じゃあ、この、ケバい妖精は? つかなんで妖精がここにいるんだ? 言っちゃ悪いが普通は妖精は神聖さなら天使の下になっちまう。なんで神の国からのやつに関わってるんだろうな? ケバいし。
「萎えるわぁ、ハネなしならダメってことなのかな天の方舟ちゃんってば。まぁこんなイケメンに会えたからよしってことにしよっかなー」
うーん、いろいろ加味して考えても奇抜だ。神様の事はそこそこ崇めてもいいと思ってるからな……人間も天使も神の作品だから。神の子だろ、みんな。
だがそのある意味俺の親父様の趣味ってのはなかなかどうして……み、未来的なんだろうか。俺には理解出来ないぞ。センスが謎すぎる。もっと落ち着いた雰囲気かと普通は思うくね?
「あんた聞いてる?」
「あ、あぁすみません」
ずいっと目の前に小さい顔が突きつけられて仰け反りそうになる。
……今のはマジで聞いてなかった。なんかすまねぇ。
「つか、ハネなしのアンタ、名前は? アタシはさっきも言ったけどサンディね」
……軽っ。そんで酷っ。いやまて、よく考えろ。今まで天使扱いされまくった俺はある意味こういう対応の方に飢えている。ほら、いたたまれなくなっていつも以上に張り切るとか、こんな扱いならねぇし。見ようによってはこのサンディとやら、いい妖精じゃねぇか。
おー、そう考えてみればかなり気が楽だぞ。話してて一番楽しいのはもちろんリッカたんだが、気楽なのはこいつかも。長い天使生の中でも。天使はたいてい頭がガチガチで師匠以外はまともに話せねぇし。人間には向こうからアレだったし。
こういう相手、人間が……良かったなあ……。
「アーミアスといいますよ、サンディ」
「へー。確かにニンゲンがあんたのことそう呼んでたよーな? ま、いっか」
聞いといてまぁいっかはないだろ。
そんで目の前でなにやら考えているのかサンディはふわふわ飛んでいたが、ぽんと手を打ってまた俺をビシッと指さす。だからやめろそれ。
「天の方舟うごかないしー、だからアンタ、さっきの女の子追いかけなさいよ。あっちにもっと大きいニンゲンの住処あるんでしょ? 星のオーラとか集めてる天使がパワー不足なら、アンタ人助けでもして星のオーラを集めるのよ。そしたらほかの天使が迎えに来てくれるかもしれないしー」
「星のオーラ? ……まだあったんですか? あの異変から見かけていないのですが……」
星のオーラって……まだあったのかよ! 俺、力が弱まったからか、まったく星のオーラすら見えなくなって……うわぁあ、もしかしなくてもリッカたんからの星のオーラとかも全部スルーしてたのか? うわぁぁ、俺の物にしたかった! 捧げるなんてとんでもない! 畜生! チクショウ!
てか、マジ? それがマジならこの妖精有能じゃね? ちょっというとおりにしてみた方がいい気がしてきたかも。確かにセントシュタインの守護天使もあの異変で降りるの嫌がってるかもしれねぇし。それなら星のオーラを大量に撒いた方がいいわな? 名案。こいつ有能。
……ただし天使界の方から人間界の星のオーラは見えないんだが。一度でも来たら目印になるってぐらいしかないぞ。何もしてないのに星のオーラが散らばってて変だな、ぐらいだ。だが、天使に対しての目印としては最強だろう。
しかも善行を積みながら出来る。最高かよ!
「あるじゃん。今もあんたの周りくるくる回ってて鬱陶しいぐらい。あんた天使なのに見えないの? ……大丈夫なの?」
「……さぁ」
俺の周り回ってんの? え、手を動かしてもなーんも感じないんだが。なぁなぁ、リッカたんの星のオーラはひときわきらきらしていてリッカたんっ! って感じなんだがどれか分かるか?……って聞いてみたい。
俺はわかるが普通は見ても星のオーラの判別は難しい。サイズからこれはどういうレベルのことをしたんだってことはみんなわかるけどな。
「なんでハネも輪っかもないの? まさか無くしたとか?」
「俺は、天使界から落ちてしまったんで、燃え尽きてしまったのかと思ってますが……」
「なにそれ超ウケル」
うわ酷くね! こいつ酷くね?! 俺がもし翼を失って、迎えにも来てくれない薄情な師匠に絶望してる天使だったら再起不能になってるようなこと言うなよ! 俺がたまたま翼をどうにかしてブチ切りたかった天使だったからいいものの!
ひとしきりケラケラ笑ったサンディは俺をまた無理やり方舟から押し出すと、セントシュタインの方向を向かせてきた。物理的に強引なやつ……ケバいのはともかくこれぐらい雑に扱われる方が安心するから、まぁ……怒るほどでもないか。
びっくりすることに俺、このギャル妖精がそこそこ気に入ってしまったらしい。ケバいけど、直視できないわけじゃないし……何より、まぁ頑張りなさいと言いつつ懐に消えたサンディは、リッカたんと同じく俺から目をそらしたりもしなかった
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幼少期、天使(異変前)時代
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旅の途中(仲間中心)
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旅の途中(主リツ)
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if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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