ダンジョンでLv.6を目指すのは間違っているだろォか 作:syun zan
迷宮第10階層。
白い靄を切り裂いてオレは駆け抜ける。
正直、まだ能力の戻りが完全じゃねェ現状で、ここまでソロで降りる気はなかったんだが…
未解析の
クラネルが地上で動いている以上、解析済みのモンスターを増やすにはソロで降りるしか無ェ。
だが……
『ブグッゥゥゥゥ……、ブギッ、ブォフオオオッ!!!』
「早速お出ましかよ。糞豚がよォ!」
霧の向こうから現れ出たのは枯れ木をそのまま引き抜いたような無骨な棍棒を持った巨大な豚頭。
『オーク』
身長は3mを超え、丸く太ってずんぐりとした、「大型級」モンスターだ。
闘争において、デケェってこたァそっくりそのまま強ェってことだ。
つまり、今の不完全なオレにとって、コイツから一撃貰うってのは非常に不味いっつゥことだ。
そんなことよりも、もっとヤベェのは、例えば奴の持つ棍棒のような、『
『迷宮の武器庫』っつゥのは、ダンジョンが、モンスターに、天然の武器を提供する厄介な特性だ。
そして、そういった武器群は、全てダンジョンの一部。
ダンジョンの床や壁と同じだ。
情報が複雑すぎて、解析するには時間が全く足りねェ。
ステータス的には非常に貧弱であるオレにとって、解析不能の物、つまり能力で反射することも逸らすこともできねェ
まァ、先に本体の解析を終えちまえばイイだけの話だ。
「テメェみてェな鈍間の攻撃なンざ、当たるわけねェだろォが!!」
『ブゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』
オークの雄叫びとともに戦闘が始まる。
ゆっくりとこちらに近づいてくるオークに向けて、こっちは全速で駆ける。
先に言ったように、攻撃を食らうことはできねェ。
だが、デケェってことは、何も利点ばかりじゃねェ。
的が大きく、小回りは利きづらい。
クラネルみてェなちょこまかと動くやつを捉えにくくなる。
そして、もう一つ。巨体には大きな欠点がある。
このオークなんかバッチリハマっていやがる。
『ォオオオオオオオオオ!』
一直線に駆け抜けるオレに向かってオークは棍棒を腰だめに低く構えた。
薙ぎ払うつもりか、それともかち上げるつもりか、何れにせよ……
「クカカ、そンな無駄にデケェハンマーでンな事できると思ってンですかァ?」
オレは更に前進する。
1.3m程の高さで横薙ぎに振られたハンマーを、
もともとの低姿勢を更に低くして躱し、そのままオークの足に触れる。
当たり前のことだが、どんな攻撃をするにせよ、手元は手より低くはならねェ。
巨体であれば、その分手の位置は高くなる。
それこそがデケェことの最大の欠点だ。
もちろんすぐに徒手空拳に切り替えられンなら話は別だが、
あんなデケェ得物を振った後で出来ることじゃねェし、素手での攻撃なら、解析にさほど時間はかかンねェ。
まァ、そもそもコイツは、武器を離そォとも思わなかったみてェだがな。
そのまま解析を終え、足と腕を断ち切ってやりゃァ終わりだ。
「ハァ……天然武器が脅威だっつっても、鈍間が持ってンなら問題はねェな……問題はウォーシャドウみてェな素早いモンスターが持ってた時だな……」
そう呟いて、ダンジョンへ還っていく天然武器を見ながら、
「……凄まじいものだな」
「あン?誰だ?」
呼びかけた奴に誰かを問うが、しかし、その男は答えねェ。
代わりにその男は霧の中からその姿を、2mを超す岩石のような獣人の巨躯を曝け出した。
「あァ……生憎とオレはまだここの人物に詳しかねェンだ。テメェがどんな有名人かは知らねェが、顔見ただけじゃァわっかンねェンだわ」
そう言って、オレは獣人に名乗るよう言った。
「名乗る必要はない。俺はただお前に伝言をしに来ただけだ」
「ハァ?伝言だァ?ンなもンされる覚えはねェンだが?」
「我が主神より、『早く地上に戻りなさい。白い兎が大変よ』とのことだ」
へぇー。兎が大変ねェ……つゥか女言葉が致命的に似合ってねェな。……ン?兎?
「オイ、今なンてッ……」
改めて前を見ても、慎重に周りを見渡しても、既に周囲には誰もいねェ。
「……チッ!」
おそらく兎ってのはクラネルのことだろォ。
訳のわかンねェ奴に従うのは気に食わねェが、仕方ねェ。
助けにでも行くとするか。