幻術に嵌ってしまった以上、むやみやたらに動き回るのは愚策だ。体力を消耗する上に、脱出できる可能性は恐らく相当低い。運に任せて脱出を狙うのは命を賭けて行うギャンブルにしては分が悪すぎる。
しかし、そう知ってはいても白の分身が一定の間隔で襲ってくるために長い時間は一か所には留まれない。
何故相手は、間断なく襲ってこないのか、ナルトには疑問だった。その方が、もっとずっと早くナルト達は追い詰められていくだろう。そうされずに助かっている反面、酷く不気味に感じていた。
何度目かの奇襲を突破し、ナルト達は周囲に気配がなくなったことを察して、少し息を吐いた。与えられた僅かな休息の時間だ。
サスケもサクラも、流石に疲労感を隠せていない。慣れてしまえば分身の一体一体はさほど脅威ではないとはいえ、それでも一歩間違えればこちらを戦闘不能にするだけの能力はある。
真綿でじわじわと首が絞まっていくように、削られていく。
ナルトはもう一度、チャクラを周囲に放射した。目ではまったく見えない霧の結界の中でも、チャクラ感知による超感覚は有効だ。ナルトの脳裏に浮かぶのは、通常通りの、否、それ以上に詳細な森の景色だ。
その中に、幾つか違和感を感じるポイントを発見した。
先ほどからもう都合八度、ナルトはこの作業を繰り返していた。
「サスケ。…………三時、八時、十二時の方角だ。距離はそれぞれ、えーと……、十五、二十二、二十三だってばよ」
「了解」
ナルトの合図でサスケが手裏剣を投擲する。寸分たがわない正確な軌道を描き、木々が無数にそそり立つ森の中、一撃も過たずに目標に命中。
その瞬間、鏡が砕けるような、硬質な音が森の間を響き渡り、木霊する。
サスケの手裏剣が、氷の薄鏡を砕いた音だ。
氷の壁に映し出された偽の景色が消え、正しい景色が視界に映し出された。とはいえ濃霧のせいでそれを視認できるのはサスケだけだが。
「命中した。視界の変化を確認。……、やはりオレの写輪眼では、あの偽の景色は見切れないようだな」
「だけど、通常の幻術なら見切れるんだろ?」
「ああ。――ナルト、また少しチャクラが乱れている。サクラもだ」
「マジか。サンキュ」
霧を介した幻術の攻撃もこれでしめて八回目だ。視界を通して襲ってくるそれは、判っていてもナルトには防ぎようがなかった。
放置していれば、幻術に囚われて精神の錯乱をきたす。
それ自体は微弱な力だ。しかし決して無視はできない。
ナルトは体内に意識を集中して、チャクラを循環させる。幻術は体内チャクラを乱すことで精神に干渉してくる。それは厄介なことに、被術者自身には認識できない。認識する自分自身の感覚そのものが狂わされていくからだ。それゆえ定期的にチャクラを循環させて、乱れさせられたチャクラを戻していかなければいけない。
だがそれも、サスケの写輪眼なら初動を見切ることができる。
ナルトは暫くチャクラを循環させてから、目を開いた。
この一連の流れも何度も繰り返した結果、随分とスムーズに進行するようになった。
今まで、闇雲に逃げ回って来たわけではない。
正しい景色を認識してからできるだけ常に同じ方角へ進む。それがナルト達の出した結論だった。というよりも白を探しても見つからず、そして近づいても来てくれない以上はそれしか方法はない。
しかし、何度やっても森の終わりは見えてこない。流石に三人にも迷いが生じつつあった。敵から逃げている時は悠長に幻術を看破している暇はなく、その分ロスが生じている。
だがなによりも白がこの行動を見逃していること自体が、今までの動きがすべて無駄ではないかという疑念を次第に強めていくのだ。
「っち。体力が残っている内に、一か八か、火遁で周囲を吹き飛ばすか?」
汗と泥の滲んだ顔でサスケはナルトに訊ねた。気力はまだ衰えていないようだが、疲労を隠せていない。ナルトは首を振った。
「だが、敵は間違いなくオレたちの近くに潜んでいる。少なくとも、目視できる位置には」
苛立ちを含んだ声でサスケは吐き捨てた。敵にいい様に嬲られている現状に、屈辱を感じているのだろう。
白はナルトの近くにいる。
その可能性は、ずっと前から気が付いていた。複数の術を行使しながら、それぞれの術の精度があまりに高すぎるからだ。まるで近くで逐一調整していなければ不可能だと思うぐらいには。
だからこそ、サスケはその場所を燻り出す方向に切り替えるべきなのではと提案しているのだ。
しかし、ナルトのチャクラ感知にも、サスケの写輪眼にも、一向にその姿は捉えられずにいた。それが距離の問題なのか、それとも精度の問題なのかはわからない。
あるいは、凡てが勘違いであり、白は遠くからずっとナルト達を攻撃しているだけかもしれなかった。
サスケの火遁の案は、一理ある。一理あるが、それを行うにはチャクラ消費を伴う。
失敗してしまった場合、サスケのチャクラが底を尽きかねない。
サスケのチャクラ切れ、すなわち写輪眼の使用が不可能になれば、この危うい均衡は一気に崩れてしまうだろう。ナルトはサスケとサクラの二人をカバーしきれなくなり、脱出は不可能になる。
ナルトはすでにこの結界を抜け出す方法を見つけていた。
ただし、それはナルトが己の身一つしかない場合に限った。
猿飛の術を応用して、敵の分身を蹴散らしながら一気に切り抜ける。目を瞑っていれば、視界を介す幻術は無視できる。チャクラ探知で絶えず周囲を把握しながら強引に突き進みチャクラ切れよりも先に抜け出す。
この森自体は、それほど広くない。力技だが、勝算は十分にある。
サスケと二人でも、おそらくは可能だ。ナルトがサスケを先導し、連携しながら撤退できるだろう。
しかしサクラを含めた三人でいる限り、そう簡単ではない。
サクラはこの霧の中では視界が利かず素早く移動はできない。幻術による攻撃も、防ぐ手立てがない。
もし白がサクラに攻撃を絞ってきた場合を考える。その場合、ナルトとサスケは足を止めてサクラの援護に入らなければいけなくなるだろう。そうなると、逃げ切るまで必要な時間は増大し、結界を抜けるよりも早くナルトのチャクラの枯渇がする。
―――いっそイナリみたいに、サクラちゃんを背負って……。
などと、考えたがそれはいくら何でも無理がある。ならば、囮でサクラを背負ったナルトの分身を大量に作り出してーーー、とこれは本当に馬鹿すぎる考えだった。 チャクラの問題が増えただけだ。
チャクラが切れてしまった状態を経験していたのは幸運だった。アレがどれだけマズイことなのか、体感することができている。
チャクラ放出と影分身を併用して使うのは、最後の手段だ。
【そうやって何時まで目を逸らし続ける?】
己の内側で、九尾が嗤った。時間が止まり、黒い獣が、足元で牙を剥き出した。
―――っ、……………。
ナルトは息を呑んだ。
―――なんだよ、出てこないつもりじゃなかったのか。
【そのつもりだったのだがなぁ】
ククク、とまるで人間のように頬を歪める。
【チャクラの問題だと? 何故そうやって己に嘘を吐き続ける】
―――…………。
【そんな問題はないはずだ、そうだろう小娘。お前が勝手にそうしているだけだ】
―――お前の力を使うつもりは……。
言いかけて、言い淀む。それが正論であったからだ。
九尾の力を使ってしまえばいい。そうすればチャクラの残量を気にし続ける必要などなくなる。
何故それを無視し続けていたのか。
理由はあった。それは九尾と対等になる、そのためだった。
力を利用し続ける関係では、九尾と同じ立場になど立てない。そう感じたからこそ、この体になってから初めて九尾と話した時に、そう決めたのだ。
ただの意地と言えば、まさしくその通りだ。
自分の言葉を真っすぐ曲げない。
しかしそれは今までずっと、ナルトの芯であり、核であり、進むべき道だった。
今でもそうだ。
そこに落ちてしまった、一片の影を除いて。
『サスケはぜってーオレが連れて帰る! 一生の約束だってばよ!!』
それは、かつて己の大切な人に誓った言葉。
そして、もう果たせない誓いだ。
サスケに負けて、そして殺された時に、永遠に守ることができなくなってしまった誓いだ。
そのときから、ナルトは一つの疑念が胸に過るようになった。
英雄などいるかいないかわからない。英雄のように振る舞ったとしても、ただ意味もなく無駄死にすることなど、世の中には有り触れている。一体どうして、自分だけはそうではないなどと言えるのだろうか、と。
【お前はワシの力を利用するつもりはないと言った】
―――ああ。
【ならば、その約束一つのために仲間を捨てるか?】
―――っ。
【お前に与えられた選択肢は三つだ。ワシとの約束とやらを守って他を切り捨てるか。それとも仲間を救うためにワシのチャクラを使うか。――あるいは、英雄にでもなって、全てを得るか、だ】
―――英雄…。
【ワシはただその答えが聞きたい。分かり切っていることだったとしてもな】
以前は、すべてうまくいくと真っすぐに信じられた。
しかし、今は違う。
それは時折、胸を襲う痛みと同じようにナルトの中に深く根付いてしまった諦観だった。
このままもし、無為に時間が過ぎればサスケのチャクラはじきに尽きるだろう。そうなれば、何もしなくとも作戦は失敗する。
自分自身の意地と、重大な責任。そんなもの比べるべくもないではないか。
既に一度は破ってしまった忍道だ。だから構うことはない。
その内心の言葉が正しいとは思えない。しかし、世の中にはそうせざるを得ないことだってあるのだろう。『しかたなかった』、『しょうがない』と。
カカシに任された以上、いやそうでなかったとしても二人の命を守る責任が、ナルトにはある。
このまま手をこまねいても、サスケのチャクラは遠からず尽きてしまう。
白は、それを狙っているのかもしれない。追い詰め過ぎればナルトが強硬策に出る可能性を考えて、敢えて攻め切らずにゆっくりと弱らせていこうと画策しているのではないか。
だから、手立てがないなら『しょうがない』。大げさに考える必要はない。捨てるのは自分のちっぽけなプライドだけだ。
その答えを、強く否定する自分を感じながらナルトはそう結論付けた。そこに感じる、己への問いかけから目を背けることで。
【…………】
全てを察したように、九尾はなにも問わなかった。
何時ものように嗤いすら、しなかった。怒りも、嘆きもしなかった。
黒い影が消える。
時間の流れが再び動き始め、景色が色を取り戻す。
「ナルト、どうする。このまま続けるのか?」
「…………………いや」
躊躇う気持ちを、胸の痛みが塗りつぶしていく。
「今からオレが……」
「―――ナルト、サスケ君」
言いかけて、それに覆いかぶさるようにサクラが口を開いた。
今の今までほとんど無言だったサクラの声に、少し驚く。
ナルトが振り返ると、サクラは悔しそうに、そしてそれ以上に辛そうに顔を歪めて、思いつめた表情をしていた。それはまたしても、ナルトの知らないサクラの表情だった。
「今から、今から私が囮になる。そうしたら二人で脱出して」
「な、なに言ってんだってばよサクラちゃん」
「それしか、方法なんてないからよ。このままじゃ皆死んじゃうでしょ」
「そ、そんなこと」
「馬鹿にしないでよ…………。わからないはずがないじゃない! 私がアンタの足を引っ張らせるためにここにいるってことぐらい!」
「そ、そんな風に思ってなんていないってばよ!」
「私がいなければ! ナルトはもっと自由に動ける! サスケ君だって! 私がいるからこうなってるんじゃない!! だから、私ができるのはもうこれぐらいしかないじゃない!」
両腕を強く握りしめながら、サクラが叫んだ。
一理あるとかないとか、そういう事よりもあまりにサクラらしくない言動にナルトは驚いた。
自暴自棄とか捨て鉢なんてものは、ナルトの専売特許だったはずだ。
前のサクラはどんなに動揺したとしてもこのように激昂したり、暴走する真似はしなかった。
サクラは、落ち込んでいるとは思っていた。しかし、それはナルトの思うそれではなかった。
あのとき、カカシとの演習の時にも思ったことだ。また、ナルトの知らないサクラの感情の動きだ。そのときは、よくわからないまま終わらせてしまったこと。
今でも、理解できていない。
だから、なんて声をかけてやればいいのかが、わからない。それは今だけの話ではなく、今までずっとナルトはサクラにどのように接すればいいのかわからなかった。
【………………どうした小娘?】
―――悪い。ちょっとだけ待ってくれ。
そもそも、ナルト自身が激昂して叫ぶのは一体どんな理由からだったか。
あまり考えたこともない疑問だった。
自分自身のことを、あまり深く考えたことがないからだ。
多分それは、自尊心を傷つけられたとき。
それは、多くはサスケに向けていた感情だった。
その理解と共に、ナルトの中で腑に落ちたことがあった。
―――ああ、そうか。そういう、ことか。
わかってしまえば、あまりに単純な答えだ。
サクラは、ナルトがサスケに向けていた感情をそのまま、今のナルトに向けているのだ。
そのことへの衝撃は、大きかったのに、ナルトの心は不思議なほどに凪いでいた。
そして、その疑問への納得はそこだけに留まらなかった。連鎖的にナルトの持つ他の疑問へ波及していった。
なんで、そんな単純なことに気が付かなったのだろうか。
視点を少し変えれば、そんなこと直ぐにわかっただろうに。ナルト自身、それが不思議だった。
ああ、だがそれはきっと。そういうことなのだろう。
簡単なことなのに気が付けないのは、得てして本人が見ようとしていないからなのだ。この場合もそうだ。
ナルトは、戻りたかったのだ。
あの、第七班の日常に。
サスケが格好つけ、ナルトがヘマして、サクラが怒る。ムカつくことがあったにせよ、嫉妬したことがあったにせよ、でもそれが本当に大事だったから。だから、口先では未来を変えると言いながら、本心の奥の奥では、あの三人に戻れると信じたかったのだ。
だから、サクラに何時までも前のままのサクラとの関係を押し付けて、感じるはずの違和感から目を背けていた。
ミザルは、ナルトが前ばかり向いていると言っていた。しかしそれは正確ではない。ナルトが追い求めていたのは、ずっと過去だった。
だからナルトの行動はサクラを苛立たせるのだろう。相手を見ていないのだから、当然だ。
今更ながら、ナルトは思い知った。
あのときの第七班にはもう二度と、永遠に、戻ることなどできない、と。それはサクラも恐らくサスケも、そしてナルト自身でさえも。
ナルトはその事実を『ああそうか』、と静かに受け止めた。
本当はもっと前に受け止めなくてはいけなかった。
真っすぐに前を見て、ただ我武者羅に夢に向かって突き進むことはもうできない。考えることを決めたときに、それはもう知っていたはずだったのだから。
そしてそれは、もう一つの事実をナルトに突き付けていた。
―――オレは、…………英雄にはなれなかったんだな。
英雄はいるのか、それともいないのか、それはわからない。しかし少なくとも、自分ではないのだろう。ナルトはそれを受け入れた。
それは決して、諦めや落胆の独白ではなかった。
虚勢などではなく、内側から湧き上がってくる想いがそうさせたのだ。英雄になれなかった。だが、それがどうしたというのか。
自分が英雄じゃない。そう認めることで、曖昧だった道が開けた、そんな気がした。
ナルトは淡く笑みを浮かべた。
英雄になれなくとも、九尾との約束は捨てない。仲間も見捨てない。
―――それなら。英雄のフリをしてやるだけだってばよ。
考えて、考えて。
良いことも悪いことも、綺麗ごとでは済まない世界だって、全部受け入れて。
それでも自分は、自分の在りようを守り続けてやる。『自分の言葉を真っすぐ曲げない』。それを死ぬまで成し遂げ続けてやる。やれることは何だってやろう。綺麗なままでいられなくなっても、変わり続けなくてはいけなくなっても。
大事な物だけは、持って居続けてみせよう。
【………それがお前の答えなのか? なんだそれは? 意味がわからん】
困惑したように、九尾が呟いた。
―――そうか?
難しいことなんてない。ただ、ナルトは道を決めたのだ。
ならば、簡単に諦めてたまるものか。
そうだ。何をうじうじしていたのだろうか。
ナルトは、女になってから初めて第七班で顔合わせしたときを思い出していた。
あのとき自分は、『火影になる』と言った。
なんと中途半端なことか。かつての自分が見たら、きっと鼻で笑ってしまうだろう。
あのときは言えなかった言葉を、ナルトは覚悟を持って先へ進める。
サクラに背を向けると、先の見えぬ霧に向かって息を吸う。
「――ナルト?」
サクラが訝し気にナルトの名を呼んだ。それに背を向けたまま、ナルトは叫んだ。
「オレは! うずまきナルトは! すべての火影を『超える』忍びになるんだってばよ!! だからオレはこんな霧なんてなんてことはないし、何一つ諦めるつもりもねえ!! 今すぐこんな結界なんてぶち破ってやるから白ッ、その首洗って待っていやがれってばよ!!」
ナルトの絶叫が、森を木霊した。
すっきりした。
そうだ。自分はこうでなくてはならない。ナルトは久しぶりに気分よく笑った。それが、嘘から出た言葉だったとしても、何をしてでも本当にしてしまえば、それでいいではないか。
振り返ると、二人はあっけに取られた顔をしていた。
ナルトはサクラを真っすぐに見つめた。それは、女になってからは初めてやったことかもしれなかった。
「な、なによ」
「…………………足手纏いがどうとか、役に立たないからどうとか、下らねーこと言ってんじゃねーってばよ、
「えっ」
目を丸くするサクラ。ナルトはサクラに向かって今まで一度も使ったことのない乱暴な口調で、続けた。守ってやる対象としてではなく、対等の相手として認めながら。
「そんなこと言ってる暇があったら今自分になにができるかを考え続けろ」
「な、何がって…………」
「本当に何もできないならオレがおんぶして連れてってやるってばよ。オレにとっちゃ丁度いいハンデだ。そうするか? サクラ」
「ふ、ふざけないで!」
「なら、簡単に諦める前に何かやることを考えるんだな」
そう言って、ナルトは少し馬鹿にするように笑ってやった。サクラは顔を真っ赤にして目を吊り上げた。傍目から目に見えるほどの怒気を、その全身から立ち上らせる。
ナルトは内心で心底ビビった。頬が引きつり、今にも土下座してしまいそうになる。が、ど根性で表情には出さずに踏みとどまる。額をぶつけ合えるほど近くで、そのまま睨み合う。
困惑からか、サクラの視線は揺れていた。だが、ナルトは決して目を逸らさなかった。
先に視線を落としたのは、サクラだった。
目を伏せると、サクラは深く息を吐いた。わだかまりを吐き出すように。
「―――わかったわよ。全部アンタの言う通り。情けなかったわね、私」
「ふーん。ま、じゃあおんぶは勘弁してやるってばよ」
「はぁ!? アンタこそ調子のいいこと言って、何か策でもあるの? なかったらジリ貧のままじゃない」
しゃーんなろー! と拳を突き出しながらサクラはジロリ、とナルトをねめつける。
ナルトは後ろで置いてけぼりになっていたサスケを見た。やや引いたような表情でナルトとサクラを見ていた。
そういえば、サスケはまだサクラの本性を見たことがなかったはずだった。サクラはややバツの悪そうに小さく頬を染めながら、ナルトを睨んだ。
ブリっ子よりもこちらの表情の方がずっと魅力的だとナルトは思っているのだが。
「大丈夫、策なら面白いのが思い浮かんだってばよ」
白は空気が読める子です