個人的には気に入ったキャラだったんですが、終盤に出た為に出番が少なかったコンビをメインに書かせてもらいました。
時系列で言うと銀時が幻想郷となり、彼女と再会する前の話です
万物の運命を操る事が出来る程度の能力を持つ紅魔館の主・レミリア・スカーレット
彼女はとある悩みを抱えていた。
ちょっと前に半壊してしまった館がようやく修復され元に戻って来た頃
彼女は相談相手としてある人物を客室に呼んでいた。
「んで? 俺に聞きてぇ事ってなに? こちとら幻想郷の管理人として忙しいんだからよ、しょうもねぇ事だったら灰にするぞ」
「どの口が言うか職に就いても万年暇人のクセに……まあいい、こっちだって緊急事態なの、話ぐらい聞いて頂戴、お茶も出すから」
レミリアが相談相手としてこの場に呼んでおいたのは幻想郷の新たな管理人・八雲銀時。
先代であり己の妻であった八雲紫が現界から消滅した後、それを引き継ぐ形で夫である彼がその役割を担う事になったのだが
仮にも世界の管理者となったにも関わらず、以前と同様ぐうたらでやる気の無い様子で、いつも何処かへとほっつき歩いて管理者としての自覚は全く皆無である。
一応異変やちょっとした騒動が起きれば、重い腰を上げて動きはするのだが、大抵は博麗の巫女に丸投げし、彼自身が異変の解決を行う事は滅多に無いのが現状だ。
しかしそんな万年死んだ魚の目をした男であっても、レミリアはどうしてもそんな彼に悩みを聞いて欲しかったのだ。
”アレ”の身内であるこの男に……
「ウチの咲夜の事でちょっと相談聞いて欲しいのよ、あなた、一応アレの弟なんでしょ」
「咲夜ぁ?」
咲夜と言えばレミリアの下で従者として働いているメイド長の事だ、そして銀時の実姉でもある。
しかし彼がその名前を聞いた途端、即めんどくさそうに呻きながら眉間にしわを寄せた。
「姉弟つっても未だ距離感も掴めずに互いに牽制し合っている微妙な関係だぞ俺等、ビートたけしとビートきよしみたいなもんだからね、そんなたけしの俺になに聞くつもりだよ」
「……あの暴虐鬼畜メイドをどう上手く接すれば、従者として私に仕えてくれるのでしょうか……?」
「それはお前が頑張れコノヤロー」
実の姉とはいえ咲夜とは以前出会ったばかりだ、現在はおろか彼女の過去さえよく知らない銀時からすれば、ぶっちゃけ他人とほぼ変わりないのである。故にレミリアから相談されてもなんて答えれば良いのかわからない。
「つうかまだここでメイドやってる事が驚きだわ、もうここで働く理由なんて無いだろアイツ」
「クックック、私の圧倒的カリスマに惹かれてしまったのが運の尽き、あの女はもう永遠に私の従者よ……」
「家の風呂掃除やらされてるクセにどっから湧いて出てくるんだよその自信」
「風呂掃除だけじゃないわ、最近じゃトイレ掃除も私担当よ」
「威張るな」
銀時の素朴な疑問にレミリアは鼻高々に己が自然に身に着けたと自負するカリスマ力を自慢げにアピールするも、散々咲夜に虐げられる日々を送っていると聞いている銀時からすれば滑稽としか思えなかった。
「つうかお前って本気になればそこそこ強ぇんだろ? いっそ殺す気でアイツに直接ぶつかって見ろよ、力でねじ伏せちまえば皿洗いぐらいはしてくれるんじゃねぇの?」
「幻想郷の管理人らしい野蛮で短絡的な解決論ね、たかが従者一人従わせる事だけに主が刃を振りかざすなんてただの暴君じゃない、そんな愚かな真似をこのレミリア・スカーレット様がやると思って?」
「本音は?」
「アレと戦うとか怖いから嫌です、堪忍して下さい」
「お前の建て前やプライドも捨ててすぐに正直に答える所、嫌いじゃねぇわ」
最初の反応で偉そうに語りながらも、即座に尋ねればすぐにしゅんとしながら本音を零すレミリアをちょっと面白いなコイツと思いつつ、銀時ははぁ~とため息を漏らした。
「ならいっそ直接本人とキチンと話つけちまえよ、自分が主なんだから従者らしく従え、とか、テメェに給料払ってるのは誰だか言ってみろ、とか」
「そんな事とっくの昔に何度も言ってるわよ! けど何言っても返ってくる答えは「拒否」「無視」「飛び蹴り」の三択しかないのよあの女! あ~もう! 主に対してなんなのよあの態度!」
「おい待て、拒否と無視はともかく飛び蹴りってなんだよ、なんでそれを答えの一つとして受けとめてんだよ、思いきり謀反じゃねぇか、どんだけ心広いんだお前」
聞けば聞く程レミリアがいかに従者にナメられているのかが生々しく伝わって来る。
ここまで来ると流石に銀時でも彼女の事を不憫に思い可哀想な目で見ていると、そこへ……
「何やら盛り上がっておられるようですね、お嬢様」
「ぎょ! いきなり出てくるんじゃないわよ咲夜!」
唐突に二人が座っているテーブルの合間にパッと現れたのはふてぶてしい様子でお茶を持って来た咲夜であった。
どこから盗み聞きでもしていたのか、いきなり現れて早々死んだ目でこちらを見下ろす彼女に慌てて席から飛び上がるレミリア。
「ただでさえ傍にいるだけで恐怖を覚えるのに前触れもなく現れるのは止めてって言ってんでしょ! こっちにも心の準備ってモンがあるんだから!」
「それで一体なんの話題で盛り上がっていたんですか? 内容次第では今持ってる熱々のお茶をお嬢様の頭にうっかり注いでしまうかもしれませんが」
「聞いてない上に脅しまでかけてきたわこのメイド! これはもう明らかな主に対する反逆よ! 退治して幻想郷の管理人さん!」
季節外れの湯気が立ち込む緑茶を持ったまま歩み寄って来る咲夜に、咄嗟に銀時を指さして助けを求めるレミリア。
すると彼女の代わりに銀時がめんどくさそうに髪を掻き毟りながら
「おめぇが言う事聞いてくれないから身内の俺になんとかしてくれって頼まれてたんだよ、おめぇの主に」
「あらそうなの? お嬢様、私の事でお困りなら主として直接言えばいかがかと? わざわざ私の身内まで巻き込まないで下さいませ、面倒なので」
「直接言っても聞かないからアンタの弟を呼んだんでしょ! なんなら親の方も呼んでやろうかしら!? 母親に「娘さんにどんなしつけしたんですか?」って言い付けてやるわよ!」
「ああ、そっちはますます面倒になるのでご遠慮願います、あの人が関わると面倒を通り越してカオスになるので」
基本的に表情は正に鉄仮面で何事にも動じない咲夜ではあるが、レミリアによる「家族への言いつけ作戦」は意外と効果があったらしい。
如何に彼女とて、自分の事を弟ならともかく母親にまで言われたくないのだと。
「で? お嬢様は私に一体どこまでお求めを? これでも私、館内の整備や警護、食事の用意など完璧にこなしていると自負しているのですが?」
「それは当然の行いでしょ、けどアンタって定期的に主である私を何かとコキ使うわよね、風呂掃除やらトイレ掃除やら無理矢理……そういうメイドがやる仕事を私にやらせるの勘弁して欲しいんだけど」
「いかに私であってもこの広い館全般を管理する事は不可能に決まってますわ」
本来レミリアに出すべきお茶を自分でズズッと飲みながら、銀時とレミリアの間の席に座る咲夜
「ですからお嬢様には一日中部屋の中でゴロゴロして堕落した日々を送らせぬ様、私は心を鬼にしてお嬢様に様々な形で体を動かしてもらってるんです」
「嘘ばっかこくんじゃないわよ! 私知ってるんだからね! アンタ私に無理矢理掃除押し付けた後パチェのいる図書館で漫画読み漁ってたみたいじゃない! ホントは全然忙しくないんでしょ! 面倒だから私に仕事やらせてんでしょ!」
「そんな訳じゃないじゃないですか、どうして私が暇潰しに主に仕事やらせて、その間自分は図書館でのんびり紅茶を飲みながら「ヘルシング」全巻読みふけるなんて真似すると思いますか?」
「うおぃ! 全部自分で白状してんじゃないのよ! 隠す気ゼロか! ヘルシング読んでるならウォルター執事を見習え!」
「ならお嬢様もアーカードを見習って下さい、同じ吸血鬼として」
売り言葉に買い言葉、平然とした様子で全く反省する素振りを見せない咲夜にレミリアはツッコミに疲れてゼェゼェと息を荒げていると
さっきから黙って両者の話を聞いていた銀時は眠たそうに欠伸をすると
「なんだかんだで仲良いんだなお前等、ダメダメ主とポンコツメイドでお似合いのコンビじゃねぇか、良いんじゃねぇのこのままで?」
「良い訳ないでしょ! このままだといずれコイツだけじゃなくて他の奴にもナメられる様になるじゃない!」
何を言うかと、ダメダメ主呼ばわりされているのも気づかずにレミリアは断固として拒否する。
彼女の望みはただ一つ、この紅魔館の主に相応しいカリスマを持つ主として君臨する事だけだ。
「現にフランなんか完全に私の事を下に見てんのよ! 姉としての面子が丸潰れよ!」
「お嬢様、妹様がお嬢様をナメているのは私は一切関係ありません、あの方は元からお嬢様を馬鹿にしています、なにせ私との会話の中で妹様がお嬢様を呼称する時は基本「アレ」か「アイツ」ですから」
「チクショウ! もうみんな嫌いだバーカ! 全員地獄に堕ちろ!!」
余計な事を言い出す咲夜からの聞きたくなかった情報に、レミリアは遂に両手で頭を押さえてテーブルに顔をうずめながら子供みたいな事を叫ぶ始末。
すると銀時はそんな彼女に向かって頬杖を突きながら
「まあそんなクヨクヨするなって、なんだかんだ言ってもここを離れないって事は、別にお前の事が嫌いな訳じゃないって何よりの証拠じゃねぇか、自信持っていいんじゃねぇの?」
「そ、そうかしら……確かにみんな主である私に好き勝手言って来るけど、勝手にどっか行っちゃう事は今まで一度も無かったわね……」
「それに苦労してるのはお前だけじゃないんだよ、俺も式神の部下がいるんだけど、そいつには毎日のように偉そうに小言言われてるからね、「働いて下さい」だの「遊んでる暇あるんですか?」だの」
「ああそれ私も言われてる……よそも一緒なのね」
自分もまた部下に色々と言われる立場だと呟く銀時になるほどと頷くレミリア。
するとそこへ彼女の従者である咲夜がふと興味を持った様子で彼の方へ振り返り
「一体どうしたのあなた? いきなりお嬢様の肩を持ってフォローとか柄にも無い真似するなんて、もしかして奥さんがいなくなったのを良い事に今度はお嬢様を狙ってるの? ロリコンなの? 私の弟はロリコンなの?」
「2回もロリコン言うな、いやそういう訳じゃねぇんだけど、なんつうか話聞いている内にコイツが不憫に思えて来てよ、最初はめんどくさかったが話聞いている内に段々可哀想な奴だなと」
意外にもあの銀時がレミリアを優しくフォローするなんて思ってもいなかった咲夜
どうやら銀時はレミリア・スカーレットという可哀想な吸血鬼に哀れみを抱いて同情しまったみたいだ。
「こういう「何百年も生きてるクセに周りにナメられっぱなしのダメダメなロリっ娘吸血鬼」っていうキャラを、昔どっかで会った様な気がするから余計に思う所あってよ、いや正確にはこの世界の俺ではなく別作品の俺が会っていた言うべきか」
「急に突拍子もないおかしな話をしだしたわね、あなた頭大丈夫? 一体どこの世界にお嬢様と同じぐらいダメダメで周りにナメられまくってるロリっ娘吸血鬼がいるっていうのよ」
「いやさっき一瞬だけだけどなんか頭にぼんやりと浮かび上がったんだよ、金髪でからくり連れた威勢だけは良いアホなロリ吸血鬼が」
ずっと昔にこういう光景をどこかで見た覚えがあるなと、銀時がふと不思議に感じながらレミリアを眺めていると、そこへ咲夜がふと彼に対して
「よくわからないけどウチの御家事情に首突っ込もうとかするのは止めて頂戴ね、私は私でここを気に入っているから残っているのよ、ここにいればいくらでもお嬢様で遊べるし」
「結局遊びたいだけなんじゃねぇか、ったくお嬢様が不憫で仕方ねぇや、よりにもよってこんな厄介な奴に目ぇ付けられちまって」
「ホントそうよ! 私って本当に可哀想! だからもっと励まして! 優しくして!」
彼女には彼女なりの事情があり、今の生活には十分満足しているらしい。
確かにレミリアは主としては少々、いやかなり物足りない器ではあるが、傍にいると退屈しない性格をしているのがよくわかる。
なんだかんだでいい組み合わせなのかもしれない、まあレミリアの身が持つかどうかが心配ではあるが
「優しくしてあげても良いですがその分厳しくしてもよろしいですか? おやつ作ってあげますからその代わり人里に行って材料買って来て下さい、逆立ちしながら」
「弟ぉ! アンタの姉様がまた私をイジメるんだけどぉ!? 頼むからどうにかしてぇ!」
「はぁ~……仕方ねぇな」
こちらに助けを求めて来たレミリアに銀時はため息を突くと……
「じゃあ母ちゃん呼んでくるわ」
「それだけはやめてお願いだから」
「ヘルプミー咲夜ママ! あなたの娘さんの件で言いたい事が!」
「お嬢様も悪ノリしないで下さい、あの人なら叫んだらホントに来そうですからマジで止めて下さい」
ボソッと呟き最終兵器を投入しようとする銀時に
レミリア弄りを止めて即座に勘弁してくれと初めて表情を変えてしかめっ面になる咲夜であった。
今日も幻想郷は平和だ。
「ほれ、母ちゃん連れて来たぞ」
「どうも、娘さんの件で言いたい事ってなに?」
「ぎょ! 本当にいきなり出て来たぁ!」
「まさか本当に呼んでくるなんて……」
咲夜が母親に「弱いモノいじめはいけません」とこってりお説教を食らう5分前
咲夜の母親にナチュラルに「弱いモノ」呼ばわりされてレミリアが傷つく5分前