召喚したらチートだった件   作:uendy

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初戦闘シーンで相手は白夜叉ということもあり、盛大にやり過ぎました。

また、皆様には少々残念(かもしれない)お知らせがあります。―――――――――――――


五話~ 白夜の王と孤高の王

その一瞬で視覚が意味のないものに変わり、様々な情景が脳裏で回転を始める。

 黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く陸、森林の湖畔。

 世界中を回っていたときですら見たことの無いような光景が流転を繰り返し、足元から飲み込まれていく。

 4人が投げ出されたのは白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界(・・・・・・・・・・・)

 

「・・・・・なっ・・・・」

 

 箱庭に招待されたときとはまるで違うその感覚。それによって他の者たちがあっけにとられる。

 そんな中、零仁だけが表情を変えずに移り変わる世界を眺める。その心に浮かぶのは警戒か、驚愕か、はたまた歓喜か。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は”白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは試練への”挑戦”か?それとも対等な”決闘”か?」

 

 ”星霊”とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。

 妖精や鬼、悪魔などの概念の最上位であり、同時にギフトを”与える側”の存在。

 十六夜は冷や汗を流しながらなお白夜叉を睨み、笑う。

 

「水平に周る太陽と・・・・あぁ、なるほど。太陽と夜叉(・・ ・・)、それがお前の本質であり正体。この世界はオマエを表現してるってことか?」

「如何にも。この白夜と湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の1つだ」

 

 白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

 ”白夜”とはフィンランドやノルウェーなどの特定の経緯に位置する北欧諸国などで見られる太陽が沈まない現象の事を指す。ゆえに、「”白夜”の星霊」=「”太陽”の星霊」ということになるのだろう。

 そして”夜叉”とは水と大地の神霊を示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神。

 この箱庭において、最強種と名高い”星霊”にして”神霊”。彼女は一切の誇張無き、”強大な魔王”であった。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤?」

「如何にも。して、おんしらの返答は? 挑戦であるならであるならば、手慰み程度に遊んでやる。だがしかし〝決闘〟を望むのなら話は別。魔王として、命の誇りの限り闘おうではないか」

「・・・・・・・っ」

 

 飛鳥に耀、そして自信家の十六夜までもが即答できずに返事を躊躇った。

 実力差は一目瞭然。しかし、自分たちが売った喧嘩をこのような形で取り下げるにはプライドが邪魔をした。

 しばしの静寂の後、―――十六夜が諦めたように挙手をし、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

「ふむ?それは、決闘ではなく、試練を受けるということかの?」

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。あんたには資格がある。―――――――いいぜ今回は黙って試されてやるよ(・・・・・・・)

 

 苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。

 『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげた。

 一頻り笑った白夜叉は笑いを噛み殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく・・・・して、他の童たちも同じか?」

「・・・・・ええ。私も、試されてあげてもいいわ。」

「して、おんしはどうする?」

 

 すると今まで静観を決め込んでいた零仁は自らのポケットよりコインを一枚取り出して、ピンと弾き上げた。

 

「あっちゃー、裏・・・決闘か―」

 

「「「「なっ!」」」」

「―――――言葉のわりに随分と嬉しそうだな(・・・・・・・・・)

 

 驚愕に固まる四人、しかし白夜叉だけは零仁の素顔を捉えていた。

 その仮面の下にあったものは、獲物を見つけた狩人のような、自らと同等の存在を見つけた猛者のような、そんな凄惨な笑みだった。

 普段理性的な彼とて、元の世界ではある称号を付けられ、その称号に違わぬ行動を行ってきた。

 その本質は闘争を楽しむ獣と何ら変わらない。

 

「れ、零仁さん!それはいけませんっ!”挑戦”にして下さい、いくらなんでも――――――」

「下がれ黒ウサギー―――――我只要和強者闘(私が望むのはただ強者との闘いのみ)俺の本性なんだよ、こいつは。」

「っ それでもっ」

 

 腰が引けつつも目だけはしっかりと合わせ、引き下がってくる黒ウサギに零仁はため息を吐く。

 

「白夜叉、決闘はギフトゲームだよな?」

「ああ」

「なら、ルールに”相手の殺害を禁止”を追加してくれ」

「わかった。では、先に”挑戦”のほうを行うとしよう」

「そうしてくれ。・・・・ほら黒ウサギこれでいいだろ?それよりもあいつらの対戦相手が来たみたいだぞ」

 

 一同がグリフォンの登場に一様の反応を見せる中、零仁は決闘の準備を進めるのだった。

 

******

 

いやーグリフォンって初めて見たけど、かっちょいいなー

『ええ、百獣の王と空の王者その両方の性質を持ち合わせておりますからね』

あの、飛行法まさしく”虚空を踏みしめる”というのが正しいものだそういうギフトを持ち合われているんだろうね。

『それにしても彼女のギフトもかなり特殊なもののようですね。”接触した生物の因子を自動サンプリングを行い、自己進化していくギフト”ですから』

この箱庭で生物と接触 いや彼女風に言えば”友達になる”ことによって強くなっていくギフトとはまた。

様々な場面への応用力がずば抜けているな。

 

 といったように耀の奮闘を眺めながら考察していると、十六夜たちが話しかけてきた。

 

「よう、まさか決闘を選ぶなんてな。良いとこ取りのつもりか?」

「もう、何をしてらっしゃるんですか! 白夜叉様が魔王だったのはもう何千年も前の話ですがその実力は当時と変わっていないのですよ」

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

「どちらにせよ俺たちの目標は変わらないんだ。少なくとも箱庭には今の(・・)白夜叉以上の存在が4桁近くいるんだ。俺たちの目標がその中にいる可能性のほうが高い。なら、これから俺たちがどこを目指せば良いのか確かめておくべきだろう?」

 

 ん?と十六夜は今の会話に疑問を持ったようで

 

「今のってどういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。 彼女、霊格を落としているんだ。本来はもっと高いはずだよ」

「ええ、その通りです。白夜叉様は仏門に下り、その善性を証明していることによって東側の”階層支配者(フロアマスター)”になっておられるのです」

「てことは本当はもっと強いと?ますます持ってとんでもねえな」

「それはさておき、そろそろ耀のゲームが終わりそうだよ」

 

 言いながらもどこか楽しそうな十六夜に声をかける。

 耀のほうも少々危なげな部分があったものの見事勝利を収め、いよいよ俺の番となった。

 

「さて、始めようか」

「――ああ、始めるとするかの」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべて、輝く羊皮紙に同じように内容を記述していく。

 

【ギフトゲーム名 “太陽と孤高の王”

・プレイヤー一覧

  ・夜刀神零仁

  ・白夜叉

 

・クリア条件

   ・相手プレイヤーと戦い、勝利する。

 

・クリア方法:

   ・相手プレイヤーを戦闘不能にした場合

   ・相手プレイヤーが降参した場合

 

・敗北条件

   ・戦闘不能になった場合

   ・降伏した場合

   ・相手プレイヤーを死亡させた場合

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印】

 

「骨は拾ってやる。頑張れよ」

「貴方のことは忘れないわ。頑張って」

「グッドラック。頑張れ」

「いや、死なねーよ!?」

 

 問題児三人の激励になっていない激励にツッコミを入れる俺。

 

『マスター今回の作戦は?』

そうだな お前には―――――――

 

******

 

「それにしてもあのような形で決闘を挑む者はそうおらん。そんな連中は幾通りのパターン分けが出来ての、それ相応の力があるか、余程の自意識過剰か・・・・余程の馬鹿かじゃ」

「―――――最後の二つは一緒だと思うけど?」

「何を言っておるか、わかっておろのだろう? さあ先手は譲ってやる好きにかかってこい!」

「おー、それじゃあ、―――――――――

 

―――――――-お言葉に甘えて」

「っ!」

 

 一瞬で零仁が接敵し、拳を繰り出す。それは、まさしく珠玉の一撃であった。脱力した右腕が空気に溶ける。極限までのリラックスによるゼロから最高速へ達した右腕が、速度で消えたのだ。

 闇に紛れた蛇の如く、速度で姿を晦ました金属の鞭が白夜叉に襲いかかる。まともに噛み付かれれば、骨までもっていかれそうになる一撃、そして、それを紙一重でかわし、反撃に移ろうとする白夜叉。

 しかし、この打撃(イカサマ)が牙をむくのはここからだった。打ち抜いた拳が、宙を返る燕のごとくひる返り、白夜叉が反撃に移る前に二撃目 三撃めと放たれる。

 だが、さすがは強大な元・魔王 二撃目と三撃目をたやすく見切り。四撃目をわざと受け、その衝撃合わせて距離を離す。

 

「見事なものよ。先の移動法は仙道の「縮地」か?」

「いや、名は同じだが 俺の世界にある「瞬動」と呼ばれるものをを極限まで突き詰めたものだ。

 ―――――――――こんな風にな」

 

 またもや一瞬で距離を詰める零仁。だが今度は攻撃につなげるのではなく、手のひらを白夜叉の眼前で開き、視界を遮った。

 そして、もう一度瞬動を用いて、背後からの飛び回し蹴りを加える。

 しかし、白夜叉も心得たものですぐさま体の向きを合わせ、その一撃を体を軽く反らすことでことで躱す。そこに零仁は着地せず、後ろ回し蹴り、蹴り上げ そして、その反動を殺さずにその場で逆立ち、体をひねり、蹴りを落とす(・・・)

 これには、たまらず白夜叉も腕をクロスし、攻撃を防ぐ。そして、即座に体勢を立て直した零仁はどこからか(・・・・・)取り出した刀を携えて、白夜叉に追撃を仕掛ける。

 またもや、ゼロから最高速へ達した、まさに理想的と言える居合切りが放たれた。生半可な防御ではそれごと真っ二つにされかねない一閃が白夜叉の首に迫る――――――――-

 

―――――ギィィン――――――

 

――――――はずだった。

 

「―――――-いったいどんな扇だ。それは」

「何素材が少し特別なだけで、それ以外は普通の扇だじゃよ、そら」

「グッ!―――――」

 

 その少女のような体から繰り出された蹴りは、二トントラックの衝突と見まごうような威力を発揮し、零仁を吹き飛ばした。

 なんて理不尽だと毒づきながらも、体勢を立て直す零仁に白夜叉は追撃を仕掛ける。

 

「さっきの御返しだ、受け取れ」

 

 白夜叉が閉じた扇を袈裟に振るう

 

「―――――っ!」

 

 とっさに半身になり体を反らす零仁 瞬間――――

 

―――――ザンッ――――――

 

 と、氷の大地に斬撃が走る。

 

「――チィッ ”夜叉”の力か!」

「ご名答 まだまだ行くぞ!」

 

 水は強力な圧力を掛けることによって、人類最硬度のダイヤモンドすら寸断する凶器へと変わる。

 白夜叉は自らの持つ”夜叉”の力を用いることによって、水の斬撃を繰り出す。

 唐竹 袈裟 横薙ぎ 逆風とまさしく雨あられのごとく迫り、鉄など簡単に寸断する水の斬撃に零仁は自らの体さばきや剣技を用いて、受けるのではなく、躱し・逸らし・受け流すことによって防いでいた。しかし、――――

 

(――――ジリ貧だな もう使わされるとはな(・・・・・・・・・・)

 

 現に零仁のコートや肌にはすでにいくつもの切り傷ができていた。その状況を打破するために、零仁は斬撃の雨を掻い潜って次の行動を開始した。

 

固定(スタグネット)白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)』・・・術式装填 武装雷刃化(ラーミナ・フルゴーリス)〖白雷刀〗」

 

 

 これらの攻防を傍観しいた四人は皆一様の反応を見せていた。

 

「・・・・・・・どおりで決闘を選んだわけだ」

「・・・・こんなに強かったのね、彼」

「・・・・・・すごい・・・」

「・・・・・・・・まさかこれほどとは」

 

 動体視力に優れる十六夜や耀は、これらの行動を見る(・・)ことは出来ても、それらを理解(・・・)することは出来ない。

 これらの努力によって磨かれてきた技の数々が、奇しくも 対極に位置するともいえる彼らのその”才能(ギフト)”を使うのではなく扱う 決意をさせる。

 

 また、対戦者にも言えることで、零仁の行動に白夜叉は内心驚愕していた。

(あれほどの武芸を身につけておきながら、”魔法”すら扱えるだと・・・・こやつは一体)

 それによる 一瞬の攻撃の空白を見逃す零仁ではなかった。

 いつの間にか納刀していた雷をまとった刀を抜き放つ。本来刀身が届かぬ距離でありながらも白雷を飛ばすことによって対応した。

 白夜叉が身を反らし、その手に持つ扇で受け流す。否――――――――

 

「・・・・私が受け流せんとはな(・・・・・・・・・・)実に見事な(わざ)よ」

 

 ピッと頬に走った血の筋を真っ二つになった扇を捨てた(・・・・・・・・・・・・・)右手でなぞる。

 

「お褒めに与り、恐悦至極にございます」

「――フッ ならば、褒美だ受け取るが良い」

 

 そういいながら白夜叉は手を突き出す。すると地面からドリルを思わせるように渦が氷を穿って飛び出し、四方から零仁に襲い掛かる。

 零仁には一切慌てることなく魔法を紡ぐ。

 

「『氷爆(ニウィス・カースス)』」

 

 ドウッと一瞬で空気が凍ることにより渦の動きが止まる。その隙を逃さず、零仁は渦の範囲から脱しつつさらなる魔法を放つ。

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ) 雷の1001矢(コンウェルゲンティア・フルグラーリス)』!! 喰らっとけ!!」

 

 雷で出来た光条その総数1001本 彼の世界の魔法の中でも初歩の初歩ともいえる攻撃魔法だが、この物量では簡単な大魔法と遜色ない威力を発揮した。

 しかし白夜叉には通じるのかすら怪しい攻撃であるのは確かのことであった。そう―――――攻撃に用いるのであればだが。

 

「サタン・サタナス・サタナエル 来たれ(ケノテートス)虚空の雷(アストラプサトー)  薙ぎ払え(デ・メテトー)! 『雷の斧(デイオス・テユコス)』!!」

 

 魔法の射手により、動きを封じられていた白夜叉に零仁が真横から近づき、雷で構成された斧を逆袈裟にぶち当て、吹き飛ばす。

 

「――――グオッ!」

 

 さらに、瞬動で追いつき、追撃を放つ。

 

「ぶっ飛べ 『雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)』!!」

 

 拳と共に放たれた魔法は、白夜叉を容易に吹き飛ばし、地面へ叩き付け、周囲もろとも薙ぎ払った。

 

 

 しかし零仁は警戒を解かない。

 

 この試合を傍観している4人が

「「「「 やったか!? 」」」」

 と言っていたことは一切関係ない。

 

 ―――――ユラリ と攻撃によって形成されたクレーターの中から白夜叉が立ち上がり。   笑う。その姿は少し服が煤けた程度で、大きなダメージを負ったようには見えない。

 

「フハハハハハハハハハハ  素晴らしいぞ、人の身で私の”白夜”の力を引き出させたのは数える程度しかおらんぞ。夜刀神零仁!!」

 

 そう言いながら、手に収束させた”太陽”の光球を放つ。着弾点の氷は水蒸気すら出さずに消滅していた。当たったら、骨すら持っていかれるような熱量の光球。零仁はそんな光球の雨を掻い潜り白夜叉に接敵し、瞬動を用いた全方位からの高速斬撃を放つ、が白夜叉に傷一つないそれどころか―――

 

(白雷をまとわせていなかったら刀が溶けていた・・だと・・・・これは)

 

 その現象に零仁のこれまでの(・・・・・)数多と繰り広げてきた戦闘経験により答えを導き出す。

 

「―――”白夜”を・・・・・”太陽”を纏ったのか!」

「ご名答。ますますおぬしの過去が気になったぞ」

 

 白夜叉の攻撃から逃れつつ、瞬動を用いて距離を取り息を整える零仁 白夜叉はそんな零仁を興味深そうに観察するだけで仕掛けてはこない。

 すると零仁は刀を自らの顔の横に持ってくる構えをとった。世界中で最も有名であろう武士の部隊員が使った構えだ。

 

「その衣、突き穿つ!!」

「来い!!」

 

 宣言と共に零仁は踏み出した。一歩目で音を置き去りにし、二歩目で一歩目の勢いをさらに加速させつつ、”途切れ”を作らず攻撃態勢へと移り、三歩目で刀が翻る。

 対する白夜叉も迎撃のために即座に自らの手に熱を集め、抜き手を繰り出す。

 

――――パキィィン――――― 

 

 刀身が折れる音が響き渡った。

 そして折れた刀身は白夜叉の肩に、白夜叉の抜き手を防いだ零仁の左腕は黒焦げになっていた。しかし、急ごしらえで集めた熱だったからか無くなってはいない(・・・・・・・・・)

 お互いが即座に距離をとる。

 応急処置代わりにと、折れた刀身を投げ捨て、空いた右手で懐から巻物を取り出す。すると、巻物がひとりでに開き、零仁の左腕に巻き付いていく。

 

「巫術による結界の類・・・そしてこいつは、”局所的な事象崩壊現象”か」

「見ただけでバレるのかよ」

 

 刺さった刀身を引き抜きながらも光球で攻撃してくる白夜叉に、額に脂汗を流しつつも苦笑し、結界とその媒体である呪符で応急処置をしながら攻撃を躱す零仁。

 

「いやいや、喰らわねばわが目を疑っておったところよ。まさか、魔法すら使わず(・・・・・・・)生身で同等の現象をを引き起こすなど、今でも疑わしいところだよ。」

 

 称賛の声を送りながらも一切攻撃の手を止めない白夜叉に、零仁はまたもやどこからか取り出した刀で応戦する。片腕を失っている分軽口に答える余裕はない。

 まさしく、防戦一方の零仁だが白夜叉だけは見抜いていた。

 

(あの目は、まさしく何かを狙っている目・・・何を考えている?)

 

 すると、一頻り逃げ回っていた零仁が手に持つ刀で光球を散らし始めた。

 手に持つ刀に光球の熱を少しずつ溜め、足元に突き刺す。その熱を呼び水に無詠唱の火炎魔法を足元の氷に放ち、水蒸気を作り、身を隠し、詠唱を始める。

 

  「サタン・サタナス・サタナエル 契約により、我に従え、(ト・シュンボライオン・ディアコネートー) 高殿の王(モイ・バシレク・ウーラニオーノーン)。」

 

「この程度どうということはないわ!――――――

――――!(蒸気が晴れない?)・・そうか!結界か!」

 

 そう、零仁は逃げ回りながらこっそりと呪符をばら撒くことによって、水蒸気を閉じ込める結界を作り出していた。

 

  「来たれ、巨人を滅ぼす(エピゲネーテートー・アイタルース)  燃え立つ雷霆(ケラウネ・ホス・ティテナースフテイレイン)

「させん!」

 

 そう叫び、白夜叉は水の斬撃で結界を破り、水蒸気を吹き飛ばす。

 

  「 百重千重と (ヘカトンタキス・カイ) 重なりて 走れよ稲妻(キーリアス アストラプサトー)

 

 ただの光球では、速度の上で届かない今 白夜叉は切り札を切った。

 それは、”太陽”の力を収束させ、放つ閃熱。

 白夜叉が一瞬で熱の収束を済ませる中、零仁はただ自然体で佇むだけだった。

 今となっては回避どころか、防御すら不可能になった最速の熱閃が、零仁の体を貫く。――――――――――

 

「(何をしようともう遅い)終わ―――――――――――――っ!!」

 

 ―――――はずだった。

 

 衝撃で吹き飛び、地を転がる白夜叉。そして、右手を前に差し出した(・・・・・・・・・・)姿で残心する零仁

 遅れて、傍観していた全員に驚愕が走り抜ける。

 残心を解き、詠唱を再開した零仁の声を聴いて、ようやく何らかの攻撃が先手を打って行われたのだと理解した。

 

  「右腕固定(デクストラー・スタグナンス)千の雷(キーリプル・アストラペー)』!!・・・・左腕固定(シニストラー・スタグナンス)雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)』!!

    ―――――――術式統合(ウニソネント)!!!」

 

「・・・・今、何をしたの?」

 

 放心状態の中呟いた飛鳥の疑問はその場にいた全員の心境を物語っていた。

 ただ一人それを為した零仁だけが冷静に詠唱を繋げる。

 吹き飛ばされた白夜叉がゆっくりと立ち上がる。その動作は余裕の表れでなく、驚嘆と称賛によるものだ。

 

(なんという人間なのだ!・・・・おぬしは!)

 

 だがすぐさま思考を切り替える白夜叉。

 

「まだだ!まだ終わらせんぞ!!」

 

 そう叫びながら白夜叉はもう一つの切り札を切った。

 蜃気楼による分身である。白夜叉が六体に分かれ、それぞれが閃熱の予備動作を開始する。

 

「どれか一つでも残せば、閃熱の餌食だ!!」

 

 六体の白夜叉がそれぞれ動き出そうとする。だが、やはり―――――そのどれよりも先んじて動いたのは零仁だった。

 相対する白夜叉だけが一瞬だけ認識できた。――――祈るように合掌し、右手を下ろす。

 ただそれだけの動作を極限まで自然に、無駄なく、静かに、そして早く行う。 その一連の動作に連動して、零仁の全身に纏う力も標的へと流れていき、そして炸裂した。

 六人の白夜叉が、真上からの衝撃によってほぼ同時に潰された。わかるのはその結果のみで、誰も攻撃を察知できない。

 零仁が”気が付いたら”攻撃しており、白夜叉が”気が付いたら”攻撃を喰らっている。すべての者が、目の前の現象に追いつけないのだ。

 

「原理はわかんねえけど」

 

 十六夜が汗を流しながら、少し震えた声で呟いた。

 

「あいつの攻撃は、白夜叉にも知覚できない速度で行われ、しかもその速さで確実に先手を取っている。攻撃が放たれるよりも先に割り込める。・・・・・・いったいどれだけ強いんだよアイツ・・」

 

 まさに必勝の方法だ、と。それを聞いた三人は戦慄した。

 

 零仁は技の残心を終えると、間髪入れずに本体のいるクレーターにそれまで紡いでいた魔法をたたき込んだ。

 

  「『 万雷轟かす、(デウス・デ・トニトゥス・)雷神の嵐撃(クアム・テンペスタ・フルグリエンス) 』!!!」

 

 それはまさしく雷で形どられた嵐そのもの、神の御業を再現するかのような魔法だった。

 傍観していた4人が魔法の余波による暴風と轟音に晒される中、黒ウサギだけ(・・・・・・・)が懐かしさと畏れを感じたのだった。

 

 魔法の余波による暴風が止み、砂埃が舞う中を零仁は睨み付けていた。

 その中から白夜叉が出てきた。その姿は肩口が焦げ付き、その痛みで額には脂汗を滲ませているが、その凄惨な笑みはまだまだ交戦可能であることを如実に語っていた。

 

「さあ、ふぁいなる・らうんど と行こうじゃないか」

「・・・・・・・・・・・」

「まだまだ隠し玉はあるんじゃろ?」

 

 そう言って、笑みを深める白夜叉に零仁は、

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・降参だ」

 

 両手を挙げ、降参した。それにより、羊皮紙が勝者である白夜叉の手に現れた。

 だが、つい先ほど昂った白夜叉は納得できるはずもなく、

 

「なぜじゃっ!? おんしは盛大に余力を残しておるではないかっ!!」

 

 と掴み掛る。

 

「何故って、お前。俺の会心の一撃を初見で後ろに飛んで軽減して、渾身の魔法をその程度の被害で耐えておいてよく言うな!!―――ってか、いくら人外で相当な時を生きたからって女がそんな恰好(・・・・・)のまま居る気か?」

 

 そう言いながら羽織っていたコートを白夜叉に投げ渡す。

 そう白夜叉の和服は肩口から腹部にかけ、丸々消し飛んでおり、服を着ているより残っていると言ったほうが良いような有様だった。

 

「――っ! そうじゃなワシも我を忘れていたようじゃ」

 

 ほんの少し赤面している白夜叉に コイツまだ羞恥心残ってたんだな。と失礼なことを考える零仁だった。

 

 

 

 




――――――――――主人公の一巻内での活躍(戦闘)シーン  終了!

一応は慎重派な主人公がこれ以上むやみに力量を曝すわけないし、力を引き出せる敵もいないもんね。

とりあえず皆様にはお詫びとして、だぼだぼコートを羽織る白夜叉(中は半裸)をプレゼント。 画像は妄想してネ☆

あと最後に、私の心の師である(自称)パイマン氏に敬意と感謝を

では、また次回に

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