依存度の高い彼女   作:はるや・H

2 / 3
続きを書いたので、再投稿しました。
ぜひ最後まで読んでください。


02 運命

人生に分岐点(ターニングポイント)は存在する。

 

そこでの選択は、その後の人生を大きく変えてしまう。

 

失敗すれば取り返しのつかない事態を招いてしまう。

 

そう、俺は見誤ってしまったのだ。人生の分岐点での選択を。

 

あの夜、俺は不安と孤独に悩まされていた彼女を慰めようとキスを受けた。

 

その後の記憶はない。だから何をしたかは、されたかはわからない。

 

けれど一つだけはっきりしている事がある。

 

ー俺はもう、この運命からは、彼女からは逃れられない。

 

そしてその次の日から、彼女はますます俺にくっついて離れなくなった。

 

流石に学校内では落ち着いていたが、俺への要求も多くなっていった。

 

それから、当然の事だが、俺は彼女と付き合う事になったらしい。正式に。

 

俺は悔いた。自分の行動を。別に、彼女と付き合う事を後悔したわけではない。

 

彼女が嫌いなわけではないからだ。

 

それにリア充になる気分は悪くなかった。中学で彼女の出来なかった俺にとっては。

 

けれど、それも最初だけだった。

 

よくよく考えてみれば、今までの生活より、束縛が強くなっただけである。

 

しかも、彼女と彼氏という正式な関係になり、逃れる事も出来なくなった。

 

そう、決してリア充=幸せではない。

 

俺みたいに、束縛されて依存されるようなこともあるのだ。

 

そう、たとえば。

 

「ねえ、この宿題教えて。」

 

「え?俺その宿題まだやっていないんだけど...」

 

「じゃあ私の分先に教えて。」

 

という具合である。

 

そして、俺が彼女と一緒にバイトをしている本屋へ向かう時も、

 

彼女は俺の腕を掴んできて、体をこちらへ引き寄せ、密着させる。

 

「おい、ちょっと離して...」

 

「嫌よ。だって貴方は私の彼氏よ。ずっと離さないわ。」

 

そう言って微笑む彼女。

 

俺は無理やり引きはがすことも可能だったが、それをしなかった。

 

またある時。

 

俺と彼女がデートをした時である。

 

俺がふと携帯をいじっていたら、

 

彼女は突然俺の携帯を取り上げた。

 

「デート中は私だけを見て、携帯なんか触らないで。

 

ね、だってせっかく二人きりなんだもの。もし次触ったりしたら、

 

分かってるわよね。」

 

そして彼女は携帯を俺に返した。

 

その日、デートが終わるまで俺は携帯に触れすらしなかった。

 

しかもである、何回か彼女は俺の携帯をチェックして、逐一スケジュールを確認していた。

 

SNSの会話履歴もである。

 

何故かと聞くと、

 

「貴方が他の女と浮気していないか確認するため。」

 

と言ってきた彼女。

 

俺はそんな事しない、と言っても聞かなかった。

 

正確には、束縛されているからそんな事する暇ない、であるが。

 

さらにである。

 

彼女はひっきりなしにメッセージを送ってくる。そんなに暇なのかと思いもしたが、

 

彼女がいつも疲れているように見えたのでそれは否定した。

 

けれど大変だった。通知音が頻繁になり、夜も眠れない。

 

かといって通知をオフにしたり無視をしたら、

 

翌日、大量のメッセージが来ていた。

 

中身を見てみると思わずぞっとした。

 

「なんで私を無視するの?私の事が嫌いなの?

 

貴方は私を愛してるって言ってくれたのに。

 

あの言葉は嘘だったの?酷い、私をだましたのね。

 

それか、貴方他の女にたぶらかされているの?

 

だったらいいわ。そんな泥棒猫私が叩き潰してやるわ。貴方を正気に戻して。」

 

激しい被害妄想と勝手な論理の飛躍。翌日、俺は彼女に必死に弁明した。

 

そんな事はないと。ただ俺は疲れて眠っていただけなんだと。

 

彼女はそれで許してくれたので事なきを得たが、

 

彼女にこう言われた。

 

「あなたが疲れてる以上に、私は一人寂しく過ごしているのよ。

 

ねえ、だから私を優先して。ねえお願い。じゃないと一人ぼっちだから...」

 

そう言われ、俺はハイというほかなかった。

 

そんな気の弱さもまた、この事態を作り出した一因なんだろう。

 

俺はわかっていた。もっとはっきりNOと言える性格なら、

 

俺はこんな束縛を受けてはいないんだろう。

 

そう後悔してももう遅い。だって、既成事実は取り消せないのだから。

 

既成事実といえば、彼女はただ俺に依存しているだけではなかった。

 

いつの間にか、どうやったかは知らないが、俺と彼女が付き合っているという

 

既成事実を作り上げ、周りに恋人関係だと思わせたのだ。

 

だから俺は、周囲の目があるところで彼女を無碍にすることも出来なかった。

 

俺の彼女は意外と計算高い。

 

さらに一番参ったのはこれである。

 

俺が、ある時学校の女子の一人に話しかけられた。

 

俺は周りに彼女がいない事を確認してから、それに返事した。

 

内容はまあ、委員会がどうとかいう普通の話だった、

 

それがいつの間にか他愛もない趣味の話になったりして、会話に花を咲かせていると、

 

後ろから物凄い殺気を感じた。

 

俺は慌てて、

 

「あ、ごめん、俺そろそろ帰らないと。」

 

と言ってその場を去る。要は逃亡だ。

 

しかし、慌てて校舎の下駄箱に向かうと、彼女が待ち構えていた。

 

彼女は凍るように冷たい声で俺に尋問した。

 

「ねえ、あの女誰?貴方に馴れ馴れしく話しかけて。」

 

「ああ、部活の後輩だよ。ただの...」

 

そう言って俺は弁明する。

 

「じゃあどういう会話をしていたの?」

 

「ただの世間話だよ...」

 

「世間話ね、貴方からすればそうかもしれないけれど、

 

相手からしたら違うかもしれないわ。貴方は見てくれが良いんだから、

 

貴方を誑かそうとする泥棒猫がいてもおかしくない。

 

もしかしたらあの女だって貴方に言い寄ろうとしたのかもしれないわ。

 

良い?わかったら二度と軽々しく他の女と会話なんてしないで。

 

私が耐え切れない、貴方を他の女がたぶらかそうとするなんて。

 

貴方は私の物なのに...。

 

もし今度貴方に言い寄る女がいたら、校舎の屋上から突き落としてやるわ。」

 

俺はもう何も言えなかった。

 

その日の帰りは、恐ろしいオーラを放つ彼女に怯えていた。

 

そして、俺が日ごとに多くなっていく束縛に頭を悩ませているある日。

 

俺の友人が、俺の席を通る際、それとなくつぶやいた。

 

「次の休み時間トイレに来い。」

 

極端に低いその声が、俺以外に聞かれてはならないほど重要な話だと俺に理解させた。

 

そして次の休み時間。俺は友人の言伝通りにトイレへ行った。

 

そこには友人がいた。

 

「んで、そんなに重要な話とは何だ?」

 

俺はそう聞く。それに対して友人が言った言葉とは...

 

「お前に忠告しておく。あの彼女と、別れた方がいいぞ。」

 

え、嘘だろ...

 

「ちょっと待て、いきなりそんな事言われてもだな...」

 

「お前ならわかっているだろう?彼女の危険性。

 

お前の顔、最近疲れているように見える。理由は一つしかない。

 

 

お前が、彼女に束縛されてるからだよ...」

 

そう告げた友人。俺は言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。

 

***

 

言われてみればそうかもしれない。いや、言われなくてもわかっていた事を

 

再確認させられただけだ。俺は彼女に束縛されていた。

 

時間を。身体を。そして、心までも。

 

どうだろう、本当に、別れるべきなんだろうか。

 

でも、別れるなんて言ったら、彼女はなんて反応するんだろうか...

 

考えれば考えるほどわからない。やはり、俺は決断ができずにいた。

 

そもそも、付き合い始めたのが間違いだったんだろうか...

 

そう悩んでいたある日。

 

「ねえ、今日家に遊びに行っていい?」

 

そう彼女は俺に聞いてきた。

 

「いいよ。」

 

今日は親も夜遅くまで帰ってこない。

 

それに、これは結論を出すチャンスかもしれない。

 

そう思って、俺は意を決して同意した。

 

 

その時空は、まるで俺が付き合うきっかけとなったあの日のように、

 

雨がパラパラと降り始めた。

 

今度は、俺はどんな運命をたどるのだろうか...

 

あの時のように、俺はドアを開け、二人で家に帰る。

 

「ふう。」

 

電気をつけた俺。

 

彼女は遠慮なくリビングに入り、ソファーに座る。

 

「はあ疲れた。まったく、数学難しすぎるのよ。

 

あんなん訳分かんないって。連立不等式って何よ...」

 

彼女が愚痴を言い始める。俺も数学は得意ではないので気持ちはわかるが、

 

俺に言ってどうなるものなのだろうか。

 

やはり理解できない。

 

その後も彼女の愚痴は続いた。

 

「それでさあ、こないだ女子会行ったんだけど、ねえ聞いてる?」

 

「ハイ。」

 

いつの間にか行っていたらしい。そういえば通知のやけに少ない日があったような

 

その日俺はほとんど寝ていたので気づきはしなかったが....

 

そんなことを考えていると彼女はなおも続けた。

 

「それでさ、鍋をみんなで食べたの。」

 

「うんうん。」

 

適当に相槌を打っておく。

 

「そしたらね、酷いの。○○がね、私の前にね、私の嫌いな玉ねぎ入れたの。」

 

玉ねぎが嫌いなのか...

 

じゃなくて。

 

「へえ、それは災難だったね。」

 

普段の俺なら、たとえば男友達相手だったら、

 

「だから何?」

 

で済ませていたものだ。

 

でも今日はそういう訳にはいかなかった。

 

「女子の争いは仲裁するのは大変だ、男子ならお前がどうこうしたから

 

責任がある。だから謝れと事実関係を明確にして解決できる。

 

けど女子はそうはいかない。私だって○○なのにと拗ね、時には泣き出す。

 

だから慰めたりせないかん。」

 

そう愚痴っていたのは(もちろん男子だけの前で)中学時代の先生。

 

今分かったような気がした。その先生の苦労を。

 

俺がそんな昔話を思いだしているとは知らずに彼女は語り続ける。

 

「ねえ、酷いよね、だって私の嫌いなもの私の目の前に置いたんだよ。

そんなん嫌がらせでしょ。絶対あの子私の事嫌いなんだよ。

いつもそう、最近誰も私に話しかけてくれない。

○○と○○が会話しててね、私が話しかけても二人とも無視する。

どうしてみんな私を無視するの?皆私の事が嫌いなの?

私、何も悪い事してないのに...」

 

そう言って泣き出す彼女。慌ててなだめようとするが、

 

本当にこれでいいのかと思えてきた。

 

(お前は彼女に束縛されている)

 

その言葉が脳裏に浮かぶ。

 

やるしかない。俺は決意した、この鎖を解き放とうと、

 

この現実を、変えようと、

 

「一つ、言いたい事があるんだけど。」

 

「何?」

 

「それってさ、ただの被害妄想だよね。」

 

俺は、耐えきれなかった、毎日のように束縛を続ける彼女に。

 

自己中心的な愛を押し付け、俺に対して常に同意を求める。

 

俺は精神的に限界だったのかもしれない、いや、きっとそうだった。

 

彼女を愛していないわけじゃない、そして独占したいという気持ちも理解できる。

 

だが限度と言うものがある。

 

だから、あの時と同じように雨の降っている日、

 

俺は彼女にこう告げた。

 

「それって、ただの被害妄想だよね。」

 

分からない、その選択が正しいのかどうかは、最悪の選択だったかもしれない。

 

けど、ああしていれば、と後悔はしなかった。

 

歴史にifはありえない。

 

俺の人生は歴史なんてたいそうな物じゃないけれど、それでも、後悔は出来ないから。

 

***

 

「え...」

 

彼女は言葉も出ないようだった。それもそうだ。

 

自分の悩みを真っ向から否定されたんだから。

 

「だから、それってただの被害妄想でしょ。

 

『私の嫌いな物置いた』なんて言うけど、

 

それ置いた人が君の嫌いな物知ってたとは限らないでしょ。

 

悪気があったわけじゃないと思うよ。

 

私が話しかけたのに無視するっていうのもさ、

 

会話に熱中してると話しかけても気付かないなんてよくある話だよ。

 

全部君の勘違いってわけ。わかったらそんなくだらない話で俺を束縛しな...」

 

俺は全てを率直に言った。いつもなら心の中に留めておく愚痴だったが、

 

今ばかりは言うべきだと思った。

 

一度は本音を伝えるべきだ。そう思ったから。

 

そうしないと何も変えられない。けれど、俺の言葉は途中で遮られた。

 

「何ですって...」

 

彼女は目の色を変える。

 

「私が、間違っているっていうの?」

 

「そうは言ってない。ただ相手には悪気があるわけじゃないんだし、そんな気にしなくても。」

 

俺はそう言って宥める。しかしそれは焼石に水だった。

 

「貴方はそうやって私の事を否定するのね。私の事を愛していないから?

そう、きっとそうよ。じゃないと私に被害妄想だなんていうはずがないわ。

あの時愛してるって言ってくれたのに...

そうやって私を見捨てるの?貴方まで、そうやって皆私を否定する。

私何も悪い事していないのに。酷いわ。」

 

俺はどうやら大きな過ちを犯したようだ。俺には、必死で彼女をなだめるほかなかった。

 

けれど...

 

「そう、貴方は私を愛していないのね、裏切ったのね、じゃあもう一度、

私を心の底から愛するようにしてあげるわ。

そのためには、カラダに教え込まないとダメみたいね...」

 

ヤバい。俺は直感した。さっきまでと目が違う、明らかに死んで光が失せてる。

 

どうすれば、いいんだ...

 

考えをめぐらせても答えは出てこない。

 

そうする間にも、彼女は何やら取り出したようだ。

 

「ちょっと痛い目みるけど、当然の事よね。だって私の事否定したんだもの。

これくらいの罰を与えなきゃ...」

 

そう言って彼女が取り出したのはカッターナイフ。

 

俺の脳内はもう恐怖でいっぱいだった。

 

「な、何でカッターナイフなんか持ってるの!」

 

「ふふ、ちょっとストレスが多いからさあ、時々リスカしてるの。

ほら、これがその跡。いまから貴方にも同じキズを付けてあげようか?」

 

そう言って彼女はどんどん俺に近づいてくる。

 

俺は恐怖で足がすくんで動けない。

 

「貴方は私のカラダの中で、存分に恐怖を味わってもらうわ。

そうすれば、私に二度と文句なんて言わなくなるわ...」

 

そもそも俺は文句を言ったわけでも彼女を否定したわけでもない。

他にも食い違う所は山ほどある。でもそれどころではなかった。

 

俺の身体が、色んな意味で危険にさらされている。

 

すると彼女は俺を押し倒した。

 

そして彼女は顔を突き出し、俺の眼前に迫る。

 

彼女は俺の体を撫で、恍惚とした表情でこうつぶやいた。

 

「貴方の感触、声、姿、優しさ、その全てを独占したい、

私がアナタにとって全てでありたい。そのためには、

まずは貴方が私を深く愛してくれないと。

貴方のキレイな肌に傷がついちゃうのは残念だけど、

それも貴方が私のモノだという証よ。だから...」

 

「落ち着くんだ、や、やめてくれ!」

 

俺の叫びも空しく、彼女の手が止まることはなかった。

 

 




ヤバい所で切るのはお約束。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。