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うぅ、リッカたんがウォルロ村から巣立って出ていく日が来るなんて……。しかもこんなに早いなんて……うぅっ、涙が止まらない……無論、俺の心の中で。目の前でなよなよしている上に薄い顔したホコリ男がむせび泣いてたらキモさでこの感動が吹き飛ぶからポーカーフェイスすっげぇ頑張ってる。誰か褒めて。
ただ、子供に気づかれるぐらい落ち込んでるのはもう許してくれ……。俺はまだまだヒヨッコなんだ。しかも今日から俺もウォルロ村から出て帰る方法探すってカミングアウトしちまったら……そりゃあもうすげぇどんちゃん騒ぎで。ってか、慌てすぎだろみんな。
そうも信心深いのは結構なことだが見習いのペーペーにそこまでしてくれるのか? マジいい人すぎかよ。愛しすぎるぜ。見送りを盛大にしてくれるのは結構嬉しいが、ここまでくると恐縮してきたぜ……。
だってまた薬草降り注いだし。俺の実力に対する信頼のなさが好意善意でしかないのに心に突き刺さるってやばくね? 心が痛いぜ! 丁重に断ったら袋に押し込まれたんだぜ! 押し強すぎだろうが! ありがとよ!
みんなに囲まれて、なんつーか、不思議な気分だぜ。メインはリッカたんだろ? って俺が何度も言わなきゃいけないレベル。師匠が信仰の基盤をがっちり築き、俺がめちゃくちゃ頑張ったおかげで守護天使への好感度振り切れてるみたいだなぁ……。その信仰の対象の実態がこんなやつでほんと申し訳ねぇ!
だから場の雰囲気を乱さないように真顔で頑張るぜ! 俺は空気の読める天使だからな! だが……そろそろ涙腺がやばくなってきたが。だがなぁ、舐めんなよ、俺の顔の鉄仮面を!リッカたん見てるからすーぐにやけそうになるがな!
てかマジ俺のこたァ今回どうでもよくね? 問題はリッカたんじゃね? 何時ものバンダナにエプロン姿なのにリッカたんめちゃくちゃ眩しいんだぜ。ぴかぴか輝いてるだけじゃなく割増で可愛いとか流石はリッカたん! 希望と緊張の表情やべぇ、リッカたん専用俺の心のアルバムが埋まっていくぞぉお……これは、ぺろい! ぺろっぺろだ!
ちなみにもう、準備は終わってる。ロベルトさんのトロフィーを大切に仕舞い込み、荷物も全部まとめたリッカたん。今は昨日半ば脅してリッカたんの大事な宿を継がせたニードと話してるのを俺はちょっと離れて見ていた。
脅して、というのはもしまだニートしたいからって継がなかったらどうなるかわかってるだろうな? 天罰なめんなよ? とか敬語で言った結果だ。天使らしからぬ行為過ぎてやばい。やばいが相手はニート、更生させるためなら何だってしようという俺なりの愛情だ。
断ったらローキック食らわせるつもりだったから一発で受けてくれて良かったぜほんと。イメージダウンはこの仕事NGだからな。セーフセーフ。案外素直なやつで助かった。更生の余地があって一安心だぜ。働けニート。
ちなみにリッカたんのセントシュタインまでの道のりは、俺より遥かに手練のルイーダさんが護衛をするならもうマジめちゃくちゃ安心だ。セントシュタインの方の魔物はここらよりすこーしばかり強いらしいが、ルイーダさんなら大丈夫だろうって分かるぜ。遅れをとるわけねぇわ。あの人レベル二桁あるだろ? 俺は未だ一桁だ。そういうこと。
もちろん俺がリッカたんを送って行きたいのはやまやまなんだがな! だが……先にあの謎の扉のついた物体へ行かなきゃいけない気がしてな。胸騒ぎってやつがやばいんだ。リッカたんを何より優先したい俺がこうなっちまうってことはよ、天使としての本能がなにか訴えてるのかもしれねぇだろ? 流石に無視はできねぇよ。
つーかただでさえなーんも言ってないのにオート天使バレしたんだからな! そろそろ敬われるのも恥ずかしくて限界だぜ! 敬語とかやめてくれ! リッカたんどころかニードまで癒しになるとかやめてくれよ!
天使界に戻れたら文献ひっくり返してバレねぇ方法探すからな! 俺以外に光輪ぶっ飛んだ天使なんてエルギオスとかいう師匠の師匠しか知らんが! あると信じてぇ!
へへ、あの話はタブーってやつだろ。俺、たまたま盗み聞きして知ってるんだからな。昔過ぎて内容まで詳しくは覚えてないんだが。ま、タブーだからこの例は参考にならないんだが。つか聞いてたのバレたらクソ怒られそう。聞けるわけねぇわ。
とりあえず、この持て余しタイムに俺は守護天使として出来る限りの加護をリッカたんにあげた。勿論俺にそんな能力はねぇ。はっきりあるってわかってる天使らしい能力は幽霊とかが見えることぐらいだからな。
だからやったのは全力でリッカたんの可愛くて健気な姿を目に焼き付けながら絶対リッカたんを安全にするんだぞ大地の精霊よ! みたいな念を送っただけだ。つまり祈っただけ。頼りなさ過ぎて泣けてくるぜ……しょぼすぎる天使だわ、俺。
おい、キモい言うな。意味無いとか言うな。俺が一番わかってるわそんなこと。リッカたん可愛い! 可愛いは正義! 魔物はリッカたん見ると魅了されてでろでろになりますように! 俺もでろでろだわ! だからこそ少しでも助けになりたかった! 無理だった! 辛いぞ!
うぅ、リッカたんに付いていきたい、ほんとリッカたんだと外で護衛しながら都会へ……とかデートみたいじゃねぇかまじで。俺も行きてぇなぁ、行きてぇなぁ……。クッソ。里帰りは俺にご用命を! お願いリッカたん! 俺使って! いくらでも使って!
「じゃあ、みんな、行ってきます!」
リッカたんがみんなに手を振るのを涙なしに見れるものか。とうとう涙ぐんでバレたくねぇから瞬きして涙を押さえ込み、リッカたんをじっと見る。大きくなったなぁ、なんて考えが頭をかすめる。
すると何故かリッカたんは俺の方を見て、声に出さずに口を動かした。……メッセージか?
『あ、り、が、と』
ぅおお! リッカたん! 好き!
……見たか? なぁ見たか? やばくね? リッカたんにありがとうと言ってもらうのは星のオーラの数だけ聞いてきた俺だがよ、今の恋人がやる常套手段みたいな口パク伝達のありがとの破壊力やばくね? まじやばくね? 別格じゃね? やっべ、リッカたん可愛いぺろぺろ! 一生大好きリッカたん! 好きすぎて顔からいろんなものが出そう!
やばすぎ、もう最高かよ! このノリで俺も行ってきます!
あぁお婆ちゃん、俺大丈夫だから心配しないでくれよ。ぼうやも泣かないでくれ、戻ったらまた来るからよ。村長に肩を叩かれ、ニードに何故か睨まれ、シスターと長々別れの挨拶をしたり。
行こうとしたのによ、長々引き止められちまった。あぁ俺愛されてんなぁ。これだから……ここの人たち、大好きなんだよ。
最近よぉ、ますますそう思うね。マジ最高、これだから守護天使は最高なんだぜ!
寂しくてたまらないが、俺は後ろ髪を引かれる思いをしながらウォルロ村から踏み出した。振り返らずに。すぐに帰りたいからな! 振り返る暇があったら一秒でも早くウォルロに帰るだろ?
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襲いかかってくるモーモンを数匹天に送ったのはともあれ、概ね平和に着いた峠の道。おぉ、あのやべぇ土砂崩れもすっかり綺麗に撤去されたみたいでなによりだぜ。
で、相変わらず意味ありげに鎮座してるのがこのなんかわけのわからんやつだ。さーて、扉が開くかなー?
「……ちょっと待ったーーッッ!」
手が金属製っぽい扉に触れたか触れないかぐらいだったか。その瞬間俺の頭に高速でぶつかってきたなんか。地味にいいところに入ったようで頭を抑えるほどいてぇ。まじないわー。犯人誰だよ。女の子っぽい声だったが。女の子はリッカたんしか興味ねぇから!
「あんた見えてるよね? 天の方舟見えてるくね?」
なーんて言いながら犯人と思しき小さめのピンクの光がぴかぴか光りながら俺の周りを旋回。……これは妖精か、このサイズは。一応初めて見るが……クソやかましいやつだなこいつ。
ん?人間より反応が雑だって?そりゃそうだろう。俺は人間大好きな天使だが、妖精が困ってるわけでもなくただ喧しいだけなら心底どうでもいいわ。あとうるさいのは嫌いだ。
「……この物体のことなら見えてますが」
「んー、やっぱり?」
ぽふん。なんて可愛らしい音を立てて光は俺の前で正体を表した。……その瞬間俺が抱いた感想は……何こいつケバッ……リッカたんの清純さを見習えや! というあまりにも酷いものだったから黙っておいた。要らない事は黙っておいた方がいいってもんだぜ?
彼女はそんな化粧しなくても素地は可愛いだろうに……ガングロギャルの妖精、という世にも珍しい存在。それを見て一気に俺の目が死んだのが分かった。やばい。やばいとしか言えない。関わりたくないやつだ。関わらざるを得ないのが辛い。
「あたしはサンディ! とりあえずハネなし天使サマは入って入って!」
……妖精にまで一発バレしてるのは、まぁ今更ということで片付けるとしてだ。まぁ、妖精だしな。
つーかなんでこいつ小さいくせにこんなに力があるんだ?! めちゃくちゃに押し込まれて俺は謎の物体の中に放り出され、つんのめって転びそうになるのを必死で留めるハメになった。
散々かよ! 押しの強い女の子は好きだが強引なイミフ妖精は願い下げだゴラァ!
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幼少期、天使(異変前)時代
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旅の途中(仲間中心)
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旅の途中(主リツ)
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if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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