ダンジョンでLv.6を目指すのは間違っているだろォか   作:syun zan

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帰宅

廃教会の地下、ヘスティア・ファミリアのホームには、ヘスティアが一人でいた。

(遅い!いくらなんでも遅すぎる!)

時刻は早朝の5時。

腕を組み、眉を思い切りより合わせ、焦りを顔に浮かべる。

ベルの懸想(おもい)の強さを【ステイタス】の成長という形で見せつけられ、不機嫌なまま別れた昨夜。

しかし、飲み会から帰った時も、10時、11時と時間が進んでも、

果てには12時を越え、深夜を回ってなおも帰ってこない二人に、危機感を覚え始めた。

すぐさま教会を飛び出して近辺を探して回ったのだ。

「どこに行ったんだ、君たちは……!」

収穫は0。

目立つにも程がある白髪頭の影すら1つも見つけられなかったヘスティアは、入れ違った可能性にかけてつい先ほどこの部屋に戻ってきたが、やはり彼らの姿はなかった。

(まさか、ボクがあんなことを言ったから?でも、あの子は人に心配をかけるくらいなら、自分の心情を殺して我慢するような子だし……これが普段通りなら、ボクに平謝りに来てもおかしくないものだけど……普段通り、なら?)

ヘスティアはそこまで思考して、あることに気付いた。

(今、いつもと違うことと言ったら……【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】とアクセラ君?この二つの共通点……『強さ』を追い求めている事!?まさか、迷宮に!?)

夜間の迷宮探索、それも徹夜でとなれば、他に冒険者がいない分多く集まってくるモンスターを、疲労した重い体で相手しなくてはならないのだから、危険さは昼の比ではない。

ヘスティアは内心の恐怖を抑えつつ教会内を見回す。

せめて、無くなっていてくれと思っていた防具があった。

(嘘だろ!?たとえ上層でも防具をつけずに潜るなんて、今の二人には危険すぎる!)

嫌な汗が全身から噴き出す。

居ても立ってもいられなくなったヘスティアは、ギルドに向かうために扉のもとへ駆け寄った。

「───ぶぎゅ!?」

ヘスティアがドアノブに手を掛けようとした、その時だった。

見計らったかのように四角形の板が開いて彼女に突進してきたのは。

ゴスっ!ヘスティアは顔面を強打!

顔面を抑えながらうずくまるヘスティアは、声にならない呻きを上げる。

「あァ?何やってンだ?クソガキ」

「か、神様……ご、ごめんなさい」

まさかの襲撃に悶えていたヘスティアだったが、頭上から降ってきた声を聞いて、両手で押さえていた目を見開く。

声の主が無事を望んでやまなかった人物たちだと察知し、ヘスティアは勢いよく立ち上がった。

「ベル君!?アクセラ君!?」

彼女の予想に違わず、目の前に立っていたのは自身の眷属たる二人、ベルと一方通行だった。

ヘスティアは一瞬安堵するも……二人の顔と姿に言葉を失った。

ベルは酷くぼろぼろであった。顔は切り傷と土でクシャクシャに汚れ、服は破け、肌は青く腫れ上がっていた。

そしてなによりも、右膝の部分が酷かった。3本線の裂傷が刻まれ、黒く汚れ、血は未だに流れている。

一方、一方通行もまた、ベルほど深くはないとは言え、全身に切り傷を負っていた。

「……どうしたんだい、その怪我は。まさか、ダンジョンに潜っていたなんて言わないよね?」

「……ごめんなさい」

「あァ、もぐってたぜ?」

何でもないことのように吐き出された言葉は余りにも予想通りで、ヘスティアははぁー、とため息をついた。

「何を考えているんだ、君たちは。防具もつけずに一晩中ダンジョンに行くなんて……どうしてそんな無茶をしたんだい?」

「……」

「決まってンだろ。強くなる以外に理由があンのか?」

「……まあ、予想は付いてたけどね。とにかく、シャワーを浴びておいで。血と泥と汚れを落とさないと。そのあとすぐに治療しようか」

「……はい、ありがとうございます」

「じゃァ、クラネル。先入ってろ。オレはちょっと出てくるからよ」

やっと小さく笑ったベルに、ヘスティアも苦笑した。

しかし、次いで一方通行から放たれた言葉に、彼女の表情は、驚愕に変わった。

「えっ!アクセラ君!?どこに……」

「別にそんな遠くに行くわけじゃねぇよ。少ししやァ帰ってくる。」

そう言って、一方通行はくるりと向きを変え外へ歩いて行った。

 

─────────

 

「……さァて。実験開始っと」

廃教会の外に出た一方通行は、両掌を天に掲げ、大気のベクトル、風を操作する。

流石に今これをあン中でやンのは危険すぎるからなァ。

30秒ぐらいで風の操作を止め、手を降ろす。

「……やっぱりなァ」

実験の結果は予想通り。風は渦を巻き、一部は俺の掌の中に集まり、ほとんどのそれ以外は虹色に揺らいで飛散する。

「次は、コイツで試してみっか」

小石を拾い上空へ投げ飛ばす。

そして落下してきた小石を反射し、また上空へ飛ばす。

10回程続けたとこで大きなブレができて小石は3cm程離れた位置に落下した。

「……あァ、こっちもだ、確実に能力の精度が上がってきてやがる」

ダンジョンに潜る前、恩恵をもらってすぐ試した時よりもはるかに高い精度だ。

常に反射膜を張り、無意識下の解析を行ってたっつゥ事も原因としちゃァあるだろうが……

それよりも、迷宮の壁やモンスター等に含まれていやがった謎の要素がこの世界でオレの能力が正しく働かねェような影響を及ぼしてると見たほうが間違いねェだろうな。

よォするに、何千種、何万種必要かはわかんねェが、とにかくあのダンジョンに潜り、モンスター共を解析すりゃァ……俺はこの世界の法則を、全く新しい法則を掴めンだ。

ギャハハ、俺の考えもあながち間違っちゃいねェじゃねェか。

 

─────あの薄暗ェ迷宮(ダンジョン)で、2万種の怪物(モンスター)を殺害することで、オレは絶対能力(レベル6)へと進化(シフト)する。

 

「『知り合い』じゃなきゃイイ『ヒト』じゃなきゃイイでついに『ヒトガタ』じゃなきゃイイってかァ?つくづく都合のイイ考えしてンなァ、オレは。」

だが、結局オレにはそれしかできねェンだ。

一方通行(アクセラレータ)】は、自分は守れても他人は守れねェ。

他人(ヒト)を壊すことはできても他人(ヒト)を救うことなんてできやしねェ。

「くかか、やってやるぜ異世界が。テメェの法則まるっきり全部丸裸にして、絶対(無敵)って奴になってやろォじゃねェか」


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