銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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前回の話で、思った以上に現世の地獄の補佐官殿が知られていて驚きました。

本題には関わらないでしょうが、一度だけ特別ゲストとして出すのも悪くないかもしれませんね。

でも東方とあの作品を絡ませると、白澤や篁さんが二人になっちゃうんだよな……



#37 坂映姫本銀紫時

地獄の案内役として抜擢された閻魔の補佐役、陸奥によって様々な地獄を見物していた八雲銀時と八雲夫婦。

 

そして二人が血の池地獄に寄ってみると、古い付き合いであり、地獄で働いている坂本辰馬が

 

血の池で溺れながら必死に助けを求めていた。

 

「おーい! はよ助けてくれー!」

「助けないの?」

「え、なんで俺が助けなきゃいけないのあんな奴?」

 

亡者と共に必死に手を伸ばして助けを求めている様子の坂本を指差して、紫が後ろにいる銀時の方へ尋ねるが

 

彼はキョトンとした様子で首を傾げ当然の如く拒否する。

 

「ほっとけほっとけ、テメーの身から出た錆だ。ほら次行くぞ、地獄はまだまだあるんだから」

「そんじゃ黒縄地獄にでも出向くとするかの」

「まあそれなら別にいいけど」

 

案内役の陸奥が指差しながら別の地獄へ赴こうとするので、銀時と紫も助けを求める坂本を無視してその場を後にしようとした。

 

しかし紫がふと最後に坂本の方へと振り返った時

 

「あ、ちょっとあなたアレ見て」

「え、なに? 辰馬死んだ?」

 

一筋の、本当に細い一筋の長い糸の様な光がキラリと輝きながら坂本の上へと落ちていくのが見えたのだ。

 

紫がすぐに銀時の裾を掴んで振り向かせると、彼はその光り輝く糸を見てギョッと目を剥き出す。

 

「おいちょっとアレ!? アレってもしかしてあの有名な!?」

「小説の世界だけかと思ったらまさか本当にあったなんて神秘的ねー」

「……」

 

落ちて来た一本の糸目掛けて泣きながら「天の助けじゃあ! 流石は仏様じゃあ!」と感謝しながら飛びつくと

 

その糸をしっかりと掴んでスルスルと上へと昇って血の池から無事に脱出する坂本

 

そしてそんな光景を見て銀時と紫が驚いている中、陸奥は一人だけ無表情で視線を上げて糸がどこから落ちて来たのか察していた。

 

「残念じゃがアレは仏様が哀れに思った亡者を救おうと落とした「蜘蛛の糸」じゃなか、アレは……」

 

血まみれになった状態で這い出て来た坂本は「わしの糸じゃ! おまん等は昇って来るなぁ!」と原作通り叫びながら他の亡者共を蹴落としつつ必死に糸を手繰り寄せて昇って行く。

 

するとその先に待っていたのは

 

「ふむ……やはりまだ反省の色が見えませんね、辰馬」

「へ?」

 

がむしゃらに糸を昇っていった結果。血の池地獄から7メートル程の真上にある場所で一人の女性が釣竿を持ったまま仏頂面で坂本を出迎えてくれた。

 

坂本は気付く、この糸は仏が落とした慈悲ではなく、”彼女”による罠であったと

 

その証拠に今自分の生命線であるこの糸は、彼女の持つ釣竿の先から出ているのだから

 

そんな光景を見て陸奥は静かに目を瞑る。

 

「仏様の『慈悲の糸』じゃなく、閻魔様の『制裁の糸』じゃ」

「ん? あそこにいんのって俺が知ってる方の……」

 

陸奥だけでなく銀時も気付いた様子で目を凝らすと、坂本を釣り上げた女性を知っている様子。

 

そう、彼女こそが鳳仙と同じく閻魔として君臨する御方にして

 

「おうい! ドメスティックバイオレンスも程々にせんとわしマジで死ぬぞぉ! そろそろ助け……」

「私に対して言い訳は通用しません辰馬、長年夫婦として生きているのにまだわからぬのですか?」

 

坂本辰馬の妻でもあるのだから。

彼女は懐からハサミを取り出して、坂本を吊るす釣り糸を躊躇なくチョキンと切って

 

「ごっぱぁ! ぶくぶくぶく……!」

 

落として再び血の池地獄に強制送還させる。

 

「……」

 

底に沈んでいく彼を彼女は冷たい目で見下すだけ

 

 

四季映姫

 

それが坂本辰馬の妻の名

何事にも一度決めた事は迷いなく選択し、自らの行いと選択に一切私情を挟まず相手の罪を見定める性格で

 

その白黒はっきりさせるこだわりは正に閻魔になるのに申し分ない器であった。

 

ただ一つ、そんな彼女でも私情を含ませる行為に移る時は

 

「それが妻たる私を疎かにして一人で遊びに行った罰です」

 

決まって身内に対して制裁を与える時だ。

 

 

 

 

 

 

 

「幻想郷の管理人が尋ねに来るなんて聞いてませんよ?」

「ごめんなさいね、思い付きで来たモンだからアポ取るの忘れちゃってたのよ」

「面会に来るのであれば事前に報告するのは地獄はおろか現世でも常識です、それも幻想郷の統括役でもあるあなたが怠るとは嘆かわしい……あなたの幻想郷の管理がずさんだという確かな証拠ですよコレは」

「はいはいわかりました、だから謝ってるでしょ全く」

 

坂本を血の池に落としてからすぐに閻魔・映姫は、陸奥が案内している八雲夫婦の下へと歩み寄って来た。

 

顔を合わせるなりいきなりブツブツと小言を呟いて来る彼女に対し、紫はウンザリした様子で聞き流す。

 

「私この人苦手なのよね、相手が閻魔だから迂闊な真似も出来ないし。あなたちょっと代わってくれない?」

「ったく、お前って結構苦手な奴多いよな。竹林で病院やってる医者とも会うの拒むし」

「……彼女とは色々と顔合わせ辛いのよ、色々とね……」

 

隣りにいる銀時の裾を掴み、バトンタッチしながら紫は眉をひそめて何か呟くが

 

銀時には聞こえなかった様子で、彼は映姫の方へと顔を向けていた。

 

「どうも閻魔様、せっかくの休日だってのに地獄で亡者共に説教巡りたぁ大したもんだな。ここに来るまでもずっと小言呟きながら回っていたのか?」

「いえ、あなた方と違いちゃんと事前に来ると予定を出していた方と地獄の視察がてら案内をしていました」

「ふーん、ちなみにどなた?」

「現世の地獄の補佐官、と白い犬です、今しがた帰られましたよ」

「……鉢合わせしなくて良かった」

 

現世の地獄の補佐官と言えば、閻魔の次に偉い役職、つまり地獄のナンバー2である。

幻想郷の地獄が上手く動いているのかわざわざ調べに来たのであろうが、「そんな事は部下にやらせとけよ……」と悪態を突きつつ、銀時はその補佐官と遭遇しなかった事に一安心した。

 

「現世の補佐官殿がもう帰ったっつう事はおたくもしばらく予定空いてるんだろ、ならちょっと聞きたい事あんだけど?」

「構いません、どの様な困り事であろうと解決を導くのもまた元地蔵である私の務めです」

 

映姫は元々お地蔵様であり、現世では長年多くの人々の悩みや告白、懺悔などを聞き続けていた。

 

尋ねたい事があるのであれば当然聞いてあげるというスタンスである彼女に、銀時は一つ聞いてみる。

 

 

「常々気になってたんだけど、なんであのバカと結婚したの?」

「……てっきり桂小太郎を取り逃がした件について聞いてくると思ってたんですが、なるほどそう来ましたか……」

 

予想が外れたと映姫は若干バツの悪そうな表情を浮かべ、口に手を当て考える仕草をしていると

 

背後からザバァ!と音を立てて、何者かが血の池地獄から這い出て来た。

 

「お、おまん等ぁぁぁぁぁ!! なにずっと無視しとるんじゃあ! 国一個潰しかけた化け狸の本領発揮させたるぞ!!」

「おや自力で出てきましたか、流石は四国一の大妖怪と称される程の神通力を持つ狸ですね」

 

血の池から生還してきたのは坂本であった、全身から血をポタポタと滴り落としながら現れた彼に、映姫は辛辣な言葉を浴びせながら冷たい目で睨み付ける。

 

「ではもう一度池の中に潜って下さい」

「この期に及んでまだわしを血の池に沈めるつもり!? もういいじゃろ映姫! 一人ぼっちにさせてしもうた事は散々謝り尽くした筈じゃぞわしは!」

「駄目です、まだあなたに裏切られた私の心は癒えていません、この心の傷が完治するまで血の池でクロールでもしながら反省する事こそ夫の務めです」

「おまんのその心の傷が治る前にわしの身体の方はズタボロになる一方なんですけど!」

 

流石に理不尽すぎる要求に坂本は体にこびり付いた血を払い落しながら抗議していると、ふと映姫の前に見知った顔である銀時達がいる事にやっと気付いた。

 

「っておまん等、よう見たら金時と紫ちゃんじゃなか。なんじゃおまん等来とったんか、溺れてて気づかんかったわ」

「その前に人の名前を覚え間違えてる事に気付けボケ」

「久しぶりね坂本さん、今もなお奥さんとの仲は良好みたいで安心したわ」

「アハハハハ、紫ちゃんしばらく会わん内に目ぇ悪うなった?」

 

ジト目でツッコミを入れてくる銀時と朗らかに笑みを浮かべる紫に苦笑しつつ、坂本は今度は傍にいた陸奥の方へ振り返る。

 

「てか陸奥ぅ! おまんなんでわしが必死に助けを呼んでおったのに来てくれんかったんじゃ! 長年の友を見捨てるとは! そこまで薄情だとは思わんかったぜよ!」

「アホか、わしは閻魔・映姫様の部下、その閻魔様がおまんに下した罰に邪魔する様な真似出来るか」

「あー職場に一人も味方がおらんというのはほんに辛いのぉ……やっぱ転職したい……」

 

感情の無い目ではっきりと反論する陸奥に対し、坂本はガックリと腰を下りながらつい仕事を辞めたいとポツリと呟くと

 

またもや映姫がジロリと見下ろしながら少々怒った様子で

 

「転職はさせませんよ辰馬、あなたの力は地獄でこそ真価を発揮するというモノ、そもそも私の目の届かぬ場所に行かせるような真似は断じて許しません、夫婦というのはいかなる時でも互いの傍にいるのが当たり前なのです」

「そりゃおまんの中での持論じゃろ、全く心配症というかワガママというか……紫ちゃんどう思う?」

「夫婦の価値観は人それぞれでしょ? ウチはウチ、あなた達はあなた達で解決して頂戴」

「あーなんか昔に比べて随分とドライになってない?」

「大人になるってそういう事よ」

「しばらく見ん内に悪女になったのぉ紫ちゃん……」

 

キッパリと自分なりの理想の夫婦像を語る映姫に坂本はため息をこぼしつつ紫に助けを求めるも、彼女は関わりたくなさそうに手を振って受け流した。

 

坂本はともかく映姫と口論になるのは極力避けたいのが本音であろう。

 

「それより閻魔様、彼がいきなり横やり入れて来たから話が流れそうになったけど、実際の所あなたどうして彼と結婚したの?」

「えぇ……まさかあなたも聞きたいのですか幻想郷の管理人……? 個人的にはあなたこそどうしてこの様な変わり者と結婚したのか甚だ疑問なのですが……まあ別にいいでしょう」

 

銀時の次は紫からも尋ねられ、映姫は少々嫌そうな顔を浮かべながらも、ここでしっかりと答えねば後々面倒な事になりそうだと思った彼女は話をしてあげる事にした。

 

「陸奥、ここからは私が彼等を案内します。あなたはもう宿舎に戻って結構です」

「わしは別にこのままこの連中をば案内しても構わんのですが? 閻魔様こそお休みになられた方がいいんでは?」

「お気遣いありがとう、ですが賽の河原にて子供達を見に行こうと思っていたので」

「ああ、確か道信とかいう男が管理しちょる……」

「子供達だけでなく彼がキチンと仕事をしているのかもこの目で見てみたいのです、彼もまた子供ですし」

 

どうやらまだ地獄内を巡るつもりらしい映姫、少々働き過ぎでは?と陸奥もやや心配そうに目を細めるが、どうせ言っても聞かないだろうと思い、彼女のお言葉に甘えて踵を返した。

 

「なら後はお頼みします、それではお二人さん、閻魔様の案内もあれど、くれぐれも気を付けるんじゃぞ」

「ああ」

「ここまで連れてきてくれてありがとう」

「それとそこのアホたれ、また閻魔様の機嫌を損ねるような真似したらば、今度は黒縄地獄にほおり投げられるかもしれんから気ぃ付けちょれ」

「ハハハ、なんじゃ陸奥、やっぱりわしの事心配してくれとったんか?」

「……付き合い切れん」

 

映姫に後の案内を頼み、銀時と紫に別れを言うと、最後に坂本に忠告をして陸奥はスタスタと帰って行った。

 

「あなた方が聞きたい話は賽の河原に向かう道中でしてあげます、ついて来なさい」

「あ、そうだ。ついでにヅラをどうするかについても聞きてぇんだけど?」

「……そっちがついで扱いなんですか、まあいいでしょう」

 

思い出したように地獄から逃げ出した桂小太郎をどうするかについて尋ねて来た銀時に、映姫は「順序逆では?」と思いつつも、その事についても話してあげると約束しつつ、歩みを進めた。

 

紫、銀時、そしてドサクサに坂本も彼女の後をついて行く。

 

「賽の河原、親より先に死んだ子供達が辿り着く場所だったかしら?」

「延々と石積みをさせられて、どれだけ頑張って積んでも鬼が崩しに来るからまた一から積み直すとかそんな事させる場所だろ? ひっでぇよな」

「そう責めんでやってくれ、鬼達も心ん中では申し訳ない気持ちで一杯なんじゃ、仕事だから仕方ないぜよ」

 

三人はそんな談笑を交えつつ映姫の後を追って賽の河原へと向かうのであった。

 

 

かくして閻魔・四季映姫と合流出来た銀時と紫は、陸奥と別れた代わりに坂本を加わえて

 

映姫と坂本の結婚秘話を聞きながら地獄巡り、最後の目的地となる場所へと赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




私の別作品、竿魂を呼んでる方ならわかっていると思いますが

恐らくですが来週は休載となるかもしれません。ここ最近旅行に赴いたり、更に風邪引いたりと、執筆する時間が普段より大分減ってしまった為に、締め切りの日に追われる状況になってるからです。
他二作品も同様、定期的に更新出来るよう一週間だけ時間を貰おうと思います。

次回の更新は再来週の11月26日になると思われます、申し訳ありません

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