ただ、言い訳させてほしい。教師の課題が牙を剝いてきたんだ。危うく食い殺されるところだったんだ。
という、冗談(白目)は置いといて、ついに七章ですな。
エルキドゥ、君を待ってたんだ(石180個)
「本当に失礼ですよ。まとめて吹き飛ばそうというその考え方も、女性を殴り飛ばそうというその行動も。
お詫びに、私と一曲踊っていきなさい」
その言葉と共に蹴り飛ばされたジャックに、アーシャが駆け寄る。
「ジャックさん!?」
「私のことはいいから早く行きなさい」
「ほら、耀さんも早く」
「うん、そっちはよろしく」
パートナーの言葉により、すぐさま駆けだす両名。
残された者たちは互いに睨み合う。
「‥…よろしかったのですか?」
「何の話です?」
「あなたの実力なら、少なくとも足止めに徹するだけならば
なぜ、御見逃しに?」
「簡単なことですよ。私たちはあくまで脇役。
このゲームにおけるプレイヤーは彼女たちだ。だからこそ、彼女たち自身で決着を着けるべきというだけですよ」
「なるほど、でしたらなおのこと彼女の加勢に向かわねばなりません、ねっ」
アーシャは可燃性のガスを操れ、それを用いた火炎攻撃ができる。しかし、言ってしまえばそれだけなのだ。
対する耀は犬並みの嗅覚に、チーターのような脚力を持ち、挙句にグリフォンのように風を操れる。地力が決定的に違うのだ、一対一なら勝敗は火を見るよりも明らかだろう。
だからこそジャックは早々に先に進むため、不意打ち気味に炎弾を七発同時に打ち込んだ。
これならば、それなりの猛者でも火傷や熱気で長時間拘束できる。――――――――そう、
乾いた発砲音が七つとそれと同時に掻き消える炎弾
茶々丸の両手には、いつの間にか大型の拳銃が二丁握られていた。
「…今のは…なにを‥‥?」
「魔術の類を打ち消す術式を組み込まれた銃弾を七回素早く撃ち込んだだけですよ」
こともなげに言ってのける彼女にジャックは己の評価を一段上に修正する。
本来一発でも迎撃の難しい炎弾を七発。しかも、ジャックが銃を抜き去り、発砲する瞬間を捉えきれなかった。それでもまだ余力を残しているという事実にジャックはわずかながらに戦慄した。
「あなたは一体?」
「つくづく失礼な方ですね。名を聞くならばまず自分から名乗るものではないので?」
今度こそジャックは痛いところを付かれた、というような仕草の後 少し姿勢を正してこう告げた。
「これは失礼いたしました。
この身は生と死の境界に顕現せし大悪魔、ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作!それが私、世界最古のカボチャのお化け……ジャック・オー・ランタンでございます♪」
「ご丁寧なあいさつをどうも。‥‥あぁ、
私の名は姫神茶々丸。我が主 夜刀神零仁様の圧倒的な技術力によって生み出された 正真正銘人類の英知の結晶です。
以後お見知りおきを」
本職のプロ顔負けの完璧な所作で名乗りを上げる茶々丸。
それは優雅であると同時に、一部の隙も無い完璧といっても差し支えない所作であった。
「では、今度こそ一曲お付き合い願いますよ」
「よいでしょう。聖人ペトロより烙印を押されし不死の怪物、このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」
ブワッと炎が広がり、茶々丸に襲い掛かる。先のような”点”ではなく”面”の攻撃、銃という武器を扱うものには十分効果的なものだった。
だからこそ、茶々丸は相殺するために銃弾を連射することによる”面”の攻撃をもって迎え撃つ。
炎の壁に開けた大穴に即座に飛び込み攻撃を回避する茶々丸に
「お待ちしておりましたよ、茶々丸殿」
茶々丸は真横からの攻撃に眉一つ動かさずに反応する。
振りぬかれる拳に合わせてグリップの底をぶつけることで拳の進行方向を反し、さらには体をひねり 完全に衝撃をいなすとともに反撃にまで移る。
炎の壁にも穴をあけた連射、しかして、今度こそ茶々丸の表情を動かした。
「―――ッ!」
「YAHOッ!」
頭部に無数の風穴を開けられながらも拳を振るってきたのだ。
それでも、茶々丸は冷静に状況を見極め行動する。
振りぬかれた拳の上を駆け上がり、置き土産に蹴りと銃弾を一発ずつ添えて、別の木の枝に飛び移る。さしずめ化生から指導を受けた天才剣士のように。
「‥‥‥あなた自身をどうにかするには銃弾を変える必要があるようですね」
「ヤホホ!コノぐらいでやられはしませんよ、茶々丸殿」
「ならば、これはいかがですか?」
繰り出したのは先と同じ高速連射だが、その銃口から吐き出されるものは全く異なったものだった。
いきなり吹き飛ばされ木の幹に叩き付け続けられるジャック、その姿はさながら見えない壁に叩き付けられているよう
「・・・・なるほど、衝撃波ですか」
「打ち抜いても平然とされるならば、叩き付ければいい。私の勝利条件は、貴方の足止めですからね・・・いや、
そんな茶々丸の言葉と共に周囲の風景がガラス細工のように砕け散り、円状の舞台に戻る。
呆然とする観客たちを尻目に黒ウサギが終了を宣言する。
『勝者、春日部耀!!』
ハッと観客席から声が上がる。次に割れんばかりの歓声が会場を包んだ。
そんな中で茶々丸は零仁に向かって頭を垂れる。
その様子を見たジャックが声をかける。
「……彼があなたの作成者ですか?」
「ええ、あの方が我が
「・・・
「‥…賢明な判断ですね」
パッと見は完全に普通の人間だった。しかし、
そうしているとすぐに耀が茶々丸に声をかける。
「ビクトリー、ありがとう茶々丸が居なかったら間違いなく負けてた」
「いえいえ、私は私の仕事に徹しただけですよ」
「ヤホホ、ということは私は仕事に徹せなかったといったところですか」
「ありとあらゆる闘争において勝利に近づくために共通することは、『相手に仕事をさせないこと』ですよ」
「なるほど、その通りですね」
思ったより仲の良さそうな二人に耀が目を丸くしていると、不機嫌そうなアーシャが声をかけてきた。
「おい、お前!名前はなんて言うの?出身外門は?」
「‥…春日部耀。出身は『外』。あなたは?」
「…私の名前はアーシャ=イグニファトゥス!次に会うようなことがあったら、今度こそ私が勝つからな!覚えとけよ!」
「それは私のセリフ今度こそ私が勝つ」
「・・・・嫌味のつもりかよ」
「まさか、ただ今回はパートナーに助けられた部分が大きすぎた。今度は完璧に勝つよ、
「―――ッ!・・・悪かったよ『ノーネーム』を侮辱して」
「‥別に気にしていない。むしろ『確実に相手は侮ってくるから、そこを突け』とすら言われてた」
耀がバルコニーへと視線を向ける先には零仁が何事か思案顔でこちらを眺めていた。
だが、その顔もアーシャには違って見えるようで
「めちゃくちゃ睨んでるじゃん」
「いや、どちらかといえば私のゲームメイクに不満がありそうな顔だよ」
そんな風に戦々恐々とする耀だが、茶々丸が声をかける。
「大丈夫だと思いますよ」
「わかるの?」
「あの方の深謀遠慮を計れはしませんが、汲み取る位ならばなんとか。
おそらくは、本物の『不死』との戦闘経験を積ませる機会を逃した。といったところではないでしょうか」
「まさか~」
アーシャからしたら考えられないことだった。いくら経験になるといってもコミュニティの敗北に手を貸す同志は居ないといってもよい。
しかし、耀の核心に迫られたような、苦虫を嚙み潰したような表情を見るとそんな考えも揺らいだ。
「・・・・マジなの?」
「…大マジ」
「アンタも中々大変そうだね」
******
「やったわ。春日部さんの勝ちよ!」
「ちょっとばかし、面白みがなかったっちゃなかったな」
狂喜する飛鳥に、少し厳しめの評価を付ける十六夜どちらも少なからず同志の勝利に喜びを覚えていた。
かくいう零仁は少々不満げだった。
「ふぅむ・・・・」
「どうしたのよ?零仁君。春日部さんが勝ったのよ?」
「そうです。シンプルなゲーム盤なのに、とても見ごたえのあるゲーム。少なくとも不満を覚えることはないはずだ」
「うむ。シンプルなゲームはどうしてもパワーゲームになりがちだが、中々堂に入ったゲームメイクだったぞ。あの娘は単独よりもそちらの才能があるのやもしれん」
敵の挑発を冷静に流し、その上で敵の冷静さを奪い、最低限のやり方で最も効率的な情報を獲得し、それを生かしたゲームメイクをしていた。
口にするのは簡単だが、中々出来ることでは決して無い。
だが、零仁が気にしているのはそんなことではない。
「いやなに、せっかく本物の『不死』が相手だったんだ、一人で行かせて対不死の戦闘経験を積ませるべきだったなと・・」
「・・・・あなたは、同志の敗北を望むのか?」
「それが成長剤になるのなら、喜んで頂こう」
サンドラの怒気すら混じった問いかけだったが、零仁の鋼鉄の覚悟を込めた返答に気おされる。
しかし、すぐに張り詰めた緊張が霧散する。
「まぁ、生憎と『
「何?」
上を向けば、その場にいる全員が同じように上を向く。
遥か上空から、雨のようにばら撒かれる黒い封書。黒ウサギはすかさず手に取って開ける。
「黒く輝く”
『ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"
・プレイヤー一覧
・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する
参加者・主催者の全コミュニティ
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊、白夜叉
・ホストマスター側勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害
・プレイヤー側勝利条件
一、ゲームマスターを打倒
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
数多の黒い封書が舞い落ちる中、静まり返る舞台会場。
観客席の中で一人、膨張した空気が弾けるように叫び声を上げる。
「魔王が‥‥魔王が現れたぞオオォォォォォ――――――!!」
******
―――――境界壁・上空2000m地点―――――
遥か上空、境界壁の突起に四つの人影があった。
一人は露出が多く、布の少ない白装束の女。白髪の二十代半ばほどに見える女は二の腕ほどの長さのフルートを右手で弄びながら、舞台会場を見下ろす。
「プレイヤー側で相手になるのは‥…”サラマンドラ”のお嬢ちゃんを含めて四人って所かしらね、ヴェーザー?」
「いや、三人だな。あのカボチャは参加資格がねぇ。特にヤバいのは吸血鬼と火龍のフロアマスター。――――――後ことのついでに、偽りの”ラッテンフェンガー”も潰さねぇと」
白装束の女に答えたのは、対照的に黒い軍服を着た、単発黒髪のヴェーザーと呼ばれた男。
その手に握られた笛は白装束の御野のものとは違い、長身の男と同等の長さである。楽器としては明らかに常軌を逸した長さだ。
そして三人目は、外見がすでに人ではない。
まるで笛を擬人化したような陶器の巨兵は、顔面に当たる部位に空いた風穴からは、絶えず不気味な鳴動を周囲に放っていた。
その三体に挟まれる形で佇む、白黒の斑模様のワンピースを着た少女が告げる。
「―――――ギフトゲームを始めるわ。貴方たちは手筈通りお願い」
「おう、邪魔する奴は?」
「殺していいよ‥‥…ただ、銀髪に黒いフード付きのロングコートを着た人間。彼だけは確実に捕らえて」
彼女の発言に目を丸くする白装束の女。
「・・・・もしかして、マスターのお気に入りですか?いつの間にか大人になっちゃって」
「ちょっと!それどういう意味よ!?というかそんなんじゃないからね!?」
「なぁ、ラッテンこの場合 俺はその野郎のド頭をぶち割りに行けばいいのか?」
「何言ってんのよヴェーザーここはしっかりと祝福ついでにその子を攫ってくればいいのよ」
「そういうもんか」
「そういうものよ」
「ちょっとホントにそういうんじゃないからね!?・・・ただ、彼なら期待に応えてくれそうってだけで」
そんな風に恥ずかしがる少女。からかわれたのが恥ずかしいというその仕草に二体はさらに煽っていく。
「ヴェーザー、ツンデレの完成よ!ついにマスターのデレが見れたわ!」
「ああ、この戦い負ける気がしなくなった」
「ホントにそんなんじゃ無いったら――!!」
真っ赤になって叫ぶ彼女の声は幸い下には届かなかった。
一言付け加えるなら、うp主の中でペストの性格と邪ンヌの性格がすんごい重なるんだよね。
では、また次回に