召喚したらチートだった件   作:uendy

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間に合わなかった orz






十八話上~ 決戦前

境界壁・舞台区画・暁の麓。美術展、出展会場。魔王側本陣営。

 

 交渉から二日。謎の失踪を遂げた、ラッテンフェンガーが製作したディーンと飛鳥に混乱したが、ペストの素っ気ない一言で捜索はあっさり打ち切られた。

 ペスト、ラッテン、ヴェーザーの三人ははその後も展示会場の奥にある大空洞に居座っていた。

 展示会場の美しい造形のキャンドルランプや燭台、ステンドグラスを愛でていたラッテンは、気にいったものを大空洞の中心に集め、うっとりと鑑賞している。

 

「ああ、いいわぁ。流石はフロアマスターの誕生祭だけあって造り手の気合いが違うわねぇ」

 

 特にお気に召したのは、ウィル・オ・ウィスプが製作した燭台のようだ。悪魔の蒼炎を銀の燭台に刻んだそれは、彼女にとってお気に入りの一品になったようである。

 

「この見事な職人に、グリムグリモワール・ハーメルンの旗印を刻ませたい!」

「そりゃ無理だ。それを造ったのはジャック・オー・ランタンだろ?アイツは参加者じゃねえからゲームに勝っても傘下にゃ降らねえ」

 

 ヴェーザーの素っ気ない返事にラッテンはぶすっと拗ねた顔になる。

 

「あーあ、残念だなー。ジャックも今から巻き込めないの?」

「馬鹿か、ジャックは俺達と同じ方法で祭典に招かれてんだぞ。書き換えるのは種明かしをするのと同じだろうが」

「それはそうだけど。マスターはどう思いますー?」

「……カボチャは匂いが嫌い」

 

 マイペースなペストに側近の二人は同時に苦笑する。

 白黒斑のワンピースを整えたペストは、キャンドルランプの蜻蛉を静かに見つめ続けている。交渉テーブルではあれだけ饒舌だったというのに、此方から話しかけない限りは決して口を開かない。

 そんなマスターを気遣ってか、ラッテンはよく彼女に話しかけていた。

 

「あれから二日。徐々に感染者が発症し始めてるみたいですねえ」

「そうね」

 

 素っ気ない返答をするペスト。ラッテンはやや拗ねたように唇を尖らせた。

 

「あーあ。何もかも順調なのに、消えた鉄人形と逃げ出したお嬢さんは見つからないですねー。それにマスターは相手してくれないしぃ。暇だなー暇だなー。せめて白雪か灰かぶり姫の連中がいれば、傘下に入れた連中を使って面白おかしいオペラでも演じさせたのにぃ」

「……?白雪と灰かぶり姫?」

 

 珍しくペストが自発的に問い返す。ラッテンは顔を明るくして主に説明した。

 

「魔道書シリーズのグリム童話出身で、私達と姉妹になる魔書です。まあ賑やかな連中でしてね。毎夜毎晩、楽団気取って馬鹿騒ぎしてたんですよ。魔法の靴を小人に履かせて、灼熱の上でタップダンスを踊らせたいね」

「ああ、あれは笑えたな。灰かぶりの奴は陰気だったが、ユーモアのセンスは中々だった」

 

 口を押さえて笑う二人。共有する思い出を持たないペストは、小首を傾げるばかり。

 

「……”幻想魔道書群(グリムグリモワール)”って、楽しいコミュニティだったの?」

「それはもう!何せ前のマスターの場合は魔王になった理由からして頭悪かったですよ?」

「”俺が魔王になり、怠惰な神々に代わって箱庭を華々しく飾ってやろう!”って感じの人でな。初めはとんだ外れくじを引かされたもんだと思っていたが……いやはやどうして。最後のその一瞬まで、魔王の名前に恥じない散り様だった」

 

 側近の二人から笑顔が消える。過ぎた日を顧みる二人の瞳は自然と遠いものになっていた。

 

「……ああ、そうだマスター。一つ、大事な話をしておきます」

「何?」

「貴女は魔王としてギフトゲームを開催しました。今後、多くのコミュニティに狙われる事になるでしょう。魔王として戦って戦って、そしてやがて……必ず没します」

()()()

「……」

 

 確信を持った声でラッテンとヴェーザーは言う。それは、かつて魔王のコミュニティに属していた彼らだからこそ言える台詞なのだろう。

 

「この神々の箱庭に於いて魔王とは、そういうシステムだとご理解ください。如何に巨大、如何に凶悪、如何に尊大であろうと……何れ必ず、何者かに滅ぼされる。相手が英雄であるか、神仏であるかは問いません」

「なんつっても、上を見たらきりがねえ。上層は修羅神仏の蠢く魔境。しかし魔王となる以上、上を目指し続けなきゃ生き残れない。俺達は箱庭の秩序にの外に身を置く代償に、何れ秩序を正す者に滅ぼされる運命を背負うのさ……ま、前のマスターの受け売りだがね」

 

 展示の鉄柵に腰掛け、ヴェーザーはおどける様に肩を竦める。

 

「……そうね、どんなに栄華を誇っていても……何れは崩れ去る。例えそれが、人が造ったものでも、神が造った繁栄でも」

「……二人は、前のマスターが好きだったのね」

「いい男でしたから。本拠だって、ノイシュヴァンシュタイン城に負けないぐらい豪奢な造りのをポポポーン!と指先一つで召喚する様な凄い人で……」

 

 と、嬉々として語っていたラッテンの声が止まる。不意にそっぽを向いたペストを訝しげに思い、その顔を覗き込む。すると彼女は愛らしい顔を、ぷくっと膨らませて拗ねていた。

 

「……マスター?どうしました?珍しく仕草が可愛いですよ?」

「そういう貴女は普段通りむかつくわね、ラッテン」

 

 毒を吐いて展示会場のベンチに座り、パタパタと足を揺らす。

 ラッテンも馬鹿ではない。拗ねる理由が分からないわけではないが、今は素直に嬉しかった。

 そこで、ふとヴェーザーが思い出したかのように口を開く。

 

「そういう意味じゃ、あの男は特別かもしれんな」

「あの男?」

「マスターのお気に入りのあいつだよ」

「あ~、あの人か~」

 

 そう答えるラッテンとヴェーザーの脳裏に浮かぶのは、二日前の決議で絶対的な力の差を思い知らされた一人の人間の姿だった。

 そんなヴェーザーにペストは問いかける。

 

「特別って?」

「ありゃ、間違いなく”魔王(コッチ)”側の奴が放つような殺気だ。

 あれをコートを羽織るように簡単にその身に纏っちまう時点で別格だな。

 何よりアイツは‥…何と言うかな、‥‥そう《魔王》だけど”魔王”じゃないって感じだな」

「《魔王》だけど”魔王”じゃないって何よそれ?」

 

 ヴェーザーのハッキリとしない物言いに、ラッテンが首を傾げる。

 声には出していないが、ペストもそんな感じだ。

 

「あ~、ちょいと俺の感覚なんだが。

 まぁ、”英雄”ではあるが”正義の味方”じゃないってのがわかりやすいかもな。

 ただ単純に、条理も不条理もねじ伏せるような存在だな、あれは」

「あぁ~、なんか納得だわ。・・・・・・・・・・マスター、お買い得ですよ♪」

「いったい何が言いたいのよ!?」

 

 カッと頬を染めるペスト。

 ラッテンはどこか優しそうに微笑みかける。

 

「‥‥彼ならば善も悪も、秩序や混沌すら超越したような何かとんでもない方法でマスターの”願い”を叶えてくれるってことですよ」 

「・・・・・」

 

 いつもなら、無理だ。と言い切ってしまうようなことなのに、なぜか言葉に詰まる。

 ふと、一目見たときから 何か彼に惹かれるものがあった。 

 

「ヴェーザー、マスターが乙女になってるわ」

「・・・・何なんだろうなこの複雑な感情は、こう‥‥成長を嬉しく思いつつも、成長させたアイツを殺したくなるようなこの感じは」

「一体何を言ってるの、あんたたちは!?」

「やーですねえマスター、それだけ今の私達はマスター一筋ですよー?」

「ああ。グリムグリモワールの名を担ぐ魔王なんざ、もうアンタを除けば他にはいねえだろうしな……故に最後まで忠を尽くす。それだけは決して違わなねえ」

 

 たとえ、必滅を約束された魔の道であろうと、その一瞬まで尽くしてみせると契約する。

 仄かに揺れる蜻蛉の向こうで、黒死斑の魔王はその言葉を、少々の複雑さを感じながらも噛みしめるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 零仁はバルコニーの黒い風の牢獄に踏み入った。―――その瞬間

 

「馬鹿者が―!!」

「ゴフッ!」

 

 白夜叉がプロのアメリカンフットボーラーも顔負けのタックルをかましてきた。

 さすがの零仁も彼女の攻撃(?)を回避することは難しかったようで、そのまま後ろに倒れる。

 

「馬鹿者!馬鹿者!」

 

 倒してもなお零仁に腹パンをし続ける白夜叉に、たまらず零仁は彼女の両腕を取って落ち着かせる。

 

「落ち着け、白夜叉―――――!」

 

 しかし、彼女の頬に流れる雫を見て、零仁は言葉に詰まる。

 対する白夜叉はなおも零仁に食って掛かる。

 

「何故じゃ!何故おんしまでここにおる!いったい誰があやつらを守るのだ!

 それとも、まさか見捨てたのか?おんしともあろう者が・・・・

 おんしならば、おんしがいるならばと安心しておったのに・・・答えよ、零仁!」

 

 普段のふざけている姿からは想像もできない白夜叉の姿に一瞬圧倒されながらも、少し震えていた彼女の手を取って、すぐに答えを返す零仁

 

「落ち着け、白夜叉。別に見捨てたりしたわけじゃあない。

 ただ、あいつらは”打倒魔王”を掲げちまった。なら、これから先も魔王の被害に会う。

 その時、いつでもあいつらを助けに行けるわけじゃない。現に今回は白夜叉を封じられたんだ。

 何より、こういうのは最初が肝心だ。一番最初から助けられていたんじゃ大一番の時が心配だからな」

 

「だが、大丈夫なのか?いくらあの小僧に黒ウサギが加わったとはいえ、あの魔王の相手はちと厳しいぞ」

 

「その辺は問題ないだろ。十六夜にはそれとなくヒントを渡しといたし、相手は人材集めのために半殺しにするだろうし

 それに、茶々丸がいるからな。あいつなら大抵のことは問題ないだろ」

 

「それは・・・・そうなのだが・・・」

 

「‥‥お前、存外心配性なのな。安心しな相手はルーキーだ。

 何より、俺はアイツ等をそれほど心配しちゃいないんだわ。

 ”アイツ等が同志である”それ以上に信じる理由はいらんだろ?」

 

 目をまん丸に見開いだ後、フッと笑みを浮かべる白夜叉。

 

「‥‥確かにその通りだな。ならばわしはおぬしの信頼に賭けるとするかの。それよりもルーキーか・・」

「あぁ、ルーキーフロアマスター対ルーキー魔王。偶然にしては出来過ぎているよな?」

「ということは・・・」

「まぁ、言わぬが花だろうな」

 

 落ち着いた白夜叉はそのまま ポスッと零仁膝に頭を乗せる。

 

「白夜叉?」

「いくら私でも石畳に寝転がるのは少々疲れる。

 かと言って、自らの腕を枕代わりにしても腕が痺れる」

「で、俺の膝、と?」

「うむ、多少は心配したのだ。それくらいの代償は払ってもらうぞ」

「‥‥構わないよ、膝くらいならいくらでも貸しましょう。

 でも、硬くないか?」

「地べたよりはマシじゃ」

「ならいいけど」

 

 そういって、白夜叉は零仁から顔が見えない方に横向けになって眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――否

(ふ、ふぉぉぉ お、思い切って膝枕とか何やっとんじゃわしは!?

 先の体勢、多少は切羽詰まっていたとはいえ、あんな顔が近くに・・・。

 直ぐに表情がバレないようにこのような体勢を取るとは、

 顔はまだ隠せるとは言え 首とか、耳とか赤くなっておらんよな)

 

 ちらりと薄目で零仁方を見やると、後ろに手を付き、グデッと上を見上げていた。

 

(こ、これならセーフ、かの?

 な、ならば、今しばらくこの至福の時を堪能しようかの)

 

 そう考えながら少しだけ頬を弛ます白夜叉だった。

 

 

******

 

『ま、そういうことだ。あんたが称賛した技は殆どが、猿真似ってわけだよ』

 

 なんで、あんなことを口走ってしまったんだろうか。

 なんであの時、不安になったのだろうか。

 普段なら別に使えるものは使って当然と気にも留めない揶揄なのに

 

 さっきの白夜叉の言葉が耳を付く。

 

『何故じゃ!何故おんしまでここにおる!いったい誰があやつらを守るのだ!

 それとも、まさか見捨てたのか?おんしともあろう者が・・・・

 おんしならば、おんしがいるならばと安心しておったのに・・・答えよ、零仁!』

 

 この言葉に不安になると同時に、力量を認められているとハッキリと喜びを感じた。

 

 あの片思いの相手(ひと)が言った言葉を思い出した。

 

【私みたいに半信半疑じゃなくてさ。

 君の努力を、功績を一切の濁りなくしっかりと見極めてくれるひとが必ず現れるよ】

 

 

 改めて、無警戒に俺の膝に頭を乗せて安心しきった顔で寝ている白夜叉を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッと頬が、さらには耳、首筋まで熱が伝播するのをしっかりと感じた。

 片手で顔を覆う。

 

(いくらなんでもチョロ過ぎんだろ、俺。

 誉められ、認められただけでコレって)

 

 ただただ、この顔中の熱が彼女が目覚める前に冷めることを祈った。

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「負ければコミュニティは事実上の壊滅、あの地に子供達だけ残されることになります…それを思うとどうしても不安なのです。しかしそれはある種、諦めのつく話なのです…魔王という名の天災に親鳥が襲われ雛が全滅するというのは箱庭ではさほど珍しい話ではありません。むしろ黒ウサギが申し訳なく思っているのは………飛鳥さんと耀さんの事でございます」

 

 ゲーム開始直前、黒ウサギは微かに手を震わせて物思いに耽っているた。

 そんな黒ウサギに、十六夜が声をかけていた。

 

「十六夜さんは、白夜叉様の忠告を覚えていますか?」

「忠告…というと、あれか」

 

 無理難題に近い注文を、笑ってこなしていた同志の優しさに甘えていた。

 その事実が黒ウサギに、後悔の二文字を背負わせていた。

 

「はい…飛鳥さんと耀さんに向けられた言葉です。『魔王のゲームの前に、力を付けろ。お前達の力では――魔王のゲームを生き残れない』と。黒ウサギは今日までその忠告を軽んじ、皆さんの溢れる可能性に眼が眩んでいたのです……この1ヵ月で皆さんが〝ノーネーム〟にもたらしてくれた恩恵ギフトの数々は劇的に生活を変えてくれました。もう水不足で困ることはありません。食事のやりくりに悩むことも少なくなり、『おなかすいた』と訴えるあの子達を見て心苦しい思いをする必要は皆無です」

「……」

「レティシア様を取り返してくださったとき黒ウサギは大きく道が開けた思いでした。

 つい先日まで明日が見えず、現状を維持するしかなかったコミュニティに暗雲が晴れたような錯覚さえ覚えたほど」

 

 仲間が戻ってきた。

 小さな進歩であったとしても、黒ウサギにとっては止まっていた時間が動き出したようですらあったのだろう。

 

「……〝打倒魔王〟を掲げると聞いた時黒ウサギは皆さんの頼もしさに胸が震えました。

 しかしだからこそ!先の先まで見据えた計画を立てねばいけなかったのに!

 この神仏が集う箱庭で生まれ育った黒ウサギだからこそ教えられることがもっとあったはず!

 なのに、魔王と対峙するまで計画も立てずに安穏と過ごし、その結果が……!」

 

 飛鳥は攫われ、耀は病魔に侵された。

 黒ウサギは己の情けなさで涙が出そうになった。

 

「……皆さんにはそれぞれ違う方向性の、素晴らしい才能がございます。帝釈天の眷属の名に賭けそれを保証いたします。しかし、それは皆さんの力であって……コミュニティが独占して良いものではありません。黒ウサギは結局皆さんの優しさに甘えていたのです」

 

「そんなに悲観することは無いと思うけど…」

 

 本来なら聞こえるはずの無い少女の言葉が聞こえた。

 

「よ、耀さん!?」

「うん、少なくとも私は元気だよ、黒ウサギ」

「で、ですが、何故?」

「ああ、なんかジンが零仁から薬?を預かってたらしくて。

 数に制限があるから土壇場で使っておかないと、混乱を招くからだって」

「それでも、病み上がりなのですし・・・」

「零仁がその辺りの配慮を怠っているわけがない」

「「ものすごい説得力だな」ですね」

 

 耀の一言に、十六夜と黒ウサギが口をそろえて納得する。

 

「ここにいらっしゃったのですね、皆さん」

 

 そこに茶々丸も合流する。

 

「茶々丸さん、私たちを探していらっしゃったのですか?」

「皆さんがどのように動くのか聞いておきたいのですが、まだ作戦会議中でしょうか?」

「……‥‥十六夜さん、耀さん、茶々丸さん、お願いがございます。聞いてもらえますか?」

「聞くだけなら自由だ、何だ?」

「魔王の相手は、この黒ウサギに任せてはいただけないでしょうか?」

 

 その真摯さに、静かな怒りを込めて黒ウサギは頭を下げる。

 

「十六夜さんが魔王とのゲームを心待ちにしていたことは承知しておりますしかしどうしても……黒ウサギは、魔王に一矢報いてやらねば気が済みません」

 

 黒い髪が淡い緋色の光に包まれ、軍神の眷属に相応しいオーラが全身を包む。

 その様子をみて、十六夜はクッと喉で笑い問いかける。

 

「勝算は?」

「あります。いえ、むしろ最高の相性とも言えるギフトを黒ウサギは所持しております。たとえ相打つ事になろうとも必ずや魔王の首を―――」

「なら却下だ」

「同じく」

「私もそれは見過ごせませんね」

 

 三人ともに即却下を言い渡される。

 慌てて言い返そうとしている黒ウサギの唇を指で押さえて呆れ混じりに笑う十六夜。

 

「悲観しすぎだ黒ウサギ、お前が考えているほど状況は悪くない。連中の目的を忘れたか?『優秀な人材を出来るだけ多く手に入れたい』…それが奴等の狙い。なら必然的に奴等の行動は感染者増加に伴う降参狙いの消極的な時間稼ぎになる………そして、それが奴等の隙になる。連中は自分が倒されないようにしつつ、ステンドグラスも守らなきゃいけない。しかし防戦ってのは必然的に数が必要になる。それなら連中は自然とバラけて行動するはず」

「そこを各個撃破……でございますか?」

「ハハッ、聡いのはポイント高いぜ黒ウサギ」

 

 笑って黒ウサギのウサ耳を引き寄せる。

 

「まず、サンドラと黒ウサギ、茶々丸で〝黒死斑の魔王ブラック・パーチャー〟を確実に抑える。その間に俺とレティシア、耀がヴェーザーとラッテンを倒す……主力が集中したと同時に黒ウサギの切り札でトドメを刺す――――必勝策としてはこれが最良だろ?」

 

 具体的な案を出せば黒ウサギは驚いたように目を瞬かせた。

 

「た、確かに必勝の布石でしょう。しかし十六夜さんは………それで、いいのですか?」

「別に構わない、魔王と戦う機会はまた別にくる。今回は特別に譲ってやる。帝釈天の眷属の力って奴を、今回は楽しませてもらうさ」

 

 ニヤリと笑ってやれば、黒ウサギは力強く返す。

 

「了解です。帝釈天様によって月に導かれた〝月の兎〟の力とくと御覧くださいまし」

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 ゲーム開始時刻になり、主催者側は再開前の確認を行なっていた。

 

「マスターマスター。どうやら連中、私達の謎を解いちゃったそうですよー?」

 

 布の少ない白装束を揺らし、ラッテンは配下のネズミに情報を収集させ、参加者側がどれくらい謎解きを進めているかの情報を得ていた。

 そして、核心まで至ってしまった事を聞き、軍服のヴェーザーは黒い短髪を掻きながら愚痴る。

 

「チッ、ギリギリまで最後の謎は解かれないだろうと踏んでいたんだがな」

「……構わないわ。最悪の場合は皆殺しにすればいいだけよ」

 

 後ろで両手を組み、悠々としたその姿勢のまま二人に振り返る。

 

「ハーメルンの魔書を起動するわ。謎を解かれた以上、温存する理由はないもの」

 

 ペストの言葉に、二人は凶悪な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「ふふーん、いよいよもって盛り上がってきましたねーマスター」

「おい、油断するなよラッテン。参加者側には箱庭の貴族もいる」

 

 厳しい声音のヴェーザーに、片眉を歪ませて振り向くラッテン。

 

「……やっぱり凄いの?月の兎って」

「ああ。一度戦っているところを見たが、並の神仏じゃ歯が立たん。

 あれは正真正銘、最強種の眷属だ。授けられているギフトの数が違う。

 俺やお前じゃ、とても抑えられんだろうな」

 

 苦い顔で呟くヴェーザーとラッテン。ペストはそんな二人に、微かに笑いかけた。

 

「そっ。ならば魔書の他に、もう一つ策を設けるわ」

「策?」

 

 ペストは悠然と歩み寄り、綺麗な指先を伸ばしてヴェーザーの額に押し付ける。

 

「ヴェーザー、貴方に神格を与えるわ。

 ラッテンにも与えられれば確実だけど、今の私では短時間で二人に与えるなんて真似は無理なのよね。

 でもまあ、一人入れば十分よ。開幕と同時に、魔王の恐怖を教えてあげなさい」

 

 

 

 

 




主人公がデレました。

二章分は今年中には・・・

では、また次回に

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