召喚したらチートだった件   作:uendy

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そ し て こ の 連 投 で あ る 


一応長期休暇ブーストを着けてますから(ドヤァ


十七話~ 審判決議、そして・・・

 境界壁・舞台区画。大会運営本陣営、大広間。

 宮殿内に集められたノーネーム一同と、その他の参加者達。負傷者が多くいる中、十六夜と零仁、茶々丸を見つけた黒ウサギとジンは心底心配している様子だった。

 

「十六夜さん、零仁さん、お二人ともご無事でしたか!?」

「こっちには何もなかったよ」

「こっちも問題ない。他のメンツは?」

「残念ながら……三人と黒ウサギを除けば満身創痍です。飛鳥さんに至っては姿も確認できず……すみません、僕がしっかりしていれば……!」

「なるようにしかならないよ、お前が居なくてもな」

 

 悔しそうに頭を下げるジンを、零仁は切り捨てる。当然、責任は感じていようが彼自身にあの状況を打破する力が無いのは事実であった。

 一方の耀とレティシアも敵との交戦で疲弊しており、すぐに戦いを始められるような状況ではなかった。

 

「白夜叉様の伝言を受け取り、すぐさま審議決議を発動させたのですが……少し遅かったようですね」

 

 審議決議。それは、主催者権限によって作られたルールに不備がないかどうかを確認するために与えられたジャッジマスターが持つ権限の一つである。

 今回のケースで言えば、このゲームには勝利条件が確立されていない可能性があると、ゲームマスターに指定された白夜叉が異議を申し立てたため、主催者と参加者でルールに不備がないかを考察しなければならない。そのため、魔王の奇襲に対抗するための権限、という面も持ち合わせている。

 

「無条件でゲームの仕切り直しが出来るなら、随分と強力な権限じゃねえか」

 

 思わず感心の声を上げる十六夜。しかし、黒ウサギは複雑そうな表情で首を振った。

 

「そうとも限りません。ルールを正す以上、これは対等なギフトゲームとなります。単刀直入に説明しますと、このギフトゲームによる遺恨を一切持たない、という相互不可侵の契約が交わされるのですヨ」

 

 黒ウサギの説明を聞き、零仁がある結論を口にする。

 

「負ければ、今後我々は報復を理由としてギフトゲームを挑めない、ということか」

「だったら、負けなきゃいい。最初から負ける気なんて無いだろう?」

 

 零仁は不敵に笑みを浮かべる。その顔を見て、黒ウサギの険しかった表情が幾分か和らぐ。十六夜も、

 

(まったくもってその通りだ)

 

 と、失笑していると、大広間の扉が開いた。大広間に入ってきたのはサンドラとマンドラの二人。サンドラは、緊張した面持ちのまま、参加者に告げる。

 

「今より魔王との審議決議に向かいます。同行者は四名です。まずは箱庭の貴族である、黒ウサギ。サラマンドラからはマンドラ。その他にハーメルンの笛吹きに詳しい者がいるのならば、交渉に協力して欲しい、誰か立候補する者はいませんか?」

 

 参加者の中にどよめきが広がる。童話の類は知られている範囲が極めて狭い。伝承のさわりを知っている者はいても、細部に詳しい者は少ないのだろう。名乗り出る者がいない中、十六夜はジンの首根っこを掴まえ、

 

「ハーメルンの笛吹きについてなら、このジン=ラッセルが誰よりも知っているぞ!」

「……は!?ちょ、ちょっと十六夜さん!?」

「そうだぞー、毎晩毎晩 書庫に潜って寝ずに伝承とか読み漁ってたぞ~!」

「れ、零仁さんまで!?」

 

 突然の事に驚くジン。十六夜が元から破天荒さが目立つのは周知の事実ではあったが、まさか零仁もそれに乗っかるとは思ってもいなかったのだ。

 一方、十六夜はジンを悪戯半分本気半分でノーネームのリーダーであることと、その名前を目立たせるかのように捲し立てていく。

 

「ジンが?」

 

 まさか、ここでジンの名前が出てくるとは思わず、キョトンとした顔を向けるサンドラ。一瞬だけ子供っぽさが顔に出るが、すぐに頭を振って表情を真剣なものに変えるジン。

 

「他に申し出がなければ、ノーネームのジン=ラッセルにお願いしますが、よろしいか?」

 

 サンドラの決定に、再びどよめきが広がる。ノーネームという、信用の欠片もないところから出た人物に自分達の命運が賭けられようとしているからだろう。が、他の者たちは、ハーメルンの笛吹きについてそこまで詳しいわけではない。

 十六夜は何時になく真剣な表情でジンに囁く。

 

「馬鹿かお前。零仁の言ったように毎夜毎晩書庫で勉強していたのは何のためだ。ここで生かさなくてどうする」

「そ、それは」

 

 ジンの瞳が揺らぐ。新しい同志たちがコミュニティに入ってから、十六夜は朝早く本拠を出て、帰ってきては未読の書籍を漁る生活サイクルを送っていたのだ。ジンも、その書庫の案内を含め、乏しかった才能を補うため自身も勉学に勤しんでいたのだった。

 今回は偶然にも、その知識が役立つゲームなのだ。

 

「周りに気を使うのはまあ、いいことだ。誰にも迷惑をかけねえってのが御チビの処世術なら文句言わねえよ。けどな、お前は俺達の旗頭なんだ。お前が我を見せつけねえとまかり通らねえことが、今後も必ず来る。違うか?」

「……」

 

 十六夜の言葉を奥歯で噛みしめ、顔を上げるジンに周囲の視線が集まる。

 

『人が初対面の他人を評価するとき、一番初めに量るのは相手の実績 即ち”過去”だ。

 ―――――昨日とて今日だった。

      今日とて明日だった。

      明日とて過去となる。ただ・・・・それだけだ』

 

 不安と不満。混濁した負の視線の中で、零仁の言葉が思い出された。

 

(僕は、いつまで人の背中に隠れているつもりなんだ・・・・・・?)

 

 黒ウサギとサンドラが向ける期待の視線を見て、大きく深呼吸をすると、

 

「はい……十六夜さん、零仁さん。僕が行きます」

 

 同行の意思を口にした。勇気を持って踏み出したジンを、ここぞとばかりに十六夜が肩に担ぎ上げ、周囲に見せつける。

 

「よっし、じゃあ行くぞ御チビ様!この一件で名が売れたら本格的にチラシでも刷るか」

「な、なんでそうなるんですか!?」

「そりゃあ当然だろうが。おっと忘れるところだった、旗頭のお前の名前入れてばらまかないとな」

「絶対嫌です!ほら、零仁さんも何か言ってやってください!」

「……今はそんな些事気にするタイミングか?」

「些事!?僕からすれば十分に大g「ま、確かにこれはゲームが終わったら真面目に検討を」しません!!」

 

 抗議するジンとからかう十六夜。それを些事と切って捨てる零仁。

 そんな三人を、サンドラと黒ウサギは半ば呆れた様に笑って見守るのだった。

 

――――――――――――――――――――

 

境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、貴賓室。

 

「ギフトゲーム、The PIED PIPER of HAMELINの審議決議、及び交渉を始めます」

 

 厳かな声で黒ウサギが告げる。十六夜たちの対面には、白黒の斑の少女が座り、その両隣に軍服のヴェーザー、白装束のラッテンが、座る。

 

(ふぅん?両隣の二人がラッテン(ネズミ)にヴェーザー河。あと、サンドラが倒した巨人がシュトロム()だっけ?そんで最後は……いや、後でいいか)

 

 ジンに付いてきた十六夜は思考を止める。招かれた部屋は貴賓室。本来招かれるはずであった来客は、ゲームの外にいたのか不在となっているらしい。対等のゲームを定める為の交渉を謁見の間で行うわけにもいかず、この部屋で行うこととなったのだ。

 だが、開口一番に零仁が爆弾を投下する。

 

「やぁ、こんばんわお嬢さん」

「・・・・・驚いていないのね」

「何に対してかな?君が魔王だったこと?それともお祭りに乱入できたことかな?」

「すべてお見通しだったというわけね」

 

 クツリと笑う零仁に、黒ウサギが問い詰める。

 対象的にラッテンとヴェーザーは何事か得心がいったように零仁に目を向けていた。

 

「ど、どういうことですか 零仁さん!?」

「どういうことも何も、昨日観光の時に出会っただけだよ」

「な、なら―――――」

「教えておけと?流石に相手の強さは判っても相手が魔王かどうかはわからんよ。とりあえず、”審議決議”進めようか」

 

 飄々と黒ウサギの言及を躱しながら、先に進めることを促す。

 

「…そうですね。では、まず主催者側に問います。此度のゲームですが「不備はないわ」」

 

 斑の少女は言葉を遮る様に吐き捨てる。

 

「今回のゲームに不備・不正は一切ないわ。白夜叉の封印も、ゲームのクリア条件も全て整えた上でのゲーム。審議を問われる謂われはないわ」

 

 静かな瞳とは裏側に、ハッキリとした口調で返す少女。

 

「……受理してもよろしいので?黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘を吐いてもすぐに分かってしまいますヨ?」

「ええ。そしてそれを踏まえた上で提言しておくけれど。私達は今、無実の疑いでゲームを中断させられているわ。つまり貴女達は、神聖なゲームにつまらない横槍を入れているということになる……言ってる事、分かるわね?」

 

 涼やかな瞳でサンドラを見つめる少女。対照的にサンドラは歯噛みした。

 

「不正がなかった場合、主催者側に有利な条件でゲームを再開させろ、と」

「そうよ。新たなルールを加えるかどうかの交渉はその後にしましょう」

「……わかりました。黒ウサギ」

「は、はい」

 

 少し動揺したように頷く黒ウサギ。ここまでハッキリとした態度を取ってくるとは思わなかったのだろう。黒ウサギは天を仰ぎ、ウサ耳をピクピクと動かす。

 ギフトゲームは、参加者側の能力不足・知識不足を不備としない。

 今回のルールに不備があるとすれば、白夜叉の参加を明記しておきながら、参戦できないという点。その理由も明らかとなっておらず、契約書類に明記されていたのは、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ、の一文のみ。

 これでは、イカサマをしていたと疑われる可能性を指摘されても仕方のないことだろう。

 黒ウサギはしばし瞑想した後、気まずそうに顔を伏せた。

 

「……箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに、不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な方法で造られたものです」

 

 これで参加者側は一気に不利となってしまう。斑の少女は、そんなことなど当然、と言わんばかりに微か微笑むと、

 

「ルールは現状維持。後は……仮に再開の日を明日以降にできるなら、最長でいつ頃になるの?」

 

 少女の言葉に意外そうな表情を見せる参加者達。明らかに劣勢である参加者達に時間を与えるというのだから無理もないだろう。

 

「え、ええと……今回の場合では、一ヶ月でしょうか」

「じゃ、それで手を……」

「・・・・・」

「待ってください!」

 

 ジンが声を張り上げる。その声はこの上なく緊張していた。対する十六夜は思案気に押し黙っていた。

 

「……なに?時間を与えてもらうのが不満?」

「‥‥‥‥いや、ありがたいぜ?だけど場合によるね……御チビ」

 

 わざわざ時間を取るという事は、長期的になることで主催者側にメリットが出てくるはずだ。そして、ジンにはそれにある心当たりがあった。

 

「はい。主催者に問います。貴女の両隣にいる男女はラッテンとヴェーザー。後ろにいるのがメラグだと聞きました。そしてもう一体がシュトロムだと。なら貴女の名は、黒死病……ペストではないですか?」

「ペストだと!?」

 

 一同の表情が驚愕に歪み、一斉に斑の少女、ペストを見つめた。が、それも無理のないことだろう。

 黒死病とは、十四世紀から始まる寒冷期に大流行した、人類史上最悪の疫病である。この病は、敗血症を引き起こし、全身に黒い斑点が浮かんで死亡する。

 グリム童話のハーメルンの笛吹きに現れる道化が斑模様であったこと。そして黒死病が大流行した原因であるネズミを操る道化であったこと。

 この二点から、百三十人の子供達は黒死病で亡くなった、とう考察が存在するのだ。

 

「ペスト……そうか、だからギフトネームが、!」

「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」

「……ええ、正解よ」

 

 涼やかな微笑でペストは頷いた。

 

「御見事、名前も知らない貴方。よろしければ貴方とコミュニティの名前を聞いても?」

「……ノーネーム、ジン=ラッセルです」

 

 コミュニティの名前を聞いたペストは、少し意外そうに瞳を見開いた。

 

「そっ……覚えておくわ……だけど確認を取るのが行って遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右できると言質を取っているわ。勿論、参加者の一部には既に病原菌を潜伏させている。無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものを」

「っ……!?」

 

 最悪の状況だった。彼女の撒いた呪いが黒死病と酷似するのならば、発症するまで最短で二日。一ヶ月もあれば力の無い種は死滅するだろう。

 彼らは今、戦わずして負けようとしているのだ。

 

「ジャ、ジャッジマスターに提言します!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いがあります!もう一度審議を」

「ダメです!ゲーム中断前に呪いを潜ませてたとしても、主催者(ホスト)側が説明する義理はありません。また彼らに有利な条件を押し付けられるだけです・・・・」

 

 ぐっと言葉を呑みこむサンドラ。その悔しそうな姿を変わらない涼やかな微笑のまま見つめるペスト。

 

「主力はここにいる面々?」

「・・・・・・・」

「それで正しいと思うぜ、マスター」

 

 黙り込む参加者の代わりにヴェーザーが答える。

 

「なら提案しやすいわね。――――――――ねぇ、皆さん。ここにいるメンバーと白夜叉がグリムグリモワール・ハーメルンの傘下に、降るなら、他のコミュニティは見逃してあげるわよ?」

「なっ」

「私、貴方達の事が気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭がいいし」

「私が捕まえた赤いドレスの子もいい感じですよ、マスター♪」

 

 ラッテンが愛嬌たっぷりに言うと、零仁を除いたノーネームのメンバーの表情が強張る。

 

「なら、その子も加えて、ゲームは手打ち。参加者全員の命と引き換えなら、安いものでしょ?」

 

 微笑を浮かべ、愛らしく小首を傾げるペスト。しかし、その笑顔の裏に秘められたのは、惨劇の意味。

 従わなければ皆殺しだと、この少女は笑顔で言ってのけたのも同然。戦慄するような、幼くも美しい笑みに戸惑う一同。そんな中、十六夜とジンだけが冷静だった。

 

「これは、白夜叉様からの情報ですが。貴女達、グリムグリモワール・ハーメルンは新興のコミュニティなのでしょうか?」

「答える義務はないわ」

 

 即答するペスト。それが、逆に不自然さを浮き彫りにすることとなる。十六夜がそれを察し、すぐさま畳み掛ける。

 

「だからこそ優秀な人材に貪欲というわけか」

「……」

「おいおい、このタイミングでの沈黙は是ととるぜ?いいのか、魔王様?」

 

突破口が見え始め、挑発的に笑う十六夜。ペストは笑みを消し、眉を歪ませて十六夜を睨んだ。

 

「……だからなに?私達が譲る理由は無いわ」

「それはどうでしょうか」

「?」

 

ジンは、真剣な声でペストに答える。

 

「貴女達は僕らを無傷で手に入れたいと思っている。でも、一ヶ月も放置されたら、きっと僕等は死んでしまう……だよね、サンドラ」

「え、あ、うん」

 

 突然話を振られたサンドラは地の返事で返す。慌てて正そうとするが、ジンはそれを聞かずに続けた。

 

「そう。死んでしまえば手に入らない。だから貴女はこのタイミングで交渉を仕掛けた。タイムリミットが過ぎて、その中で失われる優秀な人材を惜しんだんだ」

 

 断言して言い切る。今回に限ってだが、ジンはこの解答に絶対の自信があった。しかしペストは、それでもなお憮然と言い返す。

 

「もう一度言うけど、だからなに?私達には再開の日取りを自由にする権利がある。一ヶ月では病死しても、二十日。二十日後に再開すれば、病死前の人材を「では発病した者を殺す」」

 

 全員がマンドラに振り向く。その瞳は真剣そのものだ。

 

「例外はない。たとえサンドラだろうと箱庭の貴族だろうと私だろうとだ。フロアマスターであるサラマンドラの同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」

 

 絶句する。ブラフとしても過激すぎる宣言だ。が、十六夜は策を閃いた様にマンドラから繋げる。

 

「黒ウサギ。ルールの改変はまだ可能か?」

「へ?……あ、YES!」

 

 黒ウサギも十六夜の狙いに気付いたようだ。

 

「交渉しようぜ。俺達はルールに自決・同士討ちを禁ずる、と付け加える。だから再開を三日後にしろ」

「却下。二週間よ」

 

 即決を下される。だが、二週間は まだ 早い。謎解きの時間も含め、理想は一週間以内。他に交渉に使えるカードはないかと見渡し、十六夜と黒ウサギの目が合う。

 

「今のゲームだと、黒ウサギの扱いはどうなってるんだ?」

「黒ウサギは大祭の参加者ではありましたが、審判の最中だったので十五日間はゲームに参加できない事になっています。主催者側の許可があれば別ですが」

「よし、それだ魔王様。黒ウサギを参加者として登録させれば手に入る。どうだ?」

「十日。これ以上は譲れないわ」

 

 黒ウサギが欲しいのは、ペストも同じようだ。四日期限が縮まったが、まだ足りない。

 しかし、ここで十六夜が決定的なことを言ってのけた。

 

「・・・・なぁ、零仁。お前、()()()()()()()()()()()?」

「「「「「「「!!」」」」」」」

 

 これまでの前提条件全てを打ち崩すかもしれないその一言。

 だが、さらにこの場のすべてを驚愕させる言葉が飛び出した。

 

「ん?まぁ出来んじゃね?この程度なら――――――

「な、ならすぐに――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――まぁ、やんないけどね」

「「「「「「「なっ!!」」」」」」」

 

 これには、ペスト、ヴェーザー、ラッテンの三人も声を出して驚いた。

 今置かれている不利な状況それらを一気に打開し、ともすればしかるべき栄誉すらも手に出来る状況で零仁はそれらを断ったのだから。

 これにはマンドラも声を張り上げる。

 

「ふざけるなよ、貴様!!」

「ふざけるな、と言われてもねぇ。どういう風に考えているのか知らないけど、これは”ゲーム”なんだぞ?」

「――――――!」

 

 もはや、全員を侮辱したともとられかねない発言を行いながらも、零仁は続ける。

 

「命がかかってる?誇りがかかってる?()()()()()()()()

 それともお前らは『すべてのマスに一手で動ける駒』で相手に勝って、誇りある戦いだったと胸を張れると?

 私には無理だ」

 

 絶句。それこそがこの場にいる全員の共通解だった。

 隔絶しきった価値観の違い。それが皆を聞きの姿勢に回らせた。  

 

「何より、俺は弱い者いじめは嫌いでね。

 そこのお嬢さんがせっせと拵えたゲームを一方的に蹂躙しろと?

 それこそ恥を知れ、恥を」

 

 この発言がペストの闘争心を煽った。

 

「あなた程度が私を?倒せるとでも?」

 

()()()()()()() ()()()()()

 

 

 

 

 

 

――――――――ズッと周囲の温度が、空気が押し下がったかのような感覚。

 殺気が、殺意が部屋中に満ち満ちて、全員に重く圧し掛かる。

 直接向けられていない十六夜たちですら冷や汗と震えが止まらないのだ。

 向けられている本人たちはもはや生きた心地がしないことだろう。

 

「――――――ッ」

 

 かろうじて、ペストだけが震えを押さえつけるように零仁を睨み付けていた。

 しかし、その瞳の奥に宿る恐怖の色までは拭えない。

 そんな中 零仁だけは何か妙案が浮かんだかのように言葉を発する。

 

「・・・・ふむ。いや、ならばこうしよう。

 呪いの解呪を行い。―――そのついでに『隷属』か『洗脳』の類を仕込もう。

 それを用いて残りも一気に服従させよう」

「「「「「「「「――――――――!!」」」」」」」」」

「うむ、それが良い。どうかね、ジン=ラッセル。我らが頭よ。

 人手の足りぬ我々に使い捨ての駒が百単位で手に入るぞ?

 いくら戦力にならぬ塵とは言え、それだけ集まれば小山ぐらいにはなるだろう?」

 

 ジンの背後に回り、その小さな方に両手を置いて自らの案を述べる零仁。

 すでに殺意は収まっているとはいえ、殺気は今だ収まってはいなかった。

 この様子だけでこの場にいる全員がハッキリと直感した。

 彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実に。

 

「どうした?ジン

 必要な手段は私が揃えよう 弾込めも私が行おう 銃も私が構えよう 照準も私が定めよう 弾を弾装にいれ遊底を引き 安全装置も私が外そう だが放つのはお前の意志だ。

 さぁ、命令をジン=ラッセル」

 

「・・・い、いえ。貴方は待機を、お願いします」

 

 震える声でジンは零仁はお願い(オーダー) をした。

 そんなジンの言葉に、零仁は先ほどまで釣り上げていた唇を下ろし、無表情でジンを見下ろしていた。

 

「了解した。では、命令通りに」

 

 殺気も引っ込め自らの席に座る零仁。

 詰まらなそうとも失望したようにも取れる声音。

 しかし、ほんの少しとは言え彼と共にいた十六夜と黒ウサギだけは気づいた。その瞳が、声音が『弟の成長を見守る兄のような柔らかさ』をともしていたことに。

 

 

「・・・・・ですが、ただでとは言いません。零仁さんは今回僕たちの手助けをしない、変わりにゲーム期間を3日に縮めてください」

「・・・・・・」

「・・それだったら、『俺は白夜叉のそばを離れない』ってのでいいぞ」

「…わかったわ。なら、貴方にはあの結界の内部に入ることを許すわ」

 

 この意見に郁子もなく賛同するペスト。彼女からしてみれば願ってもいない好条件だった。

 さらには、サラマンドラの二人もこのことに反対しなかった。大方先程の発言に危機感を覚えての行動であろう。

 

(……気にいらないわ)

 

 ペストは不快だった。一見して合理的に会話が進んでいるが、何もかもが参加者側の目論見通りになっている。それが気にくわない。

 確かに、自分は魔王ではあるが、ルーキーだ。思う様にゲームメイクができないのはある種仕方がないのだろうが、何より気にいらないのは。

 

 

「ねえジン。もしも三日で再選できるとして……貴方は魔王に勝てるつもり?」

「勝てます」

 

 脊髄反射のような答え。ジン自身、考えて答えたわけではないので、内心肝が冷えている。しかし、それでも自分の同士の勝利だけは疑っていなかった。

 

「……そう、良く分かったわ」

 

 ペストは不機嫌な顔を一転させ、にっこりと笑った。そんな、華が咲いた様な笑顔で、

 

「宣言するわ。貴方は必ず……私の玩具にすると」

 

 黒い風が吹き抜ける。魔王は消え、一枚の黒い契約書類だけが残った。

 

【ギフトゲーム名:The PIED PIPER of HAMELN

 

プレイヤー一覧

●現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ(箱庭の貴族含む)

 

プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

●太陽の運行者・星霊:白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)

 

プレイヤー・夜刀神 零仁に対する制限事項

(1):白夜叉の傍を離れてはならない

 

プレイヤー側・禁止事項

(1):自決及び同士討ちによる討ち死に

(2):休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出

(3):休止期間の行動範囲は、大祭本陣営より500M四方に限る

 

ホストマスター側:勝利条件

(1):全プレイヤーの屈服・及び殺害

 

プレイヤー側:勝利条件

(1):ゲームマスターを打倒。

(2):偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げる

 

休止期間

(1):三日間を、相互不可侵の時間として設ける

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

グリムグリモワール・ハーメルン印】

 

 

―――――――――――――――――

 

ククっ、ハハハハハ

『うれしそうですねマスター』

もちろんだとも。期待には程遠いが確かに成長していたのだからな。

欲を言えば、”余計なことはするな、黙って従っていろ”ぐらい言ってのけるくらいの胆力が欲しいところだけどな。

『これで、お望み通りの状況に持っていけましたよ、マスター

 ()()()()()()()()()という状況に』

ああ、オーダー通り。パーフェクトだ、ラフィー。

『恐悦至極』

それはそうと、どんな風に転がるかね?

『さぁ?それを眺めるために傍観席を取ったのでしょう。少なくとも()()()()()()()()()()()()調整なさって』

ああ、ほんとに楽しみだ。

 

 

 いくつかの保険を掛けながら、傍観席(バルコニー)へと向かう俺だった。

 

 




因みに主人公の一人称が時折”私”に変わりますが、要するに《王様(魔王)モード》みたいな感じで、気持ちとかを意識的に切り替えているだけで大きくは変わりません。

ただ、こっちの方が多少エゲツナイ策とかを発送・提案しやすいので本人が切り替えてるだけです。


まぁ、そんな感じで
では、また次回に

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