銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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今回はバトル回です

結構グロイです、観覧注意(三回目)


#68 銀咲夜時

紅魔館の屋根の上で、幾度も激しい音を立てて衝突し合う二つの影

 

一方は死んだ魚の様な目をした侍・八雲銀時と

 

同じく死んだ魚の様な目をしたメイド

 

「……そういえばまだ名前言ってなかったわね」

 

さっきからずっと戦っている状況の中で、ふと思い出したかのようにピタリと足を止めると

 

メイドはけだるそうに肩に手を置いて首を傾げながら

 

「十六夜咲夜よ、以後よろしく」

「って今更自己紹介とか遅すぎんだろッ! 何もよろしくねぇよ!」

 

戦う前に己の名を名乗るというのはよく聞くが、戦ってる途中でしかも全く緊張感の欠片も無い表情で名乗り出るメイド・咲夜に、銀時は両手に持った木刀を振り下ろしながら叫ぶ。

 

そしてそれを右手に持ったナイフ一本で涼しげな表情のまま華麗に受け流す彼女。

 

「釣れないわね、久しぶりの感動の再会だってのに」

「感動の再会? 笑わせんな、テメェと顔合わせて湧き上がる感情は」

 

咲夜が軽く指を鳴らすと一瞬にして四方八方から現れた無数のナイフが銀時に襲い掛かる

 

しかし彼はそれを避ける事さえ無く思いきり身体で受け止め。

 

「今も昔も腹が立つって事だけだぁ!!」

 

体中に突き刺さるナイフもお構いなしに、銀時は右手に持った木刀を咲夜で左胸を突き抜く。

 

だが心臓を貫かれてもなお咲夜は全く怯みもせず、次第に身体がみるみる修復されて元に戻っていき

 

銀時の身体もまたあっという間に回復していた。

 

「ずっとそのけだるそうなツラと死んだ目が気に食わなかったぜ、母親譲りのそのツラがな」

「それは今のあなたも同じでしょ」

 

対峙する不死者と不死者。互いに朽ちぬ身体を持つ二人の戦いは永遠に終わる事はない。

 

だが二人はそれを従順知っていてなお戦う事を止めない。

 

「もう察してはいるけど、あなたもう昔の記憶を思い出して来てるんでしょ? ならもうわかってるわよね、あなたじゃ私には勝てないって事も」

「悪いがそれだけはわからねぇな、けどここん所最近、段々と色んな事を思い出すようになってきたのは確かだ」

 

ナイフと木刀をぶつけ合いながらもなお二人は会話を続ける。

 

かつて彼女と対峙する時は息をする暇さえ無く負けていた忌々しい過去から成長したのだとアピールする様に、銀時は余裕を持った笑みを浮かべて木刀で斬り払う。

 

「紫の事もお前の事も、そしてこの世界や俺自身の事も。最初は現実性のない夢かなんかだと思っていたが、どこぞのマッドサイエンティストの話を聞いて完全に確信した」

「そう、あの人元気だった?」

「晩飯御馳走になったら大量に唐揚げ作って来るんで死ぬかと思った」

「男の子=唐揚げ大好きっていう単純な発想は相変わらずみたいね、あの人」

 

マッドサイエンティスト、つまり八意永琳の話をしながら、咲夜はパッと消えて銀時の背後を取った。

 

「この世界の理も理解したというのなら素直に手を引きなさい、あなたが”役目”を背負うのは、それはあまりにも荷が重すぎるわ」

「オメェならその荷を背負えるとでも? 言っておくが他人のお前に紫の事を任せる事なんざ絶対にさせねぇぞ」

「他人じゃないわ、私とあなたは」

 

銀時の首目掛けてナイフを一閃浴びせるも、彼はポロッと首が外れかけるもすぐに両手でくっつけ

 

そのまま振り向きざまに彼女の右腕を木刀で斬り飛ばす。

 

「家族よ、だからこそ家族の為に私があなたの代わりを受け持つって言ってるの」

 

咲夜は片腕を失ったままフンと鼻を鳴らし、ボトリと屋根の上に落ちた右腕を何事も無かったかのように拾ってくっつけ直した。

 

「認めたくはないけどね、全くどういう原理であなたとこんな関係になってしまったのかしら」

「そいつは俺も聞きてぇよ、俺だってもっとまともな家庭に生まれたかったわ」

 

ピクピクと直ったばかりの自分の右腕を確認しながら、再びパチンと指を鳴らして自分の周りに大量のナイフを展開する咲夜。

 

銀時はそれに臆することなく木刀一本で真っ向から飛び掛かっていく。

 

「けどこんな化け物一家の中で生まれた事にたった一つ感謝している事はある、アイツと長く一緒の時の中を生きれた事だ」

 

無数に降り注がれるナイフの雨で全身を削がれそうになるものの、落ちてくるナイフを2本を手で取ってすかさず咲夜に投げつける。

 

「惚れた奴と共に生きるってのは、案外悪くねぇ人生だったぜ」

 

投げられた2本のナイフは彼女の両目に突き刺さる。

 

ほんの一瞬視界を失った彼女に、チャンスとばかりに銀時が一気に距離を詰めて飛び上がり

 

「けどもうそんな時間も残ってねぇ、俺の時間じゃねぇ、アイツの時間よ。だからこそ俺は俺としてやるべき事をやる義務があんだ」

 

彼女の頭部目掛けて思いきり木刀を叩き付けた。

 

すると衝撃で屋根にビシィッ! ヒビが発生したと思いきや

 

崩れ落ちると共に屋根は崩壊し、下にあった部屋に二人は落ちる。

 

「義務とか理屈とか、そんな言葉で片づけてなんでもかんでも背負ってればカッコいいお侍さんになれるとでも思ってるの」

 

部屋の床に叩き付けられてなお、咲夜は全く無事な様子で、目に突き刺さっていたナイフを自分で簡単に引き抜くと、あっという間に治癒されていく両目を銀時に向けながら、倒れたままの状態で自分の顔の傍にあった彼の右足をグッと掴む。

 

「本当の事を言いなさいよ、辛いんでしょ、苦しいんでしょ、逃げれるモンなら逃げたいんでしょ」

 

銀時の右足が突如宙を舞う、気が付くといつの間にか咲夜の手には既にナイフが

 

彼の足を斬り飛ばしてすぐに体勢を崩した所を反撃に映る。

 

「昔からいつもそうよあなたは、そうやって誰にも助けを求めず意地張ってカッコつけて自分を追い込んで、きっと自分ならやれると思い込んで己の不安や恐怖を無理矢理抑え込む」

 

木刀を持った右腕を斬り落とし、こちらに掴みかかって来た左手も斬り落とし、そして最後にまたその首目掛けてナイフを振るい

 

「そういうガキみたいな所が、本当に嫌いだったのよ私は」

 

スパッと短い音と共に彼の首を刎ねる咲夜、しかし首を刎ねても銀時の身体はまだ動き出し

 

唯一残っていた左足が彼女目掛けて飛び上がると

 

「ガキだからどうした、俺はいつだって少年の心を忘れねぇって決めてんだよ」

 

そのどてっ腹に思いきり深く入る程の蹴りを入れた。

 

成す総べなくその蹴りで後ろに吹っ飛ばされ、背後の壁を思いきりぶち破る咲夜。

 

「それがジャンプを愛する者としてのたしなみって奴だ、わかったかコノヤロー」

 

ガラガラと崩れ落ちてくる壁の破片を顔に受けながら咲夜がムクリと起き上がると

 

銀時の身体はあっという間に元に戻っている。

 

「俺に何を言っても無駄だ、誰に何と言われようと俺は俺のやる事をやる、例えお前に言われてもな」

「……昔から生意気だったけど少しは可愛げがあったのにね。今じゃすっかり話を聞かない年取ったおっさんになっちゃって……」

 

頭に刺さった壁の破片を抜いてポイッと捨てると、咲夜は立ち上がってボリボリと髪を掻き毟りながら

 

 

 

 

 

 

「時の流れというのは残酷ね、”蓮子”」

「……はん、懐かしい名前で呼んでくれるじゃねぇか……」

 

彼女に自分の名ではない別の誰かの名で呼ばれて銀時は軽く苦笑して見せると

 

右手に持った木刀を強く握りしめて彼女目掛けて走り出す

 

「けどその名前は”俺”の名じゃねぇ」

 

こちらに木刀を振り上げる銀時に、咲夜は何の動きもせずにじっと見つめる。

 

「俺は、八雲銀時だ」

 

全力で振るった一撃を相手に浴びせようとした銀時だったが咲夜は忽然と姿を消していており

 

その攻撃は空振りに終わる。

 

「宇佐見蓮子は、お前に毎回勝算の無い喧嘩を売って返り討ちに合っていた弱っちいガキは……」

 

だが銀時はすぐにバッと後ろへ振り返り

 

「もうここにはいねぇ!!!」

「!?」

 

 

いつの間にか自分の背後を取り、三本のナイフをこちらに投げつけようとしていた咲夜に向かって

 

今度こそ本命の一突きを繰り出して彼女の腹に突き刺す。

 

彼女が次にやるであろう手を先読みしていたのだ。

 

「段々とお前の動きが見えるようになって来たぜ……! 俺は相手が強ければ強い程どんどん強くなれんだ……!」

「……そう、それがあなたが求めた強さ」

 

自分の腹を貫いた木刀を右手で強く掴むと、咲夜は左手に持つナイフを銀時の首に押し当て……

 

「そんな力を手に入れてでも……あなたは大切な人を護りたかったのね……」

 

ほんの少し、銀時に対してフッと優しく微笑む咲夜であったが、すぐにその顔はいつもの冷めた顔付きへと変貌し

 

「だったらなおの事、あなたを彼女の所へは行かせないわ」

 

彼の首に押し当てた咲夜の手に持つナイフが鋭く光る。

 

しかしそのナイフが彼の首をほんの少し切れた所で

 

「!」

 

銀時の姿が目の前でフッと消えた、先程から自分がやっていた手の様に、跡形もなく一瞬で

 

「悪いな、俺もお前と似たような芸当出来んだよ」

 

咲夜の腹部に木刀を突き刺したまま、銀時は彼女の頭上から現れた。

 

『星との隙間を埋め、月へと届く程度の能力』

 

対象との間にある隙間を操作し、一瞬で移動する事が出来るという紫が名付けてくれた能力

 

「もうわかっただろ、誰であろうと俺はアイツは絶対に譲らねぇ」

 

意表を突かれて目を見開く咲夜の頭を掴むと、銀時は全体重を彼女に預けて

 

 

 

 

 

 

「後生だ、最期のアイツを看取るのは俺にやらせてくれ、咲夜」

「……」

 

そのまま咲夜を頭から勢い良く押し倒して床に叩き付ける銀時

 

あまりの衝撃に床は抜け、一階の廊下にまで二人一緒に落とされた。

 

背中から床に叩き付けられた事で腹に刺さっていた木刀は抜けて銀時の手に収まり

 

腹部の傷口が回復していくのを感じながら、咲夜はゆっくりと目を瞑る。

 

「……まさか不死者同士の戦いの中で、力でなく言葉で勝ちを取りに来るとはね……」

 

肉体は健在ですぐにでも戦いを続行する事は出来るが、もはや戦う理由は無くなったかの様に戦意を失う彼女

 

「いいわ、そんなにやりたきゃ勝手になさい、ただし……」

 

銀時に押し倒されてる様な状況の中で、咲夜はそっと両手を彼の背中に回してそっと抱き寄せる。

 

 

 

 

 

「ちゃんとまたそのツラを見せに来なさい、それが”姉”である私との約束よ……」

「……ああ、またその泣きっ面を見て思いきり笑ってやる」

「……今の状態じゃ私の顔なんて見えないでしょ」

「さっきから誰かさんのせいで顔が濡れてんだよ」

 

咲夜に強く抱きしめられたまま銀時はフッと笑いながら彼女と約束する。

 

今度は喧嘩ではなく、茶でも飲みにまたここへ遊びにやって来ると

 

 

 

かくして紅魔館で起きた不死身の姉弟喧嘩は

 

負けん気の強い弟に折れて姉が勝ちを譲るという結果で幕を閉じたのであった

 

 

 

 

 

 




最初で最後のバトルシーンです

さてそろそろ……

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