銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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モンハンのせいで執筆速度が大幅ダウン……

でも私は悪くありません、悪いのはモンハンです(キリッ


#44 場修羅

「そりゃ俺だって悪いとは思ってるよ?」

 

酒の入ったコップを一気に飲み干すと、すっかり出来上がった様子で銀時はちゃぶ台にコップを置く

 

「だからこうして幻想郷を破壊しかねないコイツ等に仲直りしてもらいてぇんだよ、わかる?」

「いやわからないしわかりたくもないわ、つうか興味ない」

「あーあ、お前はいつもそうだよ、そうやって何事にも干渉せずに興味ないの一点張り、少しはさぁ、相手に気を使って優しい言葉の一つでもかけられない訳?」

 

呂律の回らない口調で、赤らめた顔をこちらに近づけて来る銀時に、隣に座って一緒に酒を飲んでいた霊夢は面倒臭そうにジロリと横目をやる。

 

「ていうかさっきからうるさいんだけど、どんだけ飲んでんのよアンタ。ていうか私に絡む前に」

 

いつも以上に目が死んでいる銀時を嗜めると、霊夢はアゴを向かいに座っている彼女達の方へしゃくる。

 

「自分の嫁さんと元カノの仲裁でもして来たらどうなの、元々それが目的だったんでしょ」

「あーいやそれは……」

 

鋭い指摘をされて銀時は一瞬酢に戻った様子でバツの悪い表情を浮かべつつ、恐る恐る向かいの方へと顔を動かす。

 

この狭い客室で小さなちゃぶ台を挟んで彼等の向かいに座っていたのは

 

御存知、八雲銀時の妻である八雲紫と、銀時が過去に色々あった藤原妹紅であった。

 

顔を合わせれば常に険悪なムードを醸し出す彼女達が、今は隣同士で座りながら無言で酒を飲みほしていく。

 

ただずっと会話もせずにいた彼女達であったが、ついに紫の方から重い口が開く。

 

「……ペース落ちて来たんじゃなくて? いい加減私に対抗するのは諦めたらどうかしら?」

「別に対抗しているつもりはハナっからない、お前の方が私を意識して勝手に勝負してると思い込んでいるだけだろう」

「それにいい加減帰ったらどうなのあなた? 大好きなタケノコ達がアナタを待っているわよ」

「いや別に好きでタケノコ採ってる訳じゃねぇから、金が無くて売り払う為に採ってるだけだから」

 

相も変わらずピリピリしたムードを放ちつつ、二人は杯に注がれた酒をハイペースでどんどん飲み続けていた。

 

しかし銀時とは違いこの二人は全く酔っている様子はなく、素面の状態でまだ口喧嘩を続けている。

 

そんな二人を向かいの席で眺めていた銀時はいつ爆発するのかと恐れつつ、そっと霊夢の方へ顔を近づけ小声で

 

「……とりあえず暴力的な解決ではなくどっちがより多くの酒を飲めるかっていう勝負になったみたいだし、そっとして置いた方が良いと銀さんは思うんだ……」

「うわヘタレ過ぎ、自分じゃ抑えつけられないから酒に頼ろうって訳? しかもあんたは完全に向こう二人より先にベロンベロンになってるし」

 

ここは博麗神社の中にある霊夢の住む屋敷。

 

今夜は珍しく彼女の部屋に大量の酒やらつまみ等が揃えられていた。

 

これ等すべて銀時が用意したモノであり、紫と妹紅の仲を酒で通じて少しは改善出来ればと考えて

 

こうして酒の席を霊夢の屋敷で作ってみたという訳だ。

 

酔い潰れれば二人の熱くなってる頭も冷えるかもしれない、と企んでいた銀時だったが……

 

 

「なにが仲直りさせようよ、自分だけ勝手にはしゃいで酒飲みまくって勝手に潰れてるクセに」

「仕方ねぇだろ、アイツ等昔っから酒に対して滅茶苦茶強ぇんだよ……俺がどんだけアイツ等に潰されてきたの知らねぇのか?」

「知らないし興味も無いわ」

「だからその興味無いとかツレない事言うなよ霊夢ちゃん! 反抗期とはいえそうやって冷たい態度取ってるとお父さん傷付いちゃうでしょ! 全国のお父さんは年頃の娘に邪険に扱われるのが一番辛いんだよ!」

「あーうるさいわねもー! 誰がお父さんよ! 私はアンタみたいなちゃらんぽらんを父親にしたつもりはないってぇの!!」

 

紫と妹紅そっちのけで勝手に潰れて勝手に霊夢に絡む情けない夫・銀時。

 

紫は酒豪の中の酒豪の鬼や天狗とさえ互角に飲めるので、普通の人間とさして変わらないレベルの銀時ではまず一緒に飲んでても次第に潰されてしまうのは極々当たり前の事なのだ。

 

「クソ……! 俺にもっと力があれば……! どれだけ飲んでも酔いに潰れない屈強なる力があれば……!」

「ウコンの力でも飲めアホンダラ」

 

ちゃぶ台に頭を乗せたまま悔しそうに呟く銀時に霊夢が冷たくボソッとツッコミを入れていると、そんなグロッキー状態の彼の前にスッと水の入ったコップが一つ。

 

「そもそもあなたはペース配分が下手なのよ、相手に負けじと対抗して飲むから」

「いやお前にだけは言われたくないんだけど酔いどれアリスちゃん……」

 

銀時はコップを差し出してきた人物の方へと顔を見上げる。

 

立った状態でこちらを呆れた様子で見下ろすアリスの姿がそこにあった。

 

「お前なんか俺よりも酒弱いじゃねぇか、しかもすっげぇ性質の悪ぃ酔い方するしよ……」

「でも今のアリスは見た目普通っぽいわよ」

「あれホントだ? そういやお前ずっと隣にいたけど酒飲んでる所見てねぇぞ」

「ええだって今日は一滴も飲んでないから、酒の席だからって別に酒を飲む必要は無いでしょ?」

 

てっきりまた悪酔いして自分に絡んで来るのかと思いきやアリスは意外にも至って冷静な様子で自分の隣に座り直す。

 

「禁酒してるのよ私、だからしばらくはお酒は控えさせていただくわ」

「いやそんな話今まで聞かなかったけど俺? どういう風の吹き回し?」

「健康の為に決まってるでしょ」

「魔法使いが健康なんか気を遣ってどうすんだよ、お前等って基本飲み食いしなくても普通に生きていけるんだろ」

「は? 私じゃないわよ」

「?」

 

今更健康なんて気にする必要あるのかという銀時のふとした疑問に、アリスはキョトンとした様子で首を傾げた後

 

「そう」

 

まるで慈愛に満ちた表情で大事そうに自分のお腹をさすり始めるのであった。

 

 

「もうすぐ産まれるこの子の健康の為よ……あなたももうすぐパパになるんだからお酒はなるべく控えなさい……」

「酒で酔う前に既に自分自身で酔ってたぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何勝手に一人で想像妊娠してんだコラァ!!」

 

既に腹の中にはあなたの大事な赤ちゃんがいますよと言った感じで、既に母親になったつもりでこちらに話しかけてくるアリスに銀時は思わず酔いも忘れて騒ぎ出した。

 

「あの日からまだそんな月日経ってねぇだろうが! そもそも俺とお前じゃ子供出来るかどうかわかんねぇし! いやそもそもあの日の出来事自体あったかどうかわかってないんだからね! 正気に戻れ! そこまで妄想癖が強くなると病院行くことになるぞ!! あのマッドサイエンティストに脳みそこじ開けられるぞ!」

「いやァァァァ乱暴に揺すらないで!! 私の赤ちゃんが! 私とあなたが愛し合った結果によってお腹に宿った私達の赤ちゃんが!! あなたがなんと言おうと私は絶対にこの子を産むんだから!!」

「止めろぉぉぉぉぉぉこれ以上騒ぐんじゃねぇ! 奥さんいる所でなにとんでもねぇ事叫んでんだ!!」

 

銀時に肩を揺すられた事に涙目で訴えながらヒステリックに叫ぶアリス。

 

紫に続いて妹紅という強力なライバルが出現した事によって

 

恐らく彼女は自分が持つべき武器は何かと必死に考えすぎたせいで頭の中が一時的なパニックに陥ってるらしい。

 

勝手な妄想で取り乱し始めたアリスを宥めようとしながら銀時は慌てて紫と妹紅の方へバッと振り返り

 

「違うからねハニー! コイツの腹には決して俺の子とかいないからね!!」

「はいはいわかってるわよダーリン、その子がちょっとアレなのは私もよく知ってるし」

「なにお前が返事してんだよ、アイツは昔からハニーって呼んでたのは私の方だぞ」

「すっこんでなさい、今の彼のハニーは私ただ一人よ」

 

銀時に対してやる気無さそうに返事する紫に対して面白くなさそうに口をとがらせる妹紅。

 

もはや不毛な争いになりつつある中で紫は噛みつく彼女に睨みながら答えると、ため息を突いてちゃぶ台に頬杖を突く。

 

「いい加減にして欲しいものだわ、千年経っても未だに未練がましく……しつこ過ぎて逆に笑えてきちゃう」

「そいつは悪かったな、けどこっちだっておいそれと諦める訳には行かねぇんだよ、不死者にとって最も欲しいモノは永遠の時の中を一緒にいてくれる相手なんだからな」

「だったら”竹林の奥に住んでる彼女”と一緒になればいいじゃない、彼女もこの人と同じく不死身よ、女同士未来永劫イチャイチャしてれば?」

「お前、アイツと私が仲悪いの知ってるだろ? 未来永劫殺し合う中だぞアイツと私は」

 

妹紅は目を細めながらイラッとしつつ、頬杖を突いてこっちを見ようともせずにそっぽを向いている紫に自分から話しかける。

 

「それとしつこいって言ったらお前の方がずっとしつこかっただろ。元々アイツに厄介モン呼ばわりされて邪険に扱われてたのに、絶対に諦めずにアイツの傍に付き纏っていた所とかもう完全にストーカーだぞ」

「ストーカーじゃないわよ、私は彼がいつかこっちに振り向いてくれるってわかってたのよちゃんと、だからずっとその時が来るのをあの人の傍で待っていただけ」

 

昔の頃の行動に難癖を付けてきた妹紅に対し紫はチラッと顔を半分だけ見せて振り返り

 

彼女の目をしっかりと見ながらハッキリとした口調で

 

「私と彼は、初めて出会った頃よりずっと前から結ばれる運命にあったのよ」

「……アイツも似た様な事言ってたな、前世とかどうとか」

「記憶には無いんでしょうけど、きっとあの人の魂にはキチンと刻み込まれてる筈だわ」

 

そう言って紫は向かいでまだアリスと揉めている銀時の方へ視線をずらす。

 

「彼は私との約束をちゃんと守って再び戻って来てくれた、だから確信したのよ、私達二人の間には誰にも断ち切る事の出来ない鎖で繋がっている事に」

「……私が昔っからお前が嫌いなのはそこだ、八雲紫」

 

意味あり上げなことを突然言い出す紫に妹紅は低いトーンかつ囁くような声で呟き始めた。

 

「アイツの何もかもわかってるかのようなその口振りがいつも私の癪に障っていたんだ」

「あらそう良かった」

「それとお前の、私達が知りえない事も知っているという口振りも昔からよくわからないから更にムカついてた」

 

妹紅は怪しむ様に紫を見つめながら尋ね出す。

 

「なんなんだオマエ、現世から逸脱した幻想郷という奇天烈な場所を造り上げ、まるで何もかもお見通しと言った感じで飄々としている態度、神様にも近しい力を持つお前は一体何者なんだ?」

「今更あなたが私自身の事を興味持つなんて薄気味悪いわね……」

「なんだよそのドン引きしてる目、変な意味で興味持ってる訳じゃねぇよお前なんかに」

「あらそう良かった、でも残念だけどあなたの質問には何も答えるつもりはないわ」

 

何やら身の危険を感じたかのようにジト目を向けつつ、紫は彼女からの問いかけに曖昧に返事する。

 

「誰だって言いたくない秘密の一つや二つあるってもの、だから私はあなたなんかの質問に答えるつもりは毛頭ない」

「だろうな、「あの女はいつだって自分の素性は何も語ろうとしない」ってアイツがよく愚痴ってたからな」

「……」

 

やれやれと言った感じで肩をすくめながら妹紅がそう言うと、紫はしばしの間を置いて

 

「私が言わずともいずれあの人は気付くと思うわ、私とこの世界の正体、そして自分自身が何者なのか……」

 

呟きつつ紫は銀時の方へとまた振り返る。

 

相も変わらずギャーギャー言いながらアリスや霊夢と叫び合っているその姿をどこか懐かしく思いつつフッと微笑みながら

 

「そして全てを知るその時が来たら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は私の下を離れていく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




修羅場編はこれにて一旦終わりですね、なんだか意味深なラストになっちゃいました。

さて次回は45話という話数にちなんで銀さんの話ではなく、ちょいとしたゲストキャラのお話です。

本来なら45話ではなく459話が良いと思うのですが、残念ながらそこまで長く続けられないので……

銀さんの話が見たい人はごめんなさい、次回は今までずっと存在をほのめかされた他所の作品のキャラが現れます。

祝、第二期其の二決定記念



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