決断の時
コキュートスの戦闘は見事勝利を収めた。
アインズとゾルディオは目の前で首を垂れるコキュートスに、満足そうにしていた。
「見事な戦いであったコキュートス」
「ハッ。アリガトウゴザイマス」
「ですが、今回蜥蜴人達に与えたのは鞭。次は飴をあなたから与えなければなりません。わかっていますね?」
「承知シテオリマス」
「うむ。よく聞け、全守護者よ。これより蜥蜴人の村の統治はコキュートスに一任する。コキュートスからの支援要請があった場合、協力するように」
「コキュートス。蜥蜴人たちにナザリックへの忠義を植え付け、英才教育を施して欲しいのですが、それに関してはあなたにすべて任せます。何か特別なアイテムや力を貸して欲しいときは、遠慮なく私かアインズさんに言ってください」
「ハイ。ソノ時ハ、ヨロシク願イイタシマス・・・・ソレデ、アノ蜥蜴人ハイアカガナサイマスカ?」
「?あの蜥蜴人?どのことだ?」
「ザリュースト、シャース―リュートイウ者タチデゴザイマス」
(えーっと、確かコキュートスとの戦いで最後まで立っていたやつら・・・でしたよね?)
(だと思いますよ)
アインズはあまり覚えていない不安からか、ゾルディオに《伝言》でこっそり確認した。
「最後まで立っていたやつらだったな。そいつらは、死体を回収し私のスキルによらないアンデッド作成の材料にしようと思っている。それがどうした?」
「・・・ソレハ少々勿体無イカト思イマス」
「ふむ・・・お前がそう思うに達したほどの価値があったのか?」
「確カニ、アノ者タチハ弱者デス。シカシ、自分タチヨリモズット強イデアロウ相手ニモ怯エヌ、戦士ノ輝キヲ感ジマシタ。アノ者タチヲアンデッドノ材料ニシテオクノハ、勿体ナイカト。モシカスルト、今ヨリモ強者ニナルカモシレマセン。ソシテ、死者復活ノ魔法ノ実験ハマダ行ッテハイナイハズデス。ココデ使用シテミテハイカガデショウ?」
コキュートスの提案に、アインズは顎に指をあて考えた。
「勿体ない、か・・・ゾルディオさんはどう思います?」
「ふむ・・・私には戦士の輝きと言われましても、正直理解ができません。ですが、コキュートスがここまで言わせたその者たちには、少々興味がわきましたね」
「・・・蜥蜴人の村には代表となる者はいるのか?」
「戦闘ニハ参加シテイマセンガ、白イ蜥蜴人が代表デス」
「ああ!あの蜥蜴人か!なるほどな・・・」
そう言うと、アインズは少し考え、これから行うことをコキュートスに説明した。それに対するコキュートスの答えは、肯定的なものであった。
「うむ。では、そのものを連れてくるのにどれくらい時間がかかる?」
「オ許シ下サイ。ソウ仰ルト思イ、スデニ近クノ部屋ニ呼ンデアリマス」
そう答えたコキュートスに、アインズとゾルディオは心底満足そうにした。
(アインズさん!凄いですね!)
(はい!まさかここまでやるとは思いませんでしたよ!)
(俺、今めっちゃ嬉しいですよ!)
(俺もです!)
二人は、抑えられない高揚感をお互いに伝えあった。それと同時に、スキルが発動し徐々に落ち着きを取り戻していく。
「いや、良いぞコキュートスよ。時間を無駄にしようとしないその判断、それは間違ってはいない。よし、では連れてきてくれ」
「ハッ!」
白い蜥蜴人がコキュートスに連れられ、入室した。白い蜥蜴人はすぐにアインズに向かって跪いた。
「名は?」
「はい。偉大にして至高なる死の王、アインズ・ウール・ゴウン様。私は、蜥蜴人代表のクルシュ・ルールーと申します」
「うむ。よく来た」
「はい。ゴウン様に、私達、蜥蜴人の絶対なる忠誠をお受け取り下さい」
「ふむ・・・」
アインズとゾルディオは、クルシュを観察する。
すると、様子がおかしいのがすぐに見て取れた。明らかに肩を震わせながら、チラチラとゾルディオの方を見ている。
「・・・何か聞きたいことがあるのなら、言ってみろ」
「・・失礼ですが、ゴウン様のお隣の御方は・・・」
「ああ、そう言えばあの時一緒にいなかったからな」
そう言いながら、アインズはゾルディオを見た。
「?・・・ああー。私としたことが、自己紹介をしていませんでしたね。私はゾルディオと言い、アインズさんの友人です」
「そう言うことだ。だから安心しろ。さて、話を戻すぞ。これからお前たち蜥蜴人は私の支配下だ。村の統治は、私の代理としてコキュートスが行う。異論はないな?」
「はい」
「なら良い。もう下がってよい」
「え?よ、よろしいのですか?」
急なことに、クルシュは驚きの声を上げた。
「一先ずはこれで終わりだ。クルシュ・ルールーよ、お前達蜥蜴人はこれより繁栄の時を迎える。そして、後に蜥蜴人達は私の支配下に置かれたことを感謝をするだろう」
「いえ、ゴウン様と言う偉大な御方にて期待しながらも、これほどまでのご慈悲を与えて下さったのにも関わらず、感謝しないものなどおりません」
アインズはゆっくりと玉座から立ち上がり、クルシュの隣へとしゃがみこみ、肩を回した。
アインズが触れた瞬間、クルシュは一瞬肩をビクッと震わせた。
「それと、私と私の友から特別にお前に頼みたいことがある」
「な、なんでしょうか?」
ゾルディオも、ゆっくりとクルシュの隣へと移動し、しゃがみこんだ。
「簡単なことです。あなたにはこれから、私たちを裏切る者がいないか蜥蜴人達をこっそりと監視してもらいたいのです」
「そ、そのような愚か者はおりません」
「ふっふっふっ。私も彼も、そこまでお前たちを信じるほど愚かではない。お前たちの思考を仮に人間に例えるなら、裏切りは珍しくもない。だからこそ、内部から気づかれずに監視できるものを欲しているのだ」
「それから、何も私たちはあなたに代価を払わずに、そのようなことを頼むほど図々しくはありません。あなたが今一番欲しているものを、私たちが差し上げましょう」
「私たちがお前に払う代価は、ザリュースの蘇生だ」
アインズのその言葉に、クルシュは眼付が変わった。
その様子を見て、二人は内心ニヤリと笑った。
「どうだ?悪くはないだろう?」
「・・・そのようなことが可能なのですか?」
「ああ。それくらい、死と生を操る私からすれば容易いことだ・・・さあ、クルシュ・ルールーよ。今お前の目の前には、不可能を可能にする事が出来る奇跡がある。しかし、私は気まぐれでね。その奇跡はいつまでもない。今、この瞬間を掴まなければ次は無い」
クルシュは、ピクリと表情が痙攣したように動いた。
「ああ。ちなみに言いますと、アインズさんが行う蘇生には、余計な儀式やら生贄は必要ありません。この世界にも存在する蘇生魔法を使用するのです」
「伝説の・・・」
クルシュは息をのんだ。
「クルシュよ。君にとって一番大切なものは何か。よく考えて欲しい」
クルシュは葛藤した。今掴まなければ、二度と手に入らないであろう奇跡を取るか。
アインズとゾルディオは、あともう一押しと思い、最後の言葉を投げた。
「もう一度言う。お前には、蜥蜴人達をこっそりと内部から監視をするのだ。場合によって、苦渋の決断を下さなければならない時もあろう。そして、お前が裏切らないように復活するザリュースには特殊な魔法をかけておく。それは、お前が私を裏切ったと判断した場合、即座に死ぬ魔法だ」
「ついでに言うなら、これからあなたたちが住まう場所には、私の創造した者達を数体ばかり置いておきます。もし裏切れば、その者達達がすぐに蜥蜴人達を血祭りにあげます。強さならコキュートスほどではありませんが、復活するザリュースよりも強い者達を置いておくつもりです」
そう告げると、二人はゆっくりと立ち上がり元の場所へ戻った。
「ああ、そうだ。ザリュースが復活したときは私から言っておこう。お前には利用価値があるから蘇らせた、とな。もちろん、お前の名前は一切出さん。どうだ?クルシュ・ルールよ。答えは出たかな?愛するものを蘇らせるか、これが最初で最後のチャンスだ」
そう言い、アインズはクルシュにそっと手を差し出した。
その後、クルシュはアインズの手を取り、ザリュースを蘇らせた。