銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界   作:カイバーマン。

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私の書く銀魂SSでは結構彼を主役にして書く話がよくあります。

それぐらい好きなキャラクターです。



#29 諏山崎訪子

山崎退

妖怪の山で真撰組密偵として働いている鬼天狗だ。

 

見た目も地味、仕事も地味なでその事に関しては少々コンプレックスはあるものの

 

その地味さのおかげで様々な諜報活動に専念出来ているので、その点に関しては己の地味さに感謝している。

 

そして今日はというと最近山に現れた怪しき神社、守矢神社の調査の為に足を運んでいた。

 

「ここか、きな臭い神様が隠れ蓑として暮らしている神社は……」

 

鳥居を超えて山崎はなるべく気配を消しつつコソコソと神社の方へと素早く進んでいく。

 

数日前にここで天狗と河童と鬼、そして神と不老不死による大宴会が開かれたらしいのだが、山崎は残念ながらその時任務中(とある花畑に住む妖怪の調査)だったので行くに行けなかった。

 

なんでも大層盛り上がったらしく、すっかり上機嫌になった神様はしばらく大人しくしていると不老不死の侍に約束したらしいのだが、密偵である山崎はそんな簡単な口約束を信じてはいなかった。

 

「神様ってのは鬼様と違って平気で嘘を突く輩も多いんだ、密偵であるこの山崎退が、神様の化けの皮を剥いでやるぜ」

 

ササッと物陰に潜みながらも徐々に神社との距離を詰めていく山崎。

 

しかし

 

「へー何か気配が感じると思ったらこんな所にどうもどうも」

「いっ!?」

 

背後から澄んだ少女のような声が飛んできたので思わずビクリと肩を震わして焦った表情を浮かべる山崎。

 

頬を引きつらせながら山崎は恐る恐る後ろへ振り返ると

 

「お兄さん、お祭りに来た口? 残念だけど祭りはもう終わったみたいだよ、私もつい寝過ごしちゃってて間に合わなかったんだー」

(……子供?)

 

そこにいたのは珍妙な帽子を被った金髪の女の子であった。

 

しかし妖怪の山にノコノコと人間の子供が近寄れる筈がない。

 

つまり彼女は妖怪、もしくはそれ以外の強力な力を持った生き物と考えるのが妥当であろう。

 

相手が妖怪であれば見た目はさほど関係ない、見た目完全にロリっ娘のあの伊吹萃香でさえ、かつて自分達天狗を従わせて好き勝手に暴れ回っていた実績の持ち主なのだから

 

「えーとですね、俺はただこの神社に参拝しに来たしがない客でしてー……」

 

我ながら物凄く下手くそな誤魔化し方をしてしまったと山崎は内心後悔する。

 

こんなコソコソしながら参拝に来る奴がいるわけねぇだろうが!っというツッコミさえ飛んできそうな状況で、山崎は目の前の少女を眺めながらどうしたもんかと考えていると

 

「へ? 参拝客? なんだそうだったんだ、それなら歓迎するよ。ようこそ私の守矢神社へ」

「え、信じた!? いや、ていうか今私の守矢神社って!?」

「正確には今は神奈子の神社だけど、元を辿れば私が元祖ここの神様、洩矢諏訪子だよ」

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

その名を聞いて山崎は密偵である事を忘れて驚きの声を思い切り上げると、慌てて彼女の傍から飛び退く。

 

洩矢諏訪子

 

山の神であり、遥か古代は「ミシャグジさま」と呼ばれる土着神として祟り神達を束ね、日本の一角に洩矢の王国を築き、国王を務めていた程の実力者。

 

土着神とはつまり地方特有の神様であり、 特定の地域でのみ信仰される神であり、その土地を離れると殆ど力を失う。

 

しかし信仰されている地域内では、ときに最高神クラスの神格をも凌駕する力を持つと言われているのだが

現在の彼女は信仰地である諏訪地方を離れているため、全盛期にくらべてかなり弱体化しているらしい(と言っても神であるからその実力は天狗より遥かに上である)

古くは、同じく土着神であり祟り神であるミシャグジ様達を統べる神として祀られていた。

 

「洩矢諏訪子!? じゃなかった洩矢諏訪子様!? 諏訪子様ってこんなちっちゃかったの!?」

「おいおい神に見た目なんか関係ないよ、そもそもこの姿も私の正体って訳でもないしね」

「ま、まあそうですけど……まさか祟り神を統率していた神様がこんな見た目してたら逆に不気味だって……」

 

何かと情報収集の際にと細目に様々な分野の知識を長い時間をかけて学んでいた山崎は当然彼女の事も知っていたが。

一説には祟り神を操る事で「邪神」だのと呼ばれているあの神様が、こんなホンワカした見た目をしているとは想像だにしていなかったのだ。

 

「なんかアレですね……庶民的な感じで親しまれるゆるキャラみたいで驚きました……」

「ゆるキャラ? なんか前に早苗にも言われた事あったね……それよりお兄さんちょっといいかな?」

「え?」

 

外の世界では結構一代ブームを起こしている筈なのだが、基本的に神社から出る事は無い諏訪子にとってはあまり聞き覚えの無い言葉であった。

 

しばらく考えるがまあいいかと流し、彼女は改めて山崎の方へ振り返る。

 

「神奈子の奴が私が寝てるのいい事にみんなで大宴会開いてた事にさ、ちょっと腹立ててるのよ私。だから腹いせにこの山消してやろうかと思ってんだけど、いいよね?」

「あーなんだそんな事ですか、それならどうぞ神様のご自由に……ってはぁ!? 宴会呼ばれなかったからって山を消す!? どんだけレベルの高い八つ当たりだよ!」

「別にいいでしょ、減るもんじゃないし」

「減るだろ! 幻想郷のバランスが狂う程の大損害だよ!!」

 

なんという事だ、やはり今この目の前にいるのはちっこくて可愛らしい少女などではない。

 

正真正銘、生かすも殺すも自分次第とのたまう自己中心的な類の神様だ。

 

純粋無垢な笑顔を浮かべて見せるこの邪神にこの山を消されでもしたら明日から天狗や河童、他の妖怪達は何処へ住めばいいのだ

 

いやそれだけではない、妖怪の山は人間と妖怪のバランスを保つには重要不可欠な存在だ。コレが無くなるとなると今まで見張られていた妖怪達がこぞって暴徒と化し、人間であろうと誰であろうと襲いかねない。

 

そうなればいかに幻想郷の管理人である八雲紫でもまとめ上げるには時間がかかるであろう。

 

「もう冗談きついですってば、たかだか宴会に参加できなかったからって俺等の住処を奪わないで下さいよー」

 

触らぬ神に祟りなし、ではあるがこの神は触ろうが触るまいが結局は辺りに祟りを巻き起こす事で有名なあの洩矢諏訪子だ。

 

慎重に言葉遣いを選んでここは穏便に済ませる様に説得を試みる山崎。

 

妖怪の山、否、幻想郷の平和は今、普段ずっと地味に生きて日陰の人生を送っていた彼に託されたのだ。

 

「なんならまた宴会開けばいいじゃないですか、俺、仲間いるんでここに呼んできますよ」

「その仲間って、前に神奈子がやってた宴会に来てた連中かな?」

「え? まあそうだと思いますけど、基本的に俺以外の天狗はほとんど出席したと聞きましたし」

「じゃあイヤだ、やっぱ消そうこの山」

「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

まさか一分持つ事さえ出来ずに説得失敗するとは……不機嫌そうな表情で手をクルクル回しながら何かやろうとしている諏訪子に、山崎はまだ諦めるな!と自分に言い聞かせてすぐに詰め寄る。

 

「な、なんでダメなんすか!? 宴会やりたかったんでしょ!?」

「やりたいよそりゃ? けどやるとしたら前よりもずっとずっと豪華な宴会を開きたい」

「ご、豪華!?」

「前来た連中と同じじゃ結局神奈子の奴と同じじゃん、私はさ、神奈子や早苗も見た事無い斬新なメンバーで宴会を開いてあの二人があっと驚く宴会がやりたいんだよ」

「そ、そんな……」

 

山崎は絶句する、基本的に彼の知り合いはこの山に住む者だけである、しかし彼等だけでは諏訪子は満足できず、他にも宴会を彩らせる豪華なメンバーを呼べとまで来たもんだ。

 

一体どうすれば……山崎は恐る恐る諏訪子に一つ尋ねてみた。

 

「……ちなみにその宴会をいつまでにやればこの山消さずに放置してくれますか?」

「なに? 私の為に宴会開いてくれるって訳? そうだねぇ……今日の日が落ちるまでかな?」

「はい!?」

「今は昼過ぎだからもうちょっとだね、もし間に合わなかったら私の能力でドドーンとこの山を消してご覧にいれましょう」

「え、ちょ! マジでかぁ!? アンタそれマジで言ってんのかぁ!?」

 

あまりにも無茶苦茶だ、タイムリミットが数刻後とかそんなの間に合う訳がない。

 

自分は冴えない極々平凡な天狗であるので、自分が幻想郷の端から端まで渡り歩いて声を掛けても到底彼女が満足できる連中を集められる自信が無いのだ。

 

思わず声を荒げて慌てふためく自分を見て、諏訪子はその反応が面白かったのかニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ出す。

 

「その反応を見る限り望みは薄いみたいだね、まあ奇跡でもなんでも願うならどうぞご自由に、あそこの賽銭の前で鈴でも鳴らして拝んでみれば? もっともその時に願いを聞くのは私なんだけど」

(こ、この神様マジ腹立つぅ! 沖田隊長に一度シバかれりゃあいいのに!)

 

普段温厚で人の良い山崎でも、これにはさすがに内心はらわた煮えくりかえりそうな感じで彼女を前に拳を握り締めていると

 

「あーでももし、私が望む宴会を開ける事が出来たら、そん時は特別に本当にあなたの願いを一つだけ叶えてあげるよ?」

 

諏訪子はクスクスと笑いながらもし自分の要求通りの行いが出来たら、神を喜ばせた褒美として願いを一つ叶えてあげると約束する。

 

「まあどうせ出来ないだろうけどね、せいぜい残り少ない時間で私を楽しませてよ。そんで楽しみが済んだらこの山吹っ飛ばすから」

「ぐぬぬぬぬ……! わかりました、やりゃあいいんでしょやりゃあ! 男・山崎退! 一世一代の神との大勝負だぁ!!」

 

山を消した後の事など考えていないであろう自由気ままな神を睨み付けると、山崎はすぐに踵を返して鳥居の方へ振り返ると

 

「文姐さぁぁぁぁぁぁん!! 誰もが驚くヤベェ特ダネがありますよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ん?」

 

急に両手をメガホン代わりに口に付け、空に向かって大声で叫ぶ山崎に諏訪子は「?」と首を傾げていると

 

「はいはいはい、特ダネと聞いて来ましたよー、さっさと教えなさいよ地味天狗」

「来るの早ぇ! さすが天狗界でもトップクラスの俊敏さを持つ文姐さんだ!」

 

瞬く間に背中に黒い翼を生やした鴉天狗、射命丸文がジト目をしたまま山崎の目の前に現れたではないか。

目上の者、お客様、もしくはカモになりそうな相手に対する丁寧語ではなく、同格か格下だと思ってる相手に対していつも使っているタメ口で早速喋り出す文。

 

「で、特ダネってどこ? 早く言いなさいよ、もしウソだったら八つ裂きにしてその体愉快なオブジェにトランスフォームさせるわよ?」

「そしてネタを求める貪欲さと残虐さは間違いなくマスメディア界一位だ!」

 

下手な事を言えば神よりも恐ろしいかもしれない……山崎は彼女から放たれている威圧に耐えながら懸命に口を開き始める。

 

「実はかくかくしかじかと大変な事になってまして……」

「なになに……真撰組の所のゴリラが露出狂に目覚めて夜な夜な山の中を全裸でうろつき、迷い込んで来た人間相手に己の恥部を振り回しながら歩み寄って、泣きながら必死に逃げる人間の姿を見るとムラムラするから止められないと……なにその探せばすぐ出て来そうなネタ? そんなの為にわざわざ呼び出したわけ?」

「んな事言ってねぇよ! かくかくしかじかって言ってるんだからすぐに察してくださいよお話の基本でしょ!? つーかテメーの上司がそんな奇行に走ってる事をパパラッチに教える部下なんていねぇよ!」

 

勝手な解釈して勝手にイラっと来ている文に対して訂正しつつツッコミを入れる山崎。

 

実際、彼の上司である近藤勲は夜な夜な全裸で人間相手に襲うような真似はしていない。

 

我等真撰組の大将である彼が絶対にするわけがない。

 

せいぜい庭の真ん中で夜な夜な全裸で木刀を素振りをしているぐらいである。

 

「とにかくここで諏訪子様が喜ぶ程の豪華な宴会を開かないとこの山がヤバいんですよ! 文姐さんのその俊敏さで幻想郷中に触れ回ってここに色んな人を呼んで下さい!」

「ちょっと! さっき「男・山崎退一世一代の大勝負」とか言っておいて結局他人頼り!?」

「フ、俺は俺の強さと弱さを知っているんですよ」

 

いきなり文を呼び出したかと思ったらまさかの助けを求める行動に出る山崎に、さすがに諏訪子も驚いて目を見開いていると、彼はキリッとした表情で彼女の方へ振り返る。

 

「俺の強さはここ一番でプライドを捨てて大事な選択が出来る事、そして俺の弱さは自力じゃ何もできないからすぐに誰かに助けを求める事だ! そして俺にとって強さも弱さも武器! ここ一番の時に活躍せずにただ黙々と地味に仕事をするのが俺の勝負なんですよ!」

「いやそれ結局ただのヘタレじゃん」

「ヘタレだろうがなんだろうが構わないんじゃボケェ!」

 

なに得意げに言ってんだとジト目を向けながらボソッとツッコむ諏訪子に山崎はヤケクソ気味にキレると、頼みの綱である文の方へ声を上げる。

 

「さあ文さん! お願いします!」

「んー無理」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

少しばかり考えただけであっさりと拒否する文に山崎は悲鳴のような叫び声を上げた。

ここで彼女の助けが無ければこの山は直に消滅するというのに……

 

「なんでですか!? 俺等天狗の危機! いや幻想郷の危機なんすよ!?」

「まあ単刀直入に言うと、私がこの事をどれだけ周りに言い触らしても、まともにそれを鵜呑みにして来る人っていないと思うわよ?」

「え?」

「私もね、自分の強さと弱さを知っているのよ」

 

自分の身がピンチだというのに山崎と違い文は至って冷静であった。

 

宙に浮いたまま腕を組み、僅かに微笑むと

 

「私の強さはどんな荒波に飲まれようとスクープやスキャンダルをゲットする事を絶対に諦めない事、そして弱さは、でっち上げの記事ばっか書いてるおかげで誰からも信用されていないって事よ」

「ってなんじゃそりゃぁ!」

「つまり、私が言ってもどうせいつものデタラメ抜かしてんだろ?っと笑われるのがオチなのよね。だから私がどれほど必死に訴えてもオオカミ少年よろしく、天狗美少女ちゃんの言葉なんか誰も耳を貸してくれません」

「いやそれただのテメェの自業自得じゃねぇか! それじゃあどうすんすか俺達は! このまま俺達の住処が滅びるのを待つしかないんですか!?」

 

意外と自分の事をよく理解していた文に、感心したいのも山々だがこの状況で言われてはそんな呑気に感傷に浸る暇など無い。

 

一刻も早くなんとかしなければならないのに、しかし文の方は嘲笑を浮かべ焦る山崎に静かに口を開く。

 

「落ち着きなさいよ、私が言えば信じてもらえないって事なら、私以外の奴が言えば済む話でしょ」

「で、でも! 天狗界トップクラスの俊敏さを持つ文姐さんでないと! 日が落ちる前に幻想郷中にこの事を通達する事なんて出来ないんじゃ!」

「たしかに私は幻想郷では一番速く飛び回れると自負しているけど、ここは常識知らずが集う幻想郷、私以外にも規則外な力を持つ奴はちらほらいるわ」

 

確かにこの幻想郷には妖怪や人間だけでなく、色々な者が集って来る場所だ、中には亡霊や魔法使い、はたまた不老不死や吸血鬼などがいると最近では観測されている。

 

文以外にもこの状況を打破できる者がいる可能性も当然あるという事だ。

 

「そして私はその中で一番この状況で役に立てる男を知っているのよねぇ」

「え、それって一体誰……」

「私の役目は大方その男を早く見つける事ぐらいかしらね? それとアンタは山だけじゃなくて人里からも酒やら食事やら必死にかき集めて来なさい」

「は、はい!」

「その男の相手は私一人で十分だからね、適当におべっか使えばすぐに私達の為に働いてくれるわよ、どうせ万年暇人のプー太郎だし」

「プ、プー太郎!? 幻想郷がヤバい状況で俺達の頼める相手がまさかのプー!?」

 

口を手で押さえて馬鹿にしたように笑いながら、文は山崎の方へとニヤリと振り返る。

 

 

 

 

 

 

「あの八雲銀時ならこれぐらいの事容易にやってくれるわよ」

 

次回、山崎VS諏訪子戦・中編

 

一癖も二癖もあるメンバーばかりのカオスなドキドキ大宴会スタート

 

 

 

 




神様ってのはキレると怖いんです

どこぞの神様がアホな弟の度重なる不祥事にキレて引きこもったら

太陽が昇らなくなってずっと夜になってしまったって事もありますからね


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