ナルトくノ一忍法伝   作:五月ビー

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 ナルト「あとサスケのこと考えるとたまに下腹辺りがきゅんっとするんだってばよ」

 三代目・ミザル「!?」

 ナルト「まぁ男のときの話だけどよ」

 三代目・ミザル「!?!??!?!?!」

 ――――というやり取りを入れようと思っていたのにうっかり忘れてしまってました。私と同等レベルの変態以外は別に怒ったりしないと思われますので特に謝罪はしませんがここで供養しておきます。








40『邂逅』①

 何度も読み返した志願書に再び目を通しながら、サスケは特に目的地も決めずに歩き続けた。

 身体が微かに高揚している。

 流石に中忍選抜試験を明日に控えながら本格的な修行をするわけにもいかないが、ただじっと部屋に籠っているような気分にはなれなかった。

 正直に述べれば、サスケは中忍という地位そのものにはさほど興味はなかった。

 しかし無数の里の下忍が一同に集って競い合うという状況は悪くない。むしろ非常に都合が良いといっていい。

 波の国の任務以降、サスケは己の修行が停滞していると、そう感じるようになってしまった。

 修練の成果そのものは任務前と今とではさほど変わってはいないはずだ。

 けれど、命懸けの実戦の中で勝ち得る経験値の密度をサスケは知ってしまったのだ。

 あれを知ってしまえば、普通の修業で得られる遅々とした成長と変化には、もう満足することができない。

 少なくとも、このまま普通に鍛えていても兄に追いつくイメージなど欠片も浮かばない。

 基礎を詰めるのも必要だが、しかし圧倒的な才能の差を埋めるためには普通の努力だけではどうしても足りない。

 波の国で知り得た、己の命を天秤にかけたリスクを伴う選択の中に、その格差を打ち破る可能性を見いだせる気がしていた。

 だからこそ、ここしばらくの平穏はサスケにとってはもどかしかった。

 未だはるかに遠い兄の背中に少しでも近づくための踏み台としては、中忍になれるかもしれないという結果よりも中忍選抜試験そのものの方が、魅力的に思えた。

 暗い視線でその兄の背の幻影を見据える。

 自分を眼中にすら納めないその傲慢な男の背に、いつの日か握った刃を突き立てるそのときまで、利用できるものはすべて利用していくべきだ。

 ふと、兄の背中のイメージの手前に見え隠れしたある人物の姿に、思わず眉をしかめた。

 明るい金髪のポニーテールの少女の姿。

 未だに、この少女のことはよくわからないままだ。

 とてつもない実力者に思えることもあれば、ただの馬鹿なのかと勘繰りたくなることもある。

 果たしてその背は今サスケのすぐ目の前にあるのか、それともあるいははるか遠く、うちはイタチのそばにまで迫っているのか。サスケには捉えられていない。

 歩いていく最中、幾人かの忍とすれ違った。

 見たことがない顔の、他の里の忍たちだ。中忍選抜試験の受験者とその関係者たちだろう。

 軽く観察しただけではその実力まではハッキリとはわからないが、大したことはなさそうに感じた。

 すぐに興味を失い、適当なところで観察を切り上げて移動する。

 

「やぁ、キミ。今はそっちの方向には行かないほうがいいかもよ」

 

 柔らかな声がサスケの背後から聞こえた。聞き覚えの無い声に訝しみながら振り向くと、背の高い眼鏡をかけた優男風の青年が立っていた。

 歳は二十くらいか。額当ての印から同じ木の葉隠れの忍らしかったが、あいにくサスケの記憶にはない顔だった。

 

「…………どういう意味だ?」

 

 誰だ、と言わなかったのはシンプルに興味がなかったからだ。

 青年はサスケの態度に苦笑すると、聞いてもいないことを語り出した。

 

「……一応ボクはキミと同じ木の葉隠れの下忍で、キミの先輩にあたるんだけどね」

 

 言いたいことは理解するが、それを汲み取ることはしない。

 下忍と聞いて一応相手を観察するが、すぐに打ち切る。サスケは目の前の男を先ほどの他里の忍と同様に、自分の格下だと認識した。

 多少の戦闘経験はありそうだが、その身のこなしも、纏った雰囲気も、何一つ特筆すべきところが見当たらない。

 階級はともかく、実力が伴わない者に払う敬意はなかった。

 

「どうでもいい」 

 

 短く切り捨てる。

 

「……あはは、辛辣だなぁ」

 

 予想外、と言った様子で、青年はやや動揺した風に頭を掻いた。

 

「…………」

「………………」

 

 微妙な空気が流れる。

 なんだこいつ、とサスケは思いながら会話を切り上げて再び歩きだそうとすると、相手は思い出したように声を上げた。

 

「あ。そうそう! だからそっちの方には行かない方がいいよ」

「…………何故だ」

 

 大分面倒くさくなりながらサスケは再び訊ねた。眼鏡の男は手元にある花札のような紙を眺めながら、勿体をつけるような口調で答えた。

 

「今、そっちに行くのは危ないってこと」

「…………?」

「キミも気が付いたかもしれないけれど、昨日中忍選抜試験の開催が正式に決定されてね。それで他里の忍が今この里にどんどん入ってきてるってわけだ」

「知っている」

「あぁ、それなら話が早い。つまり、その中でも飛びぬけて危険そうな奴が、キミが今のんきに歩いて向かっている方にいるんだよ」

「…………危険そうな奴だと?」

「それもどうやらご機嫌があんまりよろしくなさそうな、ね。これは忠告ってわけさ。余計なトラブルに巻き込まれたくなかったら、今日は家の中に籠っていることをお勧めするよ。そうでなくとも他の里に入ったばかりの忍は気が立っている奴が多いからね」

 

 この気の利かなそうな様子では意図的でないのかもしれないが、子供に言い聞かせるような物言いにやや苛立ちを覚える。

 

「──どこだ?」

「えっ?」

「そいつらの今いる場所だ」

「ああ、それなら多分今は大門の西側辺りかな…………」

「そうか」

 

 サスケは頷くとそちらの方角へ向けて歩き出した。

 慌てたように後ろから足音が近づいてきた。

 

「ちょ、ちょっと、待って! ボクの忠告ちゃんと聞いてた?」

「ああ」

「だったら、止めておいた方がいい。────ってあれ、手に持ってるそれって……」

 

 そこでようやくその男はサスケが手に持っていた中忍試験の志願書に目を落とした。

 

「──もしかしてキミも中忍試験を受けるわけ?」

 

 忍にしては随分と目端の利かない奴だ、とサスケは呆れた。

 

「ああ」

 

 と、答えながらサスケは疑問を覚えた。目の前の男はサスケのことを下忍だと認識していたはずだ。しかしその疑問の答えはすぐに目の前の男が自分から喋り出した。

 

「キミ、まだ下忍になって一年にも満たないだろう。それなのにもう中忍試験を受けるつもりなのかい?」

「…………」

 

 答えるのが面倒だったので返事はせずに歩き続けようとして、もう一つの疑問を感じて止まった。

 サスケはこの男にまったくの見覚えがない。だというのにどうやら相手の方は少なからず、サスケについて詳しいようだった。

 サスケは足を止めて振り返ると、相手の顔をハッキリと捉えて見た。

 青年は最初の印象と変わらない、何の特徴もない笑顔を浮かべたままだ。

 やや警戒した視線の意味を理解したのか、少し得意そうな顔になると、自分の胸に手を当てて語り出した。

 

「ボクはこれでも中忍選抜試験を七回も受けているからね。他の下忍については自慢じゃないがかなりの情報通だと自負しているよ。もちろんキミのことも知っている。とはいえ、まさか今年、試験を受験するとは思わなかったけどね。もしかして今年はルーキーが多いのかもしれないね」

 

 本当に自慢にならない内容に毒気を抜かれつつ少し呆れたが、納得はできる。なによりこの男が言っていることが事実ならば、目の前の男は利用価値があることになる。

 乗せやすそうな性格でもあるようだ。上手く扱えれば他の里の忍の情報が手に入るかもしれない。

 サスケの内心の変化を知ってか知らずが、男は警戒心の足りていなそうな笑顔のまま言葉を続けた。

 

「ボクの名前は薬師カブト、まぁよろしく、────うちはサスケ君」

 

 

 

 

 

 薬師カブト曰く、他国の里に入ったばかりの忍は皆少なからずトラブルを引き起こすものらしい。特に弱小の隠れ里の者ほど、その傾向にあるようだ。

 その根底にあるのは、劣等感だ。

 表向きは、すべての隠れ里は力の大小に関わらず皆対等であるというお題目があるが、それはあくまで建前にすぎない。

 たとえば木の葉の里のように他の里を召集して合同で中忍選抜試験を開催することができる隠れ里は選ばれたごく一部だけだ。

 すなわち五大国の隠れ里、それのさらに上位の里だけ。

 各国の隠れ里の忍を召集できるだけの外交力、いざというときに無数の里を押さえつけることのできる軍事力、そしてそれを支える強い経済力、さらには協力的な多数の大名の存在、これらすべてを揃えられて初めてそれが実行できる。

 各国合同の中忍選抜試験を開催できることそれそのものが、ある種のステータスなのだ。

 しかし、対等というのは建前だったとしても、否、建前だからこそ、そのことを公に認めてしまうわけにはいかない。

 故に他国の隠れ里に足を踏み入れた忍は意識して自国の面子を保とうとする傾向にある。

 大国の隠れ里だろうが唯々諾々とは従わない、という態度を取るわけだ。

 そしてその面子を傷付けられた場合は、相応の報復を返さなくてはいけない。

 ちょっとした揉め事から、大きなトラブルに発展することはままあることのようだった。

 愚かしい、とサスケは突き放して考えることはできなかった。

 木の葉隠れは大国故にそのようなことを他国に対して意識したことはなかったが、その反対に国の内部ではまったく同じようなことをやっているからだ。

 どこどこの一族の権威がどうの、どこどこの勢力が蔑ろになっているからどうのと、正直に言えば身につまされるものがある。

 

「ま、傍から見れば馬鹿馬鹿しいことこの上ないけれどね」

「………………」

 

 サスケが父親やうちは一族のことを思い出して気分を害したことには気付かなかった様子で、カブトは揶揄するような冷笑をサスケに向けた。

 サスケは己の内で蠢く感情を隠して、何の言葉も返さなかった。

 

「おっ、あれは、音隠れの忍か。直接は初めてみるな」

 

 カブトの声に反応してそちらを見ると、見慣れぬ額当てをした集団を見かけた。

 集団で行動しており、顔は布に覆われて見えない。下忍がほとんどだが、中忍クラスの実力者も混じっているように感じた。

 初見で感じたその印象は、異質、だった。

 忍の集団があそこまで統一された服装をしているのは珍しい。

 新興の隠れ里ゆえの団結力のようなものがあるのだろうか。

 しかし、際立った何かは特に感じない。

 互いに認識し合いながらも、特に干渉することはなくすれ違う。

 

「オイ。まさか今のがそうだって言うんじゃないだろうな」

「まさか。それに、そもそもいくらボクでもあんな新興の小国の情報までは持っていないさ。正直、里そのものにまだなんの実績もないから調べようがないしね」

 

 カブトは両肩をすくめると、どことなく小馬鹿にするような口調で嘯いた。サスケが直接見たところではそこまで質が低いようには感じなかった。隠れ里が積み重ねた育成のノウハウはないのかもしれないが、逆に新興国だからこそ、下忍一人一人が実戦を積んでいるという見方もできそうな気がした。

 

「それより、本当に行くのかい?」

「……どのみち試験で顔を合わせるだろうが」

「倒せない敵からは逃げるのも、試験の内だと思うけど」

「オレはそんな遠回りをする気はない」

「…………ふぅん。立派だねぇ」

 

 よくわかっていなそうなあるいはどうでもよさそうな相槌だった。

 わかった風な顔をされるよりはいい、とサスケは気に留めなかった。

 サスケが再び居場所を尋ねると、渋々といった様子でカブトは答えた。

 

「多分、そろそろだよ」

 

 複数の他国の忍がうろついているからだろう。不自然に人が捌けた場所に出た。

 そこを、二人の忍が歩いていた。

 身体に巻かれた額当てにはシンボルである砂時計が刻まれている。

 砂隠れの忍だ。

 砂隠れの里は、五大国の隠れ里の中でもっとも下位に位置する隠れ里である。

 だが、その規模に反して所属している忍の質に関していえば木の葉隠れにも引けを取らないと聞く。

 黒い頭巾を被ったやや背の高い男と、髪を二つに結ったデカい扇を背負った女の二人組だった。

 足運びを見るだけでそれなりの実力者であることがわかる。

 けれど、カブトが言う程には、危険な感じは受けなかった。

 

「どっちだ?」

「いや、──」

 

 カブトが答えようとした瞬間、黒い影が目の前を遮った。

 

「どうも、こんにちはー」

 

 感情の籠らない平坦な声。

 すでに気配を感じていたサスケは特に驚かなかった。

 目の前に立っていたのは、顔を包帯で隠した男だった。両の腕には特異な形の忍び装束を纏っている。

 額に掲げられたそれには、音符が刻まれていた。

 

「…………どうも。何か用ですか?」

 

 カブトがわずかに動揺を隠しきれないまま訊ねた。男は露わになった目だけで微笑んだ。

 

「いやー、先ほど興味深い話が聞こえてきましたもので。何でもマイナーな小国の隠れ里である音隠れの情報は知る価値もないとか、……そんな話ですよ」

「そんな、ことは」

「いえいえ、ご遠慮なさらず。こう見えてボクって結構親切なんだ」

 

 男が指を鳴らすと、サスケたちの背後に二人の忍が立ちふさがった。男と女が一人ずつ、二人とも音隠れの忍だ。

 

「ボクの名前はドス・キヌタ。音の里の下忍ですよ。ボクでよろしければ今からでも、音隠れの忍のイロハを『聴かせて』あげますよ」

「………………」

 

 他国の忍に気を付けろと言っておきながら、自分が絡まれていては世話はない。しかも完全に自業自得だ。

 巻き込まれた形になったサスケは内心でカブトの評価をさらに下げた。

 とはいえサスケも、もはや当事者になってしまった。

 どう動くべきか、少し考える。

 目の前の男は多分、かなり強い。サスケの知っている実戦を積んだ者特有の空気を纏ってもいる。油断はできない相手だ。

 後ろの二人も、ただの雑魚ではない。簡単には蹴散らせないだろう。

 選択肢によっては今この場で写輪眼を見せるべきかどうかも考えねばならない。

 

「いやー、せっかくだけど遠慮しておくよ」

 

 愛想笑いを張り付けてカブトがそう言うと、音隠れの三人は嘲笑った。その様子を面白そうにニヤニヤと眺めながら砂隠れの二人が通り過ぎていく。

 

「──ふふ、五大国だがなんだが知りませんが、実態はこんな物ですか。図体ばかりでかくなって肝心の忍の質は劣化しきってしまっているアナタがた木の葉のような里もあれば、五大とは名ばかりの今や弱小の里と変わらない落ちぶれた里もある。まったく、名実とは釣りあわないものですねぇ」

 

 と、ドスと名乗った男が言った瞬間、笑いながら歩み去ろうとしていた砂隠れの二人の足が、ピタリと止まった。

 

「…………おい、そりゃどこのことを言ってるんだ?」

「カンクロウ、止めな」

 

 カンクロウと呼ばれた男が据わった目で振り返り、それをとなりの女が諫める。

 包帯の男はニヤリと笑った。

 

「────おや。そちらの名は出した覚えはありませんが、どうやら心当たりがおありの様子で?」

「おいおいおい。新興の弱小が調子に乗ってんなよ。ぬるい木の葉の雑魚どもを脅して気分が上がっちゃったか? 絡んでいい相手の見分け方を教えてやってもいいんだぜ」

「カンクロウ」

「止めるなテマリ」

「いいから、面倒だからやめておきなって」

「………………ふっ」

 

 音の忍の内の一人である黒髪の女が、カンクロウを諫めるテマリと呼ばれた女を見て、鼻で笑った。

 ビキッ、とテマリの額を青筋が走った。

 

「…………あ?」

「──あら怖い」

 

 二人の敵意がぶつかり合う。

 止める者がいなくなったせいで、場の空気がどんどんと際限なく張りつめていく。

 驚いて成り行きを見守っていた様子のカブトがややあって取り成すように乾いた声を上げた。

 

「まぁまぁ、試験前に争うのは無意味だ、ここら辺で止めておこ──」

 

 取り成しの言葉を最後まで続けることはできなかった。

 一度カブトの方に視線を向けたドスが視線を切ると、直後に無造作に腕を振るったからだ。

 サスケは咄嗟に写輪眼を発動していた。

 明確な理由はなく、強いていうならば直感で危険な何かを感じ取っていた。

 どこか大ぶりな軌道を描いて、カブトの顔面に迫るそれはギリギリの距離でかわされる。

 だがその瞬間、ドスの手甲が一瞬だけチャクラの光が覆ったのをサスケは見逃さなかった。

 

「ふぅ、────―え?」

 

 カブトが一息をついたそのとき、かけていたメガネにヒビが入った。

 驚いたカブトが顔に手を当てたかと思えば、次の瞬間膝を折ると胃液を地面にぶちまけた。

 

「ぐぅ、あぁ!?」

「キミはもういいや。もっとイイ楽器を見つけたから」

 

 手甲は絶対にカブトに触れていなかった。だがカラクリが必ずある。写輪眼にも見えないなにか、それがカブトのメガネを割り、そして脳を揺さぶったはずだ。この包帯の男の里の名前からしても理由は一つしか考えられない。

 

「…………音か」

 

 小さい声で呟いたが、男は敏感に察知すると機敏な動作でサスケの方を向いた。

 

「──まぁ、流石に解かるか。っと、キミ、面白い眼をしているね。キミもいい音を奏でそうだ」

 

 そう言い放ってから、今度はカンクロウの方に視線を向ける。

 カンクロウはやや警戒した視線で、包帯の男をねめつけた。

 

「うん? 怖気付いちゃった? 逃げるなら別に止めないけどね」

「……調子に乗るなって言ったじゃんよ」

 

 後に引けなくなったのか、カンクロウは背負っていた包帯に包まれた『二つの』大きな何かの内、一つを地面に突き立てた。

 

「カンクロウ! まさかこんなところでカラスまで使うつもりか!」

「…………」

 

 カンクロウはテマリにはもう返事を返さない。

 人ぐらいの大きさの背負っていたなにかの包帯が解けそうになったそのとき、三人の音の忍の内のもう一人が突然、飛び出した。

 

「馬鹿が、誰がそんなモン待つかよ!」

「────」

 

 叫ぶと、そのままカンクロウに向かってクナイを片手に突っ込んでいく。カラスとやらはまだ解かれていないままだ。けれどカンクロウは動じていない。音の忍が肉薄したのと同時にカンクロウの指がわずかに動き、空間をチャクラの線が走ったのが視えた。

 音の忍はそのチャクラの糸に躓いて、体勢を崩して地面を転がった。

 

「何やってんだ!」

 

 そのあまりに情けない姿に仲間の女が思わずといった様子で声を上げた。

 男は狼狽したように首を振るった。

 

「ち、ちがう。オレの足に何かが絡みついて…………」

 

 二人にはあのチャクラの糸が視えなかったようだった。

 けれど目の前のカンクロウがほくそ笑んでいることはわかったようだ。理屈はわからずとも何かされたことは理解したのだろう。顏を赤くすると、カンクロウに向かって両腕を突き出した。

 見る間にそこにチャクラが集中していく。印は結んでいないはずだが、サスケは確かにそこから脅威を感じていた。

 あそこから何かが、来る。

 

「止めなよザク。キミのそれは流石に大事になり過ぎる。──ボクがやろう」

 

 今にもチャクラが炸裂しようとしていたそのとき、ドスは男の腕に自分の手をポン、と置いて宥めた。

 

「……………………くそ」

 

 ザクはやや躊躇ってからチャクラを抜いて腕を下ろした。

 包帯の男はカンクロウに向き合って目を見開いた。

 

「面白いね。どうやってザクの足を止めたんだい」

「……見えない術がてめぇの専売特許だとでも思ったのかよ」

「面白いよ本当に。是非ともボクの見えない攻撃を、キミの見えない術で防げるかどうか試してみたいね」

 

 カンクロウは付き合わずに今度こそカラスに手をかけた。ドスは微笑みながら、手甲を体の横に構えた。

 サスケはそれを視ていた。

 蚊帳の外に置かれながら、ただ視ていた。

 目覚めたばかりの写輪眼を見開いて。

 どの忍のそれも、木の葉にはないような奇妙な技、術を使っている。それを視て分析し、理解して自分の中に落とし込んでいく作業を繰り返す。

 ゾクゾクと背筋を高揚が走った。

 高ぶった体は発汗し、汗が雫となって頬を伝う。

 これが中忍選抜試験で争う他の里の忍たちなのだ。

 木の葉の仲間内だけに閉じこもっていても決して得られなかった経験が、今あっさりとサスケの目の前に広がっている。

 

 ────これだ。オレはこれが欲しかった。

 

 サスケは強くなるために自分が求めていたものが本当に正しかったことを確信した。

 今は、除け者になっていても構いはしない。ただ立っていることへの恥も感じている暇がない。

 己の両の眼に集中して、眼前の光景を見つめる。二人の忍の激突を一瞬たりとも逃さないために。

 やがてドスが足を踏み出した。迎え撃つカンクロウはカラスに巻き付いていた包帯を半ば解き今すぐにでも開放できるように構えていた。

 二人の忍が激突するまさにその瞬間に、まだあどけない少年の声が聞こえた。

 

「────止めろ」

 

 何の気負いも力みもない落ち着いた声だった。

 まるで時が止まったかのように二人の忍が制止する。

 その間にはいつの間にか一人の少年が立っていた。

 

 

 





 キリが悪いですけどここまで




 

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