――午後4時58分、柱島泊地鎮守府入渠ドック
「……あっ来た! 美代くん、こっちよ!」
「2番ドックだね! わかった! 準備は?」
「もう出来てるわ! 許可が降りてるなら
「許可ならもらった! 可能な限り急いで!」
「わかったわ! ほら! 佐々木さんも!」
「これは想像以上ね……」
ドタバタと騒々しく駆け込んできた美代くんを2番ドックへと誘導する。ドックは艦娘にとってお風呂とほぼ同義であるから、本来ならば裸で入るものだが、美代くんは脱衣所など目に留めることなく通過した。加賀さんが重症だから、と言うのは勿論だが、流石に彼に歳上の女性をを脱がせる度胸はないようだ。
「ごめん、こんなに重症の艦娘を介抱した事なんてないから……湯に浸からせるだけで良いのかな?」
「大丈夫よ。損傷部に湯が触れていればいいけれど……出来れば肩まで浸からせてあげて。すぐバケツ使用の準備に移るわ」
「わかった……」
大げさに見えるほど優しく加賀さんを浴槽に横たえる美代くんは、形のいい眉をひそめて呟いた。
「それにしても、あの加賀さんがここまでやられるだなんて一体敵はどれほど……」
その真剣な眼差しは確かに加賀さんに対する絶対的な信頼に拠るもので、彼がただ単に同僚として、艦娘としてのみならず、大切な友人として私達を見てくれていることがひしひしと伝わってくる。そもそもこんなことは憲兵である彼にとって指定業務外の仕事なのだ。それにも関わらず、重症の加賀さんをまるで自分の事のように必死に考えて、走り回ってくれた。本当に、本当に彼が柱島の憲兵でよかったと思う。
「バケツか……初めて見るけど一体どんなものなんだろう……」
ぼんやりと思いを巡らせていると、美代くんが不安そうに視線を送ってきた。運動や数字には滅法強い彼だが、得体の知れないものに対する恐怖心は人1倍強いようだ。どんな事でも怖いもの知らずで首を突っ込みたがる司令官とは全く逆の性格をしているとも言えるだろう。
「まあ見てて。口で言うよりはずっと早いと思うわ……ほら、もう準備が出来たみたい」
ガコンッと派手な音を立ててドック天井の扉が開いた。現れたワイヤーに吊るされているのは、私達はもう見慣れた“修復”と書かれた緑色のバケツ。しかし、隣を見やると美代くんはまるで初めて車を見た赤ん坊のようにそれに魅入っていた。
「これが高速修復剤……艦娘達の負傷を急速に回復させ、戦線へと復帰させる艦隊維持力の要……」
バケツになみなみと汲まれた緑色の液体が加賀さんの入渠する浴槽に注がれる。すると浴槽上にかけられたタイマーが目まぐるしい勢いで減り出した。それをため息を漏らして見つめる彼とは対照的に、佐々木さんは特に表情を崩さず……いや、さっきより厳しくして浴槽を睨みつけていた。
「佐々木さんは高速修復を見た事があるの?」
「ええ、伊達に長く軍属やってないから……それより見て」
ゆっくりと佐々木さんが加賀さんの方を指さす。高速修復剤によって急速に傷が塞がれていくのが見て取れるが、どこか違和感を感じる。一体何故? この違和感は……
「加賀さんの表情が和らがない……?」
「そう。傷は塞がって意識が戻りつつあるのに、かなり苦しそうな表情をしているわ。私を呼んだのは賢い選択だったかもしれないわね」
タイマーが00:00:00を指すとほぼ同時、3人で加賀さんをドック内に備え付けられたベッド(なんとこれ、脚の向きを変えると担架にもなるらしい)に運ぶ。
「……ぅあ……暁……? ここは……」
「良かった。意識は戻ったみたいね」
ベッドに降ろした衝撃で加賀さんが目を覚ました。艦娘が入渠で治せるのは肉体の修復のみという事は既知のことだが、極端な例で言うと修復前の傷が原因で発症した感染症のために2度と目を覚まさなかった艦娘だっているのだ。
その艦娘はもともと体調が優れない日の出撃だった上に合併症まで引き起こしたというから加賀さんとは状況がまるで違うが、それでも万が一、加賀さんが目を覚まさないなんて事になれば鎮守府の戦力は大きく低下するし、何より山村司令官が一体どう思うか……
もし加賀さんが復帰できなければ、彼なら責任を感じて司令官を辞めかねないだろう。そんな事はして欲しくない。この柱島泊地鎮守府は彼を
ふと目を上げると佐々木さんの茶がかかった黒い瞳がこちらを覗き込んでいた。その目はなんと言えばいいか、この緊迫した場にふさわしくないおどけた雰囲気を持ったものだった。
「ど、どうしたの?」
「今提督さんの事考えてたでしょ? 当たってる?」
「どうして?」
「いいえ、何でもないわ……それじゃ、始めるわよ。かなり痛いだろうけど我慢してね、加賀ちゃん」
佐々木さんは“大人の微笑”とでも形容したくなる程柔らかい笑いを収めると、すっと目を細め“医書の表情”をその顔に浮かべた。
「腹部の外傷が原因となると……ここはどうかしら?」
「う……それほど痛くは……」
「じゃあこうすれば?」
「痛ッ! ぅぐぁあああ!!」
佐々木さんが無造作に……少なくとも私にはそう見えた手つきで抑えたポイント。医学の心得がない私にはさっぱりわからなかったけれど、佐々木さんが何か動きを加えると加賀さんは悲痛そうな叫びを上げた。よく目を凝らすと、どうやらそのポイントを上から押さえつけているらしい。よく観察すると様々な疑問が産まれてきた。
「何で……押した時じゃなくて引いた時に痛みが来るの……? 腹部の病気なら普通刺激すれば痛いはずなのに……」
すると、押し黙って診察を見ていた美代くんが呟いた。
「これはもしかして……“ブルンベルグ徴候”と呼ばれるものでしょうか?」
「そうね。腹膜炎になりかけていると見ていいと思うわ。内臓の損傷と処置が遅れた事が原因かしら」
「それは……治るの?」
「この状態なら手術は要らないわね。抗生物質の投薬で治せるわ。ただし、1週間は絶対安静。戦うなんて以ての外よ」
「1週間……」
“加賀さんが治る”ということが分かってほっと胸をなでおろすのも束の間、下された診断は柱島泊地艦隊にとって無慈悲なものだった。
「加賀さんが1週間も動けないだなんて……」
私、暁は駆逐艦だから航空戦には詳しくない。でも、艤装スロットの艦載機数がそのまま空戦能力、攻撃力、さらには鎮守府の防御力に影響する事くらいはわかる。柱島の空母はまだ隼鷹さんがいるが、彼女1人の制空能力では、新海域の制圧どころか鎮守府正面海域からの航空攻撃を防ぐ事さえ難しいだろう。
「でも良かったわ。すくなくとも命に関わることは無いからね。美代くん、そこのガーゼ取ってくれる?」
「どうぞ。氷とベッドの用意をした方がいいですね。先に準備してきます」
「あら、よくわかってるじゃない。これから高熱が出るだろうから頼もうと思っていたの」
「わっ私はどうすれば……」
佐々木さんと美代くんがてきぱきと環境を整えていくのを見て私はただおろおろしていることしか出来なかった。私だって、加賀さんの力になりたいのに……
すると、佐々木さんが真剣そうに(それでもやや笑いを含みながら)言った。
「暁ちゃんには1番大切な仕事があるじゃない」
「えっ?」
答えを求めて美代くんを見ると、彼は笑って答えた。
「加賀さんがやられたのは潜水艦、それも複数体。暁ちゃん、君の艦種は?」
「決まってるじゃない、駆逐艦……あっ」
「ほら、早く提督の所へ行ってあげなよ。きっとそわそわして待ってるよ」
「そうね、緊急時こそレディーの助けが必要ですもの!」
駆け出そうとした矢先、ふと足を止める。振り返ると美代くんが笑いを噛み殺そうと必死になっているのが見えた。
「何を笑っているの?」
「いや……何でもないよ」
「……そう? それじゃあ行ってくるわ!」
今度こそ、鎮守府本館への道を走り出す。響と雷が遠征に出ている都合上、対潜戦闘力は1人でも多く欲しいところだろう。早く司令官の元へいかなきゃ……
* * *
――鎮守府本館1階艦隊司令室
「……よし、だいたい揃ったな。後は暁だけか」
「俺が呼んでこようか? それとも、このまま加賀の介抱に就かせるか?」
「いや、多分美代あたりが気を利かせてよこしてくれるだろう。その内……ほらな」
ドタバタと慌ただしく、当鎮守府の現在最高練度を誇る少女が駆け込んでくる。
「遅くなってごめんなさい! 敵潜水艦は?」
「まだ大丈夫だ。潜航速度はすっとろい奴らだから迎撃準備にかける時間はたっぷりある」
「良かった……」
へたりと座り込む暁。対して長い距離ではないが、全力で走ってきたらしい。
暁が揃ったところで改めて作戦司令室に集まった艦娘達を見回す。練度順に暁、電、木曾、隼鷹、金剛、足柄の6人。丁度1個艦隊分の人数だ。
本来ならここに阿武隈、皐月、文月、望月、響、雷の6人を加えて2個艦隊分の戦力が動かせる筈だったが、阿武隈と睦月型の3人は南方へ向かうタンカーの護衛任務で遠征に行ってしまい、響と雷は崎矢提督の元へ演出へ向かっている。今日のような対潜水艦戦闘を見越して演出にやったのだが、どうもタイミング悪く彼女たちの不在時に敵潜水艦がしかけて来たらしい。
「大本営から早速指令が出された。“鎮守府正面海域に多数の潜水艦を発見、これを貴艦隊をもって撃滅せよ”との事だ」
「つまり、対潜哨戒任務というわけだな」
「そうなるな。まあこれを見てくれ」
大本営からの指令書に添付されていた1枚の紙を指揮卓に広げる。
「これは……」
「見ての通りだ。この近海の海図、それも対潜水艦戦を見越して改変されている。どうやら大本営は今回の侵攻を危険視しているらしくてな、鎮守府正面海域の危険度を1から5に引き上げて新たに1-5海域が設置された」
「1-5……!?」
「Extra Operation……追加任務って事訳だ。大本営も中々面倒な事をしてくれる」
「まあそう言うな提督。今までは武勲を立てることさえ出来ないほど平和だったんだ。こう言っちゃ不謹慎だが、久しぶりの戦いにゾクゾクしてきた!」
「平和が1番なんだけどなあ……」
木曾は自他ともに認める武闘派だ。近隣の敵艦は駆逐して最近出撃が少なかったこともあり、フラストレーションが溜まっているのだろう。今から出撃が待ち遠しいのもわかる。でも、やっぱり出撃が無いことが鎮守府として最もいい事だと思うのだ。いくら身体が修復出来るとはいえ、彼女たちをただいたずらに傷つけるような出撃は絶対に嫌だ。
「まあ善し悪しはともかく、敵が眼前に迫っているのは事実。迎撃せざるを得ない」
「もちろん、全員出撃するのよね? 私は重巡だから対潜攻撃は出来ないけれど……」
「勿論だ足柄。暁、電、木曾の3人が爆雷攻撃に集中できるように近づく敵戦力を相手してもらう。加賀さん曰く敵は増援を呼んだらしいからな。対潜哨戒任務とはいえ、水上艦に対する注意を怠ってはならない」
足柄は策士ではなく戦士タイプの人だ。難しい小細工は苦手な分、弱点を見抜く力も、それを冷静に判断する力も持っている。しかし、性質上どうしてもタイマンでしかポテンシャルが引き出されにくい。だから今回のような彼女の苦手とする多方面からの防御はいい訓練になるだろう。
「私達に任せるネー! 水上艦は全部追い払うワ!」
「頼もしいな。しかし、後で説明するが、深追いだけは決してするな。あくまで今回の出撃の目的は潜水艦の駆逐だ。水上艦の処理は後で戦力が整ってからでもできる」
金剛は普段の言動からは考えにくいバランスタイプ。今はまだ練度が低いから器用貧乏な印象が強いが、彼女には第二改装という大きな強みがある。もちろん、今でも柱島艦隊唯一の戦艦として立派に働いてくれている。彼女に関しては、他の娘たちとは違ってとやかく口出しせずに戦わせた方が良いだろうか。
「よし、対水上艦隊の指揮は金剛、お前に任せる。対潜水艦部隊は木曾だ。今回は鎮守府正面海域での作戦だからある程度の指示は俺が出すが、現場の変化によってはお前達にすべて任せることになるかも知れん」
「構わない。腕がなるぜ!」
「Follow me! 皆私についてくるネー!」
実戦指揮官の2人は気合十分。練度はまだ心許ないが、加賀によれば敵にeliteやflagshipはいないとのこと。そうそう簡単にやられるとも思わない。
「よし、各自艤装の準備に移れ! 既に追加艤装はスロットに装着させてある!」
「いつの間に……いや、そんなこと今はどうでもいいな。暁! 電! 出撃港に向かうぞ!」
「私たちも向かうネー! 足柄! 隼鷹!」
ドタバタと駆け出す艦娘達。騒々しい現場だが、それがかえって俺の感覚を刺激する。
艦隊司令官たるもの、戦いには常に冷めた目を向けるべきであるが、胸を内側から打ち付ける鼓動がそれを許さない。何より、感情の高ぶりを抑えきれない自分がここにいるのだ。
「クックッ……さて、敵さんたちをどう追い払ったものか…………」
* * *
――数分後、柱島鎮守府出撃港
「……これは!」
「どうした、隼鷹?」
「足柄、これを見てくんないかい……いや、あんたにはわからないか」
「なに? 艦載機の事かしら?」
隼鷹が装着した艤装パーツをこちらに手渡す。どうやら戦闘機のようだが、普段観測機しか扱わない私には何故隼鷹が驚くのかはわからなかった。
「これがどうかしたの?」
「前まで使ってた零戦とは塗装の色が違うだろう。これは52型だ」
「52型……改良型ってことかしら?」
「簡単に言えばそうなるね。あの提督……ふらふら遊んでばっかかと思っていたけれど、きっちり戦力増強はしてたみたいだ」
そう感心したようにメンテナンスする隼鷹を見てふと私も艤装に目をやる。
「私の主砲はいつもと同じ、20.3cm砲ね……あらっ?」
主砲の確認と一緒に自然に覗いた第3スロット。そこにあったのは……
「これは……“零偵”じゃない!?」
普段ならここやに収まっているはずの零偵――正称零式艦上偵察機。しかし、今私の手に収まっているこれは明らかに違う艦載機だった。
「これも強化の一環、ってことかしら」
「おっ“零観”じゃないか。そいつは速いよー。零偵使ってたあんたならびっくりするかも知れないね」
「……速くなるのはいいけれど扱いにくそうね」
「まあ艦娘なんだ。実践で慣れればいいさ」
隼鷹の言う通り、今は時間が無い。実践で慣れるより他ないだろう。
ふと周りを見渡すと、皆追加艤装に何らかの強化がなされているようだった。聞くところによると、暁、電、木曾の対潜水艦部隊3人は九三式水中聴音機が三式水中聴音機に、金剛は私と同じように零偵が零観に兵装変更されており、これまでより有利に戦闘を進められることに間違いなさそうだった。しかし……
「これ……私達に扱えるかしら…………」
暁が不安そうに呟く。当然だ。私と金剛は形は違えど水上機、操作に大きな変化は無いけれど、彼女達3人の兵装は扱いが以前と全く異なったものになるからだ。
九三式水中聴音機はいわゆる“パッシブソナー”と言い、水中で起こる音を拾って敵を探知するが、三式水中聴音機は“アクティブソナー”、つまり、こちらから音波を出し、その反射を利用して敵を探知するのだ。
パッシブソナーには敵が動かずにじっとしている場合に発見できないという弱点があり、それを改善した三式水中聴音機に換装されたと言うことは強化には違いないとはいえ、アクティブソナーを初めて使う彼女たちに実践で慣れろ、と言うのはいささか酷ではないかとも思う。
「大丈夫なのです。司令官さんはきっと私達ならすぐに使えるようになると信じて
「そうだぞ暁。こんなもん俺だって使うのは初めてさ。皆で慣れていこうぜ」
「うん……」
まあ木曾がいるから大丈夫ね。彼女はああ見えて年下の娘たちの扱いが凄く上手だ。末っ子という事もあって妹に憧れがあったのだろうか。まるで姉のように駆逐の娘たちに慕われている。普段は口数の少ない響や望月も、彼女相手になら饒舌になるほどだ。電もお姉ちゃんを励まそうと一生懸命な事だし、暁の不安も多分すぐに無くなることだろう。
『あー、あー、こちら作戦司令室。応答願う』
「艦隊旗艦、金剛。こちら、全艦娘出撃可能状態で待機中。いつでも出れるワ!」
『よし、編成を発表するよ……と言っても、
やや腑抜けた声の出撃前コールがかかる。彼が今マイクの前で頭をかいている姿が目に浮かぶようだ。なんでも第六駆逐隊の子達いわく、彼は困った事があるとすぐに頭をかく癖があるらしい。
出撃港壁面に取り付けられた液晶に編成が映し出される。
第1艦隊
旗艦 金剛 Lv.13
二番艦 足柄 Lv.12
三番艦 隼鷹 Lv.15
四番艦 木曾 Lv.17
五番艦 暁 Lv.18
六番艦 電 Lv.17
まだ誰も第一改装を終えていない状態での出撃。提督は、“本当は脆い駆逐、軽巡の3人だけでも改装してから応戦したかった”と廊下で愚痴を漏らしていたが、時間がそれを許さなかった。
まあそれでも、近海に現れた敵は全て通常種、elite戦艦でも現れない限りは、改装前の私達の火力で何とか応じることは出来るだろう。
『今回の作戦は基本的に対潜部隊を中央に据えた輪形陣で行ってもらう』
気を取り直したように声を引き締めた提督の声が、より精密な指示を出していく。それにすかさず食いついたのは電。
「何故輪形陣なのですか? 潜水艦への攻撃は単横陣による絨毯爆撃が最も効果的なのです。輪形陣によって中途半端に砲撃、対潜火力を落としてしまうと水上と水中から挟み撃ちにされてしまうのです」
そういえば電は戦術論に興味がある、とかこの前話してくれた。それを提督から教わっているということも。生徒として、疑問に思ったことは全部質問して、吸収するつもりなのだろう。
『確かにその脅威は大きい。しかしだ。対潜艦が3人しかいない今、単横陣はどれだけ効果を発揮できる? 潜水艦は倒せるだろうが、水上艦に押されてジリ貧になるのは確実だ。それより、輪形陣の形を思い出してみろ。何か見えてこないか?』
「……あ」
『……気づいたみたいだな。陣形指示はお前に任せたぞ』
……輪形陣の形?
電にはわかったみたいだけど、私には何のことやら全くわからなかった。艦娘として、また重巡として、こういったことも分かるようにならなくてはいけないのに情けない。
しかし、逆に苦手な役回りを託せる仲間がいる、という事でもあるのかもしれないわね。電はずいぶんと年下ではあるけれど、砲よりアタマを使って艦隊の勝利に大きく貢献してくれる自慢の仲間だ。彼女のような娘達がいるのだから、私は私なりの戦い方をすればいい、という気さえしてくる。
『……さて、もっとのんびり紅茶でも飲んでいたいところだが残念ながら敵がかなり接近してきている。そろそろ出撃といこうか』
「Hey! 提督ゥ! 帰ったら皆でTea Timeはどうかナー?」
『たっぷりスコーン焼いて待っといてやるよ』
提督の苦笑いから発されたであろう声で、逆に皆の気持ちが引き締まる。帰ったらティータイム。それはきっと“全員生きて帰れ”という思いも少なからずあるはずだと思うのは私の勘違いだろうか。
『さあ、長らく出撃のなかった柱島艦隊が一体どれだけ成長したのか。敵さんたちに見せてやろうぜ』
「Roger! さあ、出撃するヨー!」
1-5海域Extra Operation、“鎮守府近海対潜哨戒”作戦が始動した。
※陣形効果は原作ゲーム通りではありません。