ダンジョンでLv.6を目指すのは間違っているだろォか 作:syun zan
『ギャウッ!?』
「はッ!」
安物の短刀、と言っても毎日の生活費をギリギリまで切り詰めて作ったお金で借金を返済したばかりの僕の唯一の武器なんだけれど。
それで何度も薙いで、目の前のモンスターをなんとか屠る。
これでも、この街、オラリオに来る前と比べれば、僕は格段に強くなっている。
神様がくれた『恩恵』が、単なる子供に過ぎなかった僕を上層の弱いモンスター程度なら倒せるくらいまで引き上げてくれている。
『シャアッ!』
「ほあっ!?」
『グエッ!?』
とはいえ、Lv.1の僕の力じゃ、危うくなることのほうが多いんだけど。
例えば、今みたいに。
『『『『『『グルオァッッ!!』』』』』』
「無理だぁー!?」
角を曲がって出くわしたのは計8匹のコボルトの群れ。
囲まれる前になんとか2匹は倒せたけれど、その間に綺麗に包囲されてしまった。
駆け出し冒険者の僕が言うのもなんだけど、大抵1,2匹で徘徊しているコボルトがあんなに群れてることも、あんな綺麗な戦術を使ってくることも、非常に稀っていうかありえないことのはずだ。
少なくとも僕はそんな光景は見たことない。
先日のミノタウロスといい、この頃ろくな目に遭ってない。
これで、あの時みたいな出会いがあればまだしも、コボルトをに追いかけられてる新米冒険者をわざわざ助けるなんてことはないだろう。
下から追い立ててしまったというあの時のミノタウロスと違って、コボルトはあくまで上層のモンスターだから。
「っ!」
直角の曲がり角に飛び込んで、ブレーキをかけようとしてやめる。
僕がしようとしたのは待ち伏せ。コボルトが飛び込んできた瞬間、一気に飛びかかる心算だった。
でも、既にコボルトはこの先の小部屋にもいて、今にもへたりこんだ遠目にもわかる”美少女”に襲いかかろうとしていた。
『──男ならハーレム目指さなきゃな!』
ああ、どうしてこんな時に祖父の言葉を思い出すのだろうか。
もう心が止まれない、もう足が止まらない。
「うあああああああああああああっ!」
『グルゥ!?』
自分の持つ唯一の取り柄といってもいい、比較的高い『敏捷』のステイタスを振り絞ってコボルトに飛びかかる。
相手の心臓に短刀が食い込む。これで、小部屋の中は大丈夫!
間を置かず入ってきた他のコボルトたちが、同族の死体を見て少しの動揺を示した。
一方、僕の攻撃の勢いは緩まない。そのまま始末したコボルトを盾にするようにして群れへ突撃、動揺の隙を突いて2匹のコボルトを巻き込んで地面に倒れ込む。
『ガ、ガァ!?』
「ふっ!」
『ギョグ!?』
前転して素早く立ち上がり、地面に倒れ込んだ一匹のコボルトの喉笛にナイフを突き立てる。これで一匹!
『グ、グオオオッ!?』
「!」
『ゴッ!』
動揺で固まっていた4匹が再起動した。
飛びかかってくるのをいなし、コボルトの死体で防ぎ、ついでにまだ地面に倒れているもう一匹のコボルトの頭を
蹴り飛ばす。犬頭がとんでもない方向を向く、2匹目。
『ガァッ!?』
「ふんっ!」
『グェ!?』
ボロボロで、盾にもならなくなった死体を未だ健在の4匹へ向けて放り投げる。
一瞬、注意を死体に向けさせて、その隙に一匹の喉を掻き斬る。3匹目。
「僕の勝ちだ!」
『キャインッ!?』
勝利宣言。
残りのコボルトでは、僕を包囲することもできない。
仮にあの少女を人質に取られたとしたら危ういかもしれないけれど、知能の低い下級のモンスターがそんな戦術をとるわけないし、それを避けるためにわざわざ大声で勝利を宣言して、気を引いたんだ。
ザッと4匹目の腹をかっ捌いて残るは2。
恐怖の眼差しを向けてくる最後のコボルトたちを、僕はもう時間をかけずに撃破した。
「ふ~~っ……勝てたぁ」
へたりこみたい気分になるけれど、女の子の前だから、体に喝を入れて振り返る。
女の子はこちらを驚いたような目で見てくる。ここでクールに声掛けをすれば!
「あ、えっと、大丈夫ですか!?」
うっ、全然クールじゃない。
それに戦い方もひどく泥臭い感じだ。
僕を助けてくれた時のアイズ・ヴァレンシュタインさんのように格好いい倒し方じゃない。
こんなんじゃあハーレムなんて夢のまた夢、きっとこの子にも幻滅されただろう。
「オイ、聞いてンのか。」
「え?」
迷宮に響くように僕の耳に聞こえてきたのは、凶暴さを含んだ”男性の声”。
まさかと思って、さりげなく見回してみるけど、ここには僕とこの”少女”だけ。
──美少女は実は男だった。
『男の娘でもいいだろう。可愛ければな!』
ごめんなさい。お祖父ちゃん。
僕はそこまで達観できません。
ここの一方さんのホルモンバランスは少し女性よりです。