「雪ノ下、入るぞ」
特別棟のある1室まで連れてこられた八幡は内心何度目か分からないため息をつきながら平塚と一緒に中に入る。
「はぁっ、入る時はノックをして下さいと言ってませんか?」
「君は返事をした試しがないじゃないか」
「それは平塚先生が返事を聞く前に入ってくるからです」
深窓の令嬢然とした見た目に一瞬目を奪われるが……
「ところでそこのヌボーッとした人は誰ですか?」
「ん?あぁ、彼は2年F組の比企谷八幡。新入部員だ」
「入部って何の事ですか?部活関連の話なんてした覚えがないんですが……」
呆れながら言うと
「雪ノ下、こいつは目が腐ってる上に捻くれている。その矯正をしてもらいたい」
「(す、好き放題言いやがるな……)何の話をしてるんですか?てか部活なんてしてる余裕が俺にはないんですけど」
「黙れ、異論反論は受け付けん。頼めるか?雪ノ下」
八幡があまりの横暴っぷりに半分絶句していると
「お断りします。彼の下卑た視線を見てると貞操の危機を感じます」
「いや、そんな目で見てないんだが」
「安心しろ雪ノ下、こいつは捻くれ者なだけでそんな事できるような奴じゃない。生粋の小悪党だからな」
「いや、ただ常識的な判断ができるだけですから」
しかし先ほどから八幡の反論は耳に入っておらず、八幡は頭を抱えそうになる。
「小悪党……なるほど。分かりました、その依頼引き受けましょう」
「では頼んだぞ」
そう言い出て教室を出て行く平塚。
「では改めまして、2年J組の雪ノ下よ」
雪ノ下?まさか雪ノ下建設の?と思いつつ軽く自己紹介する。
「F組の比企谷だ」
改めて自己紹介すると
「とりあえず立ってないで座ったら?」
「お、おう」
そして八幡は椅子に座ると
「ところで、ここは何をしてるんだ?さっき依頼がどうだって言ってたが」
「ではクイズをしましょう、ここは何をしている部活動でしょう」
「本読んで寝る文芸部」
「それは文芸部というのもおこがましくないかしら……真剣に答えなさい」
八幡はため息を1つつくと
「興味ない」
ばっさりだった。
「なっ……まぁいいわ、貴方の社会非適合ぶりを甘くみてた私の落ち度だわ」
少し目が腐ってて捻くれてるだけでこの言われようである。そして初対面の人にも高圧的な態度、社会非適合ぶりは雪ノ下のが上なんじゃないかと八幡は思う。
「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。
途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。
困っている人には救いの手を差し伸べる。」
「ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ」
「全然歓迎してるようには見えないがな。それに何だ?最後のは。モテないのは確かだが、女子との会話くらいはする」
主にボーダー関係者だがと内心追加する。
「これは重症ね……」
「何を考えてるか知らないが恐らく勘違いだぞ」
ため息しかでない八幡……
「何かしら?そのため息は。眼だけじゃなく脳まで腐ってるのかしら?」
「ため息も出るだろ、本人そっちのけで矯正だの何だのと……しかも少し捻くれている程度で」
「私が話すかぎり貴方のそれはすぐにでも変わらないとマズいレベルよ?」
「なら大きなお世話だ。俺は今の俺を変えたいなんて思わない。幸い俺には今の俺を肯定してくれる人もいるしな」
「貴方のそれは逃げよ」
またため息をつきそうなのをグッとこらえ
「仮にそうだとして逃げて何が悪い?今の自分に満足してる不便もない、変わる必要なんて今はないんだよ」
「それじゃ誰も救われないじゃない!!」
雪ノ下に何があったか知らないが、八幡はそう慟哭する雪ノ下を冷ややかな目でみていた。
「ふむ、手こずっているようだな」
「彼が問題点を自覚しようとしないからです」
「俺には矯正される覚えも変わる必要もないと言ってるだけです」
「この通りです」
「ふむ、なら少年誌に習いここは勝負といこう。この先私がここに依頼者を連れてくる。より多く悩みを解決できた側の勝ちだ。ついでに景品は、そうだな……勝った方の願いを負けた側は何でも叶えるということにしよう」
八幡だけでなくこの時ばかりは雪ノ下からも冷たい視線が平塚に向けられた。
「っぐ……良いから勝負だ!!それともあれかね?雪ノ下は負けるのが怖いのかね」
今どきそんな使い古した挑発に乗るのはいないでしょ……そう八幡が思った矢先に
「良いでしょう、そのしょうもない挑発に乗るのは癪ですが受けて立ちましょう」
八幡は開いた口が塞がらなかった。