犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

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第三話 躑躅の意地

LOCATION:讃州中学校、勇者部部室

 

 

南一局一本場。親は再び樹。ドラ{北}

 

 

友奈「{七}」

 

樹「チー!」{横七八九}

 

友奈「(チー?となると樹ちゃんの狙いは萬子のホンイツかチンイツ…)」

 

東郷「(チャンタや三色の可能性もあるわ。でも、ドラ抱えでもしない限りそのままでは安い…連荘目的のようね…)」

 

夏凜「(どちらにしろ、今の流れは樹にある…流れが去るまで、私はディフェンスに徹する…!)」

 

樹「(さぁ、ダメ押しっス…!)」

 

 

樹のこの鳴きにより、樹は他家から萬子を縛る。

流れに乗りそうな樹に、みな警戒しているのだ。そうして牌を絞らせておいて…

 

 

夏凜「{④}」

 

樹「ポン!」{④④横④}

 

夏凜「(萬子鳴きからの筒子鳴き?)」

 

東郷「(これでホンイツ、チャンタも消えた…一体何を考えているの?)」

 

 

次巡

 

 

樹「カン!」{■北北■} 新ドラ{3}

 

3人「(ドラ4…!)」

 

夏凜「(ドラを4つ手中で揃えるなんて…とんだ強運ね…でも、これで樹の狙いはハッキリした…樹はきっと翻牌抱え…つまり、{白・發・中}のどれか3つを暗刻で抱えてのドラ4!

ここまで鳴いているんだから、あがりへの切符はすでに確定していると見るのが自然…さっきのように単騎待ちになっている場合、現物か4枚目以外の牌は切れない…3鳴きの手に振り込むなんて最悪…!)」

 

 

次巡

 

 

東郷「{8}」

 

樹「カン!」{8横888} 新ドラ{⑤}

 

東郷「(またカン…)」

 

 

樹は嶺上牌を引き、手中の{④}をカン。

 

 

樹「カン!」{④④④横④} 新ドラ{西}

 

3人「(三槓子…!?)」

 

 

このカンによって樹は『三槓子』を確定させる。

樹、三槓子ドラ4裸単騎。

{■} カン{④④④横④}{8横888}{■北北■} チー{横七八九}

 

 

夏凜「(なんて麻雀よ…跳満まであるじゃない…ここは、降りね…)」

 

友奈「(こんな役、計算外だよ…うう…現物…)」

 

樹「(案の定ベタオリか…現物が無くなったときが見ものだぜ…)」

 

 

数巡後

 

 

友奈「(現物が切れた…樹ちゃん、何で待っているのかな?樹ちゃんが最後に切った{1}…あれは場に1枚も出ていない牌。ツモあがるには最高の牌だよね…それを切ったということは、私たちからの…ロン狙い…?じゃあ、狙われやすい字牌は切れない…むしろ、こっちの索子か筒子の方が…)」

 

 

考えれば考えるほど、術中に嵌まる。

勝負から降りる際に彼女らが考えること。それは手中にある対子(2つ)か暗刻(3つ)落とし。

これなら一度の危険で2~3巡安全が買える。

しかし、それこそが樹の狙い。

{④}がカンされ、{③・⑤}は巡子が構成されにくい。

同じ理由で{8}の側、{7・9}も捨てられる可能性がある。そこを狙い撃つ。

もともと単騎待ちを避ける絶対の保証など、ありはしない。

樹の洞察力が牌を引き寄せるのか?それともまったく別な悪魔の仕業か?

切ってしまう…魅入られたように…

 

 

友奈「…{③}」

 

樹「………」

 

友奈「(通った…!)」

 

樹「お姉ちゃん…」

 

風「ん?ああ、それよ」

 

樹「ロン、三槓子ドラ4、跳満。一本場で18300点」

{③} カン{④④④横④}{8横888}{■北北■} チー{横七八九} ロン{③} ドラ{北}

 

友奈「くぅ~っ…」

 

風「親で逆転トップなんて!さすがアタシの妹ー!」

 

東郷「………」

 

 

一位樹47300点、二位東郷35000点、三位夏凜15000点、四位友奈2700点。

樹は二位の東郷と10000点以上差をつけてのリード。

風が吹き始めていた。(風先輩のことではない)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

風「これは案外…初心者の樹が決めてしまうかもね」

 

園子「いや~わかりませんよ。まだわっしーはイッつんに一度も振り込んでいないから~…わっしーの親満貫ツモで逆転もあり得ますよ~」

 

風「それもそうね。なんにせよ、樹の親連荘を含めてあと最低4ゲーム…どう転ぶかわからないわね」

 

園子「そうですね~今のところ流れはイッつんにありますから、この親でどこまで突っ走れるか…といったことろでしょうか~わっしーはもちろんですが、三位、四位のゆーゆ、にぼっしーにも頑張ってもらいたいところですね~」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

南一局二本場。ドラ{1}

 

 

樹「{中}」

 

東郷「ポン」{中横中中}

 

友奈「{6}」

 

東郷「もちのロン、中のみ。二本場で1600点」

{②③④⑤⑤三四五45} ポン{中横中中} ロン{6} ドラなし

 

 

樹の流れに危険を感じた東郷、安手で樹の親を蹴る。

友奈はさらに最悪。このロンで点棒は1100点を残すのみとなった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一位樹47300点、二位東郷36600点、三位夏凜15000点、四位友奈1100点。

 

南二局。親は夏凜。ドラ{⑤}

 

 

夏凜「(…トップとの点差は32300点…樹を抜くには、跳満直撃…それか満貫跳満ツモを1回ずつしないと逆転できない計算…なんとしてもこの親で稼がないと…!)」

 

 

今のところ、点数的には樹か東郷…その2人が新部長の椅子へ駆け上がろうとしていた。

しかし夏凜、そこは突っ走る。

 

 

夏凜「(よし!配牌は死んでいない…来てるわ!こいっ…こいっ…!)」

 

 

10巡目、夏凜テンパイ。

索子のホンイツ一通中、{3}-{6}-{9}待ち。

{12345678中中中北北}

 

 

夏凜「(来たっ…!満貫確定!高めの{9}が出れば跳満…!)」

 

東郷「リーチ!」

 

夏凜「(うっ…東郷もテンパイ…捨て牌からして、待ちは筒子辺り…?)」

 

 

次巡

 

 

友奈「{9}」

 

夏凜「(や、やった…!私のロン牌…!)」

 

 

が、夏凜…あがれない。

なぜなら、もしここで夏凜がロンをしてしまえば18000点のあがり。

残り1100点の友奈はとび、自動的に勝負が終了してしまうからである。

牌を倒したとしても、夏凜の点棒は15000点から18000点プラスされ33000点。

完全勝利…トップにはなれない…!

 

 

夏凜「(…友奈の捨て牌ではあがれないわ…リーチした東郷はともかく、樹は東郷のリーチを受けてベタオリの気配…この手、あがれるのはツモか、東郷の直撃のみ…!)」

 

 

しかし、このとき夏凜は気付いていなかった。

 

 

夏凜「(ここで私があがれば…!ツモ…!来た!高めの{9}!跳満ツモ…!)」

{12345678中中中北北} ツモ{9} ドラなし

 

 

…ここで夏凜、気付く。この手、またしてもあがれない。

なぜなら、親の跳満ツモは6000点オール。残り1100点の友奈はとぶ。

 

 

夏凜「(くっ…せっかくの跳満の手をあがれないなんて…!なら、ここは待ちを変えて…あっ…待って…もしこの局で東郷が満貫以上をツモることがあれば、子の友奈は2000点払いでとぶ…いや、友奈が東郷に打ち込む可能性もあるわ…そうなれば、有無を言わずに東郷のトップが確定…なんてことや…)」

 

 

そう…気が付けば状況はすでに最悪であった。

跳満見逃しどころではない。待ちを変えるか、友奈をとばさないよう自分のテンパイを崩して東郷のリーチに振り込まなければいけない状況。

すべてが遅すぎた…!

 

 

夏凜「(東郷がツモらないのを祈るしかないわ…残り数巡だし、とりあえず今はテンパイ維持…)」

 

 

だが幸運にも、この夏凜の思考は結局杞憂に終わる。

東郷もツモれず、友奈、樹も打ち込まない。

 

 

東郷「流局…テンパイです」

 

友奈「テンパイだよ」

 

夏凜「テンパイよ…」

 

樹「ノーテンっス」

 

夏凜「(友奈と東郷も索子待ち…2人の待ちを、私が握り潰した形だったのね…)」

 

 

流局…東郷、友奈、夏凜テンパイ。

ノーテン罰符により、樹は1000点をそれぞれに支払う。

 

この時点で一位樹44300点、二位東郷36600点、三位夏凜16000点、四位友奈2100点。

(東郷のリーチ棒1000点据え置き)

樹か東郷…このどちらかが跳満をツモると友奈がとび、あがった者のトップが確定するという状況。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

南二局一本場。再び夏凜の親。ドラ{②}

 

 

夏凜「(うっ…配牌は微妙ね…ツモもいまいち…)」

 

 

夏凜、ここに来てなかなか手が伸びない。

前局の悪い流れを引き継いでいる様子。

ここで友奈、動く。

 

 

夏凜「{白}」

 

友奈「ポン!」{白横白白}

 

樹「{7}」

 

友奈「ロン!白ドラ3、一本場で8000点」

{②②②③③七八九56} ポン{白横白白} ロン{7} ドラ{②}

 

 

わずか4巡。友奈、電光石火の早あがり。このあがりで友奈は追加8000点。

さらに前局の東郷のリーチ棒1000点も加算され点棒は11100点にまで回復。

ひとまずツモられたら即とぶという状況からは抜け出す。

一方樹の点棒は36300点にまで減少。わずかながら東郷を下回る。

 

 

東郷「(くっくっくっ…よし!)」

 

 

今の樹に流れはない…そう確信した東郷。

友奈のあがりによって夏凜の親は流れ、次親は東郷。この瞬間から東郷の麻雀が動き出す。

 

 

東郷「(樹ちゃん…悪いけど今あなたに流れはないわ…さっき友奈ちゃんに8000点を振った…それが分岐点よ…そして舞い降りた私の親…それにこの配牌…行けるわ!絶対に…勝つ!)」

 

 

 

第三話、完


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