ゾルザルはと言うと馬車の中で元老と一緒に居た。
「馬車は速いが揺れるな。」
ゾルザルは話題を振ったのだが
「確かに馬車は揺れますね。」
とだけ元老に返された。
二人とも窓の外を眺めながら沈黙が目的地に着くまで続くかと思われたがゾルザルがゲームを元老としようと提案した。
揺れる馬車の中でも出来る様に作られたそれはリバーシだった。
板に石を入れる部分に壁を付けて作られたそれは対キール用の品だ。
キールが話しかけてきたり、しなだれかかってくるのを阻止する為にゾルザルが自ら手彫りで作った。
そして、一人リバーシしていたのである。
他にも一人将棋や一人チェス用の物品がこの馬車には備え付けられていた。
「これはリバーシといって……」
軽く説明をしてリバーシを始めたのだった。
着く頃には勝敗は決まっていた。
「元老、角を取ったからと言っても必ずしも勝てるわけではありません。リバーシは奥深いものなのです。」
対人戦はゾルザルにとっては始めてだったが一人リバーシの経験と図書館での先人の知恵がゾルザルを勝たせていた。
「殿下はなかなか戦略の才がおありになるようだ。」
元老は少し考えている様子でそう言った。
ゾルザルは次にチェスを持ち出そうとするとイバラの園に馬車は到着していた。
「元老、研究をお見せします。」
ゾルザルの案内で最初に紹介されたのは、ガラスの瓶にに繋がれた管を手に持った二人の亜人がいた。
「始めてくれ。」
ゾルザルの合図で二人は管を口に合わせると呼吸をし始めた。
やがて二人の亜人は具合が悪そうになり、頭を押さえ始めた。
「よし、止めろ。連れていけ。」
ゾルザルの声で控えていた亜人が車輪付きの担架で運んでいった。
「あれは売れそうですね。これの意味は?」
元老は担架を見るのを止めてゾルザルに質問をした。
「簡単な話です。部屋に人が多くいると具合が悪くなった事が無いですか?」
ゾルザルの質問に元老は
「あります。」
だがそれがどうしたという態度だった。
「私が考えるにそれは空気が淀んで悪いからです。空気や水の中には他にも目に見えない寄生虫がいるとも考えています。私がそれが病の元だと。」
ゾルザルが「次を案内をしましょう。」と言っても元老は考えている様子だった。
「殿下、次の案内をお願いたします。」
元老をゾルザルが次に案内したのは倉だった。
「この倉に入る前に靴を履き替えて、ここにあるものに着替えて手を洗いましょう。」
ゾルザルの言葉に従っていた元老だが、ある事に気が付いた。
「これは何ですか?」
石鹸をつかみながらゾルザルに聞いた。
「それは石鹸ですよ。」
なんでそんな事を聞くのかゾルザルは気になったが、次の元老の言葉でそれが明らかになった。
「石鹸は柔らかくて臭う筈だ。」
こんな硬い石鹸はあるはずはないと元老がゾルザルに詰め寄ると
「この硬い石鹸は、石鹸作りが上手い亜人が居ましてね。石鹸作りを見ていた学者が素材が変わると石鹸を作れるかと研究した結果ですよ。」
ゾルザルはそれよりも早く中を見てくれとマスクを渡すと口に着けるのを見せながら中を案内し始めた。
倉の中は樽だらけだった。
そして、臭いがかなりのものだった。
「ここで、先ほどの石鹸を作っているのですか?」
その元老の質問にゾルザルはまさかと言って
「ここでは肉と野菜からガルムを作っているのですよ。」
と言い樽を一つ開けて見せた。
その中には野菜が入っていた。
日本で言うところの漬物だった。
「肉のガルムの方は臭いが少々するので見せられません。」
では、と倉から着替えて出ていった。
次に案内をされたのは会議室だった。
「それにしてもガルムにしては先ほどの物は臭いませんでしたね。」
「魚は臭いが強いので……。」
と元老とゾルザルが話しながら学者が次に見せるものを持ってくるまで待っていた。
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