ダンジョンでLv.6を目指すのは間違っているだろォか   作:syun zan

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女神の会談

東通りのメインストリートに面する喫茶店の2階。

ここに、圧倒的な気配を放ち、小洒落た雰囲気を塗りつぶす、1つのテーブルがあった。

一方に座るのは、黒い陰謀を腹の中にいくつも温めているような薄笑いを浮かべた朱髪の女性。ロキ。

もう一方に座るのは、いかなる衣を用いても隠しきれぬ美を持つ、『美』の化身とでも言うべき女性。フレイヤ。

2柱の神が同席するこのテーブルが発する圧力は、このそこそこ人気のある店から一切の客を追い出して余り有るものだった。

唯一、今客と言えるだろうは、2柱の神物(じんぶつ)と同席している【剣姫】ぐらいのものだろう。

「で?どんな奴や、今度自分の目にとまった子供ってのは?いつ見つけた?」

どうやら、女神2柱(ふたり)の会話は、腹の探り合いから恋愛話に移った……ように、2柱の威圧感に押され、現実から逃避していた従業員たちには聞こえていた。

そして、神フレイヤは羽織った紺色のローブの奥に揺れる銀瞳で、遠くを見るようにしながら、応えた。

「そうね……片方は、そんなに強くは、ないわ。貴方や私の【ファミリア】の子と比べても、今はまだとても頼りない。少しのことで傷ついてしまい、簡単に泣いてしまう……そんな子」

あっさりと二股宣言すんのかいと呟いたロキの声を覆い潰すように、でも、と細い唇が震える。

「綺麗だった。透き通っていた。あの子は私が今まで見たことのない色をしていたわ」

「そんで?もう一人はどんな子や」

「ふふふ、もう一人の子はその真反対。とても強くて、強くて、強くて……濁ってた。澱んでた。沈んでた。あんな魂、見たことないほどに、黒く、黒く染まってた。そんな二人が並んでた。言葉を交わしてた」

だから興味を惹かれた、目を奪われた、見惚れてしまった、と。

何人も気づけないような、微かな熱を銀色のソプラノが帯びたとき、

フレイヤの動きが止まった。

その銀の視線が、冒険者の防具を()()()『白い髪の少年』に釘付けとなった。

その足が向かう先はおそらく、闘技場、きっと、怪物祭(モンスターフィリア)

徐々に遠のいていくその背中を見つめるフレイヤは、パンッ、と一度手を打つと、

「オッタル!」

と、自身の眷属(こども)を呼んだ。

「はっ」

そしてそこに現れたのは岩のような肉体の猪人(ボアズ)

彫像のように立つ彼は、主神であるフレイヤの次の言葉を番犬のごとく待つ。

()()()()?」

そして、フレイヤは周囲に理解させる気のない、一方的な質問を下した。

「……彼でしたら、単独でダンジョンに居りましょう」

そして、猪人もまたそれに返す。

深くつながる眷属(かぞく)であるがゆえに、通じる会話。

「そう……じゃ、呼んできてちょうだい」

「はっ」

そう言い放ち、猪人はまた外へ消える。

「おいこらフレイヤ。一体何するつもりや。」

「ふふ、答えてあげてもいいのだけれど……急用ができたから」

「はぁっ?」

「また今度会いましょう」

ぽかんとするロキを置いてフレイヤは席を立った。

ローブでしっかりと全身を覆い隠し、店内を後にする。

その場には、一瞬の硬直をおいてロキとアイズだけが残された。

「アイズ!今すぐ追っかけるで!ここで見失ったら、アイツが何するか……!」

ハッとし、我に返るとロキは慌てて立ち上がり、アイズにも立ち上がるよう促す。

しかし、何故だかアイズは窓の外、さっきフレイヤが見ていた方向を見つめていた。

「アイズ、どうした?何かあったん?」

「……いえ」

何も、と続く言葉だけを言い、アイズは立ち上がった。

しかし、その言葉とは裏腹に、アイズの金の瞳は外を、見覚えのある白い髪を追っていた。

ロキは、アイズのその様子に一つ、溜息を吐き、

「とにかく、あのクソ女神を追うからな」

と、それだけ言って、喫茶店を後にした。


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