私めの作品の絵を描いて下さりまことにありがとうございます。
コレを励みにより一層精進し、全力で執筆にとりかかろうと思います!
閻魔、鳳仙に地獄への入り口で待機しておけと言われて数分後
銀時と紫の前に三度傘を被った一人の女性がフラリと現れる。
「わしが陸奥ぜよ、お前さん達が日輪の言うておった地獄ば観光に来たモンか?」
「どうも、幻想郷でトップ張らせてもらってる八雲銀時です」
「嘘おっしゃい、この人は幻想郷でフラフラしながら遊び呆けているダメ亭主です、私はこんなダメな夫に愛想尽かさずに慈悲なる心で受け止めて良き妻として立派に支えてあげている八雲紫です」
「オメェも嘘言ってんじゃねぇか! どこが良き妻だ! ロクに家事も出来ねぇクセに!」
日輪と同じく閻魔の補佐役を務める者、陸奥
鳳仙と同じく夜兎族であり、坂本辰馬とは妖怪同士で昔から何かと縁があったとか
その縁がキッカケで坂本の推薦により彼女が閻魔の補佐役として抜擢されたのだ。
彼女の前で自己紹介がてらに早速二人でボケとツッコミを行っていると
陸奥は全くのノーリアクションで表情一つ動かさずに話を続ける、
「遠路はるばるようこげな場所にやってくるたぁ随分変わった夫婦じゃ、物好きと呼ぶべきか阿呆と呼ぶべきか困ったモンじゃきん」
「まあ本題はおたくの所の閻魔に会いに来たんだけどよ、今日は非番らしいからとりあえず観光だけでもしておこうかなと思ってさ」
「閻魔ならついさっき会っておった筈じゃが?」
「いやもう一人の、ほら坂本の奥さんの方」
「ああ、わしが補佐しちょる閻魔様の方か、それなら安心せい、彼女ならここに来ちょる」
地獄の温度はやはり高く、何度も高温の熱風を食らいながら汗だくになっている銀時に対し
陸奥はずっと涼しい表情を浮かべたまま二人にとある方向へ指差す。
「今頃血の池地獄の視察でもしちょる頃じゃろ。例え非番であろうと地獄の中を歩いて亡者共に説法を説く事もようあるんじゃ」
「それっていわゆる休日出勤てやつ?」
「そりゃ会社側から要求されて仕方なく休みの日に出るっちゅうパターンじゃろ、ウチの閻魔様は自主的にやっておるきん、好きで亡者に説教かましておるんじゃ」
「やな趣味だな、自分を地獄に叩き落とした張本人に更に説教までされんの? やっぱ地獄だわここ」
「色々と自分が判決を下した亡者の様子も見ておきたいのよきっと」
どうやらもう一人の閻魔はここで色々と亡者に話をしている真っ最中らしい。
例え休みの日であろうが自主的に仕事現場に出向くとは大したものではあるが、少々生真面目すぎやしないか?と銀時は首を捻る。
「まあ好きでやってるんなら別にいいけどよ、とりあえずその閻魔様もいる方向まで案内してくれや、その道中で観光ガイドも頼む」
「全く、休みの日に叩き起こされたと思ったらよもやこのような事せんといかんとはとんだブラック企業じゃ、その内転職でもしてみようかの」
「ごめんなさいね、私達この辺は来た事も無いし土地勘無いのよ、うっかり阿鼻地獄にでも落ちたら怖いし」
「いやおまん等には文句はなか、文句ばあるのはいきなり命令してきおった鳳仙様の方ぜよ。同族のよしみだという事で色々とわしにめんどくさい事押し付けてくるんで迷惑しておるんじゃ」
ブツブツとここにはいない鳳仙に対しての文句を呟くと、陸奥は踵を返して歩き出す。
「よしついて来い、閻魔様の所へ案内しちょるきん。はぐれて鬼共に釜茹でにほおり投げられてもわしは知らんからの」
「へいへい、ところでなんか涼しい地獄とか無い? さっきから暑くてたまんねぇんだけど?」
「そげなモンはない、現世の地獄であれば八寒地獄があるが、生憎ここはそこまで広大に土地のある地獄ではなか」
「まあ現世の地獄は半端ない程デカいらしいしな、一度見てみたいモンだがあそこの補佐官は怖ぇからな……」
「デカいというより深いんじゃなかったかしら? それより早く彼女について行くわよ、地獄で迷子になるなんて冗談じゃ済まされないし」
「わーってるよ」
考え事をしている最中に紫に急かされ、銀時は渋々陸奥の後をついて行く。
スタスタと慣れた様子で進んで行ってしまう陸奥に対し、地獄特有のデコボコした歩きづらい土地に悪戦苦闘しながら、銀時と紫は彼女との距離を離さないように気を付けて進むのであった。
「ほれ見てみぃ、あそこで虫が鉄板で亡者焼いちょる。虫によってミディアム派かレア派かとか変わるらしいが、あの虫はミディアム派らしいの」
「でっけぇ虫だなおい、あんなの虫嫌いの亡者にはたまったモンじゃねぇな、おっと」
6本足の巨大なアリのような生物が器用に泣き叫ぶ亡者を鉄板の上で転がしながらその身を上手く焼き上げている。
そんな常人であればトラウマ確定の光景を平然と見ていた銀時がうっかりよろけてしまうと、すぐに隣にいた紫が彼の手を掴んで立たせる。
「気を付けて。それにしても亡者の焼けてる匂いがここまで漂って来るわね、生半可な覚悟じゃここの仕事に就く事は無理そうね」
「辰馬の野郎はよくこんな場所で働けるな」
「慣れればそうキツイもんでもないぜよ、ところでおまん、もしかして坂本のバカと知り合いか?」
「まあな、ざっと千年近く前からだ」
転ばない様に紫の手をしっかりと握りながら二人揃って歩いていると、陸奥が振り返り坂本の事を聞いて来た。
彼女もまた坂本とはかなり付き合いが長い方である、それこそ彼の妻である閻魔よりも
「ならわしの方が付き合い長いの、アイツと初めて会うたのはまだ奴が四国で大名の守り神的存在として祀られる前からじゃきん、土佐のちっぽけな山で他の化け狸を率いてしょうもないイタズラ三昧しちょってた時に、わしはアイツと会うたんじゃ」
「そんな古い仲なのお前等? 俺はアイツが人間に騙されて洞窟の中に封印された頃からしか知らねぇわ」
「まあ俗にいう腐れ縁というモンじゃきん、ところであっち見てみろ、鬼が亡者同士で殺し合いさせておるぞ」
「うわえげつねぇ……」」
話の途中でまた陸奥が指をさす。
見てみると金棒持った鬼が亡者に武器を手渡して無理矢理他の亡者と殺し合いをしろと強要している所であった。
「現世の漫画とか映画でよくああいうデスゲーム的なノリで殺し合いさせるってパターンあるけど、地獄が元祖だったのか」
「見た所ここって等活地獄ね、確か地獄の中では一番軽い方の地獄だったかしら?」
「コレで一番軽いのかよ……刑期何年ぐらいなんだ?」
「約1兆6653億年ぐらいじゃの、地獄の中では一番短い期間で済む所じゃ」
仏頂面でサラリととんでもない年数を答える陸奥に銀時は唖然としながらため息を突くと
「……不死で良かったわ俺」
「残念じゃが不死でもここに堕ちる事はあるぜよ」
「え、マジで!?」
「現世には不老不死となって己の寿命を延ばしたモンだけを狙って殺す事の出来る神様がおるんじゃ、正式名称は『死神』」
例え朽ち果てずに永遠の命を持つ者でも地獄へ落される事があると聞いて銀時が驚いていると
向こうから飛び散ってきた返り血をヒョイッと避けながら陸奥が話始める。
「亡者の魂を運ぶ小町と月詠も死神ではあるが、アレは本物ではなく役職の名称みたいなもんじゃ。本物の死神は現世を漂い、禁忌を犯して己の寿命を延ばしおった輩を成敗して、生き物の生態バランスを崩さぬ様調整する役目を持っておるんじゃ」
死神というのはいわば生死を司る神、その者が罰するのは不死という生命に対する冒涜とも呼べる代物をこの世から絶やし、この世とあの世の魂の循環を修正する存在だ。
しかしそれを聞いて不老不死の身である銀時は若干危機感を覚える。
「あれ? てことは俺ヤバくね? つーか幻想郷にもう三人程不死身の奴等知ってんだけど?」
「安心せい、というのもわしが言うのはおかしいが。ここ最近死神は一人の不死のモンだけを追いかけ回しちょるきん、そやつを倒さんと次の獲物を狙う気になれんと、数百年間ずっと付きっ切りで殺そうとしてると聞いちょる。おまんの出番は当分先かもしれんの」
「他の仕事ほったらかしにして一人の不死者にご執心たぁ頑固な死神だなオイ、まあおかげで命拾いしたけどこっちは」
「……そうね私も安心したわ」
陸奥にそう聞かされて安心したかのようにため息を突く銀時の手を紫は強く握りしめる。
「まだ貴方には生きていて欲しいしね、夫に先立たれて未亡人になるのはごめんだわ」
「ああ? 大丈夫だって、お前置いて逝っちまうほど俺はやわじゃねぇよ、死神なんざ来てもおっ払ちまうから」
「……」
彼女を安心させるかの様に銀時が得意げに笑いかけると、紫は無言で押し黙りジッと彼の顔を見つめる。
『大丈夫だって、お前置いて逝っちまうほど俺はやわじゃねぇよ』
『大丈夫……アンタを置いて逝っちまうほど私はやわじゃないわよ……』
「その台詞を”あなた”から聞いたのは二度目ね」
「そうだっけ? よく覚えてねぇや」
「ええ、覚えてなくていいのよ、”今のあなた”は」
「……」
紫の表情を見て銀時は何か勘付いた。
彼女はきっと、『今の自分ではないもう一つの自分』とやらと自分を被せていたのだろう。
その寂しげな表情を見て銀時の胸に謎の痛みがチクリと走る。この痛みは過去幾度も味わっているがどうにも慣れない。
こういう時の彼女の表情はいつも銀時に嫌な気持ちをさせる。
しかし銀時はその事について追及せず、黙って聞かなかった事にし、話題を逸らす為に陸奥の方へと振り向いた。
「……まあ死神が現在進行形で別の不死者に固執してるんなら安心したわ。ところであそこの地獄はもしかしてアレか? 地獄名物の『血の池地獄』って奴?」
「名物とは思っちょらんが有名と言えば有名か、案内するからついて来い」
不意に向こう側へと指差した銀時に頷くと、陸奥は再び歩き出し、銀時と紫もまた無言で彼女の後をついて行った。
少々険しい道のりを歩いて数分後、程無くして銀時達の前の非常に鉄臭く煮えた真っ赤な池が現れた、
血の池地獄
現世で「性」に関する罪・性欲に溺れた、異性をかどわかして苦しめた事を犯した者が落ちる地獄であり
落ちた亡者は溺れてもがき苦しみ、身体が血に染まり出すと徐々に体が重くなり、やがては底に沈み、溺れ死ぬと再び浮いた状態で復活して更なる苦しみを体験する事になる恐ろしい地獄
頑張って泳いで岸へ這い上がろうとする者もまた、監視している鬼が金棒で叩いて再び池に落とす。
溺死の苦しみは他の死に方に比べても相当きついといわれている。
亡者は死にたくても死ねない状態なのでこの地獄もまた強烈な責め苦を与える刑なのだ。
「俗にいう己の性欲に負けて不祥事を犯したモンが入る所じゃ、ちなみに不倫を繰り返したモンもここに容赦なくぶち込まれるのでそこの旦那も気を付けた方がいいぜよ」
「あのーすんません、いきなり失礼な事言わないでくれます? 俺これでも奥さんの事しっかり大事にしてるんで? 生まれた時代はアレだけど俺はそんな中で一夫一妻を千年貫いた生粋の旦那だよ? 今更別の女が現れようがおいそれと簡単に現を抜かすかってんだ」
「あら嬉しい事言ってくれるわね」
さっきまで少々元気がなかった紫が銀時の言葉を聞いてコロリと機嫌を良くしたかのように笑顔になる。
「ならもうあの白髪女との件は完全に無かった事にしていいのね? まだ未練タラタラ引きずってると知ったらタダじゃ済まさないから」
「いやアイツと色々あったのはお前と付き合う前の事だから不倫でもなんでも……おいその笑顔止めろ! 笑顔なのに殺気が半端なく滲み出てるんだよ! わかったから落ち着け! もう何もないから俺とアイツは! 引きずってるのは俺じゃなくてオメェだろうが!!」
笑顔というより内なる殺意の波動を隠す作られた仮面。銀時は彼女の両腕を掴みながらなんとかなだめに入っている中、陸奥は勝手に血の池地獄を指差しながら説明を始めた。
「あそこで亡者共が浮いたり沈んだりしちょるぜよ、身体が重くなり沈んだら溺れ死に、再び浮いたまま復活して再び溺れ死ぬ、コレを延々と繰り返す地獄が血の池地獄じゃ、勉強になっちょるか?」
「いや勉強になるけどこっちはこっちで血を見る事になりそうなんだけど!? 主に俺自身の血で!」
「そんであそこにアホ面しながら溺れておるのが
銀時がなんとか紫を制止させて大人しくさせることに成功していると、安堵のため息をこぼす彼に対し
陸奥は再び亡者共のたむろ場へ指差すと。
水面からモジャモジャ頭のグラサンを掛けた男が必死の形相で飛び出したではないか。
「わしが担当しちょる閻魔の旦那、坂本辰馬でございます」
「ぐっぱぁ! 陸奥ぅ助けてくれぇ! このままだとわしも亡者と共に溺れ死ぬぅブクブクブク!!」
「えぇぇぇぇぇ!? 何してんのアイツ!? なんで地獄の刑執行者が自ら血の池にハマってんの!?」
まさかのここで坂本辰馬と再会するとは思ってもいなかった銀時。
彼が血の池地獄で亡者達同様に責められている事に疑問を問いかけると、陸奥は旧知の仲の者が助けを呼んで来てるのも無視して
「心配せんでもよか、ちょいと前にあのバカはウチの閻魔をほったらかしにして幻想郷に出向いたとして罰を食らっているだけじゃ、血の池地獄よそいつをはよ重くして沈めちゃってー、特に股間を重心的に」
「なに!? アイツの股間に何か恨みでもあるのアンタ!?」
「陸奥ぅ! お前ぶっ殺すぞぉブクブクブクブク……!」
陸奥の望みが届いたのか坂本は再び血の池の底へと深く沈んでいく。
ちょっとほったからしにされただけであのような仕打ちを与えるとは……坂本の妻である閻魔はそれ程彼の行いを許せなかったのであろうか……
夫に対してこの仕打ち、いやはや怖すぎて頬を引きつらせて呆然とするしかない。
「俺のカミさんがお前で良かったよ紫……」
「ちなみにあなたがあの白髪女とふしだらな関係に戻った時、血の池地獄どころか阿鼻地獄に叩き落とすから」
「え!?」
辿り着くまでにまず2000年落ち続け、地獄の中でも最下層、つまり最も罪の重い者のみが落とされるという阿鼻地獄へ突き落すと、サラリと笑いながら言う紫に対し銀時の表情は強張った。
この世で最も恐ろしく怒らせてはいけないモノ
それは遠い存在である未知なる神でも仏でもなく、身近にいるかつよく知っている存在なのかもしれない。
坂本辰馬のちょっとしたミニ設定
彼は狐は苦手だが兎はもっと苦手
昔、古い本で狸が兎に惨たらしく殺される本を読んでからトラウマになりました。
今でもどこぞの兎の耳を付けた少女を見かけただけでも
背後からカチカチと幻聴が聞こえて全速力で逃げ出すとか……