ダンジョンでLv.6を目指すのは間違っているだろォか   作:syun zan

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薬神《ミアハ》

「ありがとうございました」

受付に見送られて、オレ達はギルド本部を出た。

シャワーを浴びたオレ達は、戦利品を金に換えるためにギルド本部に足を運んでいた。

あの職員が戻ってきたら面倒クセェから、済ませることだけ済ませて早々に退出させて貰ったがな。

代わりにというには可笑しなことだが、クラネルはまだ帰る気じゃなさそうだな。

オレはさっさと帰って寝るが。

「すっかり日も暮れてしまいましたね……神様はもう出かけているのかな」

「今夜のパーティーだろ?もう出かけてるに決まってンだろ」

「そうですよね……あれ?あの人何処かで……?」

そう言ったクラネルが目を向ける方にオレも視線を向ける。

そこには、貴公子然とした灰色のローブの男がいた。

クラネルと比べりゃァ頭二つ分ぐらい背が高く、両手に紙で梱包された何かを持っている。

どことなくクソガキと同じ気配がにじみ出ているから、クソガキと同じく神なのかも知れねェ。

「ん?おお、ベルではないか!……ん?」

「あっ、ミアハ様!お買い物ですか?」

「おう、そっちがベルか。その通り夕餉のための買い出しだ。暇があったので(わたし)自らな。ところで、そちらの子が……」

「はい!新しくファミリアに入ってくれた、一方通行さんです」

「おお、これでヘスティアのところも一歩成長か。お互い、零細脱出に向けて頑張ろうではないか。はっはっは。一方通行君も、ヘスティアをよろしく頼むよ。あれはあれでいい奴だからな」

そう言って、群青色の髪を揺らしながら、ミアハというらしい神は、こちらに軽く口元を緩めて笑いかけてきた。

クソガキやクラネルの知り合いか……別に、ここで敵対する必要はねェだろォし、普通に返しておくか。

「ああ、分かったよ」

その返事に満足したのか、ミアハはその顔に浮かべた笑みを深めた。

そこに、何かを思い出したらしく、クラネルが一つ尋ねた。

「あ、そう言えばミアハ様。ヘスティア様のことについて何か知っていませんか?二日ぐらい前にご友人のパーティーに出席されて、その、まだ帰っていなくて……」

「ヘスティアが、か?ううむ……すまない。私には少しも見当がつかん。力になってやれそうもない」

「い、いえっ、そんな気になさらないでくださいっ」

「パーティーというのはガネーシャの開いた宴でまず間違いないだろうが……私はその日、宴そのものに出ていなくてな。顔を出していれば何かわかったかもしれんが」

「ン?オマエはその宴に招待されてなかったのか?」

「ちょ、一方通行さん!そんな……」

「ふははっ、構わないよ。(じぶん)たちはそんな人間(こども)達も大好きだからね。さて、招待されていなかったのかだったかな?いたのかいないのかと聞かれれば、声はかけてもらっていた。が、極貧の【ファミリア】を率いる身としては暇がなくてな、先日も酒宴そっちのけで商品調合の助手に勤しんでいたのだ」

さっきの零細発言といい今度の極貧発言といい、なかなかに【ミアハ・ファミリア】も困窮してんだろォな。

まァ、廃教会の地下にホームがあるこっち(【ヘスティア・ファミリア】)程じゃねェと思うがな。

神相手でも、クラネルが普通に話しかけたりしていたのもいわゆる底辺ファミリア同士だからってことか。

「おお、そうだ。ベル、一方通行、これをお前たちに渡しておこう。今も話したが、出来たてのポーションだ」

「えっ!」

ミアハは両手に持っていた紙袋を片手に持ち変えると、懐から3本の試験管を取り出し、差し出してきた。

ほれ、とベルに手渡されたその試験管の中には濃い青の液体が波打っている。

「ミ、ミアハ様、これって、ポーション!?いいんですか!?」

「何、良き隣人にごまをすっておいて損はあるまい?それに、一方通行君の加入祝いでもある。むしろこれだけしか出せなくて、申し訳ないくらいだ」

「そんなことないですって!!」

「ふはは、それならよかった。ベル、一方通行。今後とも我が【ファミリア】のご贔屓を頼むぞ?」

そう言って、ミアハは片手を振りながら去っていった。

にしても、ポーションか。

向こうの常識で考えるなンて無意味なことだと分かっていても、飲むだけで重症すら完治させる薬品なんてシロモンは信じ難ェモンだな。

……調べ(解析し)てみるか。

「オイ、クラネル。そのポーション、一本貰うぞ」

「え、あ、どうぞ。そもそも一方通行さんの加入祝いで渡されたものですから自由に使っていいですよ」

…見た目・匂いからは判別できるもンはねェか。

まァ、その程度で解析しきれるシロモンじゃねェのは解ってた。

問題は……直接触れて解析して、どれぐらいかってことだ。

試験管を横に倒し、手のひらに一滴乗せてみる。

即座に解析が開始され、体積、重量、密度、効能、構成元素……ありとあらゆる情報が、数式が、オレの脳内に流れ込む。

合計時間およそ3秒ってとこか。

意外とかかっちまったが、また一歩、この世界の根幹に、法則に、『無敵』に近づいた手応えがあった。

「く…くか……くかき……」

「あ、一方通行さん?いきなりどうしたんですか?」

「いや、ちょっと気分がイイだけだぜ」

「そ、それならいいですけど……ほんとに大丈夫ですよね?」

「大丈夫だっつってンだろォが。ともかく、もう今日の探索は終わりなンだろ?帰らなくていいのか?」

「はい、もう少し街を歩こうかと……」

「そうか、じゃ、ここで一旦解散だな。オレは帰るから」

「え、えぇ!?」

驚いて、面食らった様子のクラネルを放置して、オレは帰路に着いた。


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