かませ犬ならぬ かませ猫も登場です。
―箱庭・第2105380外門前―
大きな石で出来た立派な門の前、そこで石のブロックにまたがる1人の少年が居た。
「ジンくーん!!」
遠くから声をかけられ、そちらに顔を向ける少年―ジン。彼に対して声をかけた水桶を持った、狐のような耳と尻尾を持つ少女は共に居た少年少女と共にジンに近づく。
「リリ、皆もご苦労様」
そんな狐の少女―リリたちに対して労いの言葉をかけるジン。
「黒ウサギのお姉ちゃんは、まだ戻ってないの?」
「うん」
どうやら彼達は黒ウサギの仲間のようである。その後、2,3言、言葉を交わすと門の内側に入っていくリリ達、彼女達を見送る彼の背に言葉がかけられる。
「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性三人が?」
「はいな、こちらの御四人様が――」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。
カチン、と固まる黒ウサギ。
「・・・・・え、あれ? もう御一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児!"ってオーラを放っている殿方が」
まさかそこら辺にいる生き物にでもパックンチョされたのだろうか。いや、流石にそれはないはず。そう思い縋る思いで十六夜を探すがやはり見つからない
「ああ、十六夜君のこと?彼なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
飛鳥はそう言い断崖絶壁を指差す
「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」
「だって『止めてくれるなよ』と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう皆様方!」
「「うん」」
飛鳥と耀の二人が声を合わせて頷く。どうしてこうも問題児だけなのだろうか。もはや嫌がらせ、黒ウサギはなんと災難だろうか
「零仁さんも!何故教えてくれなかったんですか!!」
「ん?そりゃお前 十六夜には『言うなよ』とは言われたが、黒ウサギには『言ってください』とは言われてないからだよ」
とても爽やかな笑顔で答える零仁に黒ウサギは ガクリ、 と前のめりに倒れる。
そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは顔面蒼白になって叫んだ。
「た、大変です! ”世界の果て”にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に”世界の果て”付近には強力なギフトを持った者がいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?・・・・斬新?」
「ミステリーでいうところの第一死亡者って感じがするな。」
「じゃあ、私は『こんなところにはいられないわ!』と言って単独行動すればいいのね?」
「・・じゃあ、私は『二人きりで話さないか?』って言われて着いていく役で」
「そして、俺が『金か?金がほしいのか?』にすれば、役満だな」
「ふざけている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、三人は肩を竦めるだけだった。
黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。
「はぁ・・・・・・ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児様を捕まえに参ります。事のついでに―――――”箱庭の貴族”と謳われるウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。
「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能下さいませ!」
黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた街道に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去っていった。
「・・・・・・。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトのほかに特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが・・・・・・」
飛鳥は心配そうにしているジンに向き直り、
「さて、黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え?あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀。で、そっちの
耀はわざわざ口調を言及してパスを放つ。
零仁は心得たとばかりに、
「夜刀神 零仁だ。口調のほうは、勘弁してほしい。」
パァ とまさに花が咲くような笑みを浮かべる。
その笑顔に赤面して顔を背けるジンを、仮面で隠した黒い笑みで眺める零仁を見ながら、耀と飛鳥は
((
と苦笑するのだった。
******
「さて、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね、軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
それぞれ自己紹介を終えた後飛鳥はジンの手を取ると笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。お嬢様な雰囲気とは違い年相応の笑顔だったところを見て胸を踊らせているのだろう。
それにしても、いきなりだったから当たり障りのない自己紹介しかできなったなぁ。
『とか言って、しっかりからかっていましたよね』
あれはからかった内に入らん。用意していたらもっとすごいのができた。
『これからの
よく効く胃薬でも調合しといてやるか
『お、お嬢!外から天幕に入ったはずなのに、お天道様が見えとるで!』
お、ようやく聞こえた。にしても、実験程度のつもりだったけど聞こえるもんだな ”ネコ語”
『どちらかといえば、猫に話しかけている耀さんの言葉を習得したのだと推測しますが』
ま、どちらにせよ ふつうにやってたら数十分猫の鳴き声聞けないし、仮に出来たとしてもハタから見たら痛い人だよね。
『その辺りが耀さんの寡黙さを作り出した要因でしょうね』
だろうな。現に今飛鳥の問いかけにそっけなく返してるし。ここに呼ばれてる時点でみんな”普通”じゃないのにね
『そうそう簡単に割り切れるものではないと思いますよ』
なんて会話をしていると入る店が決まったようだ。
俺たち四人と一匹は身近にあった”六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座る。
するとすぐに注文を取るために店の奥から猫耳の少女が飛び出してきた。
「いらっしゃいませー。ご注文はどうしますか?」
俺はみんなのオーダーを聞きながら女性定員に注文していく。
「紅茶2つにハーブティー1つそれと緑茶1つ。あと軽食にコレとコレと―――
『ネコマンマを!』
んじゃ、それで。にしてもおっさん臭いなオマエ」
「はいはーい。ティーセット4つにネコマンマですね」
その会話に飛鳥とジンが不可解そうに目を向けてくる。
だがそれ以上に驚いているのは耀だった。
信じられないものを見るような目で俺と猫耳店員を問いただす。
「三毛猫の言葉わかるの?」
「ついさっきわかるようになっただけだよ」
「そりゃわかりますよ~ 私は猫族なんですから。御年のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」
『ねーちゃんもかわいい猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』
「やだもー、お客さんったらお上手なんですから♪」
店員さんはフリフリと長い尻尾を揺らしながら店内に戻る。
その後ろ姿を見送った耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。
「・・・・・箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」
『来てよかったなお嬢』
「ちょ、ちょっと待って。もしかして貴方たち猫と会話ができるの?」
珍しく動揺した声の飛鳥に、俺と耀はうなずいて返す。
ジンも興味深そうに聞いてきた。
「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」
「うん。生きているならだれとでも出来る」
「条件をそろえればいけると思うぞ?」
「条件ですか?」
「あ~、俺のギフトの中に”数十分見聞きした言語は全て習得できる”機能も入ってんだよ」
「そう、動物と会話を・・・それは素敵ね。・・・・じゃあ、そこに飛び交う野鳥とも会話が?」
といった たわいないような会話に花が開いた。いや、―――――――
「おんやぁ、だれかと思えば東区画の最底辺コミュ”名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。」
二分咲きと言ったほうが正しそうだ。ピチピチのタキシードに身を包んだ大男が無遠慮に会話に入り込んできた。
『・・・・マスター』
――――――-チッ あぁ、いやでもわかったよ。今日は朝から運が良かったからか揺り戻しが酷いな。
とりあえず、精神安定剤代わりのハーブティーをお替りしようと通りがかったさっきの猫耳店員を呼び止め注文する。ついでにハーブの種類を変えてもらうことにした。
その間にも
――――――やれ、自分のコミュニティは有能だの
――――――やれ、自分の後見人(魔王)は恐ろしいだの
――――――やれ、今の”ノーネーム”は最悪だの
よくもまぁ、口が回るものだ
『えぇ、それに考えが丸わかりです。この程度なら簡潔に用件だけ伝えられたほうがよっぽどマシですね』
他の二人も気づき始めてるみたいだしね。あー胸糞悪い。
「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」
長々とした前置きの果て、ようやく
しかし、結果は案の定
「結構よ。だって、ジン君のコミュニティで間に合っているもの」
は?と言った表情でジンと
「春日部さんは今の話どう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私たちって正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしときながら気恥ずかしかったのだろう。
「それじゃあ、俺は友達二号に立候補するわ」
耀も少し考えたあと、小さく笑って頷いた。
「・・・・うん。二人とも私の知る同年代の人と違うから大丈夫かも」
『よかったなお嬢・・・・お嬢に友達出来てワシも涙出るほどうれしいわ」
そんな俺たちの態度に
「失礼ですが、理由を聞かせてもらっても?」
「だから間に合っているのよ。春日部さんは聞いての通りでコミュニティはどちらでも構わない。そうよね?」
「うん」
「夜刀神君は?」
「んー俺もその選択肢なら”ノーネーム”のほうがまだマs――――-いや、”友達”の二人が入る分プラスだな。」
「あら、ありがとう素直にうれしいわ。 そして、あたし久遠飛鳥は―――――おおよそ人が望みうる生のすべてを支払ってこの箱庭に来たのよ。 それを小さな一地域を支配している組織の末端に迎え入れてやる。などと言われて魅力を感じると思ったのかしら。だとしたら、自分の身の丈を再確認してくることね。エセ虎紳士」
ピシャリと言い放つ飛鳥に、怒りで体を震わせる
自称紳士として必死に言葉を選んでいるのだろう。
「お・・・・お言葉ですがレd―――――
「
――――!?・・・・!??」
ガチン!と
「・・・・!?・・・・・・!??」
「私の話はまだ終わっていないわ。貴方にはまだまだ聞きたいことがあるの。だから、
今度は椅子にひびが入るほどの勢いで座り込む。
それを見て丁度お替りを持ってきた店員さんが慌てて止めに入る。
「お客さん店内での揉め事は―――――-」
「とりあえずお姉さんも第三者の立場として聞いて行ってよ畜生のメッキが剥がれるよ」
そういっているうちにも、メッキが剥がれていく。
いやー出るわ出るわ 全く皆がいなければ問答無用でぶち殺してたね。 そういう今もハーブティーに助けられてるけど。
にしても、飛鳥の恩恵は中々変わってるね。
『はい、言霊の類とは少し違いますね。精神干渉のようでもありますが強く言い切れませんね。』
うーん様々な状況下で分析しないとなんともいえないな。この感じだと本人も本質は理解していないっぽいし。けどまぁ、とりあえずは、
「どれだけ繕おうと所詮畜生は畜生か・・・・」
俺の小さなつぶやきはその場に広がり、
「こ・・・・・・・この小娘がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ワ―タイガーとしての本来の姿に変化して、その丸太のような剛腕で襲い掛かる。
それに耀が割って入るように腕を伸ばし―――――
「喧嘩はダメ」
「止めなくてもよかったんだぞ?」
「でも止めなければ、零仁・・・殺してたでしょ?この人」
「・・・・・殺気はしっかりと隠していたはずだがな」
「うん、しっかり隠してたと思う。ただ、私の五感がそれ以上だっただけ。」
「テメェ等、俺の上がだれかわかってるんだろうn――――ギッ・・・!」
そんな状況を見て楽しそうに笑う飛鳥は言う。
「我々はすでに”打倒魔王”を掲げています。貴方の上に何がいようと今更関係ないのよ。そうよね、ジン君?」
魔王の名が出て恐怖に負けそうになったジンだが、自分の目標を問われて我に返る。
「・・・はい、僕たちの最終目標は魔王を倒して僕らの”誇り”と”仲間”を取り戻すこと。今更そんな脅しには屈しません」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外の道など残っていないのよ」
「く・・・くそ・・・」
組み伏せられた
「だけどね、私たちは貴方のコミュニティが瓦解する程度では満足できないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。―――――――そこでみんなに提案なのだけれど」
一旦言葉をきり皆を見渡し。
「私たちと”ギフトゲーム”をしましょう。貴方の”フォレス・ガロ”と”ノーネーム”の誇りと存続を賭けて、ね。」
そう締めくくった。
とりあえず、一巻はこのペースかな?
一応夏季休暇中だから早いのであって平常時にこの速度は不可能です。
とりあえず、また次回に