Re:一方通行は肩を並べる   作:藤木裕太

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今回から始まりまーす!
どんなもんかみるか、って言う目で楽しんで下さい。


ジャージの男

──俺の最弱(さいきょう)はちっとばっか響くぞ。

 

 

 

学園都市に住む一方通行(アクセラレータ)は、その言葉を思い浮かべ、通りを進んでいた。

 

 

絶対能力進化(レベル6シフト)計画という実験を凍結に追いやった少年の一言だ。

 

実に10032回目に、とあるlevel0の少年と激突し、その言葉を締めとして一方通行は敗北を味わった。

 

 

例え天地がひっくり返っても、その場を見ていたものがいたとすれば一方通行が勝つに決まってる、そう思うほどの力の差。

 

それをその少年は、右手ひとつで覆し、御坂美琴と妹達(シスターズ)を守った。

 

 

──なンで。

 

 

何故あいつはあんなにも強いのか。

何故あいつはあんなにも折れないのか。

何故あいつはあんなにも立ち向かえるのか。

 

 

──なンでだ…!

 

 

そもそも何故あんなことを始めたのか。

 

それらの記憶は一方通行に激しい苛立ちを募らせた。

 

そしてなにより、一番苛立ちを覚える自分の心情。

 

 

──なンなンだよっ!!

 

 

初めての敗北を、level0の格下に味わわされたにも関わらず、何故自分の心はこんなにも晴れやかで澄んだ色をしているのか。

 

彼には不思議とすっきりとしている自身の胸中に、あの敗北した日からずっと苛立っていた。

 

「クソが…」

 

 

──すげェな。

 

敗北したその瞬間に、彼は晴れやかさと同時に少年に対する何か初めて味わう感覚を覚えていた。

 

そのことを思い出すと更に苛立ちが募るため、こうして悪態をつかなくては苛立ちをどこかにぶつけてしまう自覚がある彼は、モヤモヤとした心地のまま見かけたコンビニへと足を運んだ。

 

缶コーヒーは昨日大量に買ったばかりだ。

それを思いだし、帰りがけに飲む分で2本レジへと運んだ。

 

 

『──…つけた』

 

代金を払っている際、ふと耳が声を拾ったようだった。

 

払い終わり、缶コーヒーの入った袋を手に取るのと同時にちらりと店内を見たが、それらしい客はいない。

 

『──つよ…こ、ろ』

 

「…ンだァ?疲れてンのか」

 

自身の能力をもってして、耳から入る音の振動をすべて反射した。

それでも微かに伝わってくる柔らかな声。

 

コンビニを出てから、もう一度だけ辺りを軽く見渡すが、人などいない。

 

『──助け…ぁ…て』

 

聞き違いなどではないその声は、微かに、確かに頭の中に響いている。

 

「はァ…そうとうやべェな、こりゃ」

 

一度目を瞑り、眉間の辺りを軽くマッサージする仕草を取る。

 

暗いまぶたの裏で、女が微笑んでいるように見えた。

 

 

目を開けると、唐突な明かりに目を潜ませる。

ゆっくりと慣らしながら目を完全に開く。

 

 

 

「は?」

 

 

 

そこには暗い学園都市の街並みはない。

 

数多の人が行き交う、コンクリートなど一切の介入のない大きく、賑やかな町が広がっていた。

 

とっさに背後を振り返っても、そこにはコンビニの影も形もなく、大きな噴水が水を巻き上げているだけ。

 

「……何がどうなってやがるンだ」

 

 

◆◆◆

 

 

背後にあった噴水のへりに座って、現状を把握するべく町並みに目を通していく。

 

学園都市とは文明が明らかに数百年ほど違う町並み、学園都市に住む住人の年齢比と確実に合っていない行き交う人々の年齢。

 

そして何より頭を傾げたのは四人に1人くらいで見かける、頭頂部に動物の耳のようなものをつけた者やそもそも顔の構造自体が人間のそれとは違う蜥蜴のような者など。

 

始めの頃は、学園都市の外に座標移動(テレポート)したのかと身構えたりもしたが、現実的にあのような人間がいる場所など地球にないだろう。

だが、彼らが使い、あちこちから聞こえてくる言葉は日本語だ。

 

学園都市第一位の頭をもってしても、この状況は夢だと判断する他なかった。

 

「……笑えねェ、さいっこうに笑えねェぞオイ」

 

ここがどこなのかもわからない一方通行はもはや頭を抱えることしか出来ない。

 

頭をがしがしと掻きながら地面に目を向けていた彼は、ふと何か言い知れぬ既知感の風のようなものを受けて、視線をそちらに向ける。

 

そこには、いつの間にか少年が呆然としたように立っていた。

一方通行も中々だが、その少年の格好は分かりやすくこの景観と相反していた。

 

なんというべきか、ジャージなのだ。

よく見ると、片手にはコンビニの袋があり、色々と入っている。

 

周囲の人々は好奇の目で見ている。

 

同じものでも、一方通行は違った形で釘付けになっていた。

 

 

──まるでジャージでふらりと買い物に出かけていた少年が瞬きをした瞬間に謎の町へと飛ばされたかのような…。

 

 

なかば呆然と眺めていると、その少年は辺りを見回したかと思うとおもむろに何か呟いていた。

 

 

 

「あれ? これもしかしてもしかしちゃうパターンか…? 美少女に召喚されて勇者としてウハウハチーレム異世界生活送れちゃうパターンか!?」

 

 

わなわなと震える少年は辺りを見回して、「あれー?俺を召喚した超絶美少女いなくね!?」と困惑しているようだった。

 

「……あいつァ」

 

異世界。

そう口にした。

 

なるほど、異なる世界だというのであれば一方通行の中にある既存のルールなど意味をなさない。

何故、と言う疑問は尽きないが。

 

とりあえず、一方通行は情報を得ようと考えていた、その最中多くを語っていたあのジャージ少年。

 

 

少年は自信満々の足取りで通りを進み始めていた。

 

その姿を見て、一方通行の行動も決まった。

何よりうじうじ座っていても何も解決しないであろうことは自明の理。

 

一方通行はその腰をあげて、嫌に目立つジャージの後ろ姿を追いかけたのだった。

 

 




なんか変なところがあったら是非!教えてください。

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