闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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11話 遺跡

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 頭にきゅっとおろしたての青いバンダナを巻く。これでホコリ色の髪色をマシにカバー出来る。なおかついざって時のための包帯の布、確保って訳だぜ。守備力はそもそも期待していないしな。所詮は魔力の篭っていない布切れだし。

 

 にしても俺、ルイーダさん、という女の人の様子が心配だ、見に行ってくれと言ったリッカたんの頼みを聞くべくこうして俺は単身外へ出る準備をしているんだが……皮の鎧にバンダナ、皮の靴、ないよりマシなクソダサ天使のタイツ。こんな装備でビジュアル的に大丈夫なのか? と思いつつも浮きに浮いてる服装に銅の剣を装備して外へ向かおうとしたらみんなから差し入れ薬草が降り注ぐ。

 

 ……ちょ、そんなに沢山! 薬草、こんなに貰っていい値段じゃないんだぜ! 俺がリッカたんの頼みを聞いてるのは人間の生活を円滑に安寧にするという守護天使の役目をただこなしているだけで、下心はあると認めてもだ、リッカたんには俺が寝込んでた時の薬草やら包帯やら、果ては寝床、からの飯まで用意してもらってたんだぜ?!

 

 俺が天使じゃなくて人間でもこれぐらいのお礼をして当然だろ、だからそこまで頼りなく思わなくても達成してくるからよ! しかも一昨日と違って万全だぜ?!

 

 ……だが前科持ちの不甲斐ない俺が何を言ってもつっかえせなかった薬草を袋に突っ込み、村の入り口ではニードの取り巻きのなんとも言えない顔に見送られ、俺はウォルロ村を後にした。

 

 ひいふうみい……何個あるんだこれ。愛が重いぞ草なのに。だが、これで、怪我ひとつなく帰ってこられるな。怪我は痛いだけじゃない。誰だってしない方がいい。優しいあの子を傷つけてしまうからな。だからこそ守るんだが、守る相手がいないうちはそれこそ全力で心配の種を潰さないとな。

 

 レベルも上がったし、怪我も治ったしもう苦戦はないだろうと身構えてたら魔物が近寄ってこなかった幸運。ありがたく神のご加護だと思うことにしよう。

 

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 キサゴナ遺跡。昔はここをウォルロ村の人間たちはセントシュタインへの通り道にしていたってやつだな。おう、知ってるぞ。ただここから向こうは管轄外で遺跡自体に入ったことはないから「知っている」なんてマジで存在だけなんだがな。

 

 魔物もうじゃうじゃいるしな……聖水でも撒いて姿を隠すか?だが金が足りなかったから聖水は一個しかねぇんだよ。つか買った時の視線が痛かった。天使が聖水を買うなんて……ってな。

 

 言わせてもらうと天使はそのままの姿でも魔物には見えてるし、天使の聖なる力と聖水の認識阻害は全然別の力だからな?トヘロスやステルスが使えない以上、円滑に魔物の巣窟を歩き回るためには聖水を使ったって普通だろうが!……と正直にきつく言えないのがややヘタレの俺だ。人間の夢を優しく見守るのも天使の勤め。夢は壊さないで曖昧な顔をしておく。

 

 ……つうことは俺はずっと清らかじゃないとダメなのか?

 

 というとそうでもないぜ。てか普通に大丈夫だ。既にリッカたんの前でしょっぱなから無様にぶっ倒れてるし、三日目に大勢の前ですっ転んだし、俺はある程度のダサさは既にバレてるからな。地味ブサイク顔とかも全開だしな。だからあまり気にすべきことじゃない。天使たれと清らかに、なんて俺には無理に決まってるし、ちょうどいい。

 

 つか師匠みたいなハゲでさえもたまに間違えるんだぞ?俺の呼び名とか、タイミングとかな。だから天使は完璧さじゃない、この話は終わりだ!

 

 ほんとこの遺跡探索が終わったら迎えに来てくれ師匠。いつもいつもリッカたんと俺の時間を邪魔してきたのに今回はいないのは悪意を感じるぜ。ハッ、もしかして、俺を気遣って……? ないわー、ないない。それぐらい空気を読めるなら師匠、髪生やしてるわ。

 

 つかハゲの髪事情なんざいいんだよ。せっかくキサゴナに来たんだがなーんかな。魔物じゃない気配がするぜ。これがルイーダさんなのか? あまりにも近い。見に来なくてよかったんじゃないか?

 

 とか思ってたんだがな。入り口が見事に閉ざされてやがる。まぁ当然っちゃ当然なんだが。開けっぱなしだとたまにニードみたいな血気盛んな勘違い野郎が冒険とか洒落込んで突撃、準備もろくにしてねぇから魔物に殺されアボン、とかありえるだろ? 笑い話にもなんねぇだろ? 先を見越してちゃーんと閉鎖する時に封印してくれてたんだな。まぁ今は困るんだが。

 

 ウォルロ側は閉鎖されててもセントシュタイン側は開いてるかもしれねぇだろ? そこまで確証はねぇぞ? 封印のルイーダさんがいるということになるからな、最悪だ。さぁーて、どうやったら解けるのか?

 

 ……封印したのは天使じゃなさそうだな、人間がやったみたいだ。この石をなんとかできそうにもないし……。

 

「?!」

 

 つめてぇ! 思わず叫びかけたわ! 首筋をヒヤッとした感覚が撫でていったみたいだぜ、気色悪いな。……なんだ幽霊かよ。オッサン、成仏してねぇみたいだな。なぁ、リッカたんのお父さん。娘さんを俺にください。

 

 冗談はさておき。なーんにもなんにも言ってこない親父さんは滑るように歩いていく。ついて来いってことだよな。未来の息子がお父上に逆らうはずもなく、俺は素直について行ったぜ。

 

 うーん、お父上とリッカたんは似てないな。当然かもなぁ、リッカたんは母親似なんだろ。

 

 お父上のファインプレーのおかげでボタンをポチッとした俺。とっとと洞窟の奥に向かうとするか……んなわけないだろ。

 

 幽霊のまま、ということは何かしらの未練があるってことなんだぜ? 未練を何とかして解き放つということをしなけりゃこの世をさ迷いっぱなし。なのに天使ぐらいにしか見えないというなんとも哀れな亡霊だ。しかも放置したら下手したら魔物になっちまう。

 

 だから幽霊は速やかに成仏させねぇといけねぇ。

 

 っていねぇ! 逃げたのか、それとも扉が開くのを見届けてどっか行っちまっただけなのか?!

 

 クソッ。俺じゃダメなのかもな……。だが俺は諦めんぞ、娘さんは俺が守る! だから成仏!

 

 決意を胸にずんずん進んでいけば魔物がどことなく怯えて道を開けてくれる。ここの奴らはなんて優しい奴らなんだ、こんな魔物ばっかりだったら世界も平和になるだろうに!

 

 それに報いるためにもはやく幽霊親父とっ捕まぇねぇとな。……あれ?

 

 冗談みたいなことを考えつつ俺は遺跡の奥へ奥へと進んだ。

 

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