ダンジョンでLv.6を目指すのは間違っているだろォか   作:syun zan

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依頼《クエスト》

クソガキが出かけてから3日目の朝。クソガキが帰ってくる気配はまだねェ。

相も変わらず早朝に起こされ、気分がイイとは言えねェが、未知に溢れるダンジョン探索は現状、最も効率よくこの世界について理解する手段だ。

ここで二度寝三度寝を繰り返していても仕方がねェから準備をする。

まァ、準備っつってもオレがやることはその辺からバックパックを引っ張り出すだけだがな。

自分の分の準備をさっさと終えて、地上への階段に腰掛け、しばらく待っていると、武器や防具の整備やらポーションなどの小物類の整理やらを終えたクラネルが出てくる。

「お待たせしました。一方通行さん。僕の足も完璧に治ったことですし、今日こそは到達階層を伸ばしたいですね!」

「そォだな。心構えとしちゃァイインじゃねェの?」

「うっ、とにかく前はちゃんと探索できなかった5・6階層をしっかり攻略してからですよね。よっし。今日も頑張りましょう!」

そう言って、クラネルは階段を駆け上がり、傍から見れば廃墟でしかない教会を後にし、路地裏に飛び出す。

オレもまた、クラネルと同じように駆け出した。

細い路地を幾度も曲がれば、西のメインストリートに出る。

所々でまだ完全には上手くいかねェ風の操作を交えながら、クラネルと併走していると、

「おーいっ、待つニャそこのダブル白髪頭ー!」

という声が聞こえてきた。

白髪頭だけでもそうそういるもンじゃねェってのに、それがダブルとくりゃァ自分たちの事だと気づく。

声のした方を見れば、『豊饒の女主人』の店先に、猫の耳と尻尾を生やした人型の生き物。キャットピープルの少女がいた。

……確か、ウェイトレスをやっていた店員の一人だったはずだ。

クラネルが一応辺りを見回してから自分を指さし、「僕達ですか?」と確認すると、こくこくと頷いた。

「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて、悪かったニャ」

「あ、いえ、おはようございます。……えっと、それでなにか僕達に?」

二人が二人共ペコペコと頭を下げ合う。

叩き込まれたマナー通りにやったという感じのお辞儀をした店員は、早速用件を切り出す。

「ちょっと面倒ニャこと頼みたいニャ。はい、これ」

「へっ?」

「こっちの白髪頭はシルのマブダチニャ。そして、白髪頭二人は同じファミリアの仲間ニャ。そんでもって、昔の偉人はこういったニャ。『友達の友達は友達』と!」

?何言ってンだ?このネコは。

「だからこれをあのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ」

無駄に手を振りあげたり、回ったりしながらワケ分かんねェことをほざく奴だ。

さっきまでの言葉とだからの後が繋がってねェじゃねェか。

「アーニャ。それでは無駄な説明が多すぎて、肝心な部分が説明不足です。お二人も困っています」

「リューはアホニャー。店番サボって祭り見に行ったシルに、忘れていった財布を届けて欲しいニャんて、そんニャこと話さずともわかることニャ。ニャア、ダブル白髪頭?」

「というわけです。言葉足らずで申し訳ありませんでした」

「あ、いえ、よくわかりました。そういうことだったんですね」

「彼女は気にしないでください。それで、どうか頼まれてもらえないでしょうか?私やアーニャ、他のスタッフたちも店の準備で手が離せないのです。これからダンジョンに向かうあなたたちには悪いとは思うのですが……」

その言葉に、「別に構いません」とでも言いそうなクラネルを抑え、一言、声を返した。

「断る」

「ニャっ!?断るのかニャ!?」

「一方通行さん!?」

「別にオレは誰かの手助けがしたいですゥなンて善意で冒険者になったわけじゃねェからな」

まァ、当然だよなァ。

オレの目的はあくまでこの世界を解析し、能力を進化させることなンだからな。

人助けの為に街をぶらつく暇なンてねェ。

それに同調するように、長耳(エルフ)の店員も言った。

「……その意見は、当然のことだと思います。実際、多くの冒険者の方はそういう考えをするでしょうから。それに、今の貴方方のファミリアの状況から考えても、どちらか片方でも無収入で一日働くことは認めるべきではない。ならば、冒険者依頼(クエスト)という形でならどうでしょうか。もちろん、報酬は出すつもりです。私達のポケットマネーから出す以上、お二人の普段の稼ぎを超えられるとは思いませんが……」

「そ、そこまでしなくてもっ、僕が一人でやりますから!!」

その言葉に、止める間もなくクラネルは返事をした。

全く、コイツはどこまでもお人好しなヤロォだ。

しかし、冒険者依頼(クエスト)だァ?

クラネルの話でもそいつは出てこなかった。

話の流れから考えるに、冒険者(オレ達)に何かをお願いするってことなんだろォが……まァイイ。

ここはさっさと返事しやがったクラネルに全部押し付けてダンジョンに潜るか。

「はァ……。良かったな店員共。クラネルがロハでもいいとまで言ってやりたがってンだぜ?」

「ええ、御二方の善意に感謝します」

そう言って、エルフの方は頭を下げた。

しかし、猫人の方は訝しげに首を傾げたあと、口を開くと、言った。

「……リュー、ちょっと待つニャ」

「?なんですか、アーニャ」

「私()のポケットマネーってどういう事ニャ?」

「どういうことも何も、普通に貴女の財布からも依頼料を捻出するということですが」

「うぇー!?なんでシルのために私のお金を使うんだニャ!?そうニャ!こっちの白髪頭は元からやる気だったんだから、お金なんて無くてもやってくれるニャ!」

「いい加減にしなさい。元々クラネルさん達には依頼を受ける義理はないんですよ」

「それを言うなら……!」

「だからと言って……!」

まったく、ギャーギャーとうるせェなァ。

あたふたしてるクラネルをここに置いといて、オレはさっさとダンジョンに行くか。


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