闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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閑話 幼気

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 うつ伏せで寝てたらほっぺたに布の跡がつくのやだなー。でも仰向けで寝たら翼が寝違えちゃうからそれもやだなー。寝るの、いっそめんどくさいから寝なくても良くない? 寝てもさ、三時間ぐらい寝たら充分じゃないの? 人間ってもっと寝るけど天使は寝なくてもいいもんねーっ!

 

 ししょーが子供はたくさん寝なさいって言うから寝てるけどさ、子供は子供でももう三十歳だぞっ。明日には人間界に行けるんだぞっ。始めて行く下界、楽しみだなぁ……。初めて見るもの、ドキドキ、そんなのがいっぱいありそう!

 

 ぼく、前からいろんなことに興味があってさ。だからいろーんなこと試しちゃう。今は人間のことが気になってて、だからいっぱい勉強してたらイザヤールさまがししょーになってくれたんだ!

 

 それでさ、みんなにびっくりされちゃったんだよ!イザヤールさまってそんなにすごい天使なんだねぇ……。すごいことは分かってたけどここまでびっくりされたらぼくまでびっくりしちゃうよ!

 

 だから期待に応えたくてもっともっと張り切ったら同い年の中でもぶっちぎりに早く下界に行けることになったんだよね! 日頃の努力は大事だぞっ。でもここで笑ってたら嫌味みたいだからすまし顔してるんだ。これが大変でさ! 気を抜いたらにこにこしそうだもん!

 

 早く天使のお仕事したいなぁ。人間とお友達になりたいなぁ。向こうはこっちを見れないけどさ、それでも手助けしてたらちょっとは見えるようにならないかなぁ。

 

 そんなこんなで寝てる場合じゃなかったんだよ! 気づいたら寝てたけど! うう、ヨダレの跡、ついてない? 大丈夫かなぁ。でももう一回寝なきゃいけないんだよなぁ……はぁ。

 

 てっぺんの木にもまだ行けないぴよぴよ天使に出来ることを探そうかな。ししょーとの勉強は午後からだし。ししょーの頭で遊んでみたいなぁ、遊んでくれないかなぁ。ししょーってお父さんみたいじゃない?遊んでくれないかなー。

 

 あ!階段がなんだかホコリっぽい! お掃除しないと! ホコリは掃除しないとなって、自分で二百七十日ぼくより先輩って名乗った天使が言ってたぞ、ぼくの髪の毛掴みながら。なんかあいつ、この前ししょーと話してるの見てから見ないけどどこ行っちゃったんだろー。

 

 ホコリって汚いし、吸い込んだらいけないから掃除しなきゃって、当たり前なのにねぇ。でもなー髪の毛ゴシゴシ洗っても変わらず灰色だからダメかも。染み込んでるんじゃないの。ししょーも灰色だったのかな? もしかしたらまだらかも? だから頭つるつるなのかな?

 

 煩悩退散! って感じだよね、ししょーって。あ、煩悩といえばね、ぼく、天使が悪魔になる話を読んだこともあるんだよ! 人間にもいい人と悪い人がいて、悪い人に気づけなかった天使がだんだん自分も悪魔になった話とか!

 

 それとか人間を好きになりすぎた天使がね、自分を見てくれないって嫉妬で悪魔になったりね! 悪魔になったら魔物だから倒して来世でお友達や仲間にならないといけないのになー。もったいないね、今なりたいのに。

 

 でもこれってお話なんだよ。悪魔になった天使なんて本当はいないの。大人がぼくたちを脅かしてるんだって、誰かが言ってた。

 

 うーん、でも、天使の癖に天使を虐めた天使がいたらしいけど、そんなのいるのかなぁ? なんか、謹慎処分されてお外禁止コースって言ってたよ。怖いなぁ、外行けなくなっちゃうじゃん。

 

 にしても天使界にいるのに悪意に染まるって、あるのかなぁ? 嫉妬はどこでも生まれるからありえるってししょーが言ってたけど……すごい人はすごくない? かっこいいじゃん! ぼくもししょーみたいに尊敬される天使になりたいし!

 

 さっさかさっさかお掃除してたらラフェットさまがお疲れ様って頭を撫でてくれた。ホコリがついてしまいますって言ったらさ、ついてないわって仰ったんだ。

 

 ……あれ? じゃあ……多分、あの先輩は潔癖症だったんだなぁ……。天使がホコリとかないもんねぇ。この色は汚く見えるだけで別にぼくが汚れてるとかそんな訳ないよねぇ、勘違いしてごめんなさい、先輩。

 

 よーし、今度は外で花の水やりをやろうかな! ぼくが水をやらなきゃ枯れちゃうんだよ、みんな水が勝手に降ってるとでも思ってるらしいけど、違うよ! ぼくが緑化活動してるんだからね!

 

 せかせかじょうろで水を運ぶ。うー、天使界はなんだかんだ広いからさ、外に行くのに面倒がって飛んだら空気が薄くて落ちちゃうんだよねぇ、なんて思いつつ翼をばっさばっさ。飛んでるんじゃないよ、翼に空気を通しておくとふわふわになるんだよ! お手入れだよ!

 

 大人の天使はみーんなにこにこしながら雨でも降らせるのかって言ってるけど、だから違うって! 花にとってはぼくが雨って意味ならあってるけどさ! 納得がいかないぞ!

 

 水やりをしてるちっちゃい虹がとーっても綺麗。それを見るためにやってるのが半分くらい。残り半分はもちろん、水を浴びてきらきら輝く花が綺麗だからに決まってるじゃないか!

 

 あ、そうだ。ししょーに人間たちに明日、お花をあげてもいいか聞かなきゃ。

 

 ししょー! ししょー! どこですかーっ!

 

・・・・

 

 最近の天使界には天使がいる。……別に哲学じゃなくてね。

 

 天使にもいろいろいるから、見た目がごっつい天使もいれば、普通の人間に翼を生やしたような天使いるし、天使らしい天使ももちろんいるの。

 

 話題の天使は天使らしい天使ってこと。まだまだ生まれてまもない天使なんだけど、これが本当に天使で天使で天使なの。

 

 くりっくりのきらきらした目、幼児特有のぷにぷにしたほっぺた、もちもちすべすべの肌、さらさらの髪、桃色の唇。見た目だけでも十二分に天使なのに、あの子ったらそれに加えて中身まで天使天使してるから天使界に天使が舞い降りたに違いないわよね!

 

 上級天使になってはや数百年、こんなにひよっこ天使が可愛いなんて思ったの初めてなのよ! だから弟子にしようと思ったらイザヤールが弟子にしちゃって……なによ、すました顔してアンタやるじゃない。

 

 あぁ……ししょー! ししょー! とつるっぱげの後ろをついてまわる天使が可愛い……一生懸命敬語であれこれ尋ねたり、掃除して回って褒められたり、花の水やりを頑張ってくれたりしてるあの子がかわいい……。

 

 可愛すぎて、もう天使すぎるせいか、変な気を起こした天使があの子を虐めたレベルなのよ。好きな子を虐めたいって訳が分からない。天使だから性別はないし……とか言ってたけど、アンタ、前科もちよね。見た目だけは幼い古株が!

 

 今度はオムイ様の慈悲もなく、あえなく軟禁処分されたやつの悲鳴って聞いても心が動かないわー、ほんと。天使らしくないけどね、私のそんなところ。

 

 うふふー、あの子に私もししょーって呼ばれたいわぁ……。そしたら髪の毛にリボン結んでやるのにね。きっと似合うわよね、ねぇイザヤール。

 

「……アーミアスは男だが」

「え?」

「人間も天使も幼い頃はなかなか区別がつきにくいから仕方ないことだ」

「嘘おおおおおっ」

 

 びくっと目の前で肩を震わせたアーミアスちゃ……アーミアスくん。名前がなんでそんなにかっこいい感じなのかしら、と思っていたら……男の子だったのね。

 

「ぼ、ぼく……」

「あ、あぁごめんねアーミアスくん」

 

 ショックを受けたのかアーミアスくんが目の前でぷるぷる震えてる。それも可愛いのだけど、もうやっぱり天使すぎないかしら?

 

 すると何故かアーミアスくん、キリッとした顔つきでこっちを見てきて可愛いの。

 

「俺になります! 紛らわしくないように!」

「ノオオオオオッ!」

 

 そんな悲しい事件の次の日、何を思ったか翼をもぎ取ろうとしたアーミアスくんに私は滝のように涙したり、どんどん可愛いよりも綺麗になっていって遠い雲の上の天使となってしまったアーミアスくんに話しかけることが出来なかったり、彼の天使っぷりが行動に現れて天使らしくなっていって私の方が憧れたりといろいろあったの。

 

 えぇ、いろいろ。あなたは人間だから私が星になってもアーミアスくんに会えるのよねぇ、羨ましいわ。

 

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