OBR『Sincerely -エリカの餞-』   作:半沢柚々

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Prologue ―― A and ∀ ...
『A』――プログラム担当教官殺人事件


 ――プログラム担当教官殺人事件、容疑者の少年自殺。

 

 

 

 時刻は午後五時になりました、スーパーニュースファイブの時間です。担当は私、高橋弓子がお送り致します。

 えー、まずは先月発覚しました、**県**市で男性が滅多刺しにされ殺害された事件につきまして、新たな情報が寄せられました。

 

 この事件は先月の七月十九日、**県**市内にありますマンションの一室にて、近隣の住民により「ひどい悪臭がする」との通報を受けた警察官が問題の部屋を訪れたところ、この部屋に在住する男性で、長年戦闘実験・プログラムの担当教官を勤めて参りました内角俊さん(五十一)が惨殺遺体となって発見されたもので、事件の発覚に繋がりました。

 内角さんの遺体は腐敗の進行から死後一週間以上が経過してるものと思われ、部屋の各隙間から悪臭が溢れ出しており、また遺体は胸部から腹部にかけ数十ヵ所にも及ぶ刺し傷が見受けられ、天井にまで血が飛び散るなどの悲惨な状況だった、とのこと。

 これにより**県警は、怨恨による殺人の可能性が高いとして、えー、以前内角さんが担当されましたクラスの最終生存者の少年が容疑に上がっておりましたが、えー、その少年がですね、内角さんを殺害した後、おおよそ二週間行方を眩ましておりましたが、今日未明、**県からは遠く離れた##県内の山中にて、首を吊った状態で遺体が登山客により発見されました。

 はい、ではここで現地のキャスターと中継が繋がっております。田中さーん、現場はどのようなご様子ですか。

 

 はい、現地の田中裕史です。えー、こちら##県の##山に来ております。えー、私の斜め右側にありますこの木ですね、えーっと非常に頑丈な、一番太い木ですね、ここで容疑者だった少年がロープで、首を吊っていたとのことだったんですね。腐敗が進行してましてですね、死後、恐らく三日前後経過しているだろうとのことです。

 えー、本日午後二時過ぎですね、##県警による鑑識を一通り終えまして、遺体はすでに回収しておりますが、ご覧のように、テープで周辺は被っておりまして、検証は引き続き行われるものと思われますが、少年の遺体の傍らには、えー、少年のものと思われる靴が、揃えて置かれていた、とのことでですね、鑑識の話によると少年の遺体の懐からは遺書らしきものが、えー発見されたとのことでして、自殺だろうと。

 

 自殺ですか。えー、寄せられた情報によりますと、少年のですね、自宅、自室も非常に、綺麗だったと。整理整頓されていたと言うことなんですよね。内角さんを殺害してから、一度も帰宅をしていないと、そう言うことなんですね。

 

 はい、自殺でほぼ間違いないだろうと。本当にね、遺体が見つかったのが奇跡だなと言うくらい、この現場ですね、木々に覆われておりまして、非常に暗いんですよ。遺書を懐にね、入れていたとしてもですね、恐らく見つからなくてもいいと、ひっそりと、ここで自ら命を絶ったものと思いますね。

 

 そうですか。えー、前代未聞の殺人事件ですが、少年は内角さんを殺害したことを悔いて、その、命を経ったのでしょうかね。

 

 んー、僕としてはね、悔いる気持ちがあったならば良いのにと思いますが、恐らく初めから決めていたのだろうと。少年の足取りがですね、四日前の八月三日ですね、えー、少年は暫く##山のここから、六百メートルほど離れた旅館に寝泊まりしていた、とのことなんですが、八月三日が最終的な足取りとなっておりまして、その旅館の従業員が少年と会話をしておりまして、非常に、晴れやかな表情をしていて、よく笑っていたと。笑いながら、故郷の話や友人の話などをですね、非常によく語ったと。

 

 友人の話?

 

 はい、子供の頃のですね、学校の話などをよく語っていたと。ただですね、その友人たちとは何年も会っていないのだとか、もう会えないと思っていたのだと。でも、そろそろ会いにいこうかな、なんて話してたらしいんですよね。

 

 はあ。戦闘実験で亡くなった友人を思っての発言でしょうか、非常に意味深ですね。

 

 そうですねー。少年の話の友人がですね、戦闘実験で亡くなったクラスメイトのことなのだとしたら、そうですね、会いにいこうかな、なんて言ってるんですよね。自殺で間違いないと思いますね。

 

 そうですね。えー、ただですね、今回の事件、少年はあくまで容疑者、とのことなんですが。警察ではどのような対応をしているのでしょうか。

 

 はい。ほぼ間違いないだろうとの見解が強いですね。男性がですね、担当したクラスの最終生存者ですね、不審な点があるのはこの少年だけなんですね。ただし凶器の発見等にはまだ至っていませんが、そうですね、このまま、容疑者の少年死亡のまま、書類送検されるだろうと。

 

 そうですか。田中さん、中継ありがとうございました。

 

 はーい。

 

 えー、スタジオに戻ります。この少年はですね、二○○五年度プログラムにて最終生存者となりましたが、非常に、実験中の成績は良かったと。積極的な行動が目立っていた、とのことなんですね。ただ、実験終了後の少年に身よりはなく、両親は彼の帰宅時にはすでに他界しておりました。

 また、実験の前後で人格が変わったとの情報も入っておりまして、実験後はいつも暗く大人しい性格だが時折、鋭く、睨み付けると言う人格的な問題もあって人との付き合いは、あまりなかったと。実験前はですね、非常に明るく、いつも外を駆け回っているような活発な少年だったと。剽軽な一面もあり、クラスではお調子者、友人は絶えなかった、とのことですね。

 今回起こりました、非常に痛ましい、プログラム担当教官殺人事件。今回の発覚と合わせまして、えー、一九九七年に発生しました、生徒の二人が首輪を外し、担当教官と専守防衛兵士を射殺して会場から逃亡した通称沖木島脱走事件。こちらの生徒の二人はまだ捕まっておりませんが、この二つの事件により改めて、戦闘実験プログラムのあり方について再検討を行うよう、民衆の間では激しい議論が繰り広げられている、とのことです。はい。

 

 続いての事件です。本日未明、―――――

 

 

 

 

 

2007/08/07 PM17:16~


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