ナルトくノ一忍法伝   作:五月ビー

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だらしなくてすまない………。


25『氷晶霧中』②

 まあ、それも。まずはここから逃がしてもらわなければいけないのだが。ただで逃げられるなどとは思わない。白の狙いはナルトをここで足止めして、再不斬の戦いの邪魔をさせないことだ。ナルトを殺すと宣言しておきながら、その実、そのことに拘りはしていない。あくまで白の目的は一貫して、再不斬の願いを叶えることなのだ。

 ブレがない。ある意味、完璧な忍びの姿だ。

 だからこそ、厄介で、そうだからこそ、そこに糸口もある。

 

『ナルト君、聡明なキミのことだ。もう気が付いているんじゃないですか? キミにこの術は破れない』

 淡々と告げる白の声は分身を通しているせいか、どこか歪んで聞こえた。聡明な、と呼ばれたことに猛烈な違和感を感じたが、それは無視した。

『あるいはその背中の子供を捨てて突貫するのなら可能性はありますが』

「………」

『それができないなら、ここでボクに嬲り殺しにされるだけ。あるいは仲間は見捨てて自分だけ逃げだしますか?』

 

 白の挑発染みた言葉は概ね、正しかった。今のナルトにはこの術は破れないし、橋の方面に突破することも、恐らくできない。かといってただ逃げた場合、白がその後なにもせずにじっとしているはずもない。追いかけてもくるかもしれないが、ナルトの心配はその逆にあった。ナルトがここから逃げ出した場合、今ナルトに費やしている術の余力の幾分かを、再不斬の援護に回すかもしれない。

 状況の確認という作業は、あるいは白にとってナルトの動揺を誘う手段だったかもしれなかった。一見、確かになんの活路も見いだせない。

 

 だが、ナルトが考えていたのは全く別のことだった。

 すなわち、自分の使えるチャクラの容量。それの限界ギリギリの範囲について。

 影分身は、今それほど沢山は作れない。それぞれが全力で動き回ると考えると、一番安定している数は、今のように数体程出している状態だ。それを超えて限度いっぱいまでチャクラを分割するなら、数十体は出せるには出せるが、そうしたところで活動できる時間はごくごく短い。

 十五体。それが、全力で活動する上で、今のナルトの限界だった。

 

 十字印を組むと、音を立てて、十五体の影分身が現れる。

『………』

 白の分身たちは僅かに身構える程度であったが、場の空気は一気に張り詰める。

 飛び出したナルトの影分身を、白の氷の分身が迎え撃つ。

 ただし、ナルトの本体はその場に留まった。

 

 先ほどのように、自分の周囲を守ったりはしない。全部の影分身がバラバラに動きながら、橋の方に向かって走っていく。

 当然、白の分身たちも向かわせまいと、立ちふさがって迎撃していく。

 

 ナルトはその隙に踵を返すと、水面を走り橋とは逆方向に逃げ出した。その行動が意外だったのか、白の気配が一瞬、たじろいだ。

 

『なにを……………』

 

 言いかけた白にナルトの分身が飛び掛かったのを横目にナルトは森に向かって一目散に逃げ込んだ。

 

 

 

 森まで、白の分身は追ってこなかった。

 だが、辺りを覆う霧の濃さはまるで変わっていない。霧の効果がわからない以上、追跡を振り切ったのかどうか、それを知る術は今のナルトにはない。警戒を解くことはしてはいけない。

 くらり、と視界が歪む。

 

 ぜぃ、ぜぃ………。

 

 木に寄りかかる。同時、どっと、ナルトの身体から大量の汗が拭きだした。分身を無視して追ってこられたらまずかったが、追ってくる様子は今のところはだが、ない。イナリを背から下ろし、息が整うのを待つ。正直、今は水面歩行すらキツかった。後数秒留まっていたらまずかっただろう。

 

 だが、まずは一つ、クリアだ。

 分身にはまともには戦わずになるべく持久戦をするように指示してある。消えれば感知できるし、これである程度の猶予を確保できた。

 

「……姉ちゃん、平気?」

「あ、ああ。………大丈夫。イナリこそよく耐えたな。偉かったぞ」

 

 イナリはぶるっと身を震わせた。

 

「アイツ、追ってこないのかな……」

「多分な」

 

 そう言いながら、ナルトにはある程度確信があった。白の目的はあくまでナルトの足止めであって、ナルトを倒すことはさほど重要ではないはずだ。影分身を出している限りナルト自身もほぼチャクラを使えない。むしろ分身を再不斬の所に向かわせないために、ナルトの足止めに付き合ってくれるだろう。無論、もし白が無限に分身を出せるならその限りではないが……。しかしその想定はあまりに無意味だ。対処のしようがない。

 

 ナルトは白の術がある程度限界があると仮定して行動していた。

 

 それがどの程度なのかは判らない。分身体の陽動の対処で手一杯になってくれているのならありがたいのだが、それは希望的観測かもしれない。

 今は少しでも、この場所から離れよう。ナルトは街の方角へ足を向けながら小走りに走り出した。

 

「ね、ねえ本当に街に行くの? じいちゃんたちは橋の方にいるんじゃないの?」

「橋には向かわない。今はな」

「街に行ってどうするの?」

「―――街の人間たちを立ち上がらせる」

「え? な、なにそれ? どういう意味?」

「ガトーに立ち向かうってことだ」

「―――えっ」

 

 ナルトはかつての記憶を思い出していた。波の国に橋が造られて、それから交易が始まった後のことを。それは大きな変化の連続だったのだろう。風の噂でナルトが時折耳にした知らせではそれは良いことばかりではないようだった。だが、それらの噂を締めくくるのは何時だって、崩れない国の人々の結束の強さを称える言葉だった。

 そしてそれは、ガトーを倒す今この時生まれた物なのだ。これは絶対にやるべきこと、ではないかもしれない。しかし、ナルトはできるなら前と同じように、立ち上がって欲しいと、そう思っていた。

 

「ガトーに立ち向かう………?」

「ああ」

「……………そんなこと、できるのかな」

「ああ、きっと」

「ど、どうやってするの……?」

「イナリ、それをお前にやって欲しいんだ」

「……………ボクが?」

「ああ、お前が皆に呼びかけるんだ」

「な、なんで!? 姉ちゃんがやればいいじゃんか!」

「他国の人間のオレじゃ、駄目だってばよ。この国の人間が自分の足で立ち上がる必要がある」

「やだよ! ボクにはできないよ!」

「んなことないって。お前なら―――」

 

「できっこないよッ!!!」

 

 ナルトの声を遮るようにイナリは悲鳴のような声を上げた。その声の調子に違和感を感じたナルトは足を止めてイナリを見たが、顔は俯いて表情は窺えない。

 イナリは足を止め、ただ体を震わせた。

 

「イナリ………」

 

 言いかけて、驚く。イナリは、―――泣いていた。

 

「わ、悪いイナリ。急に言って驚かせたか?」

 

 前の時できたことだったから、今回もできる。そんな単純なことじゃないのに、ナルトはまた失念していた。できるはずだと、思い込んでいた。

 嗚咽を漏らして泣くイナリを前に、ナルトは自分の浅はかさを悔いた。イナリの目をハンカチで拭ってやりながら、ナルトは謝った。

 

「……悪い」

「姉ちゃん」

「………うん?」

「ボクだって、姉ちゃんみたいにできるならやりたいよ……、でも勇気が出せないんだ。怖くて怖くて堪らないんだ」

「………うん」

「ナルト姉ちゃん、―――英雄(ヒーロー)ってさ……………本当にいるの…?」

「―――――」

 

 その不意打ち気味の問いは、深く深くナルトの中に突き刺さった。息が止まる。半ば無意識に胸の中心を押さえる。

 しばし、ナルトはその答えを返せなかった。

 

「ボクの父ちゃんは英雄だったんだ。どんな波にも、どんな相手にも負けるはずがないって、そう思ってたのに、死んじゃった。ガトーに殺されたんだ。………、ねえ、姉ちゃん英雄って本当にいるのかな」

 

 不安そうな声に咄嗟に応えてやることもできずに、ナルトは顔を伏せた。

 イナリの望む言葉はわかっている。

 嘘を言ってしまおうか。動揺からか、そんな考えが一瞬浮かんだ。『いる』と前のように断言してしまえばいい。こんな葛藤イナリにはわかりっこないのだから。望む答えを返してやればいい。

 どうすればいいのか。時間にすれば短い間隔、ナルトは悩んだ。

 

「わかんない」

 

 そうして、正直に答えることにした。

 

「前は居ると思ってた。でも今は、そう言えない」

 自分は失敗してしまったから。とても大切な物だったのに、守り切れずに掌から溢してしまった。

「オレってば一回失敗しちゃったんだってばよ。―――それも二度と取り返しのつかない失敗を。だから、なにもかも上手くできる確信なんてない。だけど、本当に守りたいものがあるなら、戦わなくちゃいけないことがあると思ってる。そのとき、絶対に失敗しないために、自分のできることを全部やっておきたい」

「ぜんぶ………?」

「そう、全部」

 そうだ。言いながらナルトは曖昧だった自分の内心の混沌の一つが固まっていくのを感じていた。

 英雄は居ないかもしれない。判らない。けれど、結局、やるべきことがあるなら、確証がなくたって自分はそれに向かっていくしかない。

「波の国の人たちが立ち上がる必要は絶対じゃない。けど、できるのならやるべきだと、そう思う」

「…………」

「無理か?」

「こ、怖いよ、でも………」

 イナリはまだ、涙に濡れる顔を上げてナルトを真っすぐに見た。

「ボクもじいちゃんや母ちゃん、姉ちゃんや、―――父ちゃんみたいに勇気を出したい」

「そっか」

「でも本当にボクにできるかな……」

「わかんないってばよ!」

 ナルトは胸をはって情けなく断言した。

「………なにそれ?」

 イナリが呆れたように小さくだが、笑った。

「わかんないけど、けど一緒にやってやろうぜ」

 ナルトもそう言って笑う。

「……う、うん」

 照れた表情でイナリは頷いた。

 前とは多分、違う形なんだろうけども、今、イナリと少しだけ通じ合えた気がした。

 

 

 

 

 

 

「父ちゃんなら、できるかもしれない」

 

 霧深き森の中をナルトとイナリの二人は、転ばぬように気を付けながら走った。

 

「ボク、この国が嫌いだったんだ」

 

 イナリが小さく溢すようにして呟いた。まだ少し照れた表情をしているが、雰囲気は落ち着いているように見える。

 

「ほら、ボクのじいちゃんって橋造りの大工だろ? だから、街の漁師の人たちに比べるとちょっとだけ裕福なんだ。それに普通はボクぐらいの歳になると親の仕事を手伝ったりするんだけど、ボクはまだしてない。それでか、よくからかわれてた」

「へぇ………」

「釣りを始めたのも、そうすれば仲間に入れて貰えると思ったからなんだ。まあ、釣りと漁の仕事が全然違うってことは、かなり後になってから知ったんだけどさ」

 

 イナリは真っすぐ前を見据えて走りながら、言葉を続ける。

 

「父ちゃんに会うまで、ずっと、この国にいるのが嫌だった」

 

 ナルトは急ぎ過ぎないように気を付けながら、イナリに合わせて走る。

 

「―――今は違うのか?」

「今は違うよ」

 

 間を開けずにイナリは答えた。そして、少し考えるように視線を上げて、ナルトを見上げた。

 

「姉ちゃんがどのくらい知ってるのかは知らないけど。ボクには血の繋がってない父ちゃんがいたんだ。優しくて、強くて、カッコよくて、みんなから好かれてるボクのヒーローだった。その父ちゃんがさ、よく釣りに連れて行ってくれたんだ」

「へー、じゃあイナリが釣り好きなのは父ちゃんの影響なのか」

「まあ、そうだね。父ちゃんは漁師の仕事をしてたんだけど、休みの日にも釣り竿持って海に行ってた。たぶん父ちゃんは釣りが好きっていうより、海が好きだったんだろうね」

 

 なにか大事なことを言おうとしていることに、ナルトは気が付いた。イナリの言葉の続きを待つ。

 

「海だけじゃない。父ちゃんはきっと誰よりもこの国が好きだった。初めから住んでいたボクよりもずっと。だってさ、父ちゃんが教えてくれたんだから。ボクが嫌いだと思ってたこの国のいい所を数えきれないぐらい沢山。…………ボクは父ちゃんのおかげでこの国を好きになったんだ」

「………そっか」

「だから、ガトーからも逃げなかった。どんなに脅されても、どんなに痛め付けられても、決してアイツの言いなりになんてならなかった。―――うわっ」

 

 霧で見えそこなったのか木の根に躓いてイナリはつんのめった。ナルトはとっさにイナリの服の背襟の下を掴んで止める。

 

「よっと。平気か?」

「あ、ありがと」

 

 霧と汗で湿る頬を袖で拭うと、イナリはまた走り出した。

 

「父ちゃんの言葉なら、もしかしたらみんなを動かせるかもしれない」

 

 それが具体的にはどのような事を意味するのか、ナルトは完全に理解したわけではなかったが、詳しい説明は求めなかった。

 

「よし、任せる」ナルトは頷いた。「頼んだぜ、イナリ」

 

 イナリは一瞬、不安とも高揚ともとれるような顔でナルトを見上げた。しかし、口を真っすぐに結ぶと、力強く頷いた。

 

「うんっ」

 

 それを確認したナルトは、次の行動について思考を巡らせた。

 

 ―――次の問題はオレの方か……。

 

 ナルトは辺りを覆う異様に冷たい霧を眺めた。まだ、この霧を攻略したわけではない。ただ無限に分身を生み出すだけの術だとも思えない。

 

 イナリの説得が成功したとしても、この霧が晴れぬままでは身動きが取れない。術を破る、そのためには術者を見つけ出して打ち倒す必要がある。もしかしたら他にも方法はあるかもしれないが、残念ながらナルトは結界に関する知識を持ち合わせていなかった。なんとなく、結界を構築するなにかを壊せばいいのはわかるが、それだけ。

 

 だが、カカシならこの術を破る方法を知っているだろう。だから、この後どうにかしてカカシと渡りを付ければいい、とナルトは単純にそう考えていた。

 

 ―――合流、とまで行かなくてもいい。連絡を取れれば………。

 そう内心ひとりごちるナルトの内側で、九尾が身じろぎするのを感じた。

 

 

 

 衣服を貫いて肌を刺す様な、異様な寒さを纏った霧が、見渡す限り延々と続く。

 サクラは水に濡れた身体から体温が奪われていくのを感じながらも、足は止めなかった。否、止められない、が正しい。

 

 この霧の中で足を止めることはすなわち、敵の攻撃をただ待つに等しい行為。どうすればいいかもわからず、ただ前を走るサスケの背を見失わないようにするだけだ。

 

 ―――なんなの!? この霧は!?

 

 全て突然のことだった。洪水のような波にタズナの家が押し潰され、命からがら逃げ出したと思ったら、数十歩先も見えないような深い霧の中に唐突に投げ出された。周囲にはあの仮面の少年の分身が蠢いていて、こちらを窺っていた。

 

 恐怖を覚えながらも、サクラは戦うつもりだった。しかしその機会はほとんど与えられることはなかった。

 

『敵はオレとサスケで対処する。サクラ、お前はお二人の護衛を任せる』

 

 そうカカシに言われたとき、サクラはわずかな安堵と、安堵した自分に対する苛立ちを感じた。

 ただ、カカシの判断は的確で正しかった。視界が利かないこの結界の中での自分はあまりに無力だということに、サクラ自身が一番深く理解できた。

 

 敵がいつ飛び出してくるかもわからない。前面にはサスケ、背後にはカカシが付いているが、もしそれを突破されたとしたら、果たしてサクラに対応できるのか。

 護衛と言いつつ、自分自身もまた護衛される立場であることは、薄っすら気が付いていた。

 

 ナルトなら―――。サクラは歯を食いしばった。

 

 あんなに修行したじゃないか。サクラは自身に対する疑問を投げ捨てた。できないはずがない。冷え切った手と、氷のように冷たいクナイを握りしめる。

 

 霧を押しのけるようにして、真横から黒い影が飛び出した。

 

 再不斬だ。すでに大刀を振り上げている。

 

 反応はまるで追いつかなかった。硬直する足。直観的に、防げないことを悟る。

 一閃が瞬いて、次の瞬間、再不斬は白目を向いて喉笛から水しぶきを上げた。

 溶けるようにして水に戻る分身を眺めながら、サクラは緊張の糸を緩められなかった。

 

「平気か?」

 

 その声に視線を上げて、サスケの瞳に釘付けになる。

 そこには紅い色に黒の勾玉が二つ浮かんだ、瞳。

『写輪眼』。―――名前だけは知っていた。

 うちは一族に伝わる、血継限界。その瞳はありとあらゆる忍術、体術、幻術を見破ると云われる。

 

 つい先日までのサスケには使えなかったはずの力だ。

 

 分身とはいえ敵の上忍を一撃で切り伏せたことを誇るでもなく、サスケは注意深く周囲を見渡しながら、サクラを横目に窺っている。

 

「………、ありがとサスケ君、大丈夫」

「ああ」

 

 礼を述べながら、サクラは以前のように無邪気にはしゃぐ気にはなれなかった。

 数日前のサスケなら、こんな風にサクラを気遣ったりはしなかったはずだ。視界にすら、入れなかったかもしれない。

 

 変わったのだ。いつの間にか。

 

 サクラはなにも知らない。

 知っているのは、あの夜、カカシに背負われて帰ってきたサスケの顔が見たこともないほど穏やかだったこと。少し遅れて戻ってきたナルトの頬が少し腫れていたこと。次の朝、サスケがぎこちない様子でナルトに喋り掛けていたこと。それから、少しだけサスケの態度が柔らかくなったこと。

 そしてサスケが写輪眼を使えるようになっていたこと。

 

 サクラが知っているのはそれだけ。

 

 あの夜なにがあったのだろう。聞けば誰か答えてくれたかもしれないのに、サクラは誰にも聞くことはなかった。

 今もまた、疑問が腹をぐるりと回って、喉元まで競り上がってくるのを感じた。

 だが、サクラの口から出たのは、まったく別の疑問だった。

 

「ナルトは、独りで大丈夫かな」

「………アイツなら、問題ないだろう」

 

 その声に篭められた信頼にも少なからず打ちのめされたが、サクラを更に叩きのめしたのは、サスケの表情にほんのわずかに憂うような表情が浮かんだことだった。それは淡雪のようにさっと消えたが、サクラは見落とさなかった。見落とすことができなかった。

 

 誰のためにそんな表情を浮かべているのか、考えるまでもない。

 

 サクラの固まった顔をどう受け止めたのか、サスケは言葉を続けた。

 

「今オレ達ができることは、任務を全うすることだ。それが、ナルトへの援護にもなるはずだ」

「……………うん、そうだね」

 

 サクラは頷いた。

 場違いなのは理解していたが、感情がうねるのを止められなかった。

 私だって、修行を頑張ったんだ。

 ナルトに追いつけるように。サスケ君に見て貰えるように。なのに、どうしてまだ、こんな風に足手まといのままなんだろう?

 

 

 

「着いた……」

 

 ナルトは霧の中におぼろげに見える街の入り口を見据えて、小さく息を吐いた。とにかくなによりも、チャクラの消費が堪えた。スタミナギリギリまでチャクラを分割しているため回復もできない。

 多重影分身なぞしようものなら、どうなることやら、考えるだけでも恐ろしい。軽々しく扱っていた術が禁術指定されている理由が今更ながら理解できる。

 

「さて、イナリまずはどこに向かう?」

「町長のおじさんの所に行こう。漁労長もやってる人だから一番、話が早いと思う」

「ほう」

 

 ―――ぎょろうちょーってなんだ?

 

「あっちの家だよ」

 

 イナリが指差した方に向かっていく。流石に異変には気が付いているのか、街の人間は肌を擦りながら、不安そうに辺りを窺ったり、周囲と情報を交換したりしているようだ。

 敵が紛れていないか、警戒しながら、ナルトはイナリの後ろを歩く。

 


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