闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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12話 切迫感

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 ……ほんと、油断してたわ……。

 

 峠の道が土砂崩れで通れなかった私は、宿王の娘リッカを勧誘するために、キサゴナ遺跡という古いルートを通ってウォルロ村へ向かっていたのだけど。

 

 やっぱり何分古い遺跡で、あの地震ではあちこち崩れていたって訳よ。そして運悪く落石で足を挟まれちゃって、このザマよ。

 

 それに最悪なことに、さっきここら一帯ではボスとも言える規格外の強さの魔物を見ちゃったから、いくら私に腕の覚えがあっても……動けない状態でここにあいつが来たらもう絶体絶命なの。遠くの方から地響きが聞こえてくるから戦々恐々。

 

 足自体の傷は大したことなくて、本当に挟まれているだけっていうのが不幸中の幸い、かしら……。でも抜けない限り動けないんじゃないの。

 

 試行錯誤しながらも、だんだん地響きが近付いてくるのがはっきりわかって焦ってしまう。そしてもし音を立てなりなんかしたら、あいつが気づいてやってくるかもしれない。静かに岩をのけるなんてことを手早くやらないと……。

 

 そんな焦る私を助けたのは……見た目だけは幼さも残る少年だったわ。その幼さを文字通り頼りないと思う事はなく、そういうものなのだと納得できる容姿。薄暗い遺跡の中でも燦然(さんぜん)と輝くオーラ。真面目そうで、星星の光を宿した瞳は私を見ると探し物を見つけた子供のように輝いたの。

 

 私には、彼が人ではないってすぐ分かったわ。いいえ、誰だってその事は分かるでしょうけど。人ではないけれど、当然魔物でもない。清浄なオーラは魔の者とは相しれない。そうね、ぴったり来る言葉なら天使、でしょうね……。まさか本当にいるなんて思いもしなかったのに。

 

 彼はそう高級な装備はしていなかったわ、でも彼は手練だとすぐわかるの。身のこなしが羽のように軽やかだっから。

 

 そして、彼はあいつの存在に気づいているみたいで小声で言ったわ。

 

「貴方がルイーダさんですか?」

「え、ええ」

「無事ですね、よかった。今足を解放しますから……」

 

 そう言って、天使の君が岩を持ち上げようとした時。

 

 あいつが、来たの。

 

 手練でも苦戦しそうな巨体を見て危険もわかったでしょうから逃げてと言ったのに、彼はなんということもないように剣を抜き、私に向かってこう言ったわ。

 

「人が危険にさらされているのに、俺が放っておける訳がないんですよ」

 

 使命に帯びたように……いいえ、たくさんの人を見てきた私にはわかる。彼は心底そう思っているのだと。星の瞳に輝くのは底知れない意志。それを当然と思う善の心。そして、母親のように私を見る目は……日常の中ふと感じることのある不思議な感覚に似ていて、なのにそれよりずっと優しかったわ。

 

 そして、彼は強かったの。

 

・・・・

 

 俺はちゃーんとリッカたんの親父さんに挨拶することが目標じゃないだろと思い出してだな、さっさと遺跡捜索を本格化していた。あちこち魔物がいるが積極的に向かってこない限り放置だ。たまに向かってくるが数回斬ればなんてことは無いヤツら。受けるダメージは薬草で回復、完璧じゃね?

 

 ……ん? 目標確認! おーーっ! ルイーダさんも綺麗な青い髪だなぁ、これはこれは、リッカたんに早く会いてぇ! じゃなくてすっげぇ巨乳美人。谷間がよく見えるってほんと、眼福眼福。でもって彼女結構ピンチじゃね? 近くに魔物いるよな、強いヤツ! 早く助けて脱出しないと俺もやべー。

 

 だからよ、よっこら助けようとしたら嫌な予感が的中してなんかデカイヤツ出てくるし! クソッタレ、先に倒すしかないとかマジないわー、普通小心者の俺みたいなのはスルーして出たくね? こんなでかいやつに向かってこられたらタダでさえあの大異変で脆くなった遺跡が一発アボンしそうじゃね? つか崩れたらアイツもろとも埋まりそうじゃね? それは勘弁! 圧死した天使とかやめろ! 師匠が破門しかねないぜ!

 

 つかコイツに踏み潰されたらよ、見た目通り軟弱ってわけじゃない俺でも見た目度通り、無様にべちゃっと潰れそうじゃね? やばくね? でかくね? ほんとねぇわー、デカイだけでこんな脅威とか。いやまぁ、絶対俺より力あるヤツだからデカイだけ、じゃないだろうが!

 

 戦いたくないわこんなヤツと! どうやってこんなやつ倒すんだほんと! こっちの攻撃手段はほぼ剣で殴るだけなのに、クソが。

 

 だが俺、これでもれっきとした天使なもんで。

 

 天使らしからぬ天使って自覚はあるぜ、だがまぁ人間を天使界一愛してる天使なんだぜ! 自負してるからな! つまり人間を見捨てられっか。逃げて! って必死に言われてもお断り! せめてべっぴんさんの盾になってから死ぬ! 人間を守ってとか本望だからな? リッカたんを守るのは超本望だが!

 

 でもって人間をなんとしてでも守るのはさ、俺のポリシーだから! 人間はウォルロ村出身じゃなくても、在住じゃなくても俺が守る! 守護天使以前に俺は天使ぞ?

 

 あとさ、こんなきらきらした美人死んだら世界の損害だし!

 

 いかにも硬そうな皮を持つ……でかいヤツ。名前は知らん。向かってきたら思わず斬りつけたんだが、あんまり効いてなくね? やばくね? でも……ダメージは通った! これで勝てる!

 

 幸いルイーダさんではなく、斬りつけてきた俺しか見えていないヤツはあっちではなくこっちに突進してきた。まぁ俺は避け……られてねぇけどな! 腹にもろに喰らってクソ痛いが、まぁ死ぬほどじゃねぇ。

 

 むしろこっちのダメージの瞬間にボコってやったからアイツの体からも血がにじみ出てるぜ。効いてる効いてる、でもってクソ怒ってる! オラオラこっちだこっちだ、単細胞!

 

 つーかこちとら村人たちの好意の薬草にホイミがあるんだぜ? 狂暴ででかいだけのやつに負けるわけがねぇだろ! オラオラ!

 

 それよりあいつが飛び跳ねて落ちてきたガレキが体を打つ度、痛みより遺跡が心配になってくるんだが。つか、頭の皮が切れて目に血がかかって見た目やばくね? レディにやばいもの見せてる俺、万死に値しそう。

 

 ヒットアンドアウェイを心がけてド突いてんのにヒットアンドダメージを繰り返し、クソ苦い薬草をいちいち貼っていられなくて貪りつつ突き刺したり切り裂いたりの連続。手が痛くなってもお構い無しで、無駄に体力があるらしいな、なかなか倒れてくんねぇ。マジねーわ!

 

 俺って戦闘専門じゃないんだぜ? そういうのは見た目からも師匠みたいな稀有なムキムキ天使の役割じゃね? 俺は地味に日常生活に密着した助けをするタイプじゃね? 掃除とか、失せ物探しとか、成仏とかが専門だから!

 

 天使の中でも俺、戦士じゃねーから、マジで! クソ、時間的に苦戦しすぎだからダーマ行ったら戦士になるか! 腕力がもっと欲しいぜ。

 

 戦い始めて数十分だろうか、体内時計が狂ってるから本当の所はわからないが、そんなもん。

 

 近くの柱がミシミシ言ってきたからここもうダメかもしんねぇと、反撃覚悟でデカイヤツを串刺しにしてみたらやっと倒せたわ。マジ長すぎ。ぶっすり突き刺したから引き抜くのに苦労して、死んだこいつの体に触れて勿論、祈る。

 

 ……すげー苦戦するぐらいお前強かったからさ、次はその力、みんなが幸せになれるように振るおうぜ、な?

 

 そいつもほかの魔物と同じように青い光になって空気に溶けたのを確認して、ルイーダさんの方を見れば……ん? 抜け出せてるじゃねぇか、良かった良かった。

 

「ありがとう、助かったわ」

「ご無事でなによりです」

 

 見た目は無事、だよな?実は無事じゃないとかないよな? 怪我は……見えるところにはなさそうだ。足をかばってる様子もないし、ほんと良かった良かった。じゃー、ウォルロまで護衛しようか? なんか護衛いらないぐらいこの人強そうだが。俺より強くね?足挟まれてなかったらアイツに勝ててるよな、絶対。

 

 上下関係にあるクソほど厳しい天使の俺にはわかるぜ。戦闘力なら間違いなく俺の方が弱いわ。くぅ、もっと強くなりてぇもんだな!

 

 んー、まぁいいや、そんなこと。強くは今からでもなれる、だろ? 誰かを守るには弱くちゃどうにもなんねぇがな、それ以上に大事なのは想いだからな。あとさっきのデカイの以外は俺でも余裕だから護衛はできるだろ。

 

 つうことですっげー美人のルイーダさんを連れて、ニードの時とは段違いの丁寧さで俺はウォルロ村に帰還した。

 

 ついでに目に垂れてきた血はきっちり拭き取っておいたが、髪の毛が固まった血でバリバリになっているのはごまかせなくてリッカたんに心配されてしまい、絶対戦士になって怪我を笑い飛ばせるようになろうと誓ったりもしたぜ。

 

 ほんと俺、なよっちいなぁ。

 

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