召喚したらチートだった件   作:uendy

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レポートを片付ける。
GMをこなす。
レポートを片付ける。

このループをこなしていたので遅れました。
モウシワケゴザイマセン。

というわけで新章突入です。


そう‥…巨龍召喚。 そうか、百鬼夜行だ。
二十一話~ あらたなる波乱


それにしても今朝は随分と懐かしい夢を見たな

『‥‥なるほど。侯爵との邂逅の時ですか、確かに懐かしいですね。

あの一件から公に存在を認められましたものね』

と言うかそのあとが、な。

あのバカがしつこすぎた。

『サルバトーレ卿のしつこさは群を抜いていましたものね』

そういえば今はもう一人生まれたんだったな。

そっちに行ってるだろうから心配もねぇだろ。

『だといいですがね』

やめろよ。あいつらがこっちに来るとか迷惑以外での何物でもないんだからな。

 

 そんなこんなで、昨夜見ていた夢について思い出していた。

 まぁ、適当にちょっかい出して、適当に吹っ飛ばして、適当に丸く収めてトンずらしただけなんだけどね。

 

 火竜誕生祭から一か月、俺たち”ノーネーム”も大きく変わっていた。

 やはり一番大きいのはペストの加入だろうか、加入直後は少々不器用なところが目立ったが今は手馴れてきており、メイドぶりも板についてきたといったところだろうか。

 

契約を終えた翌日は大変だった。

『まぁ、仕方ないといえばそれまでですが。

 質問攻めでしたものね』

勘弁してほしいね、まったく。

 

 

 §

 

「「ちょっと、どういうことなのよ(なのでございますか)!!!」」

 

 朝、魔力の補充にと食堂に入った俺を出迎えたのは飛鳥と黒ウサギの大声だった。

 

「どうっていったい何のことだよ?」

「どうもこうも昨日のキ、キスのことよ!」

「そ、そうでございます!いきなりあのような‥」

 

 なるほど、合点がいった。

 どおりでジンとサンドラが目をそらし、十六夜がにやついているわけだ。

 だが、それよりも大切なことがある。

 

「まぁ待ってほしい。とりあえずは―――――――

 

     (ぐぅぅ)

 

 

          飯だ」

 

 

 —―――――――青年食事中—――――――

 

「ングッ ってなわけで契約を行うってのはお互いの霊体にパスを通すってことで

 ハフハフ 性別が違うってことは霊体の属性はほぼ真逆。

 ムグムグ それを繋げるのにすら身体的接触は必要不可欠。

 ズズッ それどころか人と怨霊の類ってことは性質すらかけ離れてくる。

 ゴクゴク プハッ むしろキスぐらいでそれらを済ませたことをほめてほしいくらいだ」

「そ、そう…」

「そ、そうなのですか…」

「‥‥私のキャラが‥」

 

 茶々丸が用意してくれた満漢全席張りの昼食を胃袋に収めながら解説を入れていく。

 まぁ、皆が微妙そうな顔をするのも納得しておこう少なくとも軽く三ケタ人前は平らげてるしね。

 

「そんな顔すんなよ。確かに本人でも燃費の悪さに驚くくらいだけどよ‥‥」

「ですが、普段は普通ですよね?」

「食い物からでも魔力、燃料を蓄えれるからな。

 このくらい食っても腹6分って感じだぞ?」

「食事だと吸収量も少ないの?」

「いいや、どちらかといえば俺の貯蔵タンクが大きすぎるのが原因だな。

 だから、普段は貯蔵庫まで消費することがないから普通の量で済んでいるってわけだ」

「じゃあ残りはどうするのですか?」

「残りは自然回復で十分かな。

 言ったと思うけど、あくまで減っているのは魔力の貯蔵庫であって俺の胃袋じゃないからね」

 

 茶を啜って一服を入れる。

 まぁ、多少はごまかしているが腹6分というのは文字道理の意味で満腹には程遠いが耐えられないわけはない。

 何よりこれ以上は食料をご馳走してくれている”サラマンドラ”に悪い。

 お礼の代わりにと言われ、有難く提供してもらってはいるが文字通り想定外だろう。

 

 そんなことを考えていると十六夜が思い出したかのように疑問を投げかけてきた。

 

「そういやぁ、あんときお前はどうやってあそこに来たんだよ。

 ルールとして”白夜叉の傍を離れられない”って決めたはずだろ?」

「うん?そんなもの簡単だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はぁ?」

「あ~、まぁこいつを見てもらった方が早いな」

 

 呆れかえるような声を上げる皆をよそに、俺は机にあったフルーツナイフを手に取りそのまま手のひらを切り付ける。

 それを見ていた皆の顔が歪む。

 

「ちょっ!」

「零仁さん!?」

「‥いいから見てろ」

 

 焦る飛鳥たちを制する。その間に変化は起こっていた。

 滲んでいた俺の血はいつの間にか手のひらの上でゼリー状の球形――――所謂スライム—―――になっていた。

 あくまで手のひらサイズとはいえ、体積などがあからさまに増えながらも一切手のひらから零れようとしないソレに皆が目を白黒させる中、俺はソレを机の上に置いた。

 

 

「それは?」

「俺は”端末”って呼んでるものだよ

 今は自立で動いているが遠隔で動かすこともできる」

「‥…でもなんでスライム?」

「こういうことだからだよ」

 

 フィンガースナップをすると、テーブルの上でぷよぷよしていた”端末”は赤黒い霧を纏って行く。

 それが晴れた瞬間”端末”の姿はスライムから小鳥に変化していた。

 

「「「「「!!」」」」

「と、まぁこんなものだな。

 やっぱり液体の方が姿かたちが変わりやすいんだろうな。

 やろうと思えば、人型にすることもできるしな」

 

 姿の変わった小鳥は俺の肩の上に移動する。

 

「普通に飛ぶこともできるんだな」

「そうだな。構造から模倣しているからそのあたりの鳥と変わりなく飛べるだろうな。

 だが‥‥」

「うん、その鳥からは声が聞こえない。

 少し不気味」

「だろうな、言ってしまえばこれは俺の手と変わらない。

 こうやって動いているのもそれらしく見えるように、溶け込めるようにとカモフラージュしてるだけに過ぎないからな」

 

 人差し指と中指を伸ばして自らの手を歩いているように動かしながら”端末”についての説明を行う。

 

「あぁいやそういうことか。

 なんというかガキみたいな手を使ったな」

「え?いったいどういうことでございますか?」

「単純な話だ。射的とかで足が線を超えなけりゃ腕を目いっぱい伸ばすだろ?

 それと同じことをしたのさ。

 その鳥が零仁の”手足”ってことなら白夜叉のそばにそれらを置いとくだけで”離れた”ことにはならない。

 俺には使えない手とはいえ、思いつかねぇな」

「やるな十六夜。八割は正解ってとこだな。

 あらかじめ、こいつらみたいなヤツを街に放っていて、問題が起きたらその場に居るのと入れ替わる作戦だった。 

 ってとこまで言えりゃ、満点だったぞ」

 

 そう笑いながら、手を軽く振って”端末”を消し去った。

 

 §

 

 以上回想終了。

 サンドラ嬢は少し不満げではあったようだ。確かにペストに同士を殺されている。

 しかし、俺たち”ノーネーム”が魔王のゲームに参加している理由は戦力増強にあり、何より今回の功労者は俺たちなのだ。

 彼女も引き下がってくれた。

 むしろ他の”サラマンドラ”の者たちの方が納得していることだろう。

 まぁ、どんなコミュニティも運営には苦心するということだろう。

 他に変わったことといえば‥…

 

「隙、あり!」

「そんなものはない」

「ハァッ!」

「体勢が崩れている、疲れたか?飛鳥!」

 

 耀と飛鳥の二人だった。

 元々、耀は俺に弟子入りの類を考えていたそうだがそこに飛鳥も加わった。

 やはり、火龍誕生祭の一件が気がかりだったのだろう、自分の身ぐらい自分で守れるようになりたいとのことだ。

 

「耀は動きの理合を身に着けるために、

 飛鳥は体作りのために

 二人とも目的は違うがしっかりと基礎連を行うように

 とりあえず今日はここまで、しっかりと柔軟を行っておくようにな」

「「はい!!」」

 

 先ず 耀の方だが、はっきり言って天才といえる才覚の持ち主だ。

 ”生命の目録(ゲノムツリー)”を用いて様々な生物の特徴をその身で操る戦闘法、少なくともそれ自体は恩恵のない俺が彼女に指摘できるものはない。

 一見すると中国武術の形意拳を教えると良さそうに思われるが、あれらはあくまで()()()()()()()()()()()の法であって、耀の用に()()()()()()()()()()()()()()()には枷になりかねない。

 そのため下手に武術を教えるのではなく、いくつかの基本的な技を教えた後は鍛錬法だけを教えて、己の恩恵とのかみ合わせるようにしていこうと考えている。

 

 次に飛鳥だが、女の子といっても戦後生まれのため少なくとも俺の時代の同年代女子よりは動けるには動けるのだが、そういった訓練を積んでいない分ハンデがある。

 それに、はっきりと言うと飛鳥に武術的な才はない。

 だからこそ、基礎をみっちりと行うことでそのハンデをひっくり返そうと考えている。

 幸いにも、飛鳥の戦略的に凌げれば良いのだから攻撃手段はカウンターだけを教え込ませれば良いのだからやりようは幾らでもある。

 『再現』は効果を落とせば他者も対象に出来るため、文字通り刻み込んでやろう。  

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 朝の鍛練の後、零仁達は今後の活動方針を話し合うために、本拠の大広間に集まっていた。

 広間の中心に置かれた長机には、上座からジン=ラッセル、十六夜、零仁、飛鳥、燿、黒ウサギ、メイド長のレティシア、そして年長組の筆頭に選ばれた狐娘のリリが座っている。

 茶々丸とペストは零仁の指示で”サウザンドアイズ”に商品を卸しに行っていて席を外している。

 

 

「どうした?俺よりいい位置に座っているのに、随分と気分が悪そうじゃねえか」

「だ、だって、旗本の席ですよ?緊張して当たり前じゃないですかっ」

 

 ガチガチにに緊張したジンに対し、十六夜がヤハハと笑ってからかう。

 それも仕方のないことで上座に座る事が出来る者は前提として“コミュニティの為に試練に参加できる者”というのが箱庭の常識である。

 それに加えて組織への貢献・献身・影響力などが求められる。

 戦果らしい戦果を挙げていないジンが引け目を感じるのも当然のことだろう。

 

「あのなぁ、御チビ。お前は“ノーネーム”の旗頭であり名刺代わりなんだ。俺達の戦果は全て“ジン=ラッセル”の名の元に集約されて広がっている。そのお前が上座に座らないでどうするんだよ」

「YES! 十六夜さんの言う通りでございます! 事実この一ヶ月で届いたゲームの招待状は、全てジン坊ちゃんの名前で届いております!」

 

 ジャジャン! と黒ウサギが見せたのは、それぞれ違うコミュニティの封蝋が押されている三枚の招待状。

 それも驚くべきことに、うち二枚は参加者ではなく貴賓客としての招待状なのだ。

 旗印を持たない“ノーネーム”にしては破格の待遇である。

 黒ウサギは幸せそうにはにかみながら、三枚の招待状を大事そうに抱き締めた。

 

「苦節三年……とうとう我らのコミュニティにも、招待状が届くことになりました。それもジン坊ちゃんの御名前で! だから堂々と上座にお座りくださいな!」

 

 黒ウサギは何時いつも以上のハイテンションで喜びはしゃぐ。

 しかしジンは対照的に、先ほど以上に俯いた。

 

「だけど、それは──」

 

 ──それは、僕の戦果じゃない。

 そう言葉にする前に、飛鳥の急かすような声が遮さえぎった。

 

「それで? 今日集まった理由は、その招待状について話し合うためなのかしら?」

「は、はい。それも勿論もちろんあります。ですがその前に、コミュニティの現状をお伝えしようと思って集まってもらいました。……リリ、黒ウサギ。報告をお願い」

「分かりました」

「う、うん。頑張る」

 

 ジンは暗い表情を一転させ、黒ウサギと末席に座るリリに目配せをする。

 リリは割烹着の裾を整えて立ち上がり、背筋を伸ばして現状報告を始めた。

 

「えっと、備蓄に関してはしばらく問題ありません。最低限の生活を営むだけなら、一年は問題ないかと思います」

「へえ? 何で急に?」

「一ヶ月前に十六夜様達が戦った“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”、ペストちゃんが推定五桁の魔王に認定されたこと、それと正体不明の神格の打倒を行ったこと。“階層支配者(フロアマスター)”に依頼されて戦ったこともあり、規定報酬が跳ね上がったと白夜叉様からご報告がありました。これでしばらくは、みんなお腹一杯食べられます」

 

 パタパタと二尾を振りながら、嬉しそうにはにかむリリ。

 隣に座るレティシアは小さく眉を顰ひそめ、そっと彼女を窘たしなめた。

 

「リリ。はしたないことを言うのはやめなさい」

「え……あ、す、すみませんっ」

 

 リリは自分の発言が露骨だった事に気が付き、狐耳を真っ赤にして俯く。

 自慢の二尾も更にパタパタと大慌てだ。

 耀は苦笑を浮かべながら、話の続きを促した。

 

「“推定五桁”ということは、本拠を持たないコミュニティだったんだ?」

「は、はい。本来ならたった三人のコミュニティが五桁に認定されることはそう無いみたいですけど、彼女が神霊だったことや、ゲームの難度も考慮したということらしいです」

 

 初めて聞く箱庭の基準に、十六夜は興味深そうな視線を向ける。

 

「へえ? ゲーム難度も桁数に関係するのか?」

「YES! ギフトゲームは本来、神仏が恩恵を与える試練そのもの。箱庭ではそれを分かりやすく形式化したものをギフトゲームと呼び、ゲームの難度はそのまま己の格を表すのです」

 

 ふむ、と促きながら彼女の説明を静聴する。

 ──箱庭のコミュニティの格付けは、強力な個人が数人所属しているからといって上がるものではないという。

 最下層である七桁を除けば、それぞれの階層に求められる条件が存在するというのだ。

 

「本拠の階級を上げる方法は数多ございますが、分かりやすい一例を挙げるなら──」

 

 “六桁の外門を越えるには、階層支配者(フロアマスター)が提示した試練をクリアしなければならない”

 

 “五桁の外門を越えるには、六桁の外門を三つ以上勢力下に置き、その門に旗を飾った上で、百以上のコミュニティが参加するギフトゲームの主催者ホストをする必要がある”

 

「……とまあ、この二つでしょうか」

 

 前者の六桁の外門は、参加者プレイヤーとしての力を求められる。

 後者の五桁の外門は、主催者ホストとしての力を求められる。

 即ち六桁の魔王と五桁の魔王とでは、使用する“主催者権限(ホストマスター)”の質と規模がまるで違うのだ。

 ピッと指を立てた黒ウサギは、何時いつになく真面目な表情で補足する。

 

「六桁の魔王と五桁の魔王は雲泥の差でございます。六桁の魔王が相手ならば、力のある個人や組織力があればクリア可能ですけども、五桁以上の魔王はそうもいきません。五桁以上は“主催者(ホスト)”としての力も認められた強豪達です。皆さんが戦ったペストさんもルーキーでこそあれ、ギフトゲームは太陽の星霊を封印するほど凶悪なものでした」

 

 黒ウサギが説明すると、十六夜も珍しく真剣な声音で同意した。

 

「そうだな……もしペストが練達の魔王だったなら、俺達は審議決議でゲームが中断された時点で詰みだった。黒ウサギが審議決議を行う事を見越していたのなら、見事と言わざるを得ない。……ま、交渉の場ではお粗末なもんだったけどな」

 

 ハッと鼻で笑う十六夜。

 リリは本題に戻るように顔を上げた。

 

「えっと、それでですね。五桁の魔王を倒すために依頼以上の成果を上げた皆様には、金銭に加え別途に恩恵を授かることになりました」

「あら、本当なの?」

「YES! これについては後ほど通達があるので、ワクワクしながら待ちましょう!」

 

 へえ、と十六夜達は喜色の籠こもった声を上げる。

 新たなギフトがどのようなものかは分からないが、魔王を倒した報酬ならば相当“面白い”ものに違いないだろう。

 ジンも明るく笑って頷き、最終報告を促す。

 

 

「それではリリ。最後に、農園区の復興状態の報告をお願い」

 

 ジンが話を振った瞬間。

 リリは顔を輝かせ、今までにないほどの勢いで報告を始めた。

 

「は、はい! 農園の土壌はメルンとディーン達が毎日毎日頑張ってくれたおかげで、全体の1/4は既に使える状態です!

 これでコミュニティ内のご飯を確保するには十二分の土地が用意できました!

 田園に整備するにはもうちょっと時間がかかりますけど、葉菜類、根菜類、果菜類を優先して植えれば、数ヶ月後には成果が期待できると思います!」

 

 ひょコン! と狐耳を立てて喜ぶリリ。

 あの荒廃しきった土地を一ヶ月やそこらで復興させられるとは思ってもいなかったのだろう。

 飛鳥が零仁に次いで三席目に座っているのは、土地の復興に対する功績が大きい。

 水源である水樹は十六夜が手に入れたギフトだが、土地の復興に必要な地精の恩恵と、それを耕す巨大な労働力は、飛鳥が居たからこそ手に入ったものである。

 

 明るい報告が続く中、黒ウサギはここぞとばかりにとある話題を切り出した。

 

「そこで今回の本題でございます! 復興が進んだ農園区に、特殊栽培の特区を設けようと思うのです」

「特区?」

 

 首を傾げる日向達に、黒ウサギは満面の笑みで頷く。

 

「YES! 有りていに言えば霊草・霊樹を栽培する土地ですね。例えば、」

「マンドラゴラとか?」

「マンドレイクとか?」

「マンイーターとか?」

「YES♪ っていやいや最後のおかしいですよ!? “人喰い華”なんて物騒な植物を子供達に任せることは出来ませんっ!

 それにマンドラゴラやマンドレイクみたいな超危険即死植物も黒ウサギ的にアウトです!」

「……そう。じゃあ妥協して、ラビットイーターとか」

「何ですかその黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは!?」

 

 うがーッ!! とウサ耳を逆立てる黒ウサギ。

 レティシアは一向に話が進まない事に肩を落とし、問題児達へ率直に告げた。

 

「つまり主達には、農園の特区に相応しい苗や牧畜を手に入れて欲しいのだ」

「牧畜って、山羊やぎや牛のような?」

「そうだ。都合がいいことに、南側の“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟から収穫祭の招待状が届いている。

 連盟主催ということもあり、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多く開かれるだろう。

 中には種牛や希少種の苗を賭けるものも出てくるはず。コミュニティの組織力を高めるには、これ以上ない機会だ」

 

 なるほど、と頷く十六夜達。

 黒ウサギは“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”の印璽が押された招待状を開いて、内容を簡単に説明する。

 

「今回の招待状は前夜祭から参加を求められたものです。しかも旅費と宿泊費は“主催者(ホスト)”が請け負うという“ノーネーム”の身分では考えられない破格のVIP待遇! 

 場所も南側屈指の景観を持つという“アンダーウッドの大瀑布”! 境界壁に負けないほどの迫力がある大樹と美しい河川の舞台!

 皆さんが喜ぶことは間違いございません!」

 

 黒ウサギが胸を張って紹介する。

 彼女がここまで強く勧めてくるのは珍しい。

 十六夜達は顔を見合わせ、心底面白そうに黒ウサギを弄いじる。

 

「なるほど、“箱庭の貴族”の太鼓判付きとは凄い。さぞかし壮大な舞台なんだろうな……飛鳥はどう思う?」

「あら、そんなの当たり前じゃない。だってあの“箱庭の貴族”がこれほど推している場所よ。目も眩くらむぐらい神秘的な場所に違いないわ。……そうよね春日部さん?」

「うん。これでガッカリな場所なら……黒ウサギはこれから、“箱庭の貴族(笑)”だね」

「“箱庭の貴族(笑)”!? 何ですかそのお馬鹿っぽいボンボン貴族なネーミングは!? 我々“月の兎うさぎ”は、由緒正しい貞潔で献身的な貴族でございますっ!」

「献身的な貴族ってのがもう胡散臭いけどな」

 

 最後に十六夜がヤハハと笑って締め括くくると、黒ウサギは拗すねたように頬を膨らませてそっぽを向いた。

 問題児達と黒ウサギのやり取りに苦笑いを浮かべたジンは、コホンと咳払いして注目を集める。

 

「方針については一通りの説明が終わりました。……しかし、一つだけ問題があります」

「問題?」

「はい。この収穫祭は二〇日ほど開催される予定で、前夜祭を含めれば二五日。約一ヶ月にもなります。この規模のゲームはそう無いですし、最後まで参加したいのですが……長期間コミュニティに主力が居ないのはよくありません。そこでレティシアさんと共に一人残って欲し」

 

「「「嫌だ」」」

 

 即答だった。

 十六夜達の予想通りの返答に、思わず息をのんでしまうジン。

 しかしジンも、こればかりは譲れない。

 コミュニティが力を付け始めた今だからこそ、防備も固めておかねばならないのだ。

 彼はテーブルに身を乗り出し、問題児達に提案する。

 

「それでしたら、せめて日数だけでも絞らせてくれませんか?」

「というと?」

「前夜祭を三人、オープニングセレモニーからの一週間を四人。残りの日数を三人。……このプランでどうでしょう?」

 

 ふむ、と互いの顔を見る十六夜達。 

 しばし顔を見合わせた後、耀が質問を返す。

 

「そのプランだと、二人だけ全部参加できる事になるよね? それはどうやって決めるの?」

「それは──」

 

 当然、席次順で決める──と言いかけたジンだが、咄嗟に口を噤つぐんだ。

 箱庭の組織としては常識かもしれないが、それが外界から来た四人の常識とは限らない。

 おのずと、こういう時頼りになる常識人に視線が集まる。

 

「悪いが無理だぞ?

 ダブルブッキングというのかな、先に依頼を受けてしまってな。

 丁度前夜祭の一週間前から九日間かけて北側で行われるギフトゲームに参加予定でな。

 少なくとも前夜祭とオープニングの当日は参加不可能だろうな」

「おいおい聞いてねえぞ。

 ってか羨ましいな、おい!」

「そういうなよ、白夜叉からのご指名でな。

 あいつ自身手が足りないそうで、案件的に俺ぐらいが必要だとかなんとか…

 だから茶々丸もペストも連れて行くぞ」

 

 零仁の言葉にどうしたものかと途方に暮れるジンだが、常識人は手を差し伸べてくれる。

 

「…だがまぁ、俺自身便利遣いは癪に障る。

 だからこそゲームで決めないか?期限は前夜祭開始まで、”最も多くの戦果を上げたものが勝者”ってのはどうだい?」

「へぇ、悪くねぇな」

「面白そうじゃない。それで行きましょう」

「うん。‥…絶対に負けない」

 いつも通り不遜な十六夜に、不敵な笑みを見せる飛鳥と、やる気を滾らせる耀。

 こうして問題児たちは“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”主催の収穫祭参加を掛けて、ゲームを開始したのだった。

 

「そういやぁ、零仁。お前の参加するゲームはなんて言うんだ?」

「うん?あぁ”百鬼夜行・童子狂宴(ひゃっきやぎょう・わらべのうたげ)”だそうだ」

 

 波乱の二幕は静かにはためいたのだった。

 




まぁ、主人公居たら襲撃当日で全部つぶしにかかるからネ
シカタナイネ。


てなわけで、気長に待っていただけたら幸いです。
では、また次回に。

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