召喚したらチートだった件   作:uendy

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皆さま、お待たせいたしました。 半年ぶりの投稿です。

余計な言い訳は無しで行きます。


閑話~孤王との邂逅

 

 かの狼王との激闘から数日、草薙護堂は他の<神殺し>達の情報を調べていた。

 

「で、そんなにすごいのか?その、夜刀神零仁って人は」

「ええ、それはもう。例を挙げればきりがないわ、

 ”カンピオーネになって4年間正体を掴ませなかった”とか”黒王子との知恵比べを制した”

 ”冥王と共闘し、当時のロスに蔓延っていた邪教一派を根絶やしにした”

 極めつけは、”魔教教主と三日三晩打ち合いの末勝利した”とか。

 とりあえず、逸話には事欠かない御方ね」

 

「とんでもない人だな。それにしてもどうやって正体を隠し通していたんだ?」

「簡単よ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ。

 おかげで、五年前 六人目の王が存在していることを知った魔術結社は、血眼でその後を嗅ぎまわったらしいんだから。

 自身で人払いから修復まで行ってくれるなんて、なんて慈悲深い王なんだ。

 きっとその庇護下ならばどのような厄災も退けてくれるに違いない、ってね」

「そんな風に言うってことは…」

「ええ、どんな手段を用いてもその影を踏むことも出来なかったそうよ。

 彼が幼いころお世話になった孤児院に手を出そうと画策した者たちが居たらしけど、

 その日のうちにその者たちの首がその組織のトップの私室に置かれていたらしいわ」

 

「でもなんだってその人は結社の庇護をしなかったんだろうな?」

「さぁ?ただ単純に煩わしく考えただけじゃないかしら。

 少なくとも彼の存在が認知されてから五年間、何某かの招来の気配のあった場所には、完全に修復された現場とそれらの隠滅のためのわずかな呪力が残っているだけだったらしいわ。

 というより私も又聞きした程度の知識だし、そっちの二人に聞いた方が良いと思うわ」

 

 そう答えたエリカは、護堂の見舞いに来ていた佑理と帰国の挨拶に立ち寄ったリリアナに視線を向けた。

 神妙な面持ちの後佑理はエリカの提案を承諾した。

 

「‥‥…わかりました。では、私がお話いたしましょう。

 あれは四年前、あの儀式のときでした」

 

 

  §

 

「フフ、フハハハハ、フハハハハハ!!」

 

 侯爵は儀式の成功に喜悦の声を上げておられました。

 しかし、私たちはそれどころではありませんでした。儀式の反動による内からの痛みだけでなく、その余波によって負った傷などの痛み多くの方々の悲鳴。そこは幼かった私にとって地獄と呼べるものでした。

 ですが、おかしいのです。確かに痛みで気絶している方はいらっしゃっても、息を引き取っている方はおりませんでした。

 

 儀式の成功する直前に私は確かに感じました、強大な力の介入を。

 

「さて、不穏な気配を辿ってみれば 年寄りが少女達を使って怪しげな儀式をしている場に遭遇

 ・・・通報案件か?」

 

 それまで、全く気配と言えるものが存在していなかった柱の陰から、恐ろしいほど場違いな声音で、映える様な銀髪を後ろで短くまとめた少年が声を掛けました。

 

「‥‥何者だ?」

「『貴様に名乗る名前はない!』と『祇園精舎の鐘の声…』のどっちが様になるかね、っと!」

 

 背後からの侯爵の従僕による攻撃を振り向きもせずに躱しながら、なおも軽い調子で言葉を続ける彼に侯爵も言葉を投げかけます。

 

「いや、別に君の名に興味はなかったのだがね、少年。

 今でなかったならば戯れの相手に選んだ程度の興味は湧いたよ。

 さて、私は忙しい身だ。見逃してやるから早くそこを退きたまえ」

「そいつはどうも光栄なことで。

 ですが、その雑事の心配はナイヨウデスヨ?」

「何!?」

 

 途端に感じる呪力の衝突、あの膨大な呪力は間違いなく。

 

「これは!?私が呼び出した神と同族のもの。

 しかし、羅濠はもちろんジョン・プルートーやアレクサンドルのものではないな」

「噂の七人目のものでしょうなぁ」

「ほう?獲物を横取りというわけか。

 ならば貴様は何者だ?七人目の手の者か!?」

 

 侯爵はそう苛立たし気に問い詰めながら、彼に向けて権能の狼を放ちました。 

 

「あれの手下?冗談は止してくれよ。

 アレが噂の七人目なら、俺は最年少の六人目ってだけだよ」

 

 何を行ったのかはわかりませんでした。しかし、確実に言えることはたった一つ。

 

「改めまして、夜刀神零仁 今代の六人目の<神殺し>だよ 侯爵閣下。

 お見知りおき頂かなくて結構だ」

 

 彼、夜刀神様が瞬く間に侯爵の眷狼を惨殺したということでした。

 

「貴様が例の六人目か、なるほど若い。

 して少年、一体このヴォバンの前を遮って何用かね?

 先程も言ったが私は渇きを潤すのに忙しい身だ。それとも君がこの渇きを満たしてくれるのかね?」

 

 そう言いながらも、侯爵は”従僕”を呼び出しました。

 

「何、我が従僕の中でも比較的高い実力を持つ者たちだ。

 猟犬共のようには片付くまい」

「これが彼の悪名高き”死せる従僕”とやらか。

 …なるほど、大騎士・大魔術師と呼ばれても遜色ない実力の者たちみたいだ。

 が、相手にとって不足ありだな」

「ほう、減らず口を。ならばその大言自身で示して見せるがいい!」

 

 ですがその直後、その言葉が大言ではないことが証明されました。

 正しく蹂躙、十数にも及ぶ勇士だった者たちは、死相を露にしながらもその動きは俊敏で力強い。

 それでもなお、彼の強さには遠く及びませんでした。

 ある者は剣をその拳で砕かれ、ある者は槍をその足で折られ、

 放たれた魔法はそれを上回る精度と威力をもって掻き消されました。

 

「フハハハハハ!なるほど認めよう夜刀神零仁、貴様は私が戦うべき戦士のようだ」

 

 その言葉と共に、風が唸りました。

 

「そうかい?俺は未だ戦うべきではない状態なんだがねぇ」

「ならば今度は私が示して見せよう」

 

 その間にも風は強さを増し、まるで質量を持つかのような爆発的な風が吹き荒れました。

 それでも、何故か彼の上着をはためかせるだけに止まっているのを理解しました。

 

「…風、いや嵐か。さて、この感じはメジャーな神格じゃないな。

 まぁ、今有効そうな手はこいつくらいか・・・」

 『我、水を持つ者、湿潤にして力強き者也。

  楽を辿り、歌を詠み 水流を辿り、風を読み

  流転を手繰りて、古を紐解かん』

 

 変化は小さく、しかし如実に現れていきました。

 暴風によって激しくはためく侯爵のコートと違って、夜刀神様の上着は風に煽られる程度でした。

 より顕著なのは私自身―――いえこの場合は彼より後ろ側ですね―――が二人の姿を見ていられたことです。

 本来なら、風に飛ばされまいと柱にしがみつき、見守ることなどできないであろうはずなのに、

 私は身を低くして突風に抗う程度で済んでいました。

 

「なんだい?爺さん。そよ風か?」

「権能か、小癪な!!」

 

 そう言って侯爵は右腕を振り下ろし、稲妻を落としました。

 それでも彼の身には傷一つ付きません。

 彼が左腕を軽く振り払うと、それだけで稲妻は掻き消されました。

 

「どうしたよ、まさかこんなものじゃないだろうな?」

「ハハハハ!!なるほど予想以上だ、素晴らしい。

 では、意地でもこの力で叩き潰すとしよう」

 

 それからの戦いは、強烈にして鮮明。ともすれば神話の再現にすら近づきそうなほどでした。

 侯爵が打ち付ける暴風は須らくそよ風に変えられ、

 放たれる稲妻は反らされ、掻き消され、隙あらばそのまま侯爵自身に跳ね返りました。

 何より幸運だったのが、私たちには流れ弾どころか余波の一つも来ませんでした。

 今にして思えば、それすら彼が加減していたんでしょうね。

 

「さて、そろそろ終わらせるとするか」

「抜かせ小僧!」

 

 なおも繰り広げられる激戦の最中、彼は軽い調子でそう言うと同時に侯爵の放った二つの稲妻を跳ね返し、

 それと共に侯爵を強襲しました。

 

「甘いわ!」

 

 ですが、流石は侯爵迫りくる稲妻を己の肉体を巨狼に変づることによって受け止め。

 死せる従僕によって、彼の拳を受け止めていました。

 

「ここまでのようだな」

「‥‥これまで()()()()()()()あんたの嵐はどこに行ったんだろうなぁ?」

「!!しまっ」

「チェックメイトだ」

 

 夜刀神様がそう言って、突き出した抜き手でフィンガースナップを行った瞬間

 閃光と突風が轟音と共に開け抜けました。

 目を開けた後には、夜刀神様だけが立っており、侯爵の姿は見当たりませんでした。

 

 

  §

 

「後に聞いた話を合わせると、彼は権能で風や稲妻を蓄積し解き放ったのでしょう。

 稲妻は従僕を焼き尽くし、暴風は侯爵を吹き飛ばした。

 そして吹き飛ばした先にはサルバトーレ卿が。

 そうすることによって、夜刀神様は自分が逃げおおせる時間を稼ごうと考えたんでしょう

 少なくとも、私が話せるのはこれくらいですね」

「本当にとんでもないんだな。

 お互いじゃれ合い程度とは言えあの爺さん相手に権能一つで対抗して見せたんだからな」

「いえ、夜刀神様が規格外と言われている理由はそこではありません。

 その三日後私はある場所で二週間前に神の招来の気配があったとのことで霊視を依頼されたため行いました。

 そこで感じた神気は間違いなく、夜刀神様が操っていた権能と同一のものでした」

「うん?その場所で夜刀神さんは何かしていたのか?」

 

 そう能天気に問う護堂にエリカが注意する。

 

「待ちなさい護堂。さっき佑理は”神の招来の気配があった”と言ったのよ?」

「ああ、だからその神と争うときに権能を使ったってことだろう?」

「違います草薙さん。()()()()()()()()()夜刀神様の権能と同じだったんです」

「それでなんで規格外になるんだ?俺だって簒奪した権能をぶっつけ本番で使ったじゃないか」

 

 いまだに事の重大さに気づかない護道にエリカはあきれ返りながら答えた。

 

「いい?護堂。卿はあのヴォバン侯爵に、たった一週間前に簒奪した権能で対等に争って見せたの。

 しかも、聞いたところによると侯爵の権能の支配を一時的に奪ってさえいたそうじゃない。

 半世紀近く使い慣れている権能を相手にたった一週間前に得た権能で対等以上に。

 これを規格外と言わずに何というのかしら?」

 

 遅ればせながらその異常性に気が付いた護堂は絶句していた。

 もちろん<神殺し>にキャリアは関係ない。それでもやはり、使い慣れているかどうか、掌握しきれているかどうかで権能の力は大きく変わる。

 ならば、零仁はどうやって対抗したのか、話に聞く限り辛勝といった風ではないとならば答えは一つ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()ということだろう。もちろん一度の戦闘もなしに。

 

「それにしても万理谷佑理。私たちが話せることはまだあったはずだが?」

 

 そう少し意地悪気に聞いてくるリリアナ。 

 驚愕に打ちひしがれている護堂だったが、リリアナの言葉を耳聡く拾う。

 

「なんだ?万理谷まだ何か話すことがあったのか?」

「い、いえそんなことはありませんよ?

 リリアナさんもお願いですから」

 

 万理谷の様子が気になった、護堂はリリアナに視線を投げかける。

 リリアナはどこかイタズラ気味に話し始める。

 

「王である草薙護堂からの頼みならば断わることは出来ないな」

 

 

 §

 

「――額の印は三日月、四本の腕には楽器を

 その姿は水辺にあり、その身は流る者…」

「―――――ほう?」

 

 最後の攻撃、それによって感じた神気から彼女は卿から権能を簒奪した神を霊視してしまった。

 多くの<神殺し>の方は生来の豪胆さから権能を知られても気には留めないが

 卿はどちらかと言えば秘密主義の方だと聞いていたのでな、私は即座に彼女をかばった。

 彼女も己の失態に気が付き、即座に頭を下げました。

 

 

「どうかお許しください。たった今見たものの口外は一切致しません! 

 ですからどうか命だけは」

「も、申し訳ありません!!」

「‥‥名は?」

「‥リ、リリアナ・クラニチャールと申します」

「…君は?」

「万理谷、佑理と申します」

 

 見た目は私たちとそう変わらない少年だとしても、やはり<神殺し>身に纏うモノは私たちと比べるほどではなかった。

 己の命の終わりを覚悟しました。

 

 

 しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャー万理谷さんのエッチ―」

 

 出てきた言葉は予想を置き去りにするようなものでした。

 まさか、日本のアニメーションのセリフが出てくるとは思いませんでした。

 それも わざわざ声を真似、ジェスチャーまでつけて行っていたんですから。

 その時の私たちの顔は間違いなく間抜けだったんでしょうね。

 

 私たちが呆けている間にも卿は続けました。

 

「こうなったら、せ・き・に・ん取ってくれるんだよね?」

 

 抑揚をつけていない事から一切本心がない言葉と分かりましたが、彼女は違う。

 初心な彼女は本気で受け取ってしまう。

 

「せ、責任とは一体!?」

「そんなの決まってるじゃない、女の子が男の子にするあれだよ~」

 

 少し前まで死を覚悟し、涙を流していたのですから仕方ないとはいえ、

 顔を真っ赤にして慌てふためく彼女の姿に私だけでなく周囲で見ていた者たちまでつられて笑ってしまっていました。

 

 そんな周囲の様子に気づいた万理谷佑理はようやく自分が担がれたのだと気づきました。

 卿はその様子に耐え切れず、噴き出して大笑いしておられました。

 

「ひ、ひどいです。いくら私でも笑いものにされたことなんてないのに!」

「ま、万理谷佑理!」

「あっ、も、申し訳ありません!!」

 

 冷静さを欠いた彼女は卿に詰め寄ったが、卿は大らかに笑って許してくれました。

 

「‥ㇰㇰ、いや、ㇰっ良いんだよ。

 その子をからかったのは俺だしね。

 あと、権能の件も口外してもいいよ別に、賢人議会に言ってないのはアイツ等が情けないからだからね。

 知りたければ自分で調べろと言っているからね。

 さて、それじゃあ俺はそろそろずらかるから、君たちはお休み」

 

 

  §

 

「あの時は緊張の糸が切れたのだと思いましたが

 今思えば、我々に気づかれないように卿が催眠術を掛けたんでしょうね」

「あはは、何とも万理谷らしいな」

「もう、だから話さないでと申しましたのに

 草薙さんもそんなに笑わないでください!」

「スマンスマン、だけどそんなに気さくそうなら一度会って話をした見たいけど」

 

「それはやめた方が良いわよ護堂」

「その通りだ草薙護堂」

 

 能天気な護堂にエリカが忠言する。今度はリリアナまで同意して。

 

「な、なんでだよ。そんだけ常識的なら話は通じるんじゃないのか?」

「ええ、話は通じるわ。何なら私たちのような騎士や巫女にまで話をするほど気さくな方よ。

 問題は貴方の方よ」

「俺に何の問題があるっていうんだよ!?」

「あなたの考え方です、草薙護堂。

 あの方はどんなことにも芯を通し、有言実行を旨とする方。

 貴方の言動が一致していない現状を見るに、向かい合った瞬間一触即発になるのは火を見るよりも明らかです」

 

「そうは言ったって仕方ないじゃないか。

 俺は襲われる側、いわば被害者の側だ」

「まさにそういうところではないのでしょうか、草薙さん」

「へ?」

「その通りだ、万理谷佑理。

 卿は仕方ないからと努力しないのは間違っていると仰られていたからな」

「そういえば貴方、随分と卿のことを知っているようだけど一体どういうことなのかしら?」

 

 そう断言するリリアナにエリカが茶化す。

 

「変な勘繰りは無意味だぞ、エリカ

 少なくとも私は純粋に尊敬しているだけだ」

「尊敬、ねぇ?」

「しつこいぞエリカ。

 これだけは事実だ。少なくとも私では彼の足元にも及ばない。

 これはカンピオーネだからではない。純粋に彼が騎士だったとしても私では及ばないんだ」

「へぇ、リリィがそこまで言うなんて一体何があったの?」

 

 少し、葛藤しながらもリリアナが口を開く。

 

「‥‥言えない。いや、正確には私の技量では言葉に出来るだけ見抜けなかったといった方が正しい」

「…?どういうこと?」

「……私は三年前、ある決闘の付添人になった。

 決闘相手は夜刀神零仁とサルバトーレ・ドニ。

 互いに示し合わせた訳ではないが終始剣技のみでの闘争だった」

「「「!!」」」

 

 一同が驚愕に包まれる。その中でエリカはことの勝敗を問うた。

 

「‥‥勝敗は?」

「―――――――夜刀神零仁。

 あのサルバトーレ卿がたった、十合打ち合っただけで敗北を認めた。

 悔しいが私の技量ではあの二人の行った技の意味を理解することが出来なかった」

「そう、それほどなのね?」

「ああ、その折に卿の簡単な信念などを聞いて感服したというわけだ」

「‥‥分かったわごめんなさいね茶化しちゃって」

「別にいいさ、それほどのものを見聞きしたんだから」

 

 エリカとリリアナ幼き頃からのライバルであり、武人であるが故にわかる感覚。

 だからこそ、エリカも武人として理解し、謝罪を行った。

 

「一言言わせてもらえるなら、ここ一年その身を隠しているのが幸いであり、

 少し不気味ね」

 

 計らずとも、その言葉は彼について知るものの現在の心情をハッキリと一致していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




二人の言葉遣いに大変な違和感がありますが、無視の方向でお願いします。
判らなかったと言い切った方が余計な説明が要らないと考えたための措置です。

では、また次回に。

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