ナルトくノ一忍法伝   作:五月ビー

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41『邂逅』②

 

 

 

 

 

 

「────止めろ」

 

 何の気負いも力みもない落ち着いた声だった。

 まるで時が止まったかのように二人の忍が制止する。

 その間にはいつの間にか一人の少年が立っていた。

 少年の顔を見たとき、最初は化粧でもしているのかと疑った。

 それほどまでに病的な白い肌。

 なにより、墨でも塗っているとしか思えない黒に縁どられた目が嫌でも目に付く。

 短い髪の色は赤茶けた土を思わせる暗い赤。

 その背からは巨大な砂色の瓢箪が覗いている。砂の忍は何かを背負わなければいけない制約でもあるのか、などと状況にそぐわない感想を、頭の隅にどける。

 

「ぐっ、我、愛羅…………」

 

 カンクロウが呻くように呟いた。

 我愛羅、おそらくそれが、この少年の名前なのだろう。我愛羅はそちらを軽く見やったが、なにも応えなかった。

 そこでサスケは二人が動かないのではなく、動けないのだと気が付いた。

 まるで彫像にでもなったかのようにカンクロウとドスの二人は戦いに備えて構えたまま、実態はその正反対に、まったく身動きできずに隙を晒しているのだ。

 忍としてはある意味、もっとも屈辱的な姿だろう。一応は仲間である様子のカンクロウはともかく、ドスの驚愕のほどは如何ほどなのか。包帯で隠されたその表情からですらそれが伝わってくる。

 金縛りの術の一種なのだろうか。それとも別の何かなのか。サスケの写輪眼は小さく視界に違和感を覚えているものの、今はあの少年から視線を外せない。

 誰も声を上げなかった。仲間である砂隠れの忍はともかくとして、敵である音隠れの忍たちもまたこの少年の異質な雰囲気に飲まれたかのように、赤髪の少年を凝視したまま口を噤んでいる。

 ──こいつだ。

 サスケは確信した。カブトの言っていた危険な忍とはこの少年のことなのだ。

 今日出会った他の忍たちのレベルも、低くなかった。

 どの忍も生半ではない修練を重ねてきているのは間違いない。戦えば確実に勝てると断言できる相手はほとんどいなかった。

 けれど、目の前の少年はそれとは桁が違う。

 勝てない、のではない。

 その逆に、わからないのだ。

 目の前の少年がどれほど強いのか。そして自分とどれほど差があるのかが、サスケの写輪眼を以ってしてもわからない。

 間違いなく強い。けれど何がどれほど強いのかがわからない。そう感じる。

 体術が強いとか、術が強力だとか、簡単に目に見える強さではない。

 無理やり言語化するならば、強さの質が違う、と表現できるかもしれない。

 その謎を少しでも解き明かそうとより写輪眼に意識を割いたそのとき、赤髪の少年がサスケの方を振り返った。

 視線が交錯する。

 瞬間、その少年の背後から巨大な何かの影が視えた気がした。

 

「──────」

 

 サスケは息を呑んだ。

 少年はやや目を見開いてはいたが、それ以外は表情を変えないまましばらくじっとサスケを見ていた。

 

「が、我愛羅。そ、そろそろ許してあげなよ」

 

 砂の忍の少女が怯えたような猫なで声でそう懇願した。

 サスケから視線を逸らすことなく我愛羅は、静かに溢すように呟いた。

 

「……………………………………違う」

 

 その声はどこか落胆したような響きがあった。見開かれていた目が無感情な表情に戻り、視線が逸らされる。

「我愛羅」、と砂の忍の少女が再び懇願するように名前を呼んだ。

 少年が「ああ」、と頷き、つい、と手を動かすと、氷が解けるように二人の忍は動き出して地に手を付けた。

 

「────うちの忍が失礼をした」

 

 意外にも、この異様な雰囲気を纏った少年はドスに対して、そう謝罪した。頭こそ下げてはおらず、感情の起伏も見えないが、少なくともあからさまな慇懃無礼な態度ではない。

 地面に片膝を突いたままのドスは、我愛羅を見返してはいたが何も答えなかった。

 謝意は受け取ったと判断したのか視線を切ると、敵意を見せないようにゆっくりとサスケたちの方に歩み寄って来た。

 

「木の葉の忍にも、迷惑をかけた。どうやら他国の里に入ったばかりの身ゆえ少々気が立ってしまっていたようだ」

 

 感情の読めない鉄面皮に、墨のように黒い隈で囲われた静かな目でサスケとカブトを視界に収めながらそう謝辞を述べた。カブトはズレたメガネを直しながらなんとかといった様子で立ち上がると、「いえ、大体ボクらが原因みたいなものですから」と返した。ボクらというよりもお前が原因だ、とサスケは内心で突っ込んだが、口には出さなかった。

 我愛羅は軽く顎を引いて頷いた。

 大国の隠れ里の忍であることへの自負を感じる自信に満ちた態度だった。

 だが、その理性的な姿を見ながらもサスケは先ほどこの目の前の少年から発せられた強烈な違和感の名残を拭うことはできなかった。

 我愛羅は胸元から通行許可証を取り出して見せ、正式に名乗った。

 

「オレは砂隠れの下忍、名は砂瀑の我愛羅。今回の中忍選抜試験の受験者、ということになる」

 

 

 

 

 

 

 ────やべ、忘れてた。

 家路を辿っていたナルトは、もうすぐ家に着くというところで、ある出来事を思い出して足を止めた。

 それは中忍選抜試験が開始したときに起きた一つの騒動のこと。

 木ノ葉丸が砂の忍に絡まれて、そこでちょっとした一悶着が起るのだ。

 正確にはそれが起ったのは、中忍試験の志願書を受け取る前だったはずだ。

 色々前後したせいか、そのことがすっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。

 まぁ、実際のところそこまで重大な事件だとはナルト自身思ってはいなかったということもある。

 再現性の低い偶然の衝突で、同じことが起きる可能性は限りなく低い。未来は意外と簡単に変わることをナルトはもう知っている。 

 別に危険はないとは思っているけれど何か他の用事があるわけでもなし。

 一応軽く見回りぐらいはしておいても悪くはないのかもしれない。

 そう思い立ったナルトは、家に向かっていた足を今とは逆の方向に向けて歩き出した。尾獣を体内に封印していることはあまり知られていないせいか、ナルトは基本的には大体の忍からノーマークな存在だ。

 ある程度気を付けていれば他国の忍と余計なトラブルに巻き込まれることもない。

 しばらく歩くと、ばったりとサクラと鉢合わせた。

 サクラに木ノ葉丸に会わなかったかと尋ねると、さっきまでしばらくナルト絡みのことで纏わりつかれていたとのこと。うんざりした様子のサクラに苦笑いを返しながら、さっそく用事が終わってしまったことを理解する。

 すぐに引き返すのもなんだか無駄な徒労感がある。どうしたものかと思案しているとサクラが少し話したそうにしていたので、予定を変更して二人でしばらくそこら辺を歩くことにする。

 サクラに出し抜けに「ナルトはあんまり緊張していないのね」と言われ、やや言葉に詰まる。

 咎められた気がしたのだ。

 もちろんサクラにそんなつもりはないだろうから、ただのナルトの被害妄想ではあるのだが。

 そうだともあるいは違うとも答え辛く、ナルトは曖昧に笑って誤魔化した。

 ナルト自身は好まざる状況ではあるが、実際、中忍選抜試験に集中することはできない。

 せっかくのイベントが目の前にあるのにそれを冷めた目で眺めなくていけない立場なのは、まったく以って不本意なことだ。行事を楽しめないことに関してはある意味慣れてはいるのだが、ナルトは常に不本意だった。

 けれどだからといってサクラの意気込みに水を差したいわけではない。

 

「まぁ、オレってば中忍になれなくても別に構わないから」

「え?」

「中忍になれなきゃなれないで、下忍のまま火影になればいいんだからよ」

「────なにそれ?」

 

 ナルトが胸を張ってみせると、プッとサクラが小さく笑った。

 冗談だが、嘘ではない。

 嘘は言いたくないがそれでも言わないといけない、という罪悪感との葛藤を経て、ナルトは最近、この塩梅の言い回しが少し得意になりつつあった。

 嘘をつくよりかは、多少は滑らかに言えるからだ。

 それが良いのか悪いのかはわからないが。

 サクラは少しは緊張がほぐれたのか先ほどよりは幾分か表情が和らいだように見えた。

 ナルトはサクラが前の中忍試験のときよりもどこか気負っているふうに見えた。

 気弱なよりはいいのかもしれないが、あまり意気込み過ぎると逆に空回りしてしまうのではないかと少し心配に思ってしまうのだ。

 もちろん絶対に口には出さないけれど。

 

「うげ」

 

 サクラがやや品の無い声を上げて、しかめっ面で前方を睨んた。

 ナルトも釣られて同じ方向に視線を向けるとそこには見慣れた顔の二人が立っていた。

 同時に向こうもこちらを把握したらしい。片方が面倒くさそうに眉を寄せ、もう片方はどこか嫌な笑みを浮かべて手を振ってきた。

 

「あらぁ、アカデミーで学年一の秀才だった春野サクラさんじゃない。こんなところで偶然ね」

「………………どうも」

「…………いきなりメンドクセー状況になったなおい」

 

 瞬時に臨戦態勢に入ったサクラと、それを余裕を持って迎え撃つ山中いのが至近距離で睨み合い始めた。

 それを横目にナルトが「よっ」とシカマルに手を上げて挨拶すると、シカマルはやや呆れた視線で返してきた。

 

「で、サスケ君はどこ?」

「いないわよ」

「なぁんだ。そ」

 

 目当ての男がいないと分かった瞬間に纏っていた雰囲気を脱ぎ捨てて目を細めるとサクラに挑発的な笑みを浮かべた。

 

「聞いたわよガリ勉ちゃん。アンタも中忍試験に推薦されたんだってね」

「……そういう口ぶりってことはアンタもそうってことよね」

「正直、まだ早いって思ったけどねー。だからこそ、アンタが受けるつもりそうなのは驚きだったけど」

「どういう意味よ」

「だってアンタの班って、正直サスケ君のワンマンチームじゃない。サスケ君が凄いのはもちろん知ってるけど、残りがアンタとドベのナルトじゃあねぇ…………」

 

 言われてるぞ、と無言でシカマルがいのを指で示してきたがナルトはさほど気にしなかった。ムカつきはもちろんするのだが、最近は過大評価されることの方が多すぎている気がしていたからだ。

 いのとサクラのやり取りがしばらく続きそうなのでナルトもシカマルと中忍試験に関して情報交換しておくことにした。

 そこでサクラが二、三、なにかを言ってナルトの方を指差した。あいにくナルトはシカマルに意識を向けていたので聞き取れなかったのだが、いのの反応は劇的だった。

 ぼんやりとナルトに視線を彷徨わせたかと思うと、大きく目を見開いて、機敏な動作で素早く詰め寄って来た。

 ナルトの頬を両手で挟むと、ええっ、と驚愕したような悲鳴を上げた。

 

「まさかアンタ、ナルトなの!?」

 

 ────気付いていなかったんかい。

 とおそらくここにいる三人の内心がシンクロした瞬間だった。

 サクラに至っては口と手でもしっかりと突っ込んでいた。

 三人のジト目に耐えかねたのか、いのは焦ったように口を開いた。

 

「いやっ、見ない顔だなとは思ったけど!」

「…………」

「あと身長も伸びてるし!」

 

 そういえば、シカマルとチョウジはちょくちょく顔を合わせていたが、いのとは久しく会っていなかったかもしれない。

 そこまで親しくはなかったはずだし、案外気付かないものなのかもしれない。まぁそれを言ったらキバに関してはなんの言い訳もできないわけだが、どうでもいいので気にしなかった。

 

「はぁー…………、あのナルトがいつのまに…………」

 

 ぺたぺたと無遠慮にナルトを撫でまわしながら、感嘆するようにいのは溜息をついた。

 サクラもそうだが、あんまり慣れてないタイプのスキンシップに戸惑う。

 対応の仕方が判らず、ナルトはとりあえず目を細めたまま受け流すことにした。

 

「それに、──なんか前と感じが変わった?」

「……はいはい、そこまで。ナルトが困ってるでしょうが」

 

 タイミングよくサクラが割って入ってきてくれて事なきを得る。あんまり人からベタベタされたことがないのでどうすればいいのかわからないのだ。サクラに引き剥がされるとき、いのの視線が目ざとくナルトの頭の後ろに走った。

 

「あれ、その髪留めって確か……」

「……………………」

 

 瞬間、サクラがしまった、というような表情を浮かべた。それは短い間に過ぎなかったが、どうやらいのはそれを見逃さなかったらしい。

 

「────ああ、そう。ふーん」

 

 と呟くと、ニヤッと笑った。

 

「へぇ、そっかそっか、渡せたんだ」

「………………いいでしょ別に」

「わるいなんて言ってないでしょ。ま、アンタって意外と執念深いからねー」

「…………うっさい」

 

 にやにやと笑いながらサクラをからかういのと、どうやら分が悪いようで頬を染めながら耐える姿勢のサクラ。

 よくわからないが大勢は今、いのの方にあるらしかった。幼馴染らしいので二人にしかわからない楽屋ネタのようなものがあるのだろうか。ナルトは若干さみしい気持ちになりながらそれを眺めていると、そういえばと、今この場に一人、ある人物が欠けていることを思い出した。

 

「あれ、シカマル。そういや、チョウジは一緒じゃねーの?」

「ああ、アイツは、べん、……トイレに行ってる」

 

 言いかけて言い直した言葉に疑問を覚えて考えている内に、ああ、とナルトはそれに思い当たった。

 

「べつに便所でいいのに」

「いや、…………難しいんだよこういうのはよ」

 

 シカマルはメンドクセーケド、と呪文のように唱えた。

 そういうことか。嫌な気分になりながらナルトは察した。

 ナルトも心底同感だった。そういうふうに配慮されると、なんだか心の距離が離れたように感じた。

 喉から文句が出かかって、しかしうまく言葉にできずに黙ってしまった。

 ナルト本人が良くても周りがどう思うかは別なのだ。そうでなくともシカマルは男とか女を気にするタイプなのは知っている。いくら中身がナルトだったとしても、見た目が女の子な相手に対してあんまりにも汚い言葉は、言い辛いのだろう。

 自分の視野が広くなった分、相手の立場や思考がわかってしまう。

 ここで怒らないのは自分らしくないとは思うが、しかし自分の都合だけを押し付ける気にもなれない。

 まったく、自分はなんと中途半端な存在なのだろうか。女にはなれず、かといって男でもない。ただの一介の下忍にも成りきれず、かといって特別な存在であるなんて思えはしない。

 中忍試験が終わり、ひと段落着いたなら、本格的に元の姿に戻れる方法を探そう、そう心に決めた。きっと真剣に探せば、何かを見つけられるはずだ。そう信じ、それを心の支えにして、ナルトはわだかまりを一旦、飲み込んだ。

 

「た、大変だ──―っ」

 

 と、言葉に反してどこか間延びした声が向こうから聞こえてきた。シカマルと一緒にそちらを振り返ると、ポテトチップスの袋を抱えたチョウジがこちらに駆け寄ってきていた。

 

「たいへんだよ、シカマル! それにナルトも! 丁度良かった!」

 

 そう言うと、チョウジはポテトチップスの袋から一つかみのポテトを掴みだして口に放り込んだ。

 そして急いで咀嚼して飲み込んだ後に、また口を開いた。

 

「おま、ちゃんと手は洗ったんだろうな」

「洗った! いや、それどころじゃないよ!」

 

 そういうと再びチョウジは興奮した様子でポテチをつかみ取ると口に放り込んだ。

 

「…………………………」

 

 目を血走らせてチョウジは何度もポテチを咀嚼している。そして素早く飲み込むとまた慌てたように口を開いた。

 そして掴んだポテチをさらに口に運ぼうとして、そこで流石にナルトは切れた。

 

「てめぇ、ポテチ放せバカ!」

「わるい、チョウジは興奮するとバカ食いする癖があってだな」

「むぐぅ!?」

 

 頑迷な抵抗にあいながらなんとかシカマルと協力してポテチを口に運ぶのは阻止すると、ようやくチョウジはここに走って来た目的を口にした。

 

「向こうで音と砂の忍が暴れてたんだよ!」

「────なに?」

 

 ナルトは予想外の言葉に思わずシカマルと顏を見合わせた。

 中忍選抜試験は明日のハズだ。それなのに、一体どういう理由でそんな事態になったというのだろうか。

 しかし、続く言葉にそれ以上に驚かされることになる。

 

「それからたぶん、サスケもそれに巻き込まれてるらしいよ!」

 

 

 

 

 

 よくわからないがまた未来が変わってしまったらしい。

 それも、揉め事というあまり嬉しくないような形で。

 チョウジから聞いた場所に向かいながら、ナルトは理解した。

『なるべく騒ぎを起こすな』と三代目が念を押すように言っていたのを思い出して、後でまた呼び出されるのだろうか、とすでにもうやや嫌な気持ちになりつつあった。

 とはいえ今回ばかりは自分のせいではない。

 まさかサスケが、と思ったがよくよく考えてみれば、さもありなん。

 すかした態度のくせに割と好戦的というかなりタチの悪い性格をしているサスケのことだ。ナルトを除けば第七班で一番の問題児と言ってもまったく過言ではない。

 中忍選抜試験の推薦を受けて高揚してるところを他国の忍に絡まれたとか、そういうオチな気がする。

 ナルトがその場に到着したときには、すでに一般人の人気はなく、そのかわりに騒ぎを聞きつけた野次馬的な忍たちが遠巻きに様子を窺っているようだった。

 その中心地に踏み入ると、幾人かの見知った者たちの姿を見つけ、そしてその中にはサスケも含まれていた。

 

【……………………】

 

 サスケの方もナルトに気が付いたようだった。視線を返してくる。その姿は、先ほど解散した直後と大きく変わりはないようだった。安堵と同時に文句がせり上がってくるのを感じ、とりあえず一回は何か言っておくか、と思った瞬間だった。

 サスケの横に何気なく立っていたメガネの男を認識して、足が止まる。

 

「──────」

 

 あまりにも突然の邂逅だったせいで、意識の統制が間に合わなかった。

 ナルトの無意識が反射的に、目の前の男を敵と認識した。

 髪が一瞬、ざわり、と蠢く。

 止める間もなかった。なによりサスケとこの男が並んで立っているその姿が、どうしようもなくナルトのトラウマを刺激してしまったからだ。

 薬師カブト。大蛇丸の腹心の男。

 一度は殺されかけたこともある相手だ。

 いつかは借りを返さなくてはいけないけれど、だが、今はまだその敵意を見せるべきではなかった。

 三代目の計画の邪魔はするわけにはいかないからだ。

 ナルトが裏にある何かを悟られるヘマをすれば、すべてが瓦解する。故にこの敵意は隠さねばならない。

 ナルトが足を止めたのはわずかに一瞬だけだった。ナルトは奥歯を食いしばって敵意を胸の内に隠すと表情を取り繕ってみせた。

 なるべくカブトを意識の外においやろうと、懸命に努力した。

 そこで、サスケの近くにはカブト以外にもう一人誰かが立っていることに気が付いた。

 視線を上げる。

 その服装には見覚えがあった。

 その背負った砂の瓢箪も、よく覚えている。

 けれど、この感覚は初めてだった。

 いや、違う、今朝からずっと続いていたそれをナルトはもう知っているはずだ。

 目を合わす前にすでにナルトはハッキリと確信していた。

 今日起きたときからずっと感じていた感覚の相手が誰であったのか。その相手を。

 

 ────こいつだったのか。

 

 砂瀑の我愛羅。

 目が合う。

 瞬間、ナルトの指先から頭の頂点まで痺れるような電流が走った。

 

 

 

 

 


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