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ただいまウォルロ! ただいま非戦闘地帯! 大勢の人がおかえりと言ってくれるから間違いなくウォルロ村の人たちは天使よりも優しい存在。俺が今認定した。何回でも認定する。ここが第二の故郷ってやつじゃね? まぁ守護対象の地を守護天使が大切に思うのは当たり前だが!
ルイーダさんはリッカたんに用があるみたいだからこのまま家の方に案内を……って今の時間リッカたん宿屋の方にいたわ。土砂崩れで塞がれていようが、宿屋の掃除どころか受付まで欠かさないリッカたんやばくね? やばいから俺もっと手伝いたい。
手伝って手伝いまくってリッカたんにずっと居てくれる?って言ってもらいたい。従業員に俺はなりたい。ご飯少しと寝るところを貸してもらえたら給料もいらない燃費の良さだからどうよ? 雑務には定評があるぜ! ちなみにご利益はない!
言わなくてもいるけどな。嫌がられない限りいるけどな! もう少ししたら一旦、帰る方法を探すためにここを離れる、つもりだが。あの変なドア気になるし。ハゲ師匠のタクシーが駄目ならセントシュタインの守護天使に助けを求めりゃいいだろ。
俺以外の守護天使は見習いじゃないから翼がでかいしなんとかなるだろ? ……セントシュタインの天使も俺と同じことになってたらどうしようか。もっと向こうの村の守護天使に……以下ループってやつだな。
……本当は離れるの嫌に決まってんだろ! でも荷物があるから仕方ないだろ! リッカたん成長日記が天使界に置きっぱなんだよ! それを見られたらリッカたんのプライバシーが問題だろ! あとあれは俺の大事な宝物だからな!大切にいつまでも懐に入れておきたいんだよ。本物の方が可愛いけどよ。それとこれはまた違うだろ?
とか色々考えつつ到着したリッカたん自慢の宿屋の扉を開ける。そこにいたのは勿論、清潔なエプロンにオレンジのバンダナ、青いおかっぱ、ぱっちりした目、ほっそりしてるけど働き者でとっても真面目で天使に敬虔なパーフェクト可愛い麗しの存在リッカたん。
今日もさいっこうに可愛いぜ! 仕事モードのキリッとリッカたんを心に永久保存! 心のアルバムにジュッと焼き付けリッカたんぺろぺろ!
だがぱっちりした目が俺を見た途端、釣り上がったのに俺は後ずさったが。もしや俺のブサイクレベル上がったのか?と疑ったがそこじゃなかった。
「アーミアス、怪我してるじゃない!」
「……はい?」
「髪の毛、血がついてるの! 大丈夫? 貰った薬草使い果たしちゃったの?」
「あ、違いますリッカ。怪我は治ってますよ。血を洗ってないだけです」
「……そう。あー、心配したんだからね! 私のわがままでまたアーミアスさ、アーミアスがあんな怪我したらって……。おかえりなさい!」
聞いたか? リッカたん俺の心配してくれたんだぜ? しかもおかえりなさい、だぜ? やばいぞ。優しいなんてもんじゃない。彼女が女神様なんだろ。俺リッカたん信仰するわ。あ、翼をもいでくれた神様もすごいと思うぜ。だがやはり大正義はリッカたん!
ぺろ!
「ただいま帰りました」
めっちゃにやけながら返事するの超幸せ。
こんなに優しくて急いでこっちに来て心配してくれて俺にその曇りのない眼を向けていろんな表情を見せてくれるリッカたんこそ最強! もう心打ち抜かれてやばい、動けねぇ。
にやにやなんてレベルを通り越して顔がすごいことになってるが流石はリッカたん、目をそらしたりしないぞ! リッカたんの目に不審者が映ってると思うと胸が痛いが今はこの幸せを……。
「あらあら、ちょっと私、お邪魔みたいだけどお話いいかしら」
あっヤベ。ルイーダさんのこと忘れてたわ。なんていうかこの大人の妖艶な雰囲気を持つルイーダさん、間違いなく俺より年下の人間なのはわかるのに「さん」付けしないと落ち着かない不思議な雰囲気があるな。今更だが。
ルイーダさんはなんとなく微笑ましいものを見て優しい顔をしている感じだが、今の俺のどこが……あ、リッカたんだ。リッカたんが心配してるの微笑ましいの極みだわ。ルイーダさんよくわかってるな! 握手したい! ちょっと美人の手に触れたいのもある! 下心やべーぞ。
でも俺さりげなく警戒してるリッカたんを庇うようにしてるから無理だな。もちろん警戒つっても何この人? みたいな警戒だから俺まじ立ってるだけ! ……俺邪魔かもしれねぇ。
「今の間に宿の中を見せてもらったのよ。小さいけど掃除が行き届いていて清潔で……」
あざーす。もちろん普段はリッカたんがやってるんだから素地はリッカたんだし、リッカたんがマメに掃除してるからこんなに素晴らしい宿なんだぜ? 床の板が飴色になってるだろ? ベッドの下にホコリがないだろ? 壁が変色してないだろ? 全部リッカたんだから。
「感じもいいし、とってもいい宿ね」
なんたってリッカたんの宿は世界一だからな! 清潔感は勿論、居心地よくて料理も美味しい! 最高の宿屋だぜ!
「はぁ、ありがとうございます」
あぁ謙虚なリッカたん! なのに困惑したリッカたん! ぺろぺろ! ぺろぺろぺろ!
「私は貴方をスカウトしに来たの。この様子なら大事そうね」
「スカウト?」
「えぇ。今セントシュタインの宿屋に人がいなくてね。宿王の娘の貴方ならと思ったのだけど、やっぱり素敵な宿屋だし……どう?街で宿屋を営むつもりはないかしら。私は貴方が伝説の宿王を超えることが出来るって確信したわ」
すげぇな流石はリッカたんだ! すごいぞ! でもってマジこれどうすんの?
リッカたん……。リッカたんが引き受けたとしたら……リッカたんのいないウォルロ村……リッカたんのいないウォルロ村なんて……天使の理よりやばくね……。
でもって俺は空気だから、話に入っちゃいけねぇから無言で聞いてるだけなんだが。リッカたんはそれを聞くとびっくりした顔をした後、俯いてしまった。
うーん……ルイーダさん、難しいぜこれ。リッカたんにはな、じいさんがいるから簡単に村を離れられねぇんだぜ? それに親父さんが残してくれた宿屋をほっぽり出せねぇんだぜ? リッカたんは優しいから特にな?
「……無理です。私にはそんな……」
「沢山人を見てきた私が言うのよ?貴方なら大丈夫よ」
「買いかぶって貰われると困ります。……それにお父さんが宿王だったなんて信じられないし……」
「……、そうね、すぐに返事を聞くのは無理そうね。あとで、お返事を聞かせてもらえるかしら」
おお、ルイーダさんは引き際もいいらしい。そのままこの宿に泊まるらしく、久しぶりにリッカたんの宿屋にはお客さんが入った。これルイーダさん、余計に勧誘したくなるやつだよな?リッカたんの接客最高だし。
……じゃー、俺は髪の毛洗ったら村のパトロールでもすっか。お客さんが入ったらもう俺に手を出せることはねぇしな。せいぜい外の掃除ぐらいだが綺麗なもんだ。さっきまでにリッカたんが掃除したんだろう。
それにしても……リッカたんがウォルロ村を出ることがありえる、とか……今まで考えたことなかったぜ。今、他にも村から出ようと考える若者がいないわけじゃないぜ。実際今まで行った人もいる。それも何人もだ。やっぱり田舎だしな。
なのになんでか俺はリッカたんだとずっと、ずーっとウォルロ村にいるって信じてたんだよなぁ。リッカたんはウォルロ村にいる、ウォルロ村にはリッカたんがいるもんだって。
……ああ、大好きなリッカたんも俺たちをおいて成長していく。
今は同い年ぐらいの見た目のリッカたん、きっと目を離したらすぐに大人の美しい女性になって、どこぞの野郎と結婚するかもしれないし……ナツミたんみたいに孫も……やめよう。
俺はずっと見守ってきたんだからそんなこと、今更だ。人は成長するんだぜ、天使よりもずっと早く。生きる時がそもそも違うんだから。俺たちもな、心も体も成長するが、ずっとずっとゆっくりだ。俺が師匠ぐらいのタッパになる頃には……あと何百年か、かかることだろう。
俺たちにとって人間の成長が早いのは当たり前なんだから、喜んでもこうやって悲しんじゃ駄目なんだぜ。
嬉しいと思わなきゃな。リッカたんが、小さくて体の弱かったリッカたんがこんなに大きくなって、元気で、働いてて、すごいところからスカウトが来た。素晴らしいことじゃないか。リッカたんが認められてるってのは、誇らしいじゃないか。
なのに、なんで俺、寂しいんだろうなぁ……。
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幼少期、天使(異変前)時代
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