霧でわからないが時刻は夕暮れ時だと思われる頃
銀時と咲夜が暴れ回ったおかげですっかりボロボロになってしまった紅魔館
そんな中、地下室から階段を上って、何が起こっているのか確かめに来た博麗霊夢がひょっこりと顔を出す。
「うわ、何よコレ見事に半壊してるじゃないの、アイツどんだけ派手に暴れたのよ……」
あちらこちらに破壊された後や破片が飛び散っているのを見渡しながら霊夢が上へと上がり切ると
「あらまあ随分とボロボロね、立派なお屋敷だったのに」
「うわー、これじゃあレミリアお姉様涙目だー」
続いてお妙、そして地下に住むフランもまた何故かやって来た。
「もう、新ちゃんを助けるついでにあわよくばこの館も乗っ取ってやろうと思っていたのに、残念」
「……アンタ人間じゃなくて鬼の一種なんじゃないの?」
「いや、確かにヤバい料理作ったり性格も真っ黒だけど、これでも姉上は人間ですから……」
密かに紅魔館乗っ取り作戦を考えていたお妙に、霊夢が振り返って疑問を投げかけていると
地下の方からこちらに上がって来る足音と共に、壊れた眼鏡を無理矢理セロハンテープでくっつけて直して掛けている新八が現れた。
「うわぁホントに散々な事になってますね……一体誰がこんな風に暴れたんだろう……」
「……」
「……」
「ってアレ? なんで二人共僕を見て黙ってるんですか?」
館の惨状を壊れた眼鏡越しに眺めながら驚いている新八だが、そんな彼を何故か信じられないという表情で固まって見つめる霊夢とお妙
一体どうしたのだと彼女達に新八が怪訝な表情を浮かべていると
「ア、アンタ……あんなにバラバラにされていたのに生き返ったの……?」
「うそ……奇跡だわ、新ちゃんが奇跡の力で生き返ってくれたのね!」
「いやただ壊れた眼鏡をセロハンで直しただけだからね! お前等眼鏡があればそれだけで新八なのかよ!」
まるで死んだ奴が生き返ったかのように驚愕する霊夢とお妙だが
新八にとってはただ壊れた眼鏡を急ごしらえにその辺のセロハンで修復しただけである。
そして二人に向かって勢い良くツッコミを入れていると、「へー」とフランが興味持った様子でまじまじと彼の顔を見つめる。
「私がキュッとしてドカーンしたのに直ったんだその眼鏡、癪に障るからもう一度壊していい?」
「なんでそんな頑なに眼鏡壊したいんだよお前! 後で弁償代払えよな!」
「私お金持ってないよ、お金なら私の姉に払ってもらって」
フランが新八に弁償を要求されるも、自分じゃ払えないと笑顔でフランがきっぱりと断っていると
「あれ? ちょっとあそこにいるのあの天パじゃないの」
「あらホント、銀さんだわ、一体何して……」
霊夢はふとアナ開いた天井から落ちて来たかのように倒れている銀時を発見した。
お妙もそれに気付いて彼の方へと駆け寄ってみると
紅魔館のメイドである八意咲夜を下にして
まるで押し倒してるかのような形で銀時が上から抱きしめているではないか
そして銀時の方も霊夢達に気付くと「ん?」と顔を上げて
「ああオメェ等無事だったのか? お互い助かってよかったな、こっちもちょいと大暴れしちまったがなんとか……」
「なにしとんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「げしゅぺんすとッ!!」
咲夜の上に覆いかさばったまま普通のトーンで話しかけて来た銀時に
怒りの形相でお妙は飛び蹴りをかまして彼を吹っ飛ばす。
「大暴れってどういう事ですか? ウチの新ちゃんが大変な目に遭ってた時に自分だけ可愛いメイドと大暴れしてたんですかあなた?」
「勘違いしてんじゃねぇよ! 確かにコイツとは暴れてたけどお前が考えてる様な大暴れじゃねぇわ!!」
「はぁ~アリスといい妹紅といい今度はメイド? アンタそろそろマジで紫に八つ裂きにされるわよ?」
「人聞きの悪い事言ってんじゃねぇ! コイツと何かあったらそれこそ別の意味で問題になるだろうが!」
ゴミを見るような目つきで睨んで来るお妙と霊夢に銀時は叫びつつ立ち上がりつつ否定すると
彼に下敷きにされて倒れていた咲夜もパンパンと服に付いた埃を払いながらゆっくりと立ち上がる。
「改めましてこんにちは、私がこの人の実姉の八意咲夜よ」
「ふーん、アンタってコイツの姉だったのどおりで顔が似て……って姉ぇぇぇぇ!?」
「まあ、てことは銀さんは彼女の弟って事? 困ったわ、唯一の弟キャラが新ちゃんだけだったのにますます影が薄くなっちゃう」
「僕のキャラの薄さはどうでもいいでしょ! いやどうでもよくないけども!」
サラッと銀時の姉と名乗り出た咲夜に、霊夢は思わず普通に流してしまう所であったがすぐに驚愕の表情。
それに対してさほど驚いてない様子のお妙をよそに、新八もまた頬を引きつらせ銀時の方へ目配せする。
「ていうかこの人本当に姉なんですか銀さんの……? まあ雰囲気とか色々似てますから姉弟だと聞いても妙にしっくりくるのは確かですけど」
「色々似てるってどの辺が? 全く似てねぇだろ俺とコイツ」
「鏡見ろや! 死んだ魚の様な目とかあちらこちらにちらばってる銀髪とか! 何より人生ナメ腐ってるかのようなそのけだるそうな顔つきがクリソツじゃねぇか!!」
本人としてはあまり似てないと自覚しているのか、銀時は咲夜と似てると思われるのは不本意な様子。
新八に指を突き付けられ細かく指摘されると、彼は口をへの字にして眉をひそめ
「いやいや俺みたいなツラは血が繋がっていてもそうはいねぇだろ、オメェに言われた通りこうして鏡で見ても、こんな中々の美形の奴はそう滅多にいる訳ねぇって」
「それ鏡じゃなくてアンタの姉!!」
傍に鏡があると思ってまじまじと自分の顔を覗き込もうとした銀時であったが、それは鏡ではなく銀時を同じ表情で見つめ返している咲夜であった。
「とりあえず生き別れの姉と感動の再会が出来た事は喜ばしいですけど、僕等どうすればいいんですか? 館は滅茶苦茶になりましたけどもうこのまま帰っちゃっても良いんですかね、僕一応被害者ですし」
「帰っていい訳ないでしょうがァァァァァァァ!!」
「え?」
元より新八は咲夜にここへ誘拐された身、出来るならとっとと人間の里へと帰りたい所なのだが
それを許すまじと立ち塞がったのは
「この紅魔館の主たるレミリア・スカーレット様が! 人間風情に辱められた挙句にマイホームをこんな滅茶苦茶にされて! ここから一人でも生きて返すと思うんじゃないわよスットコドッコイ!!」
瓦礫の山を必死に払いのけながら現れたのはこの館の主のレミリア
ヒステリック状態でこちらに向かって怒り心頭な様子で叫んでいると、そんな彼女をフランはスッと指差して
「あれが私の姉ー、眼鏡の弁償代はアイツに払ってもらって」
「あのーすみません、おたくの妹が僕の眼鏡壊しちゃったんで弁償してくれませんか?」
「この期に及んで弁償代までせびろうとか良い度胸してるじゃないの人間!!」
自分を誘拐した首謀者にも関わらず真顔でひび割れた眼鏡を持って金銭を要求してくる新八に
どこまで図々しいのだと被害者ヅラして更に怒るレミリア
「咲夜ぁ! コイツ等全員八つ裂きにしてやりなさい! ここまでコケにしくさってタダで済むと思ったら大間違いよ!」
「いえ、私は彼等を傷つける理由は無いので。八つ裂きにしたいならお嬢様がやって下さい」
「よーしわかったわ咲夜! けどお願いだから私の言う事聞いて咲夜! 土下座でもなんでもするからここは私のメンツを立てて下さいお願いします!!」
「いやまず彼らを相手にするよりも」
調子良さそうに早速咲夜に始末を任せようとするレミリアだが彼女はやはり言う事を聞いてくれない。
しかも咲夜はそれよりもまずレミリアの背後からこちらに向かってゆっくりと歩み寄って来る人物に目を細める。
「まずはお嬢様の背後から人形の入った乳母車を押しながらやってくる禍々しいオーラを放つ人物を対処すべきでは?」
「ってギャァァァァァァァァ!!! アンタまだいたのぉ!? お願いだから成仏して!!」
「何よ一体……地震が起きてこの館が壊れたかと思ったら……ようやく探し人を見つけたって言うのに……」
乳母車を押しながらやって来た人物、それは銀時達がここへ来てちょっと経った頃にやって来たアリスである。
かなり病んでる様子で逃げ惑うレミリアを追ってここへとやって来たみたいだが
レイプ目の状態で咲夜の方へとゆっくりと歩み寄っていく。
「なんなのあなた……やけに顔付きがあの人似てるわね……顔や髪形を同じにしてあの人に近づこうって魂胆? そんな真似を私の前でやっても言い訳?」
「何を勘違いしているの? 私と彼は姉弟よ、私は彼の姉、おわかり?」
「どんな言い訳しても無駄よ、私とこの子の前でたとえなんと言おうと……え? 姉?」
「そう言ってるでしょ」
「……」
病み切っているアリスに対し咲夜は特に同時に冷静に自分の身の上を話すと
姉と聞いてアリスの表情は固まりしばらくフリーズ状態でいると……
「え、お、お姉さん!? お姉さんなんかいたの!? ちょちょちょ! ちょっとあなた!」
「あ? おう久しぶりだなお前、元気してたか」
「どうかしらねぇ、誰かさんが最近遊びに来なかったからちょっとブルーになって……ってそうじゃないわよ!」
今さっき初めて彼女に気付いたかのように軽く手を挙げる銀時に、いつもの調子に戻った様子で慌てて彼の方へ詰め寄るアリス。
「どういう事……あなたの身内って八雲紫だけじゃなかったっけ? お姉さんって本当なの? これドッキリとかじゃないわよね……?」
「俺も最近知ったがアイツは正真正銘俺の血の繋がった姉だよ、それよりその乳母車に入ってる人形ってなに?」
「バカねこれはアナタと私の愛の結晶じゃないの、おかしな事言わないでよパパ」
「いやおかしな事言ってるのお前だよ、なんかもうエスカレートし過ぎて笑えないんだけど? 怖すぎてこっち泣きそうなんだけど」
自分の姉だとハッキリと言いながらふとアリスが持っている乳母車に入ってる人形にツッコむと
彼女は真顔で来れは自分とあなたの子供だと言い張るので、銀時は平静を保ったままどうにかして正気に戻って欲しいと思う銀時だが
それをよそにアリスはすぐにクルリと咲夜の方へと振り返ると
「初めましてお義姉様、弟さんと肉体関係を築いているアリス・マーガトロイドです。以後よろしくお願いします」
「オイィィィィィ!! なに人の姉にホラ吹き込んでだコラァ!!」
「アリス? 私の弟の妻の名は紫だった筈だけど?」
「結婚してる訳じゃないので、あくまでボディだけの関係です」
「ああボディだけの関係なのね、おめでとう」
「あの! 生々しい嘘を深く考えずに適当な感じで信じないでくれますお姉さん!?」
さっきまで喧嘩腰であったにも関わらず急に丁寧な物腰かつドロドロした自己紹介をするアリス
咲夜は相手にするのも面倒だと言った感じで適当に頷くのですぐに銀時が横から入って必死に否定していると
「ちょっと咲夜! なにそんな奴等と仲良くしてんのよ! アンタの主が今ピンチなのに!」
「あらお嬢様いたんですか」
「いたってなに!? さっき会話してたじゃないの私達!」
ふと咲夜達から離れた場所でまたレミリアが何か叫んでいる
「あーもううっさい」
「うぐ!」
彼女が目を細めて振り返ると、レミリアは何故か霊夢に胸倉を掴まれ、ヤンキーに絡まれた感じで縮こまっていた。
「つべこべ言ってないで大人しくしなさい、なんであろうとアンタが人間に害を与えたことには変わりないわ。幻想郷のルールを犯した者にはそれ相応の罰を受けるのがここの決まりよ」
「わ、私はただその眼鏡を誘拐しただけよ! それに誘拐の件もアンタ達をここへ誘い込むのも全て咲夜がやった事よ! よって咲夜が全部悪い! 私は悪くない!」
「部下の責任を取るのは上司の務めでしょ」
どうやらレミリアは人間に危害を加えたという事で霊夢から落とし前を付けられるハメになっているみたいだ。
首を横に振りながら咲夜に罪を着せようとする彼女だが、霊夢は全く聞き入れない様子でしかめっ面を浮かべる。
「さてどうしてくれようかしら、人間の里でみんなが笑うまでひたすら一人一発芸を続ける刑も悪くないわね」
「そ、そんな目に遭うなら死んだ方がまだマシじゃないの! 高貴な吸血鬼一族たる私になにやらせようとしてんのよ!」
「あ、私いい事思いついたー」
「フラン!?」
中々に精神に来る罰を提案する霊夢にすぐにレミリアが激しく拒否すると
今度はフランが楽しげに手を伸ばして
「お姉様を見世物小屋に閉じ込めて、一生人間達に晒し物にされながら惨めな人生を送らせるとか」
「ああ、檻に閉じ込めて「吸血鬼」って立て札付けて里の隅っこに放置して送って事ね、採用」
「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! それだけは絶対止めてぇぇぇぇぇぇぇ!! 私これから改心しますから! 心入れ替えて人間様に二度と危害は加えないと誓いますから!」
フランのアイディアに乗り気な様子で採用を検討する霊夢へ、遂には涙目で勘弁してくれと懇願するレミリア。
もはやどっちが悪役なのかわかったもんじゃない。
「ていうかフラン! どうしてアンタがそっち側にいるのよ! 私の妹であればこの賢くてステキなお姉様を護る事が当たり前でしょ!」
「えーだってお姉様ってずっと私を地下に閉じ込めてたしなー、私これから外の世界で自由に生きて破壊の限りを尽くすって決めたんだー」
「今の聞いた博麗の巫女! 今ここに新たな魔王が誕生したわよ! 巫女として速やかに倒すべきだわ!」
「段々アンタの事が可哀想に思えたわ……まあ問題起こしたら当然アンタと同様始末つけるから安心しなさい、とりあえず今はアンタをどうするかが先決だわ」
メイドからも実の妹からも酷い扱いを受けるレミリアに、流石に霊夢も哀れみを隠せないでいると
彼女に対してどんな罰を与えようか考えてる途中でふと自分のお腹をさすってみる。
「そういえばお腹減ったわね、ここ最近虫と雑草しか食べてないから久しぶりにまともなモン食べたいわ……あ」
まともな食事にありつけない程の貧困な状態に苦労している事を思い出し、霊夢は微かに鳴る腹の虫にため息を突くとふとレミリアを見てある事に気付く。
「そういえばアンタって金持ってそうね。もしかして普段食ってるモノもかなり上物?」
「フフフ、よくわかってるじゃない。確かに私は金持ちよ、ウチの咲夜も性格はアレだけど作る料理は一級品よ、見るからに貧乏くさいアンタじゃ到底拝めない様な料理をいつも食べているのよ私は、たまに食事抜きにされるけど」
「そう、それじゃああんたに対する罰は決まったわね」
「……へ?」
胸倉を掴まれながらも自慢げに胸を張って嘲笑を浮かべるレミリアに対し、霊夢もまたジト目を向けながらニヤニヤした笑みを浮かべ
「ここにいる私達全員を満足できるぐらい豪華な宴をやりなさい、出来なかったら見世物小屋直行よ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
終わりの宴が始まる