前回に続き観覧注意
レミリアが病みに病んでしまったアリスと出会って永遠に残るトラウマを刻み付けられてる頃
お妙と霊夢は館の地下へと続く階段を下りている所であった。
「明かりもついてないせいでうっかり足を踏み外しそう、霊夢ちゃん気を付けてね」
「誰に対して言ってるのよ、こちとら博麗の巫女よ。ていうかアンタ……さっきから迷いなくズンズンと降りていくわね……」
「そりゃあ可愛い弟が捕まってるんだから、美しく可憐な姉としては居ても立っても居られないじゃない」
「今自分で美しいって言った?」
前を歩いて恐怖心の一欠片も持ち合わせてない状態で進んでいくお妙に霊夢が頬を引きつらせながらついて行っていると
程無くしてこれまた薄暗い地下牢の様な部屋に辿り着いた。
「なんだか気味の悪い場所ね……アンタの弟さんは何処にいるのかしら?」
「大丈夫よ、新ちゃんは私の弟、離れていても心で通じ合っているんですもの、私にはわかるわ、あの子ならあの辺に……きゃあ!」
「え? はッ!!!」
部屋にやって来てすぐに新八を探そうとしたその瞬間、姉弟の絆を頼りに探し出そうとしたお妙が突然短い悲鳴を上げる。
恐ろしく肝の座った彼女が悲鳴を上げるという事はただ事ではないと感じ取った霊夢は、すぐに彼女が目を見開き見つける先に視点を動かして驚愕を露にする。
物もあまり置かれていない殺風景で不気味な部屋の隅っこで
新八と思われし者が無残にも元の形がなんだったのかわからないぐらいに
バラバラになって体の一部をそこら中にぶちまけていたのだ。
「む、惨い……あの館の主人、ただのマヌケだと思っていたけどここまで残酷な事をしでかしていたなんて……」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ新ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
表向きはうつけを装ってその正体はどんな残酷な事でもやってのける狂った吸血鬼
既になんの施しも出来ない完全なる手遅れの状態になってしまった新八を呆然と見下ろしながら、霊夢は頭の中でレミリア・スカーレットの恐ろしさを思い知らされる。
そして無残に散った亡き弟を見て、今までずっと気丈に振る舞っていたお妙もまた、その場に膝をついて目の前の現実に泣き叫ぶしかなかったのであった。
薄暗い地下室で
弟を失った姉の泣く声だけが空っぽの部屋で鳴り響くのみであった。
「いや、なにしてんすかアンタ等?」
しかし泣き叫ぶお妙の声を遮って
彼女達の背後から不意に飛んでくる少年の声
その声に霊夢と泣くのを一旦止めたお妙が振り返ると
「さっきから志村新八ずっとここで縛られてるでしょうが」
バラバラになった新八とは反対方向の隅っこで
いつも掛けていた眼鏡を失った状態で縄で縛られている志村新八がこちらにジト目を向けて正座していたのだ。
「お前等さっきからシリアス感出して意気消沈してるけど……」
「それただの眼鏡だろうがァァァァァ!!」
そう、霊夢とお妙が先程からずっと新八と認識していた存在は、ただの砕け散った眼鏡。
そうとも気付かずにてっきり新八がバラバラ死体になってしまったと誤解していた霊夢とお妙に、本物の新八は縛られながらも思いきりツッコミを繰り出す。
「お前等僕をなんだと思ってんだコラァ!!」
「……アンタ誰?」
「新八じゃボケェ!」
「新ちゃん! の眼鏡掛け機! あなただけは生きてたのね!」
「誰が眼鏡掛け機だ! 正真正銘志村新八本人だよ!! なにが心で通じ合ってるだよ! 今までずっと僕の事を眼鏡だと認識してたんですか姉上!?」
心から誰だか覚えてない霊夢と心から嬉しそうに喜ぶお妙の両方に叫ぶと、眼鏡掛け機もとい本物の新八はすぐに縛られた状態でもがき始める。
「そうだ! 助けてくれた事には素直に嬉しいですけどここは危険です姉上! ここには見た目は可愛いけど性格はかなりイカれた恐ろしい吸血鬼がいるんですよ! 僕の事はいいですからここはすぐに逃げて下さい!」
「いいえそれは出来ないの、だってこのままでは気が済まない」
自分の身を省みずにお妙と霊夢に脱出する様に言うも、お妙はそれを素直に聞き入れず、泣くのを止めてスクッと立ち上がる。
「殺された新ちゃんの仇を取らずして逃げる訳にはいかないわ」
「だから新ちゃん死んでねぇよ! 死んだの新ちゃんの眼鏡!」
「吸血鬼? それってあのレミリアとかいう奴の事? なら安心しなさい、この幻想郷で眼鏡を殺した者はそれなりの罰を受ける事が決まりよ。眼鏡に代わって博麗の巫女が退治してあげるから」
「眼鏡に代わってってなんだよ! それにあの抜けてる方の吸血鬼じゃありません! 僕が恐ろしいと言っている吸血鬼は彼女の妹です!!」
「妹?」
亡き眼鏡の無念を晴らす為に二人がレミリアと一戦交える気迫を漂わせるも
新八曰くこの館で恐ろしい吸血鬼というのは姉のレミリアではなくその妹の方らしい。
するとすぐにこの地下室と繋がっている階段の方から
コツコツと何者かが降りてくる足音が……
「あっれ~? なんか私の部屋で人間の匂いがするよ~? 上が騒がしいと思ったらこっちでも面白い事が起きてるのかな~?」
「あ! ヤバい! 彼女が姉上達の気配に気付いて戻って来た!」
無邪気な少女の声と共に徐々に近づいてくる不穏な気配にいち早く気付いて慌てる新八
霊夢とお妙もすぐに階段の方へ振り向くと
「うわぁ人間の女の子が二人もいる~! 初めまして~私はフラン!」
そこへ現れたのはレミリアと同様小柄で似たような帽子を被った、金髪の少女であった。
フランドール・スカーレット
レミリアとは5才違いの妹であり、見た目は可愛らしいものの実態は姉と同じく吸血鬼。
その性格は極めて残虐性に特化しており、かつ常に狂気に身をゆだねているので、己の快楽を満たす為だけに生き物を殺す事も厭わない。
邪魔する者であれば誰であろうと殺すという、いかにも狂ったその性格を危惧し、実の姉のレミリアは最後の秘密兵器と称して半ば監禁状態でこの地下室に閉じ込められているのだが
警備がずさんなので極稀に上へとやって来て、勝手に遊びに行ってしまう事もただある様だ。
「”アイツ”がまた連れて来たのかな~? この前の奴はもう壊れちゃったから丁度良かった~、あなた達は簡単に壊れちゃダメだからね?」
「アイツ?」
「もちろんレミリアお姉さまの事~、私が言うアイツってのはアイツしかいないよ~」
「実の姉をアイツ呼ばわり……とことん周りから酷い扱いを受けてるみたいね……」
あのメイドといいフランといい、レミリアはとことん周りからナメられてるらしい。
なんだか同情するわ……と思いながら、霊夢は右手を腰に当てながら改めてフランを睨み付けた。
「で? アンタが直接あの眼鏡をバラバラにしたのは素直に認めるって事でいいのよね、ここがアンタの部屋って事は、そこに転がっている眼鏡もアンタが始末したって事にした方が辻褄が合うんだけど」
「そうだよー、ちょ~っと私が思いきり遊ぼうとしたら簡単に壊れちゃったの。とんだ不良品だよね~」
「そう、あっさりと白状してくれてありがと。コレで私が誰を退治するべきかはっきりとわかったわ」
にこやかに笑いながら真実を話すフランに対し、霊夢はすぐに戦闘準備に入る。
「アンタがやった罪は外の世界では極当たり前の行為だけど、この幻想郷では絶対に破ってはいけない禁忌」
博麗の巫女らしく厳しい表情を浮かべながら、楽し気に首を傾げて来るフランの方へ一歩前に出る。
「妖怪、人外の存在はいついかなる時でも眼鏡を壊さずべし。それを犯した者は博麗の巫女によって退治される。この幻想郷を作った大妖怪がここで生きる者達に敷いたルールの一つよ」
「どんなルールだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 眼鏡ってそんなに幻想郷で重要視されてたの!? 壊しただけで退治されんの!?」
「へーそんな下らないルールがあったんだー、でも私、そういう決まり事に縛られるなんて絶対に無理なの、本能のままに生きて、本能のままに殺す、そして本能のままに眼鏡を壊す、それが私なの」
「本能のままに眼鏡を壊すってなんだよ!」
「言い訳なんか並べる必要はないわよ、もうわかってるでしょ、アンタはここで退治される。博麗の巫女である私によってね」
新八のツッコミも無視して何やらシリアスな雰囲気を醸し出ながら対図する霊夢とフラン
するとそこへ拳を鳴らしながらお妙もスッと加わり
「あらあなた達、この私を置いて一体何をしようというのかしら? 弟の仇討ちは姉がやるべしという幻想郷のルールを忘れた?」
「勝手にルール捏造しないで下さい姉上! つうか弟ここぉ!!」
「わーあなたがあの眼鏡のお姉様? ねぇねぇあなたの眼鏡はもう壊れちゃったけど眼鏡掛け機の方は貰っておいていい? アレっていっつも叫んだりツッコんで来たりして反応が面白いの」
「別に構わないわ、ウチにいてもうるさいだけだし」
「ちょっとぉぉ!! 眼鏡だけじゃなくて眼鏡掛け機も大事にしてぇぇぇぇ!!! これからはなるべくツッコミ控えるから僕も引き取って下さい姉上ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
自分をそっちのけで勝手にフランに自分の身を提供させようとするお妙にやかましく叫ぶ新八だが
既にやる気満々の彼女達の耳にはもう届かない。
「さあ楽しみましょう、盛大なるラストバトルを私達で彩るの、今まで出番が少なかった分思いきりやるわよ」
「主役を抜きにして私達で締めをやろうって訳ね、気に入ったわ」
「てことは私がラスボス? やったーじゃあラスボスらしく派手に暴れちゃうね、よーい……」
「ちょ! アンタら三人が揃って地下で暴れたら大変な事に……!」
自分達で勝手にラストバトルをおっ始めようと同時に動き出す。
しかし並大抵ではない戦闘力を誇る彼女達がここで戦ったら紅魔館は間違いなく下から綺麗に崩れ落ちて
極々一般レベルの人間である自分は一人寂しく館の下敷きにされて圧死されるという最悪なオチを予想する新八
なんとかしてこの戦いを阻止しようと新八が縛られた状態で前に出ようとしたその時……
「「「「!!!!」」」」
三人が戦おうとする前に、突然地下室がグラグラと激しく揺れ始めたのだ。ほんの一瞬だけだが
しかしそれは今まで体験した事のないような強い揺れ、あまりの衝撃に薄汚れた天井にビシィ!と大きな日々が出来る程。
一瞬で天井にヒビが出来る程の衝撃を体験した4人は、即座に上の方へと顔を上げる。
「……今何が起こったのかしら?」
「わからないわ、けど……どうやら私達より先に戦いを始めてる誰かさんがいるのは間違いないわね」
「え?」
上で何が起こってるのかわかってない様子のお妙に、腕を組んで顔を上げながら淡々とした口調で霊夢は上で起こってる出来事を予感する。
「上の館よりずっと下のこの地下室にまで、衝撃の圧だけで天井にヒビが出来るというのは明らかに普通じゃないわ。戦ってるのよ、それもとびっきり強い誰かと誰かが……」
「へぇ~面白そう~、ねぇねぇ、私達で戦う前にちょっと覗きに行かない?」
霊夢の話を聞いて無邪気に笑い出すと、小首を傾げながら早速提案するフラン。
「多分今戦ってるのって、紅魔館で一番強い奴だと思うんだ」
「アンタ等の中の奴が? 一体誰よ?」
フランの言葉に霊夢が反応して尋ねると、彼女はヘラヘラと笑いながら
「まだ会ってないの? 無茶苦茶強いクセにレミリアお姉様なんかに従っている使用人だよ」
「あ、あのメイドが……!?」
「紅魔館にいるのは大抵みんな強いけど、その中で群を抜いて強いのが間違いなくアレだよ、私も何度か殺してやろうと思ってんだけどその度に返り討ちにされてるの」
上で戦っているのがあのメイドだと聞いて驚く霊夢に、サラリと物騒な事を言いながらフランは話を続ける。
「でもあのメイドとまともに渡り合って戦っているのって一体誰なんだろうね、私そっちも楽しみになっちゃった」
「まさか……」
ニコニコと笑いながら上には何が待っているのか期待しているフランをよそに
霊夢はあのメイドと戦っているのが誰なのかが覚えがあった。
『不死者相手なら不死者の俺が適任だ』
「仕方ないわね、譲ってやるわよ……」
ここにやってくる前に”彼”が言っていた事を思い出し、霊夢は静かに上で戦っている人物が誰なのか察した。
「やっぱりラストバトルは主役がやるのが定説って訳ね」
ちなみにフランが姉の事を当人がいない所でアイツ呼ばわりするのは原作でもあります。
レミリアもフランの事をアイツ呼ばわりしたりします
別に仲が悪いからという訳ではないみたいですけどね、親しい間柄だからそう呼んじゃう時があるのかも?
こっちでも二人の仲は別に険悪とかではないのでご安心ください