Re:一方通行は肩を並べる   作:藤木裕太

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遅れました、申し訳ないです。


混乱と変化

決意を新たにした一方通行は、依然リンゴ屋?と戯れているスバルとの合流を止め、通りを歩き始めた。

 

そして先ほどまでのことを思い返す。

 

 

──さっき俺は確実に。

 

 

突如として暴走した能力によって自身の体が生み出す血流を含む全てのベクトルが逆流した。

 

その力の脅威は、一方通行(アクセラレータ)を持つ彼だからこそ分かる。

分かるし、逆流した人間がどうなるのかも見てきた。

 

だが、今の一方通行は生きている。

確実に全てが逆流し、体がズタズタになっていたはずなのに、だ。

 

それどころか、被害の片鱗すら見えない。

 

 

「夢か幻、もしくは予知夢ってかァ? ……笑えねェ。 笑えねェが、今はただそれを利用するだけだ」

 

 

すぐには治らない傷を負って死んだ自分が瞬く間に完治してこうして歩いていることや、既に死んでいたスバルが傷一つなく平然と立って会話をしていること。

 

夢や幻の類と考えるのも当然といえば当然だ。

 

そして、もしも先程のものが予知夢であれば。

 

 

「──元凶を潰せば不幸はこねェ。 簡単なこった。 愉快に素敵に蹂躙してやンよ」

 

 

 

予知であったなら僥倖。

例え全く関係のない幻だとしても、もともとやる事も定まっていない異世界漂流だ。

無駄な時間を過ごすよりも、生産性はあるのかも知れない。

 

 

 

太陽は真上に位置どっている。

 

辺りが闇に包まれる、その時までがタイムリミットだ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一方通行は、元凶であるククリナイフの女を探すために、細い路地などを利用して暗がりから探す。

 

(偶然あの蔵の中で、あンな時間に居合わせる訳がねェ。あの女は何か理由があってあの場にいた。 盗品蔵ってこたァ盗品を売りに来たかその逆で買い戻しに来たか。 盗られた腹いせに殺した……いや、盗みの依頼を出した本人があいつだとすれば──)

 

 

盗品の売値にいちゃもんをつけて殺した。

自分の盗られた物が蔵にあって腹いせに殺した。

盗みの依頼金以上を求められて琴線に触れて殺した。

 

あのククリナイフ女ならば、どの理由で殺していたとしてもおかしくはない。

 

この選択肢の他に、快楽殺人という項目まで入る勢いだ。

 

一見証拠が結局ないように見えるが、これからの捜索には意外に役に立つと思われる。

 

 

──人殺しを平気でやるようなやつが昼間っから人目に付くような場所を好んで行くメリットがないはずだ。

 

盗品を売りに行ったり、盗みの依頼をしているのだとすれば尚更だ。

 

 

それらを考慮して一方通行は今、細い路地や暗がりを進んで歩いてはいるのだが、いかんせん広い町だ。

 

「──ここは」

 

細い路地を抜けた先が大きな道路になっていたとしても不思議はない。

 

 

 

大きな道路(トカゲ馬車の走る場所)を有するこの通りを見渡しながら、ふとデジャヴ感を覚える。

 

それは先程、スバルと初めて会話を交わした場所。

 

あの時は確か……、そんなことを考えてふと思い返す。

 

スバルとはこの辺りで出会った。

子供がトカゲに引かれそうな近くに、彼はいるはず──。

 

そこまで考えた一方通行の瞳は、まさしくいまボールを追いかけて道路へ出た子供を捉えた。

 

それは先ほど経験した予知夢とほぼ同じ場所。

 

そして、先ほど同様に動けるものはいなかった。

 

「──これも予知ってかァ?」

 

思考の中で、若干の迷いが生まれた一方通行。

 

あの子供を助けると今スバルと合流してしまうのではないか、と。

 

彼が最優先することは脅威の排除であって、それには馴れ馴れしいスバルは足枷となってしまう。

 

 

助けるか、助けないか。

 

 

そんな迷いが頭の中で繰り広げられていたが、体の方は一つの迷いもなく道路へと躍り出ていた。

 

 

──まァ、アイツに捕まる前に行けば良いだけの話か。

 

 

助けないという選択肢を破棄し、能力を行使して子供とボールを担ぎ上げ、反対側へと運んだ。

 

彼の速度ならばどんな体勢からでも一秒もせずに渡りきることができ、助けられたこどもは瞬く間の出来事にぱちくりと辺りを見渡している。

 

それを一瞥したのち、スバルの位置を確認するべく辺りを見渡す。

 

 

「おぉ! すごいなお前!」

 

「人は見かけによらねぇなぁ!」

 

「変な格好だけどよくやった!」

 

 

一方通行を囲むようにして騒いでいる群衆の中に、スバルのジャージは見当たらなかった。

 

 

(さっきはここで……。 さっきと同じことしてンのに会わねェってこたァ、 予知が外れたか? )

 

 

本当に一方通行が見た予知なのであれば、全て同じ通りに踏襲することができれば同じ結果に行き着くはず。

そして今のところ、変に変えたこともない。

 

 

(こンなことになる原因は……そもそも予知じゃないか、ジャージ馬鹿が俺と同じで予知を見た上で行動しているか(・・・・・・・・・・・・・)。 前者だったらまずいな、 そもそもあの女がいない可能性だってあり得る。 後者だと……あの馬鹿と合流する必要があンな)

 

 

考えていて一方通行は、予知が全く無意味だとも思っていなかった。

 

町並み然り、人物然り。

 

先ほど見たそれらとほとんど同じなのだ。

 

町並みは、建物の形はもちろん道路の配置も同じであると予想している。

今いる大きな通りも、完璧に同じ場所だ。

すぐ近くに銀髪の少女と出会った細道もある。

 

 

人物は、立ち並ぶ出店の店主が予知と遜色ない顔や体つきだ。

中には一方通行を恐れていた人もいる。

 

それらのことで、一方通行は予知的なものなのではと予想しているのだ。

 

 

そして何より、先ほどのことが夢や幻や予知的なものだと信じて疑わない要因がひとつ。

 

 

カサリ、と揺れる左手にぶら下がるビニール袋。

 

その中には、真新しい缶コーヒーが2つ(・・)

 

 

1つは確かに橋の上で飲んでいるのだ。

それなのに、袋の中には2つ。

 

傷が癒えるのはわかるが、コーヒーの中身が戻ってふたが閉まる、何てことはあり得ない。

 

夢や幻以外に説明がつくだろうか。

 

 

──やっぱ予知の通りにあの女が殺しに来ることはほぼ確実、だろォな。

 

ならば一方通行がやることに変化はない。

 

 

「行くか」

 

 

未だ野次のような町民に囲まれていた一方通行は、傍らでお礼を言っている子供の頭を2度叩くと歩き始めた。

 

 

一方通行を中心に円のように囲っていた町民を掻き分けて行こうとしたその時、すぐ側にいる人々の雰囲気が変わったことに気づき、後ろを振り替える。

 

 

 

 

 

「やあ」

 

白の礼服のようなものを纏った赤髪の青年が、子供の隣に立っていた。

 

「──あン? だれ──」

 

その青年のもつ雰囲気に思わず、と言った風に声をかけた一方通行だが、辺りにいる町民がそれを遮って口々に答えを呟いた。

 

 

 

「──け、剣聖……」

 

「あれが剣聖の家系の…」

 

「アストレア、騎士の中の騎士様だ……」

 

 

 

それらの声を浴びる青年は居心地悪そうに肩をすくめると、一方通行に笑顔を見せ、一瞬、道の脇にある路地の方へ視線を向けた。

 

 

 

──話がある。

 

 

 

言葉にされなくとも、一方通行はそう告げられたのだとすぐに察する。

 

 

(剣聖……? 予知ではこんなヤツ出てこなかったよなァ…。 いよいよ信憑性が欠けてきてンぞ)

 

 

剣聖と呼ばれる赤い髪の青年の指した路地へ向かって歩きながらそう呟き、行動方針の揺らめきに舌打ちした。

 

 

そう、一方通行は不安なのだ。

 

その不安というのは剣聖という青年に呼び出されたことなどではなく、剣聖という予知夢でも出て来なかった、現段階での不確定要素のことだ。

 

その彼と長く共にいると予知が大きく外れてしまうのでは、と疑っているのだ。

 

 

ただ。

 

 

あの馬鹿(スバル)がいない時点で大きく変わっていることには変わりねェか…)

 

 

この場でスバルに会わなかった時点で予知は変わっている。

どちらにせよ、夜までに元凶を潰すことが出来るのであれば、スバルたちが殺される前にあの女を殺すことが出来るのであれば、問題はない。

 

 

「何がどォなってンだか…」

 

赤髪の剣聖から踵をかえすように、示された路地へ向いて歩き出す。

 

 

──さっさと終わらせてぶっ潰さねェとな…

 

 

 

◆◆◆

 

 

「──ンで? なンだってこんなトコに呼び出したンですかねェ」

 

細い路地、光の遮られた薄暗いその場所で、目を見張るほどの赤と白が特徴的な青年が2人、少し離れた位置で向き合っている。

 

「申し訳ないとは思っているんだけど、僕はどうにもあがり症なようでね。 静かなところで君と話したかったんだ」

 

 

嘘だな。

 

そう思うほどに涼しい笑みでそう述べた剣聖。

 

どうやら、人に聞かれたくないようなことを話すのか、もしくは人を巻き込みたくない何かをする予定でもあるのか。

 

どちらにせよ一方通行は、青年の遠回りなその物言いに舌打ちを1つ鳴らす。

 

「場所のこたァどうだっていい。 そンな薄ら笑いなンざ浮かべてねェでさっさと要件言え、要件」

 

不満や苛立ちを隠す様子もない一方通行の姿を見てもなお、恐れなど一切抱かずに肩をすくめるだけのその青年。

 

「わかったよ、要件だね」

 

そう呟いた赤い髪の青年は腰から体を折り、一方通行へ頭を下げた。

 

その面持ちは、真剣なもので。

 

 

「君に感謝を述べたい。 あの場の誰もが動けずに、騎士である僕ですら間に合わなかった子供の危機を、君はその手で救い出してくれた。 君がいなければ子供は無事ではすまなかっただろう。 ありがとう」

 

 

それは心からの、純粋で真摯な感謝の言葉だった。

 

思えば、純粋な感情を向けられたのはいつ以来だろうか──。

 

 

 

「──別に。 ちょうどあの場所にあの時間に、偶然通りかかっただけだ。 そんなシチュエーションになれば俺じゃなくても出来る。 ようはタイミングだ」

 

お礼を言われるほどのことでもない。

第一、はじめは助けるか悩んだほどだ。単なる気まぐれに他ならない。

 

そう言われた赤髪の青年は、体を戻して一方通行の瞳へ向き直る。

その瞳に笑みなどは浮かんでいない。

 

 

「──それでも、万人に出来ることじゃない」

 

 

 

「……そらどーも」

 

 

万人に出来ることじゃない。

果たしてそうだろうか。

 

 

つい先日まで実験に必要と言う理由でクローンではあるが、それでも多くの命を摘んできた一方通行。

 

そんな残忍な男でも子供を救うことは出来た。

 

それならば、誰であっても出来るのでは…──。

 

 

 

「えっと」

 

青年が気まずそうに口を開いた。

どうやら、一方通行が長いこと思案顔だったことに何かしら思ったらしい。

 

「君、さっきはとても速かったね。 一般人のそれとは比べ物にならないほどに。 ……とても腕の立つ、実力者のようだけど」

 

さっき、と言うと子供を助けた時のことだろうか。

 

昔から、畏怖の念を抱かれていた一方通行。

その能力は恐れられこそすれど、誉められたことなどあっただろうか。

 

だからだろうか、つい口が達者になる。

 

 

「……とある地域で1位だったくらいか? まぁ控えめに言っても最強、だな」

 

 

「──それは凄い。 是非手合わせ願いたいものだね」

 

 

ここに来て青年に笑顔が浮かぶ。

どうやら冗談だと受け取ったようだ。

 

 

(まァ、それでもいいか…)

 

 

変に力を誇示する必要もないのでここはスルーするのが得策だと、時刻を確認できないかと、ちらりと空を見上げた。

 

「多分俺のボロ勝ちだろォからそれはやめとけ」

 

「それはそれは。 僕はこれでも剣聖、と言う重たい看板を背負わせて頂いている身なのだけれどね。 剣の腕では負けるつもりはないよ ?」

 

「……魔法は?」

 

「あまり得意ではない、と言うしかないね。 何しろ剣聖なもので…」

 

 

 

 

 

「──それならやっぱり、オレの勝ちだろォな」

 

 

 

 

 

それは、果たして本気か冗談か。

 

 

 

「はははっ、それならば止めておこう。 僕だって負け戦には挑みたくないな」

 

 

どうやら、一方通行の不遜とも取れる言葉に、ちゃんと冗談だと認識してもらえたようだ。

 

 

「──それに、剣が抜けないということはそういうことだ」

 

 

ぼそりと呟かれたその言葉に反応しようとした一方通行の言葉をさらに被せて、青年は口を開いた。

 

 

「時に君は、誰かを探していたように見えたのだけど、どうかな? 僕でよければ手伝うことも出来るけど」

 

「…よくわかったな」

 

「職業病でね。 困っている人は何となく分かるんだ」

 

おそらく、子供を助けた後に辺りを見渡していたことから推測したのだろう。

 

その時に探していたのはスバルだが、これはある意味良いタイミングだろう。

 

 

「──実は、ある女を探している。 知ってるかは知らねェが一応聞く。 今日、この町に必ずいるはずなンだ」

 

「僕で力になれるならば」

 

 

ここで知っているならば良い。

知らなくてもまだ時間はある。

 

その程度の気持ちで、あの夜の記憶を思い起こす。

 

 

「探しているのは女だ。 黒髪に黒いドレスのようなものを着たヤツで、くの字に曲がったククリナイフを使って、平気で人間を殺すイカれた女なんだが……」

 

 

言っていて、果たして分かるものかと不安になる。

そんな殺人鬼を知っているなら捕まっていても良いはず。

 

それに、言っていて自分を責めるように語気が強くなってしまった。

 

平気で殺人を犯すなど、あってはならないと今では思ってしまっている。

 

これが御坂美琴が必死に思っていたことだったのか。

あるいはあのlevel0の青年が。

 

 

思考がそれた、と頭をふって赤髪の青年の思案顔と腕組みが解けるのを待った。

 

 

 

 

「もしかしたら、『腸狩り』かもしれない。 腸狩りのエルザ。 騎士団でも行方を追っている殺人鬼がこの町に…?」

 

「腸狩りの……エルザ」

 

 

そいつが、スバルやリアと呼ばれた少女を。

 

自然と拳に力がこもる。

 

元凶がいると言うことで、予知の信憑性は増した。

それならば、殺される以前にエルザを葬れば──。

 

 

「何故エルザを探しているの? 危ないから君はあまり手を出さない方が──」

 

 

「──どこにいる?」

 

「え?」

 

 

 

「この町にいることは確実なンだよ。 だとするとどの辺りに潜んでやがるかって聞いてンだ」

 

 

犯罪者が隠れるような場所。

 

騎士の中の騎士と呼ばれた彼ならば、1度や2度犯罪者を捕らえたことだってあるだろう。

 

そこで、参考にと聞いてみたのだ。

 

すると彼は。

 

 

「ひん……──いや、心当たりはないな。 でも薄暗い場所であることは確実だろうけどね。 通りは騎士が巡回している、自分が有名人なことはよく知っていることだろうし」

 

 

「そォか……」

 

始めこそ、不自然に詰まったが的確なアドバイスをした青年の言葉は頷けるものだった。

 

一方通行の予想とも合致する。

 

 

 

 

場所は分からず時間は過ぎる。

 

先ほどと何ら変わりはない。

名前と肩書きを知った程度だ。

 

 

「もう話がねェなら行くぞ。 時間がねェからな」

 

「あ、あぁ」

 

 

こうして話している時間も惜しいのは確か。

青年も頷く。

 

 

一方通行が踵を返して歩き始めようとしたその背中に声がかかった。

 

 

「──僕の名前は、ラインハルト・ヴァン・アストレア。 君は?」

 

 

そんなラインハルトの自己紹介を肩越しに聞いた一方通行は立ち止まると口を開いた。

 

 

一方通行(アクセラレータ)、だ。 情報感謝する」

 

「アクセラレータ。 僕の方もエルザを探すよ、 騎士として。 何故探しているのか多くは聞かないが、君も気を付けて」

 

 

 

その一言に、手を軽くふって応じる一方通行。

 

暗い路地を進んでいく一方通行は、確かな元凶を見据えて歩き始めた。

 

背後では、ラインハルトが手を振りながら一方通行を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクセラレータ、か」

 

 

路地に残ったラインハルトは一方通行のいなくなった路地の通りを見つめながら呟く。

 

 

「あの速さと身のこなし、目付きからしてただ者ではないな」

 

先程まで話していた一方通行の姿を思い返して呟く。

 

 

「この時期にこの町に訪れる強者。 名前だって偽名みたいだし、何故エルザを探しているんだ…?」

 

 

 

ラインハルトの呟きは、路地の冷たい空気の中に溶け込んでいった。

 

 

 

「一応、探してみるかな」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

路地から抜けて、一先ず大きな通りに出た。

 

「次はどこに行くか…」

 

活気が溢れ、多くの露店が開かれているその通り。

馬車のようなものも走る賑やかな通りだ。

 

こんなに多くの人が行き交う場所に来たことがない一方通行には、居心地が悪い所なので早く路地へ入ろうと、めぼしい路地を探すために辺りを見渡す。

 

 

こうして見るとさまざまな人種がいて、地球ではない場所なのだと実感させられる。

 

 

「人が、多いなァ…………──あン?」

 

 

 

そんな人混みのなかで、一際輝く銀色の光を見た。

 

その眩しさに一瞬目を瞑ったが、再度見ると見覚えのある銀髪。

 

「──あれは」

 

白色と紫色の服を身に纏った銀髪の少女。

 

 

予知夢で一方通行とスバルと共に町を歩き、そして最後に殺されてしまった少女に他ならない。

 

 

「やっぱり予知だったってか? だが何かが……」

 

 

一方通行とスバルが出会った少女は、徽章を探し、盗んだ犯人を躍起になって探していたはずだ。

 

だがあの少女から、その焦りや動揺を感じない。

 

「まだ盗まれる前だってのか」

 

登場人物は同じだが、出来事はかなり変わっているようだ。

これならば徽章が奪われることなくことを済ませることすら可能かもしれない。

 

 

(いや、それが一番良い手かも知れねェ)

 

 

徽章を盗られなければ、そもそも盗品蔵には行かずに済む。

 

 

──誰も血を流すことは無いかもしれない。

 

 

そうするにはどうすれば良いか。

 

大きな通りをふらふらと歩く少女はどこか危うい。

このままでは盗られるのも時間の問題だろう。

 

遠巻きに観察するという手も考えられたが、後手に回ることは出来るだけ避けたい。

 

土地勘のあるすばしっこい者が犯人なら、盗品蔵まで逃げ込まれる可能性が少なからず存在する。

 

 

ならばどうするか。

 

 

実は1つだけ確実な手段が存在はするのだが、一方通行の中の何か自尊心のようなものがブレーキをかけている。

 

その手段が一番確実で、頭でも体でもその手段が最適だと行動に起こそうとしているのだが、手足は震えるのみ。

 

 

──こいつはただの手段だ。

 

──このオレがなんだってそんなことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

オマエは、それでいいのか?

 

 

 

 

「────クソッタレが」

 

 

 

1つ深呼吸をすると手足の制御は正常に戻り、一方通行は銀髪の少女を見据えて足を一歩踏み出す。

 

 

一方通行の考えた手段に一番必要なことは彼女に相応のインパクトを与え、かつ警戒を最小限に抑えることだ。

 

様々な考えが浮かんでは消えてを繰り返している。

何をどうするか、未だ決まりきっていない部分も多くある手段だが、それでも前に進むことだけは止めなかった。

 

 

今この瞬間に盗まれることを恐れたのか、一方通行自身にも歩みを止めない理由はわからない。

 

そんな中でもちゃくちゃくと歩みは進む。

 

歩く歩幅にあわせて左右に揺れる銀色の髪を眺め、ひどく懐かしい想いにかられながらも足の回転を早める。

 

 

 

 

そして。

 

 

 

「なァ」

 

 

 

遅くなったが、一方通行の考えた唯一の手段とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────リア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が徽章を盗られることの無いように、ひたすら一番近くで警護することだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──え?」

 

 

 

 

 

こうして、再び一方通行と少女は肩を並べる。




なんと、就職の内定が決まったことで慌ただしさを増した10月の始め。
書類をたくさん書いているために、手が回らなくなってしまっていた執筆。

全ての手続きを完了した今、私は晴れて自由の身となりました!
これから、波に乗って投稿祭りといきたいと思っています。
ですのでみなさん、3日に1回でいいので最新話まだかなとチェックしてくださいね!

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