魔法戦姫Lyricシンフォギア   作:アメリカ兎

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Tr.10 血の巡らない人のカタチ

 

「はぁーーーーー!!! バッカじゃねぇの!! 何考えてんの! ロストロギアにデバイス装備させて独立稼働させてるとかバカじゃねーの!! そんなん俺だってやったことねーわ! はー羨ましいわぁ、犯罪組織はいいなー予算の都合とか考えなくて! 俺も予算とか考えないでデバイス作ってみてーわー、あーーー!」

「…………」

 弦十郎が何か言いたげに、喚いているクルヴィスを指差す。それに、なのは達は静かに首を横に振っていた。たまにクルヴィスは不満を爆発させる。誰しもストレスは抱えているものだ。常日頃から鬱憤が溜まっているだけに、特に発散させるのが難しい。

 ふと視線を感じ、クルヴィスが振り返る。そこには苦笑いを浮かべているなのは達がいた。

 

「…………あー……――――ゴホン。お待たせしました、現在の時点で判明している解析結果ですが」

 咳払いを挟み、何事もなかったかのように説明を始める。それに奇妙な沈黙を浮かべながらなのは達が整列した。そこには響も当然ながら立っている。

 

「あ、あはは。どーもー……」

「はいどーもー。毎度おなじみクルヴィスおにいさんですよー。えー、バカやってないで現状で判明している情報を整理します」

 あれから一夜が明け、響と翼の学校が終わる時間帯を見計らって開かれた会議は、接触した未確認デバイスの案件。当然、地球での現地最高責任者は階級関係なしに名目上クルヴィスなのだから率先して動かなければならない。ミッドチルダの情報査察部から本局の無限書庫管理者へ話を通し、該当する資料を整理すること、ここ迄僅か半日足らず。クルヴィスの朝食はゼリーとエナドリ。どこの廃課金プロデューサーだと自虐ネタも一つや二つかっ飛ぶほどに脳みそのネジは緩い。

 

「まず、本局から仕入れた情報です。どっかの次元航行隊が運搬途中の古代遺物――ロストロギア。それがあの二体の正体であることが判明しました」

「もうそこまで特定が?」

「情報査察部が本気出せば半日でプライベート丸裸にしてやりますよ、へっへっへ。ですが、運搬途中だったロストロギア、人造労働代替人形。はえー話がオートマタですね。面倒臭いんで骨格(フレーム)って呼称します」

「ふむ」

「これに関しては割愛で。独立稼働するマネキンですね。エネルギーも自己発電、循環機能持ち、再充電可能と名実共に二十四時間フル稼働、とまぁ人間様ではお手上げですわな」

 いつにも増して砕けた言い方なのは、本人も疲労の限界が近い証拠だ。体裁を取り繕っている場合ではないのだろう。だが、フェイトが疑問に思ったのは、地上の相手に本局がそう簡単に情報を提供するか、という事だった。それについて尋ねると、答えは明白。

 

「俺の教官、特務次元航行隊の隊長ですよ?」

「えっ? そうだったんだ、意外……」

「どーせ俺はどこぞの不滅のエースと違ってへーへー凡々ですわいこんちきしょー! あんなトンデモ化物集団なんかと一緒にされてたまるかー!」

「いいから先を」

「あ、了解です。問題がこっから先――それに、デバイスを“装着”させていること」

 通常、魔導師であればリンカーコア、魔力の源が存在する。しかし、このフレーム達にはそれが存在しない。そもそも、五体全てが武装。四肢の末端に至る武器の数々。並の魔導師であれば苦戦は必至だ。自己学習機能を備えているのであれば活動時間次第ではエースすら苦戦する未来は避けられない。早期撃破が望ましい。

 

「翼ちゃんが遭遇したフレームデバイス、騎兵(ライダー)。使用武装はダガー型短機関銃が二挺。まぁ、バイクも怪しいところですが、あんなん武装されたら規格外ってレベルじゃねーので単なる移動手段でしょう」

「もう一体は」

「シャドウに関しては、まだ不明な点が多いですが。隠密プログラムが組まれているのは間違いないでしょう。言動からも指揮官機と見ていいでしょうね」

「肝心の、奴らの目的だが……」

「シンフォギア装者の戦闘データ収集と踏んでいます」

「その根拠は」

「彼らがクレイモア製のデバイスであることから。ノイズに対抗できる唯一の武器であるシンフォギア、その特性を独自に収集して技術を盗もうとしているのではないかと」

「確かにそうか……今、地球で外世界の技術と手を組んでいるのは二課だけだ」

「……あ、あの!」

 響がおずおずと手を挙げた。

 

「あの、それじゃクレイモアの皆さんもノイズと戦おうとしてるんですよね?」

「まー……見方によってはそうかな?」

「じゃあ、一緒にノイズと戦うって言うのは」

「あ、無理。まず絶対に無理」

「どうしてですか。話し合えば、きっと――」

「別に、響ちゃんが悪いわけじゃないんだ。ただ、あの連中はそういうレベルじゃない。遭遇したら死を覚悟するレベルでシャレにならん連中」

 特に、管理局は。その駐屯地を見つけたら都市を一つ滅ぼすような違法魔導師の巣窟だ――中でも抜きん出ているのは、ナンバー2。復讐鬼、ルード・ヴァサリア。

 管理局の記録にある中でも、一夜で前線基地を壊滅させた事件はあらゆるベルカ式魔導師達を震撼させたものだ。ただ一人を除いて。しかし、幸いにも矛先は時空管理局にのみ向けられている。そのことから二課に牙が及ぶことは無いと思いたい。クルヴィスは希望を込めて言った。

 

「早急にノイズさえ殲滅できれば、連中も引き上げてくれると思うんですけどね。そうなれば後はこっちの本領ですよ」

「…………」

 意図せず、それがまるで翼を責めているような口ぶりになっていることにクルヴィスは悪びれもしなかった。何故なら、この二年間管理局ですら収穫が無いのだから。どちらが、という話ではない。

 

「最悪な場合ですが――櫻井理論目当てに連中が二課本部を強襲してきた日には、どうしようもありませんね」

「なぁに、ノイズが相手でなければ俺が出張るまでだ!」

 そう言ってはちきれんばかりに力こぶを作ってみせる弦十郎の逞しさに救われるが、フェイトはそうも言えなかった。何故ならば、特務次元航行隊の同伴任務で遭遇しているからだ。その戦いも、同じ戦場に立ったこともある。しかし、アレは最早戦闘と呼べる代物ではなかった。

 

「風鳴司令のお言葉は頼もしい限りですが、彼らを相手するとなると過信は出来ません」

「む、そうか。その時は、君たち勝利の女神に譲るしかないな」

 そう言って笑みを見せる弦十郎の言葉によって、今回の会議は早々に解散となった。その後すぐに、はやてがフェイトに思い出したように尋ねる。

 

「な、フェイトちゃん。アインスの調子はどうやったん?」

「初代リインフォースのこと? うん、私が居た時は元気にしてたよ。管理局の特務制服も似合ってた。本人はちょっと照れくさそうにしてたけども」

「そっか。早く会いたいなぁ、アインスに。成長したツヴァイも見せてやりたいわー」

 闇の書事件の際、特務次元航行隊副隊長の手によって消滅を免れた管制プログラム。防衛プログラムである守護騎士システムを切り離したものの、自らの暴走を危惧して消滅を望んだ――しかし、当時の副隊長がそれに猛抗議。知り合いのデバイスマイスター志願者に知恵を借りた所、これが規則違反ギリギリグレーゾーンの道を選択。それにより、現在は複雑な事情から夜天の書が“二つ”存在していることになっている。――何を隠そう、その分離プログラムを組んだのがクルヴィスではあるのだが、それを知るものは特務隊との間だけだ。

 

「仕方ないよ。管理局からは特務隊と行動を共にすることで規範的行動の学習を名目に離れられないからね」

「うー、そうは言ってもリインやで? アインスやで? あんなべっぴん、他のが放っておくわけないやろ。もしそうならよっぽどの朴念仁かあれやな、にぶちんや」

「あー…………」

 非常に、言いにくいことなのだが、フェイトははやてに何というべきか、迷った。

 あそこの人々は、常識から一歩ズレた超人集団だ。つまりは、そういうことなので。

 

「えっとね、はやて。心配しなくても大丈夫だよ。少なくともアインスがはやてより先に身を固めるってことは有り得ないから」

「なんか、実感篭った言い方するなぁ。それはそれで私はちょっと引っかかるんやけど」

「言い方が悪いかも知れないけど、あそこの人達ってアインスが眼中にないから……」

「な・ん・で・やぁッ!?」

 はやて、渾身のツッコミ。親心にも似た感情が爆発した。自分よりもスタイルが良くてミステリアスな雰囲気で、銀髪長身。デバイス、或いは管制プログラムであるという観点を除けば言うことなしな完璧美人。それを目に掛けないとはどれほどお高く止まっているのか、特務隊は。半ば理解の範疇を超えていた。

 フェイトの肩を掴み、問いただす。どういう意味かと。すると、ゆっくりと目を逸らしながら尻すぼみ気味に呟いた。

 

「……その、私の口からは、ちょっと説明し難いかな……」

「むぅ~~会うことがあったらアレやな、説教やな! ほな仕事頑張るでフェイトちゃん!」

「あ、うん……そうだね……」

 不滅のエース・オブ・ストライカー。特務次元航行隊隊長は、一部では時空管理局の蒼鬼として名高い。そのことを知らずにいられるのは、きっと幸せなことなのだと、はやての背中を見ながらフェイトは思った。


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