ダンジョンでLv.6を目指すのは間違っているだろォか 作:syun zan
「やっぱり、最初ステイタスを見たときはびっくりするよね。でも安心していいよ。
基本アビリティの数値は熟練度とも言って、最初はみんな0だから」
などと、見当違いのことを言いやがった奴もいたが、オレが驚いたのはそこじゃねェ。
《スキル》【
試しに風を手のひらに集まるように操作してみれば風は渦を巻き、オレの周りを回る。
さっきまで使えなかった能力が、『恩恵』を受けたと同時に使えるようになったことと、
『恩恵』を受けたことに関係がねェ訳がねェ。
つまり、
もしくは、
どちらかといえば後者の方が確率は高ェか。
何つったって、ここは
ここは元々オレのいた世界とは違ェ法則が少なくとも1つは存在する。
実際に、操ったはずの風は演算どうりに手の上で圧縮されず、
手の上を通過して、オレの周囲を回転しているンだからなァ。
操りながら解析も進めているんだが、全く掴める気がしねェ。
それぐれェ向こうの既存法則とは違ェ法則が、既存粒子とは違ェ粒子が、既存物質とは違ェ物質が、
ここには存在してンだ。
これで同じ世界だっつゥ方が無理あるっての。
ともかく今は反射どころか、軽減する程度しかできねェ訳だ。
それだけでも出来りゃァクソガキに殴られてもなんとかなるけどなァ。
まァ、今となってはいくつもの実験に追われることもねェ、
あの怪物どもだって学園都市の用意したレベルアップのための
時間なんていくらでもあンだ。
この
────その後、クラネルのステイタスを更新したクソガキは何故か不機嫌になって出て行った。
バイト先で飲み会があるらしい。
そォいうところは向こうと一緒らしいな。
「それじゃァ、オレ達も行くか?いつまでも落ち込んでるよりはイイと思うぜ?」
「うん…そうだね。神様には後で謝るとして、今は切り替えていかないと!」
──────
太陽は完全に沈み、空は薄く輝く満月と向こうとは違う並びの星々が浮かぶ。
この星の並びもここが地球ではねェっつゥことを示してるよなァ。
しかし、クラネルは慣れてンのか結構ずんずんと進ンでいきやがる。
これははぐれたら面倒そォだな。
「あれぇー?朝、シルさんと会ったのはこの辺りの筈なんだけどなぁ……」
オイオイ、コイツも道を知らねェのかよ。
確かに昼にこの辺をうろついてた時と比べれば随分と様変わりしてるみてェだがなァ、
だからって目的地がわからなくなるほど変わってるわけじゃねェだろォが。
つまり、コイツも誰かと約束したとか、話を聞いたってだけで行ったことはねェってことか。
「……たしかここ、だよね?」
「聞かれてもオレには分かンねェぞ?看板にはそォ書いてあるがなァ」
まァ、十中八九ここだろうがなァ。
にしてもこの街並みの中ではかなりでけェ酒場なンじゃねェか?
このあたりの店じゃァ一番大きいぞ?
クラネルはもう中を覗いてンのか。
じゃァ、オレも入らせてもらうとするか。
でも、コイツ、何で喉を鳴らしたり、赤面したりしてんだ?
流石に学園都市に酒場っつゥのはねェし、入ったこともねェが、
こンな雰囲気の店だったら、ねェ事はねェからな。
それより、さっきから店員の一人がクラネルのことを呼ンでンだが、気づきそうにねェぐらい固まってンな。
「ベルさんっ」
「…………やってきました」
「はい、いらっしゃいませ」
店員は何かやたら大きく微笑ンでンな。
その方、クラネルは何か無理やり笑ってンな。
そんなに店に入るのに緊張してるのか?
そんな緊張することじゃねェと思うが、コイツにはそうなンだろうなァ。
「お客様2名入りまーす!」
そして、クラネルはやたらビクビクしながら店員のあとをついて行った。
オレも案内されるままに席へ向かう。
案内された席は今さっき片付けられたたばかりのテーブル席だった。
酒場の隅のカウンターの1席が空いてンだから、
クラネルが一人で来てたンなら彼処に案内する予定だったンだろォな。
実際、人目が気になンのかクラネルはまだ萎縮しっぱなしだかンな。
壁際のテーブルだっつゥのになァ。
店側もかなり融通してくれてンだが…ダメそうだなァ、こりゃァ。