銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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#34 小詠月銀紫時町

ここは地獄へと繋がる三途の川。

 

その入り口にて立つのは死者を導いて地獄での裁判所まで連れて行く二人の案内人であった。

 

「いや~暇だねぇ」

「なに、わっち等が暇なのはいい事でありんす」

 

死者の魂を舟に乗せて彼岸まで運ぶ役割を担う死神、小野塚小町と

 

彼女が連れてきた魂を地獄まで運ぶ役割を担う死神、月詠は

 

二人揃ってほんのひと時の休息を行っていた。

 

もっとも小町の方は年がら年中サボって休憩しまくっているのだが

 

「わっち等が暇という事は幻想郷での死人がおらんという事に繋がるんじゃ、ずっと暇なのもどうかと思うが、こうしてほんのひと時の中で一服できる時間があるというのもたまには悪くない」

「私はもっと暇な時間増やして欲しいんだけどねぇ~、人間の寿命もう100年ぐらい延びないかな~おっと」

 

キセルを咥えたまま悟った様に呟く月詠に目配せしながら、小町は船の上でゴロンと横になろうかなと考えていると

 

不意の深い霧の中から一組の男女がこちらへと近づいて来た。

 

こちらにやってきたばかりの死人かな?っと思いつつ小町が顔を上げると

 

「よう、なにサボってんだお前等? お前等が仕事しないと冥界の姫様が困るんだよ、いや困らせた方がいいかもないっその事……」

「久しぶりね、地獄名物、デコボコ死神コンビさん」

「ぬし等は……」

 

やってきたのは予想外にもあの幻想郷の管理人を行っている八雲紫とその旦那、八雲銀時であった。

 

彼等が来た事に月詠はキセルから灰を落としながら意外そうな表情を浮かべていると、小町の方は船の上で肘掛けながら目を細める。

 

「八雲の夫婦が揃って一体何しにきたんで? もしかして二人揃って仲良く死んじゃったとか?」

「そうかお前達も遂に……ならばわっち等が全身全霊を持ってぬし等を地獄へと送ろう」

「いや死んでないからね俺達、つーか俺そもそも死なねぇし」

 

夫婦で死んだと誤解されている事に銀時は仏頂面でツッコミを入れていると、フフッと笑いながら紫が小町と月詠に話を始めた。

 

「私達地獄の閻魔様に用があって来たのよ、この人の力があれば簡単に行けるけどなんか味気が無いから。こうして二人っきりでゆっくり行こうと思ってね」

「ああなんだ、ただの夫婦水入らずのあの世デートか」

「ほんに、幾年経っても仲の良い夫婦じゃ」

「伊達に倦怠期を何度も超えてないんでね」

 

紫の説明を聞いて納得した様子の小町とキセルを懐に仕舞いながら、八雲夫婦を微笑ましく思う月詠。

 

しかし仲が良くてもデートの目的地が地獄とはどうであろうか……

 

「ところで暇なんだろお前等? だったらちょっくら舟乗せて地獄まで連れてってくんない? 一度乗って見たかったんだよそれ、俺多分乗る機会ないと思うし」

「やれやれ、死者を地獄へと導く為の舟をアヒルボート気分で乗るつもりかいこの夫婦は……まあいいよ今日はあまりお客さんいないし、特別に乗っけてあげる」

「いいのか小町……ぬしがいなかったら死者の魂はここで待ちぼうけに」

「少しぐらい待ってもらうって事でいいんじゃない?」

 

軽く言いながら早速岸に着けてた舟を蹴って川に乗せる小町。

 

そんな彼女に月詠にはやれやれと頭を手で押さえながら首を横に振る。

 

「全く、ぬしは本当に適当じゃの」

「アンタはアンタで気負い過ぎなんだよ、もうちょっと手を抜かないと」

「手を抜き過ぎるのも問題だろうて」

 

きっとどちらも言っている事は正しいのであろう。この二人は長年こうして仲良く同じ死神同士でやっていけているのだがどうも性格は正反対なのだ。

 

適当な死神と生真面目な死神。そして彼女達の上司である坂本辰馬とその妻もまた、同じように性格が真逆である。

 

「それより月詠、アンタは乗らないの? 彼岸に付いたら地獄へ連れて行くのはアンタの役目だろ?」

「誰が乗らぬと言った、勝手において行こうとするな」

 

銀時と紫はもう小町が船頭する舟に隣同士で腰を下ろしている。

 

月詠もまた三途の川入口に「死神舟渡り中の為しばし待たれよ」という看板を置くと、すぐに舟へと乗った。

 

かくして銀時と紫のあの世巡りツアーの始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「左に見えるが大蟹~右に見えるのが大蛇でございま~す」

「うわでっけー」

「本当ね、アレで蟹料理何人前作れるのかしら」

「前に気まぐれで調理した事あったけどね、地獄の職員全員総出で平らげる事になったよ」

「食ったのかよ!」

 

プカプカと大きな川の上を渡りながら、すっかり観光ガイドの気分で銀時と紫に川に住む巨大生物を見渡しながら小町は説明してあげる。

 

「彼等の仕事は主に地獄から逃げ出して三途の川を泳いで現世に戻ろうとする死者を捕まえる事だね」

「へー、あんなんに捕まったら一生トラウマモンだな、あ、早速亡者が蛇に食われてるぞ」

「こっちは蟹が亡者を挟みで真っ二つにしてるわ。地獄から死者が逃げ出す事ってよくある事なのかしら?」

「ありますよそりゃね、誰だって惨い目に遭いたくないでしょ? まあどう足掻こうとこっから逃げれる訳がないんですけど」

 

目の前で行われてる惨劇を慣れた感じで眺めている銀時と紫に小町が得意げに話していると、一緒に乗っていた月詠がそこで口を挟んだ。

 

「何を言うとるんじゃ、つい先日に地獄から抜け出して現世へと逃走した悪霊がいる事を忘れたのか?」

「え? ああそうだった、いやぁ実はちょっと前にかなりヤバい悪霊を取り逃がしちまいましたんですよコレが、桂小太郎って知ってます? 外の世界でも相当性質の悪い悪霊だったんですけどねコレが中々手強くてですね……」

 

桂小太郎と聞いて銀時と紫は同時に眉間にしわを寄せた後、彼女達の話を遮って銀時が口を開いた。

 

「実はそいつの事でちょっと文句言いに来た所もあるんだよね地獄の所のトップに。よりにもよってあんなモン逃がすとかどんなずさんな管理してんだってさ」

「いや~それはこちらとしても面目ないとしか言えませんね~」

 

嫌味ったらしく述べる銀時に後頭部を掻きながら「あはは」と苦笑しながらぎこちない様子で謝る小町。

 

「ただウチの閻魔様達も桂が逃げ出した事には相当責任感じてるみたいなんで、どうか穏便に済ませてくださいよ」

「は? 閻魔様”達”? 閻魔って一人じゃないの?」

「あら知らないのあなた?」

 

閻魔の事を複数形で呼ぶ事に銀時が違和感を覚えていると、川の下を覗いていた紫が彼の方へ振り向く。

 

「幻想郷の閻魔は”二人”いるのよ、24時間勤務で毎日交代制でやっているのよ」

「マジで? 俺たまに地獄へ行くときあるけど、そん時はいつも坂本の嫁さんしか見た事無いんだけど?」

「たまたまでしょ、ちなみにもう一人の閻魔は男性よ」

 

閻魔大王が二人いる事に初めて気づいた銀時、現世の地獄とは違うんだなと思いつつ銀時はポリポリと鼻の頭を掻いると、紫が小町の方へ振り返る。

 

「そういえば奥さん裁判官だけど、坂本さんの方は確か地獄で亡者へ刑を執行する担当者だったかしら?」

「そうですよ~辰馬様は地獄では亡者にとって閻魔様の次に恐れられてるお方ですから」

 

こちらに顔を上げて尋ねてきた紫に小町は舟を漕ぎながら陽気に答える。

 

「なにせなんにでも化けられますからねあの人は、その亡者が一番恐れてるモンに化けてそらもうバンバン痛みつけてるみたいですよ、ただ本人は「こげな精神的ば辛い仕事はさっさと辞めて転職したいぜよ」とか言ってましたね、まあ奥様がお許しになるとは思えませんけど」

「あの人は神の域に到達しかけた大妖怪だしね、重宝するだろうし手放したくないのかしら?」

「いやぁ~あれは単に奥様のワガママだと思うんすけどね~。少しでも目の届く場所にいて欲しいんですよきっと」

「……それはちょっとわかるかもしれないわね、同じ奥さんとして」

 

自分の上司に対してかなり個人的な推測をする小町だが、恐らくそうなのかもしれない。

彼女の話を聞いて紫は少々納得した様子で頷くと、自分の夫の方へチラリと目を向けると。

 

彼はそんな事も気付いてない様子で、後ろで座っている月詠の方へ話しかけていた。

 

「そういや辰馬の奴、前に一人で幻想郷に来てたけど大丈夫だったのか?」

「無論、奥方はお怒りじゃったわ。幻想郷に行く時はいつもは二人で出向くというのが約束であったのに、すっぽかして勝手に一人で行かれた事に相当我慢ならんかった様じゃ、恐らく今もなおその怒りは収まっておらんじゃろ」

 

キセルの煙を口から吐きながら月詠は優雅に坂本の妻の現在の状況を教えてあげた。

 

それを聞いて銀時は「うへぇ」と言葉を漏らすと早速紫の方へ顔を戻す。

 

「なあ、ウチはそういう事無いよね、紫ちゃん」

「まあそうね、だってウチはあなたが何処で何してようが瞬時に見つけられるし」

「……あれ? なんかカミさんに無理矢理GPS携帯を持たされている旦那の気分なんだけど……」

「見つけられる上にそのまま現場に直行する事も出来るしね、だから妙な事は考えないのが身の為よ、大概の事は笑って許してあげてもいいけど、もしかしたら怒る時があるかもね、銀ちゃん?」

「ハハハ……だ、大丈夫大丈夫、銀ちゃんは何時だって紫ちゃんを怒らせるような真似だけは絶対にしないから~」

「そう良かった……でも何故かしらねぇ、その台詞を本気で信じれることが出来ない私がいるのよ」

 

意味ありげな微笑みを返してくる紫に銀時は汗ばんだ顔を着物の裾で拭いながら、無理矢理話題を変えようとするかのように慌てて前にいる小町の方へ話しかける。

 

「そ、そういえば高杉の奴元気してるかな!? 辰馬が言うにはお前等は結構な頻度で会ってたみたいじゃねぇか!?」

「高杉ってもしかしてあの高杉晋助さんですか? ああそういやここ最近顔見せてないですねぇ、前はほぼ毎日こっちに来てたのに、やっぱりまだ苦戦してるみたいですね”彼女”に」

「彼女?」

 

舟を漕ぐのを一旦止めて、櫂にもたれながら返事する小町。

 

彼女と聞いて銀時が怪訝な表情を浮かべていると、今度は後ろに座る月詠が

 

「ちょいとした野暮用でな、高杉はそのおなごを数百年程追いかけ回しておるんじゃ、それっきりこっちには来ておらん」

「えぇ!? アイツ今女の追っかけなんてしてんの!? 知らなかった~アイツそんなキャラだったっけ?」

「別にそのおなごを好いておるから追いかけてる訳ではない、奴にとってはそれが大事な仕事なんじゃ」

「……そういやアイツ今なんの仕事してんの?」

「ふむ、要するにわっちや小町みたいな職務的に死神と呼ばわれてる者とは違い、高杉は本家本元と呼ぶべきかの」

「えー……もしかしてアイツって」

「ま、詳しい仕事内容は本人に聞くか……」

 

高杉の事情やどこの仕事に就いてるかについて聞いた銀時は意味ありげに目を細めていると、月詠は前方の方へ目を向けた。

 

「もしくは地獄で仕事しているアイツの仲間に聞いてみればいいじゃろ」

「は? アイツの仲間ってもしかしてあの有名な……。そいつ等が今地獄で働いてんの?」

「ああ、三人共皆地獄で大活躍じゃ、もう一人変なのが付いておったが」

「マジかよ、アイツ等の仲間がまさかの辰馬の同僚だったのかよ、世間は狭いねー……ん?」

 

銀時がしみじみと物思いにふけっていると

 

いつの間にか舟は”向こう側”へと到達していた。

 

舟が岸へ乗り上げると同時に小町は櫂をほおり捨ててこちらへと振り返る。

 

「さてと三途の川渡りツアーはこれで終わりだ。こっからは私の相棒の仕事だ、月詠、後は頼んだよ。あたいはしばらくここで昼寝してるから」

「いや寝るな、ちゃんと仕事しろ。閻魔様に言い付けるぞ」

「あ~それだけは勘弁してほしいかも……」

 

相変わらずのサボり癖に月詠は慣れた感じで小町をたしなめると、スクリと立ち上がって銀時と紫の横を通り過ぎて舟から岸へと降りる。

 

こっから先は死者のはびこる場所、彼岸だ。

 

月詠の仕事はここから死者の魂を地獄の門前まで連れて行く事なのである。

 

「ぬしらは別に死者ではないが今回は特別じゃ、地獄門まではわっちが案内してあげるでありんす」

「なんだよ、門までしか案内してくれないの? 固い事言わずに閻魔の御殿まで連れてってくれよ」

「わっち等の仕事は死者の魂を地獄へと導く事じゃ。門より先は別のモンがいるからその者に案内してもらえ」

 

舟からヒョイッと降りて来た銀時のお願いを即座に断ると、月詠は咥えていたキセルを懐に仕舞う。

 

「忠告しておくが地獄へ行っても失礼の無いようにな、ぬし等が地獄で迷惑をかけたとなったら、ぬし等をここまで連れて来たわっちや小町にも責任があるという事で、下手すればクビを飛ばされる」

「あいよ、別に喧嘩しに来た訳じゃねぇし何も問題なんざ起こさねぇよ。閻魔様ともよく顔合わせてるし結構長い付き合いだ、無礼な真似はしねぇよ」

「……残念じゃったの今日の閻魔様はぬしの知る閻魔様ではない」

「……え? てことはもう一人の男の……」

「ああ」

 

紫の手を取って舟から降ろしながら、銀時がきょとんとしていると月詠はコクリと縦に頷いて見せる。

 

 

 

 

 

「かつて夜兎族として最強の大妖怪とまで呼ばれていたほどの真の強者、夜王・鳳仙様じゃ」

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに幻想郷の閻魔は二人制というのは原作通りの設定です。

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