「ま、待てナルト!」
ナルトは、咄嗟にすぐさま分身を解除し本体に情報を伝えようとした。カカシが素早く制止の声をかけなければ、すぐにでも動くつもりだった。
「何だってばよカカシ先生! 早くサクラちゃんの所に行かないと!」
苛立ちを覚えながら、何を考えればいいか定まらない。ここまで緊張続きだったせいで、立ち止まって考えるという行為そのものが、もう酷く鬱陶しく思えていた。
「まさかサクラの救出に向かうつもりなのか?」
「当たり前だってばよ!」
「…………そうか。しかし、イナリ君はどうするつもりだ。まず、落ち着いて状況を整理しろ」
カカシが何時になく真剣な声で告げた。それはナルトの混乱を鎮める為の言葉だったのだろうが、恐らくカカシの意図していない理由でナルトの更なる動揺を引き起こした。
どうしてこうなったのか。白の術のまだ知らない効果のせい、サクラの意図の理解できない行動のせい、カカシが頼りなかったせい。
―――違う。オレのせいだ。
『そう、覚悟だ。どのように選択したとしても、その責任はお前が負わねばならない。白を救うことなく前と同じようにするのか、危険を冒し、より良い結果を望むのか』
三代目の言葉はなにもかも正しかった。ナルトは何度目かも分からない実感を、再び覚えた。
未来を変えるということは、こういうことなのだ。未来を知っているということは人よりもずっと多くの選択肢を持つということ。そしてより多くの選択肢があるということは、より多くの責任があるのだ。
そしてそれは、知らない者には決して理解できない後悔でもあった。
未だに、ナルトは考えが足りないままだ。
きっと、もっと良い結果があったはずなのだ。しかしそれはもう遅い。
ナルトはもどかしさを覚えた。カカシに今ナルトの胸中を渦巻く後悔を伝えたかった。しかし、それは決して共有できない類のものでもあった。
なにより、自己憐憫になど時間を使っている場合ではない。
「………お前も、そんな顔をするんだな」
「………?」
「―――時間がない。簡潔に訊こう。ナルト、お前は今は影分身だな」
「うん」
「なら今からイナリ君をこちらに連れてくることを本体の方に頼めるか」
「……いや、それは多分難しいってばよ」
「どういうことだ」
「悪いけど、こっちも色々あって………、説明すると長いんだけど」
「ホントにお前はよくわからん事をしてくれるな、危険はないのか」
「今はない、けど流石にオレ自身が長い間離れるとマズイ気がするってばよ」
カカシはしばし躊躇い、そしてナルトを見た。
「白は、『あの森』と言っていた。その意味がわかるか?」
「………………ああ、わかるってばよ」
「そうか」
「先生オレは………」
「お前には後で聞きたいことがある。だが――、とりあえず今はいい。お前はなによりもまず第一にサクラの身を案じた。だから」
お前を信じることにする。カカシは一瞬だけナルトに視線を送り、そう告げた。普段の緩い笑顔を浮かべて。
「ナルト。今からお前に中忍相当の裁量を一時的に預ける。これより中隊長として班を率いてサクラの救出に迎え」
「え?」
予想外の言葉に一時思考が停止する。
「い、いやサスケまで来る必要はないってばよ。第一、合流すんのも手間が……」
「サスケは白がサクラを攫った時に使った術を間近で見ている、力になるはずだ」
「でもよ。それじゃカカシ先生の負担がヤバイってばよ」
「ナルト。お前は優秀だが、欠けているものもある。一人ですべてやろうとするんじゃない。班員の力を、もっと信じろ」
ガツン、と殴られたような衝撃が走る。そんなつもりはまったくない。はずだったが、その割には胸に走った動揺は思いの他、大きかった。
「サクラは、大きな失敗をした。だが、その原因の一端は、ナルト、お前にもある」
なんとなくは、わかる。サクラがナルトに対抗心を燃やしていることも、薄々はわかっていた。しかし、どうしてそうなったのかが、根本的に掛け違っているような気がする。それがナルトにはよくわからない。前の時と今。違うことはなにか。
――オレが女だからなのかな……。
それは、何か核心に近い推察に感じられた。だが、消耗している現状で考えを進めるのは億劫だった。心の片隅に留め、今は前を見ることにする。
カカシは親指の先端を噛み切ると、印を組んで地面に手を翳す。平らな平地に黒い文が走り、小さな輪とその中心から外部へ走る放射線を描く。
煙が爆ぜ、カカシの周囲を守るように、大小無数の忍犬が現れる。
「こいつらを今からイナリ君とタズナさん達の護衛に向かわせる。こいつらと入れ替わりでお前は移動を開始しろ。幸い、お前のおかげで霧の結界に綻びができた。時間は掛からないはずだ」
「………先生、口寄せは再不斬を倒す為に必要だったんじゃないのか」
確か、前回はそれを利用して霧隠れを破り、再不斬に勝利したはずだ。それを使ってしまうのはカカシの切り札が一つ減るということ。
「………ほんっとうに可愛くない部下だな、お前は。そんなところに、気が付くんじゃないよ」
カカシは感心を通り越して呆れた様子で溜息をついた。
「お前にそこまで心配されるほどには、頼りなくはないと思ってるんだがな。いいから自分のことに集中しとけ。オレはタズナさん達を守りつつ、これから時間を稼ぐ。白が自棄を起こさないようにな。その間にできる限り迅速にサクラを救出し、班員『全員』の力を活用して安全を確保しろ。そっちは頼んだぞ、ナルト」
「………………押忍」
「――、相談は終わったか?」
大刀を下に向けたままの自然体で再不斬は訊ねた。警戒していたナルトは、慌てずに視線を向ける。カカシは当然、会話の最中も一切油断せずに再不斬に向かい続けている。ナルトのやや前で庇うようにカカシが立ってはいるが、視界を遮ってはいない。再不斬と視線をぶつけ合う。いつぞやのような叩きつけるような殺気は感じない。
「行儀よく待ってくれるとは意外だったが」
「別に飛び掛かっても良かったんだがな。だが、そうなるとオレは、オレの部下が役立たずだったと判断しなければならなくなる。アイツがオレとそこの小娘が戦うべきではないと思ったのなら、まあ従ってやるさ」
「………再不斬」
「よう、小娘。色々やってくれたようじゃねえか。どこまでがテメエの読みの内だったか知りてえところだが、さっさと失せるんだな。これ以上時間を稼ごうって腹なら白の思惑がなんだろうが、オレが一人で全て終わらせる」
お前の相手は白だ。そう言外に告げている。
それはナルト自身も欲するところだ。
このまま戦闘に雪崩込むことは、サクラの命の保証がなくなるということ。それだけは避けなければならない。
どこまでが読み通りか、などとキツイ皮肉だ。ナルトは歯噛みしながら、拳を握りしめて通り過ぎる。
「わん!」
「………………」
前を先導する忍犬の後を追い、距離を開けつつ横を通り過ぎる瞬間、ナルトは再不斬を流し見た。その眼はすでにナルトを捉えておらず、目の前のカカシに注がれている。
戦闘への愉悦を眼に湛えながら、その頬を歪めている。
再不斬に感じる『違和感』をナルトは、ぼんやりと言葉にできないまま遠ざかり、過ぎ去っていく。
サスケにも今の会話を伝えなくてはいけない。
背後でカカシが、口寄せ獣に指令を送る声を聞きながら、ナルトは走り出した。
伝えた内容に、タズナ達からは当然反発はあった。命の危機を感じ極限の興奮状態であったはずであるし、忍犬に護衛をさせるということも、忍びではないものにとっては困惑すべき状況だっただろう。なによりもイナリが危険な立場にいることも彼らにとっては大きな衝撃だったはずだ。
タズナの娘であるツナミは、流石に平静ではいられずナルトに詰め寄った。この状況でのそれはむしろ相当理性的な行動であったとさえ言えた。タズナは、驚いた様子ではあったが、年月を重ねた経験からなのか、少なくとも表面上は、それを抑えるのは早かった。ツナミを抑えると、小さく首を振った。
「この戦いを始めたのは、紛れもなくワシじゃ。そして、本来ならこの子達はそれに付き合う義理もなかったはず。それなら、今更ごちゃごちゃ言うこともあるまいよ。なあに、イナリはワシの孫じゃ、心配はいらん!」
ぎゅっと手を握りしめ、汗を掻いた顔で笑った。
「それよりも早くあの子を助けに行ってやるべきじゃ。助かるうちにな……」
「………………ありがとう」
「いいや。あともう一つ。どうもお前達は妙にギクシャクしているようじゃが、もしかして喧嘩でもしとるんじゃないか?」
「う」
依頼者にすら気付かれるほどあからさまだったのは間違いないが、まさか今言われるとは思わなかった。いや、任務中にギスギスしているんだから、考えてみれば当たり前だ。気まずい思いを味わっていると、タズナはいつもの老獪な老人の顔に戻ると今度はニヤリと笑った。
誤魔化すのは諦めて、正直に答える。
「……仲良くしたいんだけどな、正直どうしていいかわかんねえ」
「それなら、歳をとった爺として、助言を一つ。もし仲良くしたいのに仲良くなれないとしたら、それはやり方が間違っているのかもしれんぞ」
「やり方?」
「うむ。相手が望む関係と、お前が望む関係が常に同じとは限らんということじゃ。橋を渡すときに片方の台地だけ見ても、決して橋は掛からんのと同じようにな。相手のことをもっとよく見てやるんじゃ。そうすれば、きっと上手く行く」
その言葉は妙に耳に残った。
それはタズナはこんな状況でも自分のことではなく相手のことを気遣い、ナルトを励まそうとしていることがわかるからだろう。ナルトは短く感謝を述べた。
精悍な顔をした中型犬の忍犬に護衛を引き継ぎ、サスケと合流する。カカシからの命令を話すと、サスケは特に反論することなく了承。
一旦、本体と落ち合うためにタズナの家に戻ることにする。
何時までも影分身を出しているわけにもいかない。サクラの身の安全の為にも、ナルトは術を解除した。
サクラの救出に向かう、その準備に掛かった時間は驚くほどに短かった。それはイナリが協力してくれたことが一番の理由だろう。ナルトがそばを一時的に離れるということに、すぐに理解を示したのだ。不安そうな顔を一瞬したものの、タズナと同じように、早く行ってやれ、と力強く告げた。
焚きつけておきながら自分だけ途中で離れてしまうことに対する申し訳なさを感じながら、感謝を述べる。
関わる全員が協力的でいてくれたからこそ、時間的な損失をすることなくナルトは最速で行動をすることができた。
ここまで多くの人間に頼った以上、焦って行動して失敗するわけにはいかない。
ナルト自身も、動揺をできる限り抑えようと努力した。相変わらず胸の中心で古傷のように鈍い痛みがぶり返していたが、逆にその痛みが精神を落ち着かせる効果があった。
サスケと共に、昨夜に白と会った場所へと移動する。そこには一段と濃い霧が立ち込め、視界の利かなさはさっきまでの比ではない。
異様な雰囲気を感じ、視界が利かないことに対する本能的な危機感から、侵入するのを拒む気持ちが湧くがサクラが人質である以上、入っていくしかない。
分断されないように、サスケとは付かず離れずの距離でお互いを視界に入れつつ、ゆっくりと進んでいく。
あっという間に、足元すら覚束なくなり始める。
ナルトが苦労して歩く中、対してサスケの動きは幾分か、機敏だった。
カカシの言う通りサスケの写輪眼はこの霧の中では非常に役に立った。いちいちチャクラを消耗しなくては索敵できないナルトと違って、サスケの場合は発動さえしていればそれで充分に周辺を把握できる。サスケ曰く、チャクラの練り込まれた霧のせいで写輪眼でも視界は良くはないそうだが、何の力も持たないナルトの目にとっては暗闇に等しい空間を、薄暗い場所程度の状態にまで軽減できるのだから、やはり凄い力と言わざるを得ない。しかもそれが血統などと、自分ではどうしようもない分野から生まれる力とあっては、そのギフトに嫉妬をしない方が難しい。才能という二文字が頭を過って、小さく対抗心が疼くのを感じた。
こればっかりはもはや、条件反射に等しい。
しかし当然、その力を過信してもいけない。写輪眼とて完全ではないのだ。
ナルトは頭を切り替えつつ警戒を解くことのないように、自分を戒める。山裾に入るが、傾斜は少ない平地だ。足場は悪くないが、その分似たような景色が続いている。霧も相まってナルトは度々自分の位置を見失いかけた。
本来なら森に入って数分の場所に、その数倍の時間をかけて遅々とした速度でようやく、やってきた。
背の低い花畑が続く平場に辿り着く。つい先日、白と初めて向き合った場所だ。
今は人の気配はない。
ナルトのチャクラが届く範囲にも、何か引っかかるものはなかった。
「………………っ!」
花畑の中心に、サクラが横たわっていた。
鼓動が早くなる。視界がギュッと狭まる。焦れるのを抑え、更に少しだけ動くのを待ったが、何かが起こることはなかった。
周囲の索敵をサスケに頼み、早足に近づく。
やや泥で汚れているが、目立った外傷はない。近づいて口元に手をやる。
息を呑む。
「………………ふー」
眠っているだけだ。ナルトは人知れず安堵の溜息をついた。手足を縛る簡素な拘束をクナイで切って外し、体を自由にしてやる。
「―――無事か?」
「うん。無事だってばよ」
「ん…………」
刺激に反応したのか、サクラはゆっくりと目を開けた。茫洋と視線を彷徨わせていたが、やがてゆっくりとその焦点を目の前のナルトに合わせた。眉を寄せると、さっと体を逸らせた。
その反応に寂しい思いをしつつ、ナルトは笑顔を作った。
「えっ…………」
「怪我はないか、サクラちゃん」
「……………?」
状況が上手く飲み込めないのか、キョロキョロと辺りを見渡していたが、サスケの背を見るや、目を見開いた。怯えたような目をナルトに向ける。
「………………わ、私」
「起きたばっかのサクラちゃんにはほんとうに悪いんだけど、動けるようなら今はとにかく移動したいってばよ」
ナルトがそう言うと、サクラはまた目を見開いた後、顔を隠すように俯いた。
「……うん」
大丈夫かな? まだ痛いところがあるのかもしれない。しかしそれを指摘してもサクラが素直に答えるとも思えない。ナルトはさりげなくフォローもできるように備えておくことにした。
「―――ナルト!」
「ま、そうだよな…」
屈んだナルトとサクラを中心に、霧を纏うように白の分身が現れた。その数は十体ほど。
「また会ったな、白」
ナルトが声を掛けても、氷の分身たちは反応を返さなかった。ただ包囲の輪を一気に縮めてくる。
サスケが敵に対応するが、氷の分身は技量はさほどではないが耐久力がある。吹き飛ばしや、破壊ができなかった半分以上はすり抜けてナルトに向かってくる。
やはり対処が容易ではない、手ごわい術だ。
だが、そろそろこの攻撃にも慣れてきた。
ナルトは影分身を解禁すると四体に分身。サスケの止めた一方以外の三方に配置するとチャクラで加速、突撃させて、強引に吹き飛ばして距離を離す。
ナルトの分身も、白の分身も霧に飲み込まれて見えなくなる。
あの氷分身についてわかっていることの一つに、分身を再生させるよりも生成することの方が白は嫌がるということ。恐らくチャクラ消費の問題だろう。つまり、一度引き離せば、すぐには向かってこないはず。
ただし、それは時間稼ぎに過ぎない。すぐに霧に無数の影が浮かびあがる、
わずかにできた間隙を縫うようにナルトは叫んだ。
「サスケ! サクラちゃん! 逃げるってばよ!」
来た道を戻りながら、ナルトは直観していた。
白はナルトをここに移動させることを目的にしていた。そのための餌がサクラだったのだろう。つまり、白がサクラを無傷で放置した理由は単純で、ナルトをここに誘き寄せた段階で、サクラの役目はもう終わっていたから。
だからこそ、解かる。
「…………」
走っても走っても、森の終わりが見えない。
既に数分間、真っすぐ進んでいるはずなのに一向に藪が途切れる様子がない。散発的に襲ってくる白の分身に追い立てられ、完全な直線移動ではないものの、明らかに侵入した時に比べて倍以上の長い距離を走っている。
しかし、出口には辿り着かない。
ナルトの息も少し上がり始めたころ、見覚えのある花畑が見えてきた。
「はぁ、はぁ…………なによこれ」
サクラが膝に手を置きながら呆然とした声を出した。
戦闘跡もそのままだ。間違いなく、先ほどの花畑だ。
どうやら、抜け出すどころか一生懸命に走り回された挙句振り出しに戻って来させられてしまったようだった。
三人は敵の襲撃の危険も忘れて、しばし呆然とした。
そこからの復活は、かつて中忍試験で経験したことのあるナルトが一番早かった。
「幻術だ…」
「―――なに?」
「前に雨隠れの忍びが………………えーと似たような戦法を使うって本で読んだような」
中忍試験の時のことを話そうとしてしまい、慌てて誤魔化す。
「………………………………………成程」
サスケが妙に長いような気がする沈黙の後に、そう応えた。その態度は、ついさっきのカカシの様子によく似ていた。
この任務が終わるまでは、疑問を棚上げにする心づもりらしい。溜まった宿題の上に更にまた宿題を積み上げてしまったような気分を味わいつつ、ナルトはもう諦めた。
「だけどサスケ君の目だったら」
「………悪いが、まったく気が付かなかった」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「いや……」
白がそこを見落とすはずがない。そういう意味で、ナルトは落胆はしなかった。
そしてナルト自身も一度、似たような術を経験したことがあるとはいえ、結局幻術を破ったわけではない。相手を油断させ、目の前に誘い出して、そこを叩くことで勝利した。つまり慢心を突いた戦い方だったわけだ。
白相手では同じ攻略はできないだろう。
幻術には複雑な種類があり、対応手段も千差万別。ナルトもまだ三代目から幻術の破り方は教わっていない。
精々、体内のチャクラを整えて、より深い幻術に嵌められないように努めるぐらいか。
あくまで一人で突破するのなら方法はある気がするが、今は三人。それはできない。
【……………………】
内側で九尾の胎動を、僅かに感じた。が、それは無視した。
「これは推測だが…………おそらく、鏡だ」
サスケはナルトを真っすぐに見てそう告げた。
その意味を聞き返そうとしたが、また敵が集まり始めた。先ほどから包囲というほどではないが、休ませない意思を感じさせる頻度で攻撃を仕掛けてくる。
三人は再び移動を開始した。
走りながら訊ねる。
「サスケ、さっきのは…」
「白がサクラを攫った時、奇妙な光景を見た。何もないはずの空間に広がった罅割れ、それが砕けて景色が一変し、そこに奴が立っていた。アイツは変化で別の忍びに化けていたのではなく、壁のようなものに異なる映像を映して、俺の目を誤魔化しやがった」
サスケがサクラが攫われた時のことを話す時、サクラは目を伏せた。それをナルトは察しながら、かけられる言葉がなかった。
「…………………壁って氷か?」
「さぁな。予想が当たっているとしたら、その可能性が高いが。だが、それが全てでもない」
「…………………」
偽物の風景。
それとこの濃霧に、襲い掛かってくる氷分身。そしておそらく視界に影響する幻術、それらを組み合わせて、ナルト達をこの霧の森に閉じ込めてしまう算段だったのだろう。そしてそれは、ほぼ完全に機能していた。
ナルト達は白の思惑通り、分の悪い持久戦に持ち込まれてしまったようだった。